誤認打線
時代センゴクは思った以上に守備も良い。大打者で守備も一流の、小田と徳川。それに守備範囲が並であっても、打球をしっかりと捕球する守備体制。
エラー数は少ない。
彼等との初戦はなんとか一発攻勢で勝利を得たが、良い投手とぶち当たればすぐに水泡。証拠に2戦目、3戦目はボロボロに打ち負けた。
入念に彼等のデータを頭に入れている阪東。監督というベンチからの情報で、勝てる手立てプランを練っていく。
「お茶持ってきましたー」
「悪いな」
いちお、監督という権利を持っている津甲斐がお茶を用意して持ってくる。
データ班からの情報を常に目をやる阪東に津甲斐は尋ねた。
「そんなにセンゴクの情報ばかり頭に入れていいんですか?インディーズや十文字カイン、AIDAだって強いチームですよ?」
ペナントレースとは総当たり戦の延長上。
単純に勝ちを重ねれば良いと考えても悪くはないが、
「残念だが、やっぱりここが一番強いんだよ。データから見ても、これといった弱点が見つからない」
チーム打率だけでなく、次打率。さらには得点圏打率も、リーグトップ。
本塁打率はシールバックが上回っていても単発が多い。2ランからソロホームランは河合や嵐出琉、尾波の得意分野であるが、それ以上の本塁打を放っているのはまだ新藤のみと、得点圏の脆さはデータから出ている。
「野球は通常、強いチームが勝つものだ。先発が揃って、打線も安定している。AIDAは新田頼り、インディーズも乱打戦は不得意。カインは投手次第と、データを見ずとも分かる弱点がある」
弱点があるチームにはそーいった戦いに持ち込めば勝機はある。そのチャンスをしっかりともののにすれば勝利は重なる。
阪東の言葉に聞いた津甲斐も。少し納得してしまう。
「確かにセンゴク打線は繋ぎが凄いですから………。今年のシールバックでも勝てないような気がします。私から見ても弱点があるとは思えません」
「データを見てないものな」
そう言って、センゴクの情報資料を津甲斐にお茶と入れ替えるように渡した阪東。
「しかし、戦い続ければ傾向や癖が出る。チーム作りの根本を見れば、隠れた弱点が見つかる」
時代センゴク。
マシンガン打線と言われるほど、強力な線であるが、決定的な弱点はある。
「控えにはカインの杉上や、インディーズの熊本や鹿埜のような代走屋がいない。つまりここぞという場面で、得点チャンスの拡大は送りバントか強行の2択しかない」
機動力はあまりない。1番の橋場と、3番の小田が盗塁を上手に決めているが、リーグ最下位の盗塁数。そして、犠打数。
「基本は打って打っての戦い方。しかし、強行はリスクも伴う。打たれたら後続を打ち取ればそれで終わる」
「いや、そんな簡単に終わるなら……」
「データ上だからそー言っていいんだよ」
続けて津甲斐に渡すもう一つの資料。これはセンゴク打線の出塁率の記録。
「さ、さすがセンゴク。リーグトップの打率だからこそ、出塁率もトップですよね。どこにも穴がない」
「……その穴が見えないのか?」
「え?……出塁率.336ですよ!三者凡退なんて早々ないじゃないですか!」
「チーム打率が.271なのにか?」
センゴクはイケイケの積極打線。チームバッティングは多いが、その偏りは右打ちや犠牲フライ、進塁打に偏っている。三振数はリーグワーストと、優秀。
「確かに出塁率は現在もリーグトップだが、四球の数はインディーズやカインに劣っている。シールバックと同じ数しか四球での出塁がない」
特にフルカウントからの四球はまだ4つ。どれも完全なボール球と判断しての見逃し。際どいところはいつも手を出す。
「もし俺なら四球も大切にする打線にするな。もっと繫がる打線になれたはずだ。無論、今の数値は怖いがな」
勝負から逃げないのは立派だが、からめとりやすい。
「単打なら3本まで許して良い。そーいった気持ちで挑めば、かなりセンゴクの得点は抑えられる」
一発もチラホラあるが、長打を狙うのは2アウトがほとんど。
野球をしていない場であれば計算で作戦を立てる。無論、野球となったら投手達の気持ち、状況を考えれば数字通りの失点も仕方のない事だろう。
打たれたら後続を断ち切ればいい。とても当たり前のことだが、難しいこと。それを阪東はやれと、命令したい。
「とはいえ。さっきも言ったけど、シールバックも四球を選べているわけじゃない。初戦のように、一発が大量に出れば勝てるが出来の良い投手に当たると途端に得点がとれなくなる」
そーゆう場面で監督なり、打撃コーチがいかにして攻め方を指示するか。
インディーズの野際なら徹底的な揺さぶり。一方で阪東は相手投手に合わせた攻め方。
「キャッチャーの橋場は投手の状況を理解し、最大限の力を使うタイプの捕手だ。投手の気持ちをよく汲んでくる良い捕手だ」
「というと……」
「河合と似たタイプだ。基本的に投手を気持ちよく投げさせる。打者からすれば読んで打つのは容易い方だ」
初球や追い込んでからの配球の癖。投手の性格とよくマッチングする。
確かに橋場のリードで思い切った投球をするのも事実だが、そこを狙い打ったり、投手の調子が悪かったりすれば取り返しがつかない。
河合の場合、ストレートを多く要求したがる。結果、連打や痛打を浴びることがよくある。
橋場は色んな投手に対応したリードができる。
「攻めに関しては橋場と投手を毎回どう攻略していくかがキモになるわけだが……。牧以外はともかく。守備面の方が難題か」
小田と徳川をどのように抑えるか。新藤と河合。荒野と菊田。といったところだが………
「というわけで次の先発は神里じゃなくて、彼に託す」
「彼?」
「まだ来たばかりの須見をマウンドに上げる」
須見。まだ加入したばかりで二軍で2度の登板。合わせて5回2/3を1失点で抑える好投を見せてくれる。
とはいえストレートの威力が高いが、まだコントロールが安定していない。
「だ、大丈夫なんですか!?中継ぎのみでしか登板してませんよ」
「彼は西リーグでは便利屋として、先発と中継ぎを往復していた。そこまでの心配はない」
中継ぎはまだかなり元気だ。今は少しでも先発の駒として動いてもらいたい。
神里や川北を確実に勝てる相手とぶつける。阪東の作戦。
「センゴクの予告先発は……」
「牧真一ですよ」
「神里と川北を使ったら無駄だな」
AIDAの三本柱である、石田、根岸、白石を上回る器量を持つ。センゴク最大の大エースがこの試合で登板。
「俺と互角に投げ合えそうだ」
「阪東さん。さらっと自慢ですね」
「しかし、俺には自援護がある。俺と牧が投げ合ったら、俺が勝つ。当たり前だがな」
阪東もこの選手と投げ合ってみたいと思うほどの好敵手。
その素顔とは、
「今日のご飯は8749粒。にんじんは幅10cm高さ4cm……」
「止めろお前も~~!細けぇよ!!一緒に飯が食えないだろ!」
センゴクの大エース、牧真一。帝王とも言われる圧倒的な力を持つが、非常に細かい男。厄介者でもある。一緒にご飯を頂いている徳川と小田もタジタジであった。そんな彼等に大切なことを伝える。
「カロリー計算は大事です」
「お前のそれはカロリーじゃねぇし!この機械投手め!」
「ここまでの機械ぶりが牧の強さでもあるけどな」
相手を徹底的に研究する努力。常に投手としての力量を高めるための練習。科学的でも、自分流でも、様々なやり方で自分を鍛えている投手。
「必要なエネルギーは補給しました。これから3時間の休息。後にウォーミングアップを90分。あの内訳、ストレッチと体操に40分。20分間のインターバル走。立ちキャッチボールを10分……」
「あー!もー!説明しなくていい!」
「だから牧!お前は結婚もできないし、彼女もいねぇんだよ!俺より超イケメンなのに」
残念なイケメンと、恐妻家ハーレムを持つ徳川からも言われる牧。
彼の細かさを知る者は次々と逃げ出していく。女性ファンもファンとしてなら彼と付き合えるが、私生活を知ると細かいスケジュールをこなさなければ強制的に別れさせられる。
牧自身も独身で大丈夫と語っている。
彼の強さはこーいった細かさもある。それが野球に活かされるととんでもないことを起こす。
ウォーミングアップの後半。キャッチャーを座らせての20球の投げ込み。10分かけて投げ込む。
「牧さん。何を今日は投げるんですか?」
捕手は必ず。この台詞を牧に言わなければいけない。これは牧の集中力が試合前に昂ぶるための呪文。
牧は小さく口を開け、捕手に対して唱える。
「ストレート、スライダー、カーブ、スローカーブ、ドロップ、シュート、フォーク、縦スライダー、シンカー、チェンジアップ、ツーシーム、パーム、SFF、カットボール、ナックル、スローボール、ワンシーム、ポップストレート、ジャイロボール、ムービングファスト」
ファァッ!?
初めて牧がブルペンで投げ込むところを見る者は唖然とするだろう。オリジナルボールも含め、牧の持っている変化球の数はなんと20を越える。
その中から20種を選んで1球ずつ投げ込むのだ。
「うむ」
もちろん、自分が言ったとおりの順番でボールを投げ込む。
この投げ込みで今日、使えるボールをチェックしているのだ。20種類以上の変化球を持っているが、試合で使うのは5種類程度。その日の自分の状態、天候、相手チームの様子から牧が選ぶのである。
「分かった。今日はストレートとシンカー、SFF、スローボール、ポップストレートが使える」
このように宣言した時。他の変化球を試合で使うことはない。ポリシーというより、ここで使えないと判断したボールを試合で使えば痛打されると直感的に察しているのだ。
「緩急が良い」
牧の言葉通り。今日はどうやら緩急の使い分けが効くようだ。
シールバック。
1番.センター、友田
2番.レフト、千野
3番.セカンド、新藤
4番.キャッチャー、河合
5番.ライト、尾波
6番.サード、林
7番.ファースト、コールドバーク
8番.ショート、日向
9番.ピッチャー、須見
時代センゴク。
1番、キャッチャー、橋場
2番、ファースト、作間
3番、ショート、小田
4番、センター、徳川
5番、ライト、孫一
6番、レフト、孜幡
7番、セカンド、庭
8番、サード、前田
9番、ピッチャー、牧
普段はベンチで待機する孜幡がスタメン。
「牧は投手としては一流だが、打者としては三流だからな」
とはいえ、強力打線は変わりなし。守備範囲は広くないが、スタメンを張れるだけの打力が孜幡にはある。
正直、2点あれば牧には十分過ぎる援護だと向こうは思っているだろう。勝ちが確定すればすぐに守備固めで逃げ切れる。
序盤の両チームの立ち上がり。
先攻はセンゴク。今シーズン、初登板となる須見を相手にじっくりとボールを見極める作戦。
「ボール、フォアボール!」
ストレートの威力はあるが、高めに浮いている。そのことはすぐに伝わった。
2番作間、3番小田が四球を選んで2塁1塁とチャンスを作り出すが、
パシイィッ
「アウト!」
「会心当たりですが、ファースト正面!」
徳川、孫一は甘く入ったカーブをそれぞれ狙った。打球は強かったが、野手の正面と不ツキ。チャンスを潰したという意味では大きいシールバック。
いきなりの山場を越えたが……。
「ストライク!!バッターアウト!!」
「友田!見逃し三振!150キロの速球がインハイに決まった!」
友田の見逃し三振。それに熱くならず、かといって冷えず。どっしりとした腰で打者を見下し、手玉にとっていくエースの牧。
シールバックの強力打線は尾波の四球を除いて、4回までノーヒットに終わる。
「シンカーのキレが良いな」
「ノビのあるストレートに微妙に動く球。時折魅せるスローボールも注意だね」
新藤と河合も2打席凡退と攻略の糸口がつかめない。
今日の牧から点をとるのはまさに至難だ。こうなると、先発の須見がなんとか踏ん張って欲しい。
キーーーーンッ
「孜幡!スタメン起用に応え、タイムリーヒットでまずはセンゴク先制!」
ヒットが出始めた3回。そして、4回。
コールドバークの失策を突いてから、徳川のヒット。孫一の進塁打を挟んでから孜幡のタイムリーでようやく1点が入るセンゴク。
「あーー!先制された!抑えられるかなー!」
なおも2アウトながら3塁1塁のピンチ。ここで下位打線が繫がったら、もう勝ち目がない。
須見は渾身のストレートをインコースへ投げ込んだ。見逃せばボールと言われても良いコースだが、これを7番の庭は積極的に打ちにいった。
「やっぱりな」
庭。レフトフライに倒れ、追加点ならず!
阪東はセンゴクに流れる打撃のリズムを掴みとった。きわどい球を打ってくるセンゴク打線に、ボール球で勝負する選択をとった。
須見の荒れ球が上手い事相手打線を分断している。
「四球狙いなら3,4点はもう獲られてる」
ボール球をヒットにされれば打者を褒めるしかない。
須見のストレートにはそれだけの威力がまだある。140台前半だがノビが良い。
この作戦でバッテリーが凌いでいる間になんとか牧を攻略したいが……
ドカァッ
「っつ~~」
「デッドボール!」
未だにノーヒット。唯一、2連続で出塁したのは尾波のみ。
「シンカーが抜けちゃったなぁ」
牧は4回からシンカーのキレの悪さを感じていた。しかし、それはシールバック打線には伝わっていなかった。あくまで牧が若干に感じている程度。
牧に合っていないシールバック打線だ。おそらく、何を投げても打たれないはずだろう。次が長距離砲のコールドバーク。ここは確実に内野ゴロを打たせたいと思い、SFFをストライクゾーン低めに投げ込んだ。
キーーーーーーンッ
単純にシンカーで死球となったから、この場面では使わないだろうという読み。もう一つはかつてとはいえ、長く4番にも座った打力があったこと。
「なんと初安打は林の2ランホームラン!!牧から今シーズン初のホームランを記録!牧は今シーズン初の被本塁打だ!!」
ムードが悪くなりかけた中でみせたベテランの一振り。
「林さーーん!牧から打つなんてすげーー!」
「一発で引っくり返した!!」
盛り上がるシールバックベンチ。照れながらメンバーとハイタッチをかわす林。
「内角はないと思ってフルスイングした」
河合達が来る前は本当の4番としての打力があった。少しだけ全盛期に戻った気分の林。
本来なら牧を相手にリードをとるなんて考えられなかった。
このまま継投を……と行きたいところだが
「アウト!」
「7番、コールドバーク。8番、日向。凡退!この回は林の一発がありましたが、後が続きません」
6回が9番からとなった。勝利投手の権利も考えてあげればこの回は須見までいきたい。いや、一番怖いのは継投に失敗した時だ。
幸いまだセンゴク打線は須見を見切れていない。自分達の野球をしようと、2回以降は積極的に打ちに行っている。負けている状況ならなおさら、その土俵で戦いたいはずだ。
「ブルペン。井梁とケント、沼田の3人の肩を作らせてくれ」
3番、小田と4番、徳川。2人にはおそらく、2回打席が回る。
前後で出塁を防げば失点はないはずだ。
「安藤は?」
「安藤より、ケント、井梁、沼田のリレーで行く」
5回。須見は勝ち投手の権利の欲しさか。懸命な投球を見せ、三者凡退にきってとった。
「代打、木野内」
代打役として試合に出る木野内。牧から粘るも、結局は三振に終わった。さらに続く友田も抑えられる。牧に崩れる気配がない。
「ピッチャー、ケント」
6回からケントが登板。球数制限があるとはいえ、彼なら上手にセンゴク打線を抑えると阪東は踏んでいた。
須見と同じく、ノーコンに近いからだ。
キーーーーンッ
「快音を残したが……上がりすぎか」
小田。積極的に初球から打つが、ライトフライ。
ケントの積極的な姿勢に釣られるようにセンゴクの凡打を誘発。
6回、7回をパーフェクトに抑える快投。ある意味で的を絞らせなかった投球。
際どい球を選んでいればきっと、甘い球も来ただろう。今、センゴク打線は負けているという状況下。それも牧を出して負けるという、プレッシャーの渦中だ。
おのずと自分達の打撃。積極的な攻撃に走りたがる。
「誰か1人でも粘って塁に出ればな……」
須見よりもさらに格上のケントと井梁から好機を作るのは至難。
8回まで牧が被安打3で抑える快投でも、2失点したという事実は変わらない。
「井梁に代わりまして、沼田」
ここで今シーズン初の抑えのマウンドに上がった沼田。井梁と安藤と比べれば、レベル的には若干下ではあるが。阪東が彼を推したのには理由がある。
サイドスローであり、極めて正確なコントロールを持つからだ。
「3番、ショート、小田」
先頭打者が左の小田からだというのは都合が良い。ここで1アウトをとれれば、いくら右打者で左キラーの徳川でも。一発以外は怖くない。
「……よく考えれば今日、ノーヒットじゃん。俺」
初回の四球のみであとは打ち捕られている。
原因はやはり際どい球を打ちすぎたこと。牧は降りて、9回から犬飼が投げている。逆転までする必要はない。まずは同点でいい。牧の負けはなくしたい。
先頭打者だからこそ、出塁を優先させる意識が高まるのは自然。
須見、ケントと違い、沼田の球は正確に際どい球を投げられる。
「ストライク!」
「!……マジか?」
また、前の3人がオーバースローで力技であったこと。
球の軌道がまったく異なるサイドスローと対峙し、今度は際どくストライクに入れてくる沼田に苦い顔を作る小田。
アウトローをギリギリ掠めるストレートを見逃し、追い込まれた時。
やはり、チームの性質が打者に現れる。こーなるとストライクゾーンを広くとり、見逃すという勇気がなくなる。
5球目、外のストレートと思わせ、さらに外側へ逃げるスライダーを投じた沼田。小田が球を追いかけるようにバットを出したのは当然だった。
「先頭の小田!ショートゴロに倒れました!残り2アウト!」
一つの山は越えた。そして、最難関の長距離砲。
「際どい球は気をつけろ。アウトローのストライクゾーンは広めにな」
「あの投手に甘い球なんてないだろ」
小田から沼田の情報を受け取って打席に入る。
「4番、センター、徳川」
恐妻家ハーレムを築く男は最高の左キラー。ちなみに正妻のセナ譲は左利きであるそうだ。右打者の徳川は、小田と違って長打を狙っていた。
甘く来る球はそうはないから、少しでも甘い球を見極めてぶっ叩く。
沼田から全球種を引き出し、見事に際どい球をカットで逃げる。少しでも甘くなれば痛打というのは誰にでも分かった。これは仕方のない結果。
「ボール!フォアボール!」
「沼田!今シーズンの初の四球です!」
沼田は間違ってはいない。
「逃げんなーー!」
「勝負しろよ、沼田ーー!」
「プロなら正々堂々戦えーー!」
センゴクのファンから野次られるも、戦略として当然だった。さすがに右打者に分が悪い左のサイドスローでは抑えるのは難しい。
「クソ、打ちたかった」
四球で済ませたのはファインプレイ。それでいいと、阪東もベンチ内で思っていた。少しでも勝てる相手と勝負するべき場面。とれるところで、あと2つのアウトをとるべき場面。
徳川は足が速いが、盗塁が上手いという情報はない。
しかも、沼田は左。牽制もクイックも上手い。
「センゴクのとれる手段は強行以外ない」
5番、孫一。
彼は左の長距離砲。ヒットもあるが、小田と比べれば格下。
「向こうに打てる手はない。カウントがやばくなったら、2人まで歩かせるなり、打たせるなりしていい。1アウトずつ確実にとっていく」
徳川の四球で一旦、内野陣を集めてもう一度状況を伝えた。慌てる場面ではないので無理はするな。
沼田は冷静に際どいコースに球を投げていく。軌道の違いが、打者が感じるストライクゾーンを惑わす。そして、判定を下す審判の目にも影響する。
「ストライク!」
「ちょっ……遠いんじゃねぇの?」
孫一が少し審判にイチャモンをつける。
判定は打者でもキャッチャーでも、投手でもなく審判。彼等の言葉が正しく表示される場だ。
審判特有のストライクの取り方というのもある。
審判はセンゴク打線が積極的なものだから、ストライクゾーンがややいつもより広くとっていた。無意識に近い。
内と外がそれぞれ広がれば当然、投手有利の状況。
「ストライクゾーンはベンチにいる俺だって把握してるんだよ」
「阪東さん!もしかして、それまで見越して抑えを沼田に!?」
「荒れ球投手が続いた後で、きっちり投げ分けられる投手が出てくると打者はキツイからな」
9回。徳川を歩かせたことで、センゴクの打てる手はやはりない。
すでに阪東が敷いた策に審判もセンゴクも含めてはまってしまった。
「孫一!セカンドフライ!……続く、孜幡もショートライナーに倒れ、ゲームセット!沼田、今シーズン初のセーブです!」
打たせて捕った結果。
2-1という僅差の勝利を得たシールバック。しかも、相手の大エースに今シーズン初黒星をつけての勝利。
「次もこの作戦でいけますね!」
「そんなわけあるか」
「え!?」
確かな金星であっても、阪東は喜ばない。
「審判と今日のセンゴク打線に恵まれただけだ。次はなんらかの手を打ってくる。待球作戦なんてとられたら、10点はとられていた」
積極的に打ちに行ったから、須見、ケント、井梁、沼田の4人の合計の球数は107球。フルカウントまで縺れたのは2回だけだった。
正直、ラッキーが100だ。得点も、林が失投を逃さず打った本塁打のみ。死球も絡んでの得点だけに、奇跡みたいなものだった。
「日々進歩していかないとな。センゴクは色々な動きをしてもおかしくない」
センゴクの底力が発揮されたのは夏頃。丁度、シールバックが連敗街道を脱出した時期とほぼ被っていた。




