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二百十

 同じ火の国の住民でも、精霊使いが使役する存在と魔術で呼び掛ける存在は別。そう指摘されて、穴があったら入りたい気分だった。


「もしそれが同一の存在だったら、世界の何処かに居る精霊使いが呼び出していたら、誰もその魔術を使えなくなるわよ?」


 ごもっともで御座います。


「はい。イメージ的にはお姉様が妄想した通り、妖精が沢山居る。と思って頂いて間違いありませんわ」


 妄想とか酷くない?


「それにしても、何が原因なの……? 魔術に関して無知で天然なのに……」


 無知は認めるけど、天然は余計です。


「生活系魔術は発動出来ず、そのくせ攻撃魔術だけは規格外の強さをみせる……」


 人差し指の腹を唇に当てて、ルリさんはブツブツと呟きながら人の身体を視姦する。


「……エロい身体してるから?」


 それは違うと思うな。


「ルリ姉様。これは仮説なのですが、もしかしたら精霊の暴走。ではないでしょうか?」

「暴走……暴走か。確かにそれならあの威力も説明付くわね」

「はい。常軌を逸したあの威力。通常では考えられませんが暴走状態ならば、あれだけの出力を得る事も出来るかと」

「でもそうなると、ソレを誰が命令しているのか? よね」

「はい。精霊界は完全縦社会、命令が出来るのはより上位の存在だけですわ」

「だけど、教えた呼び掛ける相手は最下位の存在だし……」


 うーん。と唸りながら、ルリさんとリリーカさんは腕を組んで首を傾げた。


「ま、私の役目はもうすぐ終わりって事だけは言えるわね」

「そうなの……?」

「そうよ。最下級であれだけの威力なんだから、他の攻撃用魔術なんて危なくて教えられないわ。氷の矢は自分まで凍り漬けになりそうだし、風の刃は家まで真っ二つにしそうだし、穴掘りの術なんかはどれだけ大きくて深い穴が出来るか分かったもんじゃない」


 ルリさんはやれやれ。といった風で、掌を空に向けて首を横に振る。


「だから、私が教えられるのはあと一つだけ」

「一つ……?」

「ええ、でもこれは攻撃用の術じゃない。いわば逃走用ね」


 それは『闇』属性の魔術で、相手の周りに黒い霧を発生させ、方向感覚を一時的に狂わす魔術。確かにこれならば私でも使えそうだ。


「いい? よく見ててね」


 そう言ってルリさんは呪文詠唱に入る。


「漆黒の海。揺蕩いし存在(もの)。我に仇なす者をその身で包め。漆黒の霧(ダークミスト)っ」


 突然、黒々とした霧が生まれた。三メートル程の大きさのその霧は、まるで煙の様にモクモク。と動きながら、霧散する事なくその場に在り続けていた。

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