百九十八
「それで? 『にぃちゃん』は見つかったの?」
まるで何事も無かったかの様に、顔を作るおばさま。
「ええ、見つかりましたわ」
「そう! それは良かったわ。全然情報が入らないから、おばさん内心焦ってたのよ」
情報の代わりに食い物は入っているよね。
「それじゃ、『にぃちゃん』がまた逃げ出す前に、家に戻りましょう。あ、アソコのプルポ焼き。美味しかったから買って帰りましょう。安心したらお腹空いちゃったわ」
まだ食うんかいっ!
オジサマのお店に戻った私達。お店中にソースの香りを充満させ、プルポ焼きなるモノを食していた。プルポ焼き、何の事はない『タコ焼き』である。しかし、外皮はサクサクで中はホクホク。そしてコリコリとした三種の食感が病み付きになる。某えびせんの様に辞められない止まらない。
「それで、何処に居たの?」
コトリ。とお茶をテーブルの上に置いて、おばさまは尋ねる。
「タドガー邸に迷い込んでいたそうですわ」
「……え? それ、誰が言ったの?」
誰が言ったって、そりゃ当然――
「タドガー様本人ですよ、おばさま」
私の言葉に一瞬、驚きの表情を見せたおばさま。その後すぐに拳を顎に当てて考え込んだ。なんだなんだ?
「間違いなくアレが言ったのね?」
確かにタドガーは言っていた。屋敷に迷い込んで来た、と。だから私は、おばさまにコクリ。と頷いた。
「それがどうかされたのですか? お母様」
「二人共、タドガーが使用人を雇わない理由って知ってる?」
おばさまの言葉に、私とリリーカさんは顔を見合わせて首を横に振る。
「いいえ、存じませんが……」
「ニヤケ顔が気持ち悪い。とか?」
「確かにそれもあるわね」
……あるんだ。
「だけど、もっと簡単な理由なのよ」
簡単な理由……? 私とリリーカさんは再び顔を見合わせる。
「危ないからよ」
「……え、それだけの理由ですの?」
「そうよリリー。ヤツは趣味でやってる錬金術の技術の漏えいを防ぐ為、敷地内の至る所に魔術的トラップを仕掛けているの」
魔術的トラップ!?
「ネズミにすら反応する様な代物よ。そんな所に『にぃちゃん』が入り込めると思う?」
思わない。小動物のネズミに反応するのだ。それよりも身体が大きい『にぃちゃん』に反応しない訳が無い。
「という事はつまり、『にぃちゃん』を捕まえたのは屋敷内では無い……?」
おばさまはコクリ。と頷いた。
「ですが一体何の為にそんなウソを……?」
「分からない。それに、おかしな点はまだあるわ」
おばさまの話を聞くと、納得のいく不審さだった。