百十
アルカイックスマイルを振りまき、あーだこーだ。と話をしながらやって来たのは、倉庫街の一角にある。港に並ぶ倉庫とは別格の建物だった。
広い敷地の中央に建つのは学校の体育館程の建物。外観は煉瓦造りになっていて、周囲を金網で囲み要所要所に警備兵が鋭い眼光を放ちながら立っている。
「随分厳重な建物ね」
「それはまあ、お預かり主が冠を持つ方々ですからね。これくらいはしないとなりません」
貴族のお宝があるのだから当たり前、か。
眼光鋭い警備兵に会釈をしながら建物の扉を開けると、大人四人が横に並んで歩ける程の通路が奥まで延びており、左右に扉らしきモノが並ぶ。
貴族御用達の割には質素なその扉は、『扉』というよりは鉄製の板にしか見えず、ドアノブも見当たらない。
「あ、まだ使用中の様ですね」
「使用中……?」
「ええ、ここはお一人のみが使用可能でして、他の扉が開いていると他は開きません」
見れば、五枚づつあるであろう扉の一つがポッカリと口を開けている。
「なんとかならないの? ルレイル」
逸る気持ちが抑えられないのか、マリエッタ王女が美幼女モードでルレイルさんに迫る。
「こればかりは何とも……。お出になるまで控え室で待ちましょう」
「チェッ。急いでいるのに一体誰よ」
「少し前に冠三位のタドガー=へミニス=ラインマイル様が御越しになられました」
「アイツか……」
「どんなお人なんです?」
王女はもとよりここに居る人達はその人物を知っているのだろうが、私は全然見た事が無い。もし、お近付きになれるのなら、今後何かと役に立つかもしれない。リリーカさんの為にも。そう思っていたのだが――
「「気持ち悪い奴」」
二人で打ち合わせをしたかの様に揃って出した評価は、私の考えを叩き崩した――
「き、気持ち悪い?!」
「そうよ。それ以外に言い様が無いわ。何しろ、明らかに作り笑顔で近付いて来るんだもの、キモチワルイったらありゃしない」
「あ、王女様もですか……。私なんて、背後から忍び寄って抱き付かれた事もあります。あとは全身舐める様に見つめて来ます」
ロリコンで視姦魔か……こりゃ使えんわ。その気持ち分かる。と言わんばかりに、うんうん。と頷いていて良いのか? ルレイルさん。
「あ、終わられた様ですよ」
二人の酷評もあってか、一体どんな人なんだろうと開いていた扉に視線を向ける。ゴンゴンゴン。と迫り上がる扉の前に立っていたのは、黒いロングコートを着た銀髪の男だった――