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二百三

「じゃあ、特訓は明日から。という事にしましょうか」

「明日は五時からだ。遅れたらそれだけ厳しくシゴいてやるっ。覚悟しろっ!」


 ギラリと光る鋭い眼光に、私は鬼の姿を垣間見た。


「ひぃっ! わ、分かりましたコーチっ!」


 直立不動で敬礼し、そこから逃げる様にアパートへと戻った。温厚だと思ってたオジサマが、実は鬼教官だったとは……言うんじゃ無かった。




 夕日射す通りを駆け抜けて、急いでアパートへと戻った私。流石にもうルリさんは目覚めているだろうと、ガチャリ。とドアを開ける。


 思っていた通り、ルリさんは既に目覚めており、クローゼットの前で見事なまでの身体のラインを惜しみもなく曝け出していた。


「びっくりしたぁ。誰かと思ったらカナさんかぁ。出掛けていた様だけど、どこへ行ってたの?」

「え。あ、うん。『にぃちゃん』が行方不明になったって聞いて探しに……」


 薬を飲んでくれたのだろうか? 二日酔い等の症状は無さそうだ。ホッと胸を撫で下ろし、一歩を踏み出して二歩目が止まる。ルリさんの掌に見慣れたモノが乗っていたからだった。


「ところでカナさん。コレ、なに?」


 その手には、タオルに隠しておいた筈の(しろがね)に輝く鉱物が乗っていた。


「それは、銀鉱です」

「んな事見れば分かるわよ。シャワーを借りようと思ってタオルを探してたら出てきたんだけど……どうしてクローゼットに入っているの?」


 それはね、朝リリーカさんがトイレに入ったからなのよ。


「それはその……ヘソ、クリ?」


 我ながらキビシイ言い訳かと思っていたが、直後にルリさんはプーッと吹き出した。……へ?


「カナちゃんもヘソクリなんて持っているんだ」

「『も』って、まさかルリさんも……?」

「勿論よ。いつ散り散りになるか分からないからね」


 冒険者カードが使える場所ならともかく、小さな町や村では使えない場合が多々あるらしい。


「杖や服、あちこちに忍ばせてあるわ」


 ルリさんはおもむろにパンツの前面に手を突っ込み、小さな金色をした粒を取り出して見せてくれた。コレ一粒で約千ドロップの価値があるそうである。ってか、何処に隠し持っているんだアンタ。


「ヘソクリするのなら、コッチがオススメよ」

「さ、参考になります」


 まあ、大きな銀鉱よりは隠し易いですね。


「それじゃあ、お風呂を借りるわね」

「ああ、はい。タオルはコッチを使って下さい」

「うん、有難う。ところでカナさん」

「はい、何でしょう?」

「一緒に入らない?」

「遠慮します」

「女同士なんだから恥ずかしがる事なんてないわよ」


 別に恥ずかしい訳じゃない。一人暮らし用の狭いバスルームだし、何より身の危険がアブナイ気がするから。


「いいじゃん、いいじゃん。入っちゃおう」

「え、ちょっ」


 ルリさんに強引に連れられ、本日二度目のバスタイムと相成った。

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