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百十一

 扉の前で何やら操作をしていた男は、扉が完全に閉まるまでその場で佇み、私達に向かって歩き出す。その歩みが一瞬躊躇した後に、真顔だった表情をニタリ。とした笑みに変え、私たちの元へとやって来た。


「この様な場所でお会いするとは、これはもしや……運命? 赤い魔術線(マナライン)で結ばれた運命ですね」

「調子に乗らないでよねタドガー。福利施設に投資している所は評価してあげるけど、だれっっっもアンタなんか気にも掛けないんだからねっ」

「ウヒョッ」


 王女の睨み付けながらの言葉に、タドガーはブルリと身体を細かく震わせて満面の笑みを作る。うっわキモッ。


「そう仰しゃいますが王女様。嫌よ嫌よも好きの内、障害が多ければ多い程恋は燃え上がり、愛が熟成してゆく。生涯記憶に残る様な恋。してみたいと思いませんか?」


 コイツとだったら重度な精神障害(トラウマ)になる事請け合いだな。


「誰がアンタなんかと」

「ああ……、イイですねぇ……。マリエッタ様のその御顔。そして、リブラのその表情もグッドですよ。更に……おや、貴女は見掛けないですが……?」


 糸目を薄っすらと開き、頭の上から爪先まで何度も視線を往復させるタドガー。ちょ、近い近い。


「あの、近いんですけど?」

「ああ、これは失礼。(わたくし)、目が悪いモノでしてね。しかし、良い香りですね」


 タドガーの物言いに、ゾクリと背筋に冷たいモノが駆け抜けた。


「リブラとは違って見事なスタイル」

「ちょっ!」


 リリーカさんは自分を抱きしめて胸を隠した。


「フェロモン大盛りの大人の魅力…………あぁ、これもイイッ」


 な、なんなんだ。コイツは……


「すみませんタドガー様」


 立ちながらに恍惚の表情を浮かべてのたうち回るタドガーに、ルレイルさんが口を挟む。


「おや? まだ居たのかイクテュエス。もう帰ってもいいぞ」


 イクテュエス……?


「いえ、そういう訳には参りません。今の私はマリエッタ王女御一行様を案内差し上げている身ですので」

「そういう事よタドガー。分かったらとっとと帰りなさい」

「ああ、イイですねその御顔。そういう事でしたら、御尊顔を十分に堪能出来ましたし、退散するとしましょう。それでは王女様、これにて失礼致します。また会って下さいねリブラ。そしてか……、そちらのお嬢さんもまたお会い致しましょう」


 タドガーは恭しくお辞儀をし、倉庫を出て行った。


「……ね? 気持ち悪いヤツでしょう?」


 マリエッタ王女の言葉に、私は素直に頷いた。それにしても、別れ際に口を滑らせて出た言葉は一体何だったのだろう……?

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