点取合戦
牧はシールバックとの1敗後。7月まで無敗を貫き通した。唯一、勝ちがつかなかった試合はAIDAの石田と投げ合った試合のみ。
つまり、7月時点で彼は13勝1敗というとてつもない勝ち星を挙げていた。
エースの力投に応えるのが打線の役割。あの時の1敗を野手陣達は真剣に悩み、行動を移した。
際どい球を打っていた印象が強いが、勢い任せに打たされていたと判断できた。だからといって、待球作戦をとるというわけではない。積極的な打撃から作ったのは
『ファール!』
『粘ります。庭、これで4球連続ファールです!』
カットする技術であった。元々打力が全員にあり、ファールで粘る作戦もこなせる器量がある。
見逃して三振というのは打者にとって悔いが残るし、攻めの勢いが消えてしまう。打って流れを変える。これがセンゴクの野球だ。
完全に機能するまでに何十試合も使ったが、よーやく形となれば打線が爆発し始める。見逃されることより、ファールを打たれることは配球に悪い影響を与える。よりバッテリーが逃げに走ったところを、打線がすぐに追いかけて猛攻を浴びせる。
5月はAIDAの三本柱などに当たり、大きく負け越したものの。6月は復活した打線を軸に貯金を4まで作る快勝ロード。同じく、シールバックも新藤の離脱を気に11連敗と喰らっていた。
そこから新藤の代打復帰を気に15連勝。
東西オールスター直前。
1位が4チームもいるという極めて珍しい状態だった。
前半戦。最後のカードは、シールバック VS センゴク。
初戦は牧の圧巻の9回1失点の快投を見せ、センゴクの勝利。
2戦目は両者得意の打撃戦となり、勝敗を決めたのは好不調の波。夏に入り、エンジンが掛かりだした嵐出琉の豪打で試合を決め、シールバックが勝利。
先発の良さではやはりセンゴクが。打線では、まだシールバックが優勢か。
前半戦の最終戦だ。
シールバック
1番.センター、友田
2番.レフト、木野内
3番.セカンド、新藤
4番.キャッチャー、河合
5番.ファースト、嵐出琉
6番.ライト、地花
7番.サード、林
8番.ショート、旗野上
9番.ピッチャー、パリッシュ
時代センゴク
1番.キャッチャー、橋場
2番.ファースト、作間
3番.センター、徳川
4番.ショート、小田
5番.レフト、竹田
6番.ライト、孫一
7番.サード、前田
8番.セカンド、庭
9番.ピッチャー、ダイアー
最終戦であるが、尾波をベンチに置いた阪東。唯一、前半戦ではスタメンフル出場をしていた尾波。彼の7月の打率はやや落ちてきていた。疲れがあるのは明白だろうが、様々な役割をこなせる尾波の代わりなど新藤に次いでいない。
かといって、オールスターまで出場する尾波に休息など作れない。嵐出琉の調子が出てきたと思ったら、歯車が崩れるように誰かが調子を崩す。助け合い精神ではあるが、これではいつまでたっても勝てる試合で負けてしまう。
先発は本来、川北であったが。ここのところ敗戦処理がなく、ベンチに長くいたパリッシュを先発に回した。中継ぎも先発も、疲労が濃くなってきているのは明白。完投しろとまでは言わないが、できるところまでパリッシュで行ってほしい。パリッシュが次ぎに早くてもやってくる登板機会は1週間後だ。
そして、センゴクは牧に次ぐ二番手エース。とはいえ、ここまでまだ本調子をみせたことはなく、7勝4敗とまずまずの成績を残しているダイアーが先発。
「前半の最終戦を勝つつもりで出したオーダーなんですか?」
新藤は尾波がいないこと、先発が川北でないことを疑問になって阪東に尋ねた。
「ペナントレースで勝つためのオーダーだ」
阪東は今日、勝つためにやるつもりではなかった。
東西オールスター。いわゆる、球宴。ファンや監督からの推薦で選ばれた者達が行う野球だ。
現時点でファン投票や監督推薦で選ばれている選手の一覧。
シールズ・シールバック。
河合、新藤、友田、尾波、川北、久慈、井梁、安藤
十文字カイン。
杉上、曽我部、新潟、魚住、上滋、トニー
AIDA。
石田、白石、根岸、村田、弓削、(新田は怪我)
徳島インディーズ。
荒野、菊田、泉、大鳥、名神、北田、大隣、バナザード
時代センゴク。
小田、徳川、庭、橋場、牧、寺岡、屑川、犬飼
組織票などもあるが、基本的には実力者のみが選ばれている。
まさに西リーグの最強軍団が揃っていると言って良いレベルだ。球宴中ではその他の選手達は基本的に休みか、2軍の試合に出るのだ。
主力を除けば完全な休息に変えることもできる。
敗戦処理で6試合を投げたパリッシュ。アメリカの独立リーグでは抑えを任されていたのに、この扱いに不満を持っていたかと思ったら、結構楽しそうに投げている。
抑え向きの球威だが、実際はイニングを喰えるだけの肩と体力もある。
「初先発ネ」
両外国人の投げ合いという、前半の最終戦らしからぬ始まり。
初先発のマウンドで大量失点も覚悟していたが、そこそこの内容。四球が絡んで3回に2失点を喫するも、徳川を三振にきってとったのは大きい。
3回を67球とかなりの球数であるが、2失点なら大分試合として戦える。
阪東は総力戦による勝利を狙っていた。それはシールバックの中継ぎが極めて層が厚いこと。数も豊富で、種類も沢山ある。
「ピッチャー、パリッシュに代わりまして、清水」
1軍半といった選手達の継投。それも、勝利投手の権利などを度外視している交代。この試合は溜め込んでいる中継ぎを次々使って、強力なセンゴク打線を封じる狙い。
剛速球のパリッシュから、軟投派の清水が登板。縦に大きく割れるスローカーブはなかなかのキレを持っている。4回を三者凡退で抑える安定感を見せる。
「しかし、今日のダイアーから5点くらい獲れますかね。嵐出琉と同じように夏場に入ってから調子が上がってきたような……」
「活躍しないと年俸が上がらないしな。外国人は辛いな」
「そんなことよりも……」
5回まで4安打無失点の快投を続けるダイアー。長打もなく、単打ばかりの内容だ。デキが良いのは明らかだ。
一方、5回に清水のスローカーブを狙っていた小田。スタンドに運んで、試合を3-0として優位に進めていく。
「津甲斐監督。たかが3点差だ。シールバックの好調な打線にかかれば、1点差みたいなもんさ」
6回、1アウトながら1番、友田。
ダイアーの力のあるストレート。横の変化が強いカーブ、シュートもシンカーもキレがある。おまけに140球くらいは平然と投げれるなど、完投投手としてのデキは良い。
強力な打者が揃うシールバック打線であるが、友田のパワーはそこまで高くない。ダイアーが力で勝負したのは当然。1打席目、2打席目も、芯で捉えたが弾道が低く、内野ゴロになってしまった。
「ムキになるか」
友田っぽくない、力対力の打撃。打球が高々と上がったが、面白いところだ。
「落ちたーー!セカンド後方に落ちるポテンヒット!」
ようやく突破口らしい部分が見えてきた。塁上で友田は
「こーゆうのは河合さんの仕事だよな。カッコ悪~」
自分らしい打撃ではないことに少し恥じていた。そして、阪東を含めてシールバック打線が動き出す。
「2番、レフト、木野内」
1アウトではあるが、この後ろが新藤、河合。好調の嵐出琉だ。足のある友田を得点圏に置き、1点でも返そうとする。
「木野内!早くも送りバントの構えです!」
友田が出たら、そのほとんどを送っている。攻撃パターンが始まる。センゴクの守備陣がバントを警戒し、確実に1アウトを獲ろうとしているのは当然。
データでもここは送りバントであると伝えるだろう。
「見え見えすぎるだろが!」
3球目。バントの警戒を読んで、木野内がバスターを仕掛ける。たまには打たせろと、言いたいような顔だった。阪東の采配が的中。
ベテランならではの技。強く引っ張って、ライト前へ運ぶヒット。その間に友田が二塁を蹴って、三塁に進む。
「この試合、初の連打!バスターが決まりました!1アウト3塁1塁!」
ビッグイニングの予感。
打席に入るのは得点圏の鬼にして、試合の流れを変える打者である新藤。
センゴクはタイムをとったはいいが、やってくる作戦はこれしかないだろう。
「ボール!フォアボール!」
新藤を敬遠して満塁、一発出れば逆転。そんな中で迎えた打者は河合。
一発は新藤よりもあるが、併殺打や三振。そーいった目も出てくれる。しかも、今の河合は嵐出琉や新藤よりも怖くない。
「なめられてるよ、河合」
相手がダイアーでなければ打つだろう。河合の弱者虐めが発動すればいいが、そんなに甘い投手ではない。
自分のバッティングが崩れていることは理解している。それでも阪東が4番を河合に座らせ続けたのはこの時のためだ。
ここで満塁本塁打を打って、復活してやるなんて思うなってこと。
やれる仕事をする。さっきの友田のように打てば良いと、楽にして打撃を行なった。
「上がったーー!これは……犠牲フライになるか!?」
少し浅くなったが、持ち前のパワーでレフトにまでいった飛球。友田も、レフトの竹田もタッチアップの構え。
「タッチアップ!」
友田だから成功したと言える、ギリギリの犠牲フライ。不調の4番が最低限の仕事をこなした。らしくねぇ。
「3-1!!ついにシールバックも得点を挙げました!なおも、2塁1塁のチャンス!」
河合、久々の打点。ヒットでもなく、犠牲フライという結果はかなり珍しい。
「ナイス河合!」
阪東がハイタッチを要求する手、しかし河合は通り過ぎる。
「ホームランを打ってからさせてくれ」
「……そうか。オーケーだ」
犠牲フライにしてはあまり飛距離がなかった。それにストレートに河合が押されていた。絶不調は変わらず。
まだ、一発が出れば逆転の目がある。河合はチャンスのまま、繋いだと言って良い。この試合の4番は間違いなく、
「5番、ファースト、嵐出琉」
この回で、最低でも同点に持ち込めば勝機がある。
夏場で絶好調の嵐出琉に託す阪東。そして、シールバック。今日も元気に2打数2安打だ。
敬遠なんて逃げはない。真向勝負で嵐出琉を打ち取ろうとするセンゴクバッテリー。河合のパワーが計算外だったが、ストレートの威力は6回に来て尻上がっている。
「…………」
パワーは河合ほどじゃない。変化球を見せ球にして、ストレートで押していく。1打席目も、2打席目も、変化球をヒットにされていた。
ここはダイアーのストレートを信じる。
相手の裏をかくとかよりも、相手がそれを理解していて上回ろうとしたいエースのプライド。橋場のリードに燃えてくるダイアー。
「ボール!」
「おっと!?ストレートが154キロを記録!ダイアーの最高球速です!」
勝負所でこの気迫ある投球。
投手としての力量が上がってくる、投手を持ち上げる上手いリードだ。
嵐出琉もダイアーの投球に応えるようにフルスイングしている。タイミングは合っている。当たっていればホームランかもしれない。
お互いパワーで押し切ろうとする姿勢。駆け引きとは違った、強打者とエースの力比べ。
嵐出琉の打撃が良くなった事は打席に入る集中力が高まったこと。自分のスイングのみに集中した一撃。
150キロを計測するストレートですら遅く感じるほどだ。
カーーーーンッ
痛烈なライナーは左中間へと運ばれるかのような打球。
レフトの竹田、センターの徳川が一斉に走り出す。二塁ランナーの木野内、一塁ランナーの新藤も同時にスタート。
1点は確実に入る。
「いけーーーー!!」
会心の打球を阻める奴などいるわけがない。
全員が打たれた時の対応をしていた。しかし、
バシイイィッ
空中も蹴っていたのではないかと思うほどの、ジャンプ力。とてつもない運動神経の持ち主が、ゲーマーかつ引き篭もりだとは想像つかない。
嵐出琉の会心の当たりをグラブにギリギリ収める、驚異的な守備力。
「と、捕ったーーー!?」
「2m近く飛んだんじゃねぇか!?」
「本当にあいつは引き篭もりなのか!?」
ショート、小田のファインプレイ。左中間に抜けそうな当たりを捕球し、絶好調の嵐出琉を止めた。
「これで守備力はAで間違いなしだぜ」
守備から流れを掴んだセンゴク。
河合の犠牲フライで終わってしまったこの攻撃は痛い。なんとしてでも、無失点で切り抜けたいところ。
「ピッチャー、清水に代わりまして、吉沢」
ビハインド専門で投げている吉沢を投入。勢いづこうとするセンゴク打線を抑えたいところ。
「庭、橋場のヒットで、1アウトながら2塁1塁のチャンス!」
しかし、その流れを容易く失うようなチームではない。キッチリと結果を出し、チャンスを演出する。
「ストライク!バッターアウト!」
二番の作間を三振にきってとったが、逃げることも許されなくなった展開。
「3番、センター、徳川」
小田と同レベルの打撃力を持ち、日替わりで打順が代わっている。得点圏んで仕事をしない男ではない。
「打てーーー!家靖ーーー!」
「月間MVPとって、金をよこしな!!」
「看板直撃弾でもいいから!」
ピンクの声援であるが、その中身は完全な恐喝。徳川の抱えるハーレム軍団が応援にかけつけ、飲み屋まで用意していたようだ。
金の請求を良いプレッシャーとして受けながら、吉沢の球を強打する徳川。
パァァァンッ
「徳川、強烈なライトライナーに倒れました!追加点ならず!」
チェンジアップを完璧に捉えられていた。方向が違っていれば完全に試合が終わっていた。
「まだ、ツキはある」
このアウトは大きい。1失点を防ぎ、まだ2点差。クリーンナップにはもう一度周る。一方でセンゴクが得点を挙げられるとしても、大量点は難しいだろう。小田と徳川が分断されると、得点力は半分ほど減る。
井梁と安藤は使わないつもりであるが、中継ぎの駒はまだある。センゴクはダイアーを伸ばしていくだろう。
7回、6番の地花からの攻撃。
「塁に出ろーー!」
友田の前にランナーを溜めるのが理想。何でも良いから先頭打者が出塁して欲しいが……
「地花!ライトフライだ!」
簡単に先頭を切られる。ダイアーの良さは先頭に凄く強い事。ある種のスイッチが入るのだろう。全力で先頭打者を打ち取れば失点の確率は大きく下がる。
代打には岡島や本城、尾波がまだいる。
林と旗野上では塁に出る事すら厳しい。かといって、彼等を下げると守備に影響が……。
「ギャンブルだ」
監督の采配は結果次第だ。
まだ仕掛ける場面でもないのかもしれない。しかし、2点差という近くて遠い差。向こうが犬飼と屑川がいる状況を考えたら、最低でもダイアーの内に1点はもぎとりたい。
「バッター、林に代わりまして、本城」
本城、岡島を使う。チャンスの場面で尾波を使う。
ここまでの阪東の代打成功率は高い。こーいった見極めの強さが、接戦で勝って来たわけだが。
「本城!ダイアーのカーブに合わず、内野ゴロ!2アウトになりました!」
それでも流れが変わらない。続く、旗野上にも代打。岡島が投入されるが、実らずにレフトフライ。
「林と旗野上抜きの内野って大丈夫なんですか!?もう1点もやれませんよ!」
「分かっているな、津甲斐監督。珍しいぞ」
そう。この2点差がおそらくギリギリ。1イニングで1点ずつ返して追いつける間合い。
「吉沢を含め中継ぎにはなんとしても、小田と孫一が回るこのイニングを凌いで欲しい」
9番のところで尾波を使って、友田、新藤で同点。河合、嵐出琉で逆転。
その絵図までが見えてきそうだ。
「4番、ショート、小田」
ビハインドでの登板。打たれても負けがつかない。しかし、抑えても勝ちがつくというわけじゃない。
接戦やリードと違って、重要度は低い。チームへの貢献度は黒子に等しい。
回跨ぎでも球威が落ちないストレートと、安定したコントロールを持った吉沢。投手としては確かだが、勝負所ではコントロールを乱し、中継ぎのエースとまではいけないピッチャー。
「ふーっ」
2点差ぐらいが丁度良い。
気合と冷静さがハーフになって、ボールをしっかりと持てる。投手としての楽しみばかりが詰められている状況だ。
「ストライク!」
吉沢の投手としての本質は、かなり投手であることだった。
とにかく投げる事が好き。打者を抑える楽しみが忘れられない。そーいった気持ちのまま、プロにやってきた。
勝つために、チームのために、そして自分のために活躍する者達が蠢く世界だ。
勝つ事は常に自分の得意なことをしていれば良いわけではない。自分の苦手を突かれればあっという間に崩れる。また、勝つために貪欲に、狡猾に動かなければならない。何事もそうだ。
吉沢はそーいった気持ちが欠けている。簡単に言えば、プロ意識の欠如である。故に先発やワンポイントリリーフなどではその力を発揮できなかった。
いちおだが、ビハインドや敗戦処理がプロ意識に欠けるとは言ってはいない。
吉沢はゲームに集中するタイプではないこと。勝ち負け云々より、自分の良し悪しを重視している。
自分のその日の出来がゲームに左右され出すと、プレッシャーのあまり力が出なくなる。鉄腕のくせに小心者の心臓だ。
「ミートA、追加」
同じくプロ野球選手の意識が低いともとれる小田だが、彼の場合は強い向上心と勝ちへの飢えがあった。2点差のリードはシールバックに負けを与えている情況ではないことを知っている。ゲームであのチームと戦うと、よく逆転されたものだった。
吉沢のストレートを力で打ち返し、右中間へのツーベースを放つ小田。
ランナーを出し、セットポジションとなると吉沢の良さはかなり落ちてしまう。
球威のダウン。チェンジアップの癖などが出てきてしまう。
「5番、レフト、竹田」
孜幡と同じく、本来はベンチで仕事人としてこなす男。
パワーよりも巧打が目立つ。狙い球を絞り、ヒット狙い。小田の足ならホームを一気に突けてもおかしくない。
その初球。竹田はあっさりと見逃した。事前の情報が確かか、打席でしっかりと確認したかった。
「…………」
確かにセットポジションになるとフォームが少しブレている。スライダーの曲がりが早くなっている。これなら見切りやすい。
ここでの1点は大事だし、このチャンスをもっと広くするのが仕事人。
吉沢を揺さぶるため、小田もリードを大きめにとって、投球への集中力を削ってやった。
河合のリードも考慮すれば、力のあるストレート。強気の内角攻めだ。
竹田の読みはドンピシャ。しかし、自分自身もやや力んだか打球は少し弱いが、三遊間。
「くっ」
林、旗野上の代わりに守っているサード、岡島。ショート、日向。両者懸命に打球を追うが届かず。レフト前に運ばれる。
その間に小田がホームへ突入し、あっさりととるダメ押し点。
「竹田!しぶとくタイムリー!!4-1!」
代打を出したことが裏目に出た守備の穴。どちらかがいれば処理できた打球。
阪東もこの1点は痛いし、竹田まで走者として残った状況。
中継ぎの総力戦で勝ちたい試合だっただけに、このダメ押し点はシールバック全体にキタ……。
このままズルズル行くのか?
「…………」
できれば井梁と安藤、沼田は使いたくない。植木とケント、須見がまだいるが。
投げて勝てるのか?次は代打を出して決めないと……
阪東が悩む。このまま、吉沢が投げれば失点もある可能性がある。
「孫一も続いたーー!3連打!3塁1塁のチャンスとなった!」
センゴクのベンチが盛り上がりだした。彼等が見せるマシンガン打線が火を吹く瞬間。その時、阪東はかすかな希望を見逃さなかった。
そして、動かない!吉沢にこのイニングを託す。
「8番、庭にタイムリー、1番、橋場にもタイムリーが生まれ、この回4点!7-1とリードを広げました!」
終わった。この点差は引っくり返せない。
暗い足取りでベンチに戻っていくシールバックのメンバー。それに阪東は
「どーした暗い顔をして!まだ2回あるんだぞ!」
お前、このイニングで眠っていたのかと訊きたい質問だ。なんて奴だ。
しかし。阪東は確かにセンゴクの隙を見抜いた。
「ダイアーの続投だ」
「そりゃ完投するべき場面だからな」
6点差という大差。少し前まで相手ベンチは、犬飼と屑川の準備をさせようとしていたが。この大量得点で彼等の温存を考え始めた。接戦で投げるべきエースだからだ。
8回裏であるが、代打には尾波。そして、上位と繫がる。
マシンガン打線とは違うが、重量打線だ。
「代打、尾波」
勝ちゲームとなるか。先頭の尾波。ここでの出塁が大事だ。代打で、嵐出琉も河合も結果を出していた。
しかし、ダイアーも疲労を見せない顔で懸命に投げ込む。先頭を断ち切るときの力強さ。
キィィンッ
「サードに転がった!面白いところだ!」
肝心の尾波が打ち捕られる!死んだような打球に、シールバックのメンバーも目を瞑った。尾波も懸命に、内野安打を期待して走って飛び込んだ。執念のヘッドスライディング。
「セーフ!」
「!……え?」
判定に尾波も驚いてしまう。気迫と結果の予見は別物だ。
その走りが緊張を与えたのか、確かに打球が死んでいてサードの前田が素手でキャッチしすぐに送球した。
「サード前田の悪送球!この試合、ノーアウトで初めてのランナーが出ました!」
守備が堅い、センゴクが見せた久しい隙。
「尾波に代わりまして、代走、滝。代走、滝」
この場面で代走屋の滝が登場。得点が大きく離れている場面だが、長打を狙って打てる男が打席に立つ。
「1番、センター、友田」
6点差ある、負けるわけがない。しかし、投手であるダイアーにはある感情が出ていた。無論、チームも望んでいる完投の達成をして欲しいのだ。
尾波(滝)を不運な結果で出塁させられたが、単発で終わらせれば良い。だが、打者は友田だ。この天才とまともに勝負して、進塁打で止めれば良い方だ。
打たれたら交代も考えるべきだ。河合以外のクリーンナップはしっかりとダイアーを捉えている。
「行け!」
初球からだった。
相手が動揺したり、あるいは何かに集中しているその隙を突いて。
1塁走者の滝が初球からスチール。
「ストライク!」
友田もこの盗塁をアシストするため、スイングした。
キャッチャーの橋場が懸命に二塁へ送球するも、仕掛けるタイミングが絶妙だった。
「セーフ!」
「なんと初球スチールでチャンスを作った!滝、今シーズン5つ目の盗塁だ!」
得点が離れた場面での盗塁はフェア精神に反する。しかし、シールバック打線なら。特に選手を信じている阪東にとってはまだ僅差でいられている。
センゴクはこれでもタイムをとったり、橋場がダイアーの元にいき、声を掛けたりはしなかった。得点差を考えれば打者勝負で良い。いささか弱気なことをほざけば、ダイアーのプライドに傷がつく。
「…………」
さっきの友田のヒットは力でやられた。でも、長打はない。内野フライに終われば滝もそのままだ。
まだ球威はある。尾波の出塁も打ち損じていた。ストレートで押していけ。
橋場の攻めるリードに、ダイアーも少しながら笑顔をみせた。分かっていると日本語で伝えたい。こーいった天才は力勝負が一番。最高のストレートを投げ込んでみせる。
「次は新藤さんだ」
さっきのヒットは河合を真似ての、ポテンヒット。友田は新藤と重ねるようにダイアーのストレートを流し打ち、三遊間を綺麗に抜く。
「友田が続いたーー!」
「ノーアウト!3塁1塁!」
得点差はまだあるが、センゴクベンチも動いた。タイムをとって浮き足が立ったダイアーに助言する。まず、センゴクがとるべき作戦は1アウトをとること。新藤に回る前に1アウトをとれば流れは大きく削げる。
「2番、レフト、木野内」
一発がたとえ出ても、同点にもならない。しかし、木野内はこの美味しい場面を新藤に自慢するように話した。
「悪いな。今日のヒーローは俺だからな!俺でランナー一掃だ!」
「木野内さん。点差は分かってますよね?繋いでください」
「だいたい、お前と河合は得点圏が多すぎなんだよ!たまにしか出ない俺に、ここは決めさせろ!」
「私の話をまったく聞いてくれない……」
前の打席でバスターをものの見事に決めたことで、年甲斐もなく自信に満ち溢れる面の木野内。まだ若そうに見える。
それでもベテランの技を見せて欲しい。というか、この場面こそ。ベテランがやるべきだろう?
カキイィッ
鈍い音。完全に、ダイアーのストレートに力負けした。尾波みたいな腕力はやはりなかった木野内。
「アホーーー!サード前じゃねぇか!」
「何水をさしてんだ、木野内!!」
滝と友田は打球を見ずに一気に次の塁へ走った。無論、木野内も全力で走っている。尾波の時とは違い、打球が死んでおらず。確実にどこかで1アウトはとれるゴロだった。
「ファーストだ!前田!」
橋場が1失点を許すのは勝つためだ。前のタイムでそーいった作戦をとっていた。しかし、サードの前田はテンパっていた。ベテランであるが、自分のミスを自分で取り替えそうと。
橋場の指示が聞こえずに、ホームへ投げ込んだ。攻めの守りであるが、自分に頼りすぎたプレイだった。
「え?」
ブロックの姿勢はとっていなかった。橋場も急に送球され、捕球したのがやっと。馬鹿野郎と後で叱ってやりたかった。少し荒れた送球も含めて。
一方で滝は打球に目もくれずホームに一直線だった。この場面、普通は1塁に投げて1アウトを優先するべき場面だと知っているからだ。
橋場に体当たりするつもりでの気迫のヘッドスライディング。タッチに数コンマ遅れた。
「セーフ!!セーフ!」
「フィルダースチョイス!!同時に滝の好走塁で1点返した!」
再びのミスがセンゴクに大きな穴を作った。
ベテランの技をみせたのは木野内ではなく、滝であったが。ともかく木野内もナイスバッティング。
「滝ちゃん!歳考えて体当たりしろよー!怪我したかと思ったぞ!」
「お前がヒットを打て。おっさん。無理をさせるな」
「なんだとコノヤロー!」
さすがシールバックのベテラン軍団。うるせぇ。おっさんはうっせぇ。
「まったく、困った人だ。結局、私に美味しいところを回すんですから」
それとは対照的に静かな男。今度は敬遠なんてことはされない。
「3番、セカンド、新藤」
次の河合はイマイチ。ここを単打で友田を返したとしても、ゲッツーの危険がある場面は怖い。
狙うは長打。でも、本塁打では勢いが止まってしまう。ツーベースを狙う。
超危険なバッターを打席に迎えたセンゴク。ここで犬飼を投入したいが、準備がまだ終わっていないし、左投手だから河合から使いたかった。後手に回った継投だった。
「ミス絡みだったが、良い方向に転がった」
新藤は分かっている。阪東も新藤ならやると信頼している。
相手の状況を読んで、新藤は外のボールから中へ入っていくシュートを狙い打った。それも強引に引っ張った。
「あ」
思った以上に打球が強かった。サードが2度もミスした時、そこをまた狙った。
ライン際を強く破った打球。友田が悠々と返ったタイムリーツーベース。
「林さんや、荒野でも止められない打球になったな」
センゴクを猛追するシールバック打線。完投を狙っていたダイアーをここで引き摺り下ろした。
「ピッチャー、ダイアーに代わりまして。犬飼」
豪腕サウスポー。そして、カットボールとキレのあるスライダーを武器に打たせて捕るピッチングもこなせる中継ぎエースの犬飼が登場。そして、サードの前田から黒田にスイッチ。
エラー2つがやはり大きい。
「新藤のツーベースが効いているな」
ゲッツーをとれない状況だ。点差がまだ4点あるとはいえ、この勢いに向こうはビビッている。絶不調の河合でも、甘くいけば一発で1点差。
9回も友田から始まる並びになる可能性がある。
だが、さすがに中継ぎエース。河合に犠牲フライを打たれるも、絶好調の嵐出琉を空振り三振。
「あー!せっかくの右打者なのに」
「嵐出琉は左に強いわけでもないからな。強いのは新藤ぐらいだし」
2アウト2塁。打席には左打者の地花。ヒットで得点を……と狙いたいが、2塁走者は新藤。1ヒットでの得点は難しい。ここは強打の地花にたくす阪東。
力比べのストレート勝負。アウトローの難しいコースを、強打。
「抜けたーー!地花!右中間へ弾き飛ばした!」
チャンスにそこまで強くなかった地花の、タイムリーツーベースで6点もあった点差がついに2点!
さらに、7番に座る日向が四球を選んだ。
9回裏に友田に打席が回り、一本出れば新藤に回る。2点差という事実は確かにあるが、なくもないのがシールバック打線の脅威。
「犬飼は調整不足のまま上がったからな」
雰囲気に呑まれ、地花に痛打を喰らった。
それでも最低限の失点で抑えたのはさすがである。1点差であればもらったようなものだった。
しかし、今度はウチが守る側になった。
「ピッチャー、植木」
アンダースローの植木をマウンドに上げ、迎えるのは徳川と小田。
勢いを保ったまま、0点でここを切り抜けたいところ。先頭の徳川だけは絶対に打ち捕ってほしいところ。
キーーーーーンッ
「いったーーー!これは入るか!?」
せっかくの猛追ムードが消えそうになる大飛球。レフト後方へ行くが
パァンッ
「!いや、捕った!途中から守備に就いたレフト、木野内のファインプレイ!」
ここで長打なんか浴びたら試合が終わりそうだった。強打者だから、深めの守備をとっていたのが幸い。
続く小田も植木の球をちゃんと捉えるが、バックが懸命に守って出塁を許さない。なんのかんので三者凡退で切り抜けたシールバック。まだ2点差のまま、最終回の裏へ。
「ピッチャー、犬飼に代わりまして。屑川」
いよいよ、抑えのエースを投入。
井梁に次ぐ最速投手でありながら、多彩な変化球を持ち、回跨ぎも可能。
ただし、極めてノーコン!
コントロール以外は超一流という男がセンゴク、不動の抑えである。セーブ数では泉に次ぐ、リーグ2位。とはいえ、すでに4敗もしておりカインの抑えであるトニーの方がレベル的には上だ。
「屑川が来ちゃいましたよー」
「こっちは9番。代打の千野からだ。まだまだ、終わってないさ」
抑え投手で別格なのは泉だけだ。
屑川の球は確かに速いが、井梁には劣るし。多彩な変化球といっても、牧のような変化球でもない。回跨ぎが可能でも、ノーコンが災いしてか球数が多く、失投もある。
焦って手を出さず、打てる球を打つ。とても至極簡単。
千野をベンチに残していたのが幸いだ。彼は結構、選球眼が良いしカットも上手い。
「ボール!フォアボール!」
「おーし!先頭が出た!」
阪東もグゥのポーズを作る。2点差を追いかける状況で先頭が出るのは好ましい。友田、新藤で粉砕する。
足もある千野は屑川にプレッシャーかけられる。少しでも先の塁へ行く事が仕事だ。そのプレッシャーに気圧されたか、手元が狂った変化球。
「デッドボール!」
「屑川が自滅してきたぞ!逃すなーー!」
友田のデッドボール。阪東からしたらあまり望んではいないが、同点ランナーまで出た。そして、打席に入るのは何でもできるベテラン、木野内。そのサインは
「一発だろ?してくれよ」
送りバントのサイン。
「……分かってくれるなー。ちーっ」
阪東のサインは当たり前だが、送りバントだ。中継ぎの層からいって同点にさえすれば勝ち目がある。併殺の確率もある2塁1塁より、1アウトを取られて良いから3塁2塁。自滅気味の屑川に満塁策をとらせるのは難しいだろう。さらに、打者は新藤だ。
木野内は不満気味の顔をしつつ送りバントの構え。当然、センゴクの内野陣も前進守備を敷いている。
コンッ
「おろっ?」
屑川のインハイのストレートをバントする木野内。小フライとなって、キャッチャーの橋場が打球に飛び込んだ。このミスを逃さないのが、センゴクの守備。
「アウトーーー!」
「送りバント失敗!橋場のナイスガッツ!!」
ゲッツーよりかはマシだが、タダでアウトを謙譲してしまった。せっかく来た流れが、止まりかける。痛すぎるミス。やっちまった面でベンチに戻る木野内。
新藤と河合に、このチャンスを託す。
「…………」
ダイアーの時のように長打を狙う。友田の足ならツーベースで返って来れる。
とはいえ、ダイアーは疲労を見せていたから打てただけだ。球数こそ多いが、屑川の直球に隙なんてない。冷静に打てるボールを粘って待ち続ける新藤。
「ボール!フルカウント!」
やってくれそうな雰囲気を作り出した。甘く来た直球を……
ドゴオォォッ
「ストライク!!バッターアウト!!」
「新藤!空振り三振!!158キロのストレートで押し切ったーー!!」
コースは確かに甘かったが、予想以上にノビてミットに突き刺さった。一度止めた流れを再び渡さない。センゴクの粘りの守備だった。
「悪い、河合。あとは頼む」
木野内以上に何もできなく凡退してしまった新藤。次の打者である河合にエールを飛ばしたが、彼は素通りしながら言った。
「俺の今の調子じゃ、できることは限られる」
クリーンナップでまだこの試合ノーヒットの河合。屑川に躍動感が出てきて、一発サヨナラホームランが出るかといえば……。絶好調だったら打つかもしれない。今までの河合だったらその奇跡を成し遂げようとしただろう。この前半戦、いやキャンプの時からでも彼は成長していった。
肉体的でもあるし、精神的にも。
「4番、キャッチャー、河合」
「ふんっ!見てろよ」
コールされると同時に、センターバックスクリーンにバットを向ける。それは
「河合!ホームラン予告だ!!一発サヨナラを狙っている!!」
「おおおー!!いいぞー河合!」
「復活の一発を放てーーー!」
木野内の送りバント失敗、新藤の三振でファンの期待は暗雲となったが、このファンサービスに再び盛り上がった。
無論、それをやられる投手からしたらナニクソという感じ。バットが湿っているのは事実。新藤よりも安牌なのは確実だ。屑川が直球勝負で実力差を見せ付けたい気持ちだったのは明らか。
しかし、受ける橋場は違う。
挑発か。河合らしい行為だな。頭に血が上った屑川のストレートを予告通り叩き込む。ストレートには滅法強いからな。だから、ここはまず変化球で打ち気を逸らしてやる。ストレートをずっと待っているようなら、変化球オンリーで三振。
楽に勝てる。
橋場の読みは計算通り動いたら当たっていた。
ここは屑川を落ち着かせ、勝つ事が優先。構えから見ても河合はストレート狙い。一本喰らったらそこで終わってしまう。
「変化球だ?」
しかし、屑川の心理はとてもイラついていた。橋場の指示通りに、変化球から入ってやったが。体はそー上手くいかない。
「ボール!」
勝負したい。この挑発に乗って、勝負して力の差を見せ付ける。投手のプライドがある。無論、河合にもある。
「屑川!しっかり投げろ!」
2ボールとなって、変化球がストライクに決まらない事に怒る橋場。しかし、少し遅かった。自滅の気配が消えかけたが、河合の挑発でまた出てきた。3ボールとなってようやく橋場も。仕方なく投げさせたストレートですら高めに浮いた。
「ボール!フォアボール!」
ホームラン予告をしといて、一度もその打席で振らなかった。観客から見たら屑川が河合から逃げたように見える。
「本調子なら今のには手を出した(打てたかは別だが)」
しかし、河合の方が逃げたのであった。ホームラン予告はフェイク。屑川に血を上らせるためだけ。
阪東は小さく感慨ぶっていて、新藤は驚嘆していた。一塁ベースに着いた時、河合の代走として送られた東海林。シールバックのメンバーの大半が、この河合の四球に驚いていただろう。いつもなら自分勝手に、自分のためだけに打つ奴が繋いだのだ。
「あとは頑張れよ」
自分が不調時に陥ったら、代わって打つ奴が後ろにいる。
「5番、ファースト、嵐出琉」
絶好調であるが、犬飼には三振。あのチャンスでは小田のファインプレイで止められた。
「ココ一番」
勝負師の嵐出琉。最高に美味しい場面を絶対に物にする顔だった。
河合が繋いでくれた恩に応えるには打つしかない。タイミングは合っているし、スイングも出来ている。その上、屑川の制球は乱れている。
ストレートに絞ります!
初球から積極的に打ちに行く嵐出琉。しかし、橋場のリードがその上をいったか。ボールは打者の手元で鋭く曲がるスライダー。
ひっかけさせるスライダーをよく投げさせた。
「ッ!」
これを上手く芯に当てる技術を持つのは友田と新藤ぐらい。嵐出琉にはパワーしかない。河合に劣ると自覚しているが、これくらいの小細工を突破できるほどのパワーがなければ河合の後ろにはつけない。
繋いでくれた恩は必ず、応える。
「URYAAH!」
当たった音は決して鋭くなかった。打球は、
「ファースト、後方!」
「ライナーだ!」
作間が懸命のジャンプ。小田だったら、捕っていたか弾き落としたかのどちらかだ。力任せで吹っ飛ばした打球はファーストの頭上を越え、
ポーーーーンッ
「落ちたーー!」
「行け!友田ーー!」
三塁ランナーの千野、続いてすぐに友田がホームを踏む。さらに東海林も三塁へ向かった。同点打だ!
「させるか!」
ライトの孫一がホームへ投げて、東海林の本塁突入を阻止するのだが、打者の嵐出琉はすかさず二塁を狙った。アウトにできそうな場面だ。
「っ」
橋場に少しの躊躇が生まれたのは東海林がホームへ突入するか否か。指令塔だからこそ、慎重な動きだ。
「間に合うぞ!橋場!!」
ショートの小田。両手を挙げて、セカンドへの送球を要求した。ここで嵐出琉を刺せばそれで終わる。ピンチを切り抜けられると、焦った瞬間だった。橋場もその声に慌てて送球した。
「GO!東海林!!」
この緊迫した場面でこれほどの動き。いかに冷静でいられて、経験を積んでいるか。攻められた側のプレッシャーは凄まじかった。やってくるとは分かっていたが、あまりに早かった。
パシィッ
小田がボールを受け取った時。
嵐出琉は止まろうとしていた。そこからタッチするまでの間に東海林がホームを踏むか?
小田の数歩は嵐出琉を殺そうと動いたのだ。周りの内野陣、外野陣も同じくだ。
しかし、すぐに橋場が手を挙げた。サヨナラのホームは危ない。
「橋場!」
すぐに橋場に送球する小田。今度は東海林を挟んだ。冷静だった橋場と小田の2人だった。挟殺プレーに持ち込めば終わるこの回。橋場はサードに戻る東海林を少し追ってから、サードを守る黒田に送球した。
「!」
その時、空いたホームベース。なぜか、誰もいなくなってしまった。
「誰かホームに付け!!」
この土壇場。基本的なプレイが大事とされる場面で、複雑に動いた状況。本来、ホームベースに行くべきはピッチャーの屑川だった。彼は打たれたショックで、嵐出琉を殺すため一塁ベースのカバーについたまま立ち止まっていた。
空いたホームに東海林が突入し、サヨナラ安打。そして、誰にも付かないエラー。
「シールバック!最大6点もあった点差を引っくり返しサヨナラ!!最高の、前半の締め方だ!!」
やってのけた。
シールバックの快進撃を象徴する、脅威の打撃戦。それは打つだけでなく、走塁や繫がりを意識したものも含んだもの。
一発しかなかった打線が、様々絡んで生まれ変わった最強打線。阪東の考えるシールバックの理想的な攻撃に近いものだ。
「おし!」
今日のヒーローはサヨナラ安打に猛打賞の嵐出琉。しかし、影のヒーローはノーヒットながら2打点1四球の河合。自分勝手に、チームを助ける打撃をしてくれた。だからこそ、追いつけた。
対センゴクとの対戦成績は、残り3試合を残し。
なんと、16勝11敗。唯一、上位を争うチームの中で大きく勝ち越していたのだ。打ち合いになんとか勝ち、必死で積み重ねた勝利の数々。
それでも、センゴクは怯まない。カインやインディーズ、AIDAを下しながら残り3試合で0.5ゲーム差まで迫ってみせた。(シールバックがインディーズに弱かったせいもある)
お互いに最終決戦に相応しい相手であった。




