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打撃高騰チーム、シールズ・シールバック!  作者: 孤独
VS徳島インディーズ編
36/45

矛盾信仰

西リーグのペナントレースはいよいよ佳境。

1~4位が2ゲーム差とデッドヒート。



1位、シールズ・シールバック

2位、時代センゴク

3位、十文字カイン

4位、徳島インディーズ


5位、AIDA


6位、ダイメトル




東リーグは例年通り。そして、難なく10連覇を達成した"RTB・オールビー"が優勝し、消化試合をしていた。


絞られた4チームのどこが勝ち上がるか、勝敗次第ではすぐに入れ替わってしまう状況であるが。4位の徳島インディーズはとにかく必死。ほぼ全勝でいかなければいけない。

必勝パターンはもちろん、出来うることはなんでもした。



「ボール!フォアボール!!」


どんな状況でも粘り、塁に出れば誰であろうと投手を揺さぶった。

6回まで4得点とインディーズ側からすれば最高の攻撃であった。



「チマチマ攻撃してくるんじゃねぇ!!」


しかし、大鳥と北田、山田が常に先発マウンドに立っているわけがない。今日の先発は便利屋の蛇屋であったが、シールバックの重量打線を止められるわけがない。



「河合!2ランで再び、シールバックがインディーズを突き放します!!」


河合の豪打が爆発し始めた秋。弱い者虐めの本領発揮か、まったく止められない。また、前を打つ新藤と友田も好調をキープ。

7回7得点と堅守を誇るインディーズを軽々と突破している。


「おーしおーし!今日は勝てる!勝てるぞーー!」

「インディーズが敗れれば、あいつ等に自力優勝はなくなる!」

「残り3点守りきれーー!」



しかし、相手はまさに土俵際。窮鼠猫を噛むといったところか。

シールバックの中継ぎ陣からも粘り強く得点を重ねた。



「荒野!本塁へ突入する!地花のバックホーム!間に合うか!?」



暴走とも思わしき、特攻。

しかし、わずかな機会があれば構わずに行く姿勢がこの粘り強さなのだろう。


「セーフ!」

「9回表!!再び、インディーズが追いつきました!!荒野の激走で三度同点!!守護神、安藤まで攻略したーー!」



激しい死闘に相応しい。乱打戦。

井梁と安藤、さらには沼田まで攻略して追いついたインディーズの執念。一丸となったチームワークはリーグ一であろう。

そして、9回裏。



「勝つまで守りは託すぞ」


野際が指名する。この試合最後の投手。彼は快く頷いて了承した。


「限界まで投げきりましょう」


守護神、泉。投入。

今シーズンのインディーズにはラストゲームとなってもおかしくない場面で、彼が出てくることはファン達にとって希望だった。



「今シーズン無敗の守護神の登場だ!!」

「防御率0.96!また、17イニング連続のパーフェクトを記録!!」

「セーブ王は確実の48S!」


この大歓声による泉の凄さが良く分かる実績の数々。

抑えならば、東西のリーグを合わせても泉を越える投手はいない。

野際は彼にここから延長の全てまで託すつもりだった。泉の回跨ぎは今シーズン一度もやったことはない。抑えという役割は非常に重く、1イニングですら立派なものだ。

どこまで、シールバック打線を相手に戦えるか。未知数。


そして、9回裏の先頭は9番から。



「ピッチャー、安藤に代わりまして、代打、木野内」



大ベテランを打席に送った阪東。とはいえ、木野内と泉では実力差が明らかにある。並のプロ野球選手では到底勝てないのが、抑えを任される守護神。



「ストライク!バッターアウト!」



ストライクゾーンを刈り取るような精密機械ぶりのコントロールに加え、アンダースローながら130キロのストレートがアウトローに決まって、木野内は見逃し三振。

こんな投手が9回を投げてくるのは反則である。



「1番、センター、友田」



1アウトとなったが、ここからがシールバック打線の本番。

泉といえど楽には仕留められない打者が並んだ上位打線。左打席に入った友田。



「"あいつ"のマネはしたくないが、言ってられないか」



この天才でも攻略したといえる実績を挙げた事はない。

まともな打撃では泉はもちろん、インディーズの鉄壁守備陣を突破できない。友田は一点に集中し、泉を狙っていた。

しっかりとタイミングを計りながら、その3球目。



コンッ



「友田!!セーフティバントか!?」


ストレートを上手に転がし、三塁と投手の間に転がすバント。バントからスタートする切り方、その技術力。練習をまるでしていなくても、やってのける素質と度胸は"あいつ"と同等を秘めている。



パシィッ


サードの荒野がチャージをかけるよりも早く、泉がこの打球を処理した。

しかし、左利きの泉がここから一塁へ送球するまでのロスがあった。荒野が捕った方が一塁への送球は早かった。友田が上手い事、泉に捕らせるように仕向けたと言って良い。

友田の快速は泉の送球よりも早く、一塁ベースを踏んでいた。



「セーフ!!」

「決まったーーー!カインの杉上のような、セーフティバント!!1アウトながら、俊足の友田が塁に出ました!!」



場内が2つに揺れる。登場直後は流れがインディーズに傾いたが、泉と同じくこの重量打線が幾多の勝利を導いたか。

思い出させる強力打撃陣。泉に屈していない。


「ナイスラン!ナイスバント!」

「……杉上のマネは嫌いなんだよ。俺らしい戦い方じゃない」


コーチャーに褒められるも、友田自身はやや不満気。

言わないがライバルの技をパクるのは気が乗らない。自分では勝てなかったと、降参した感じでもある。シールバック全体がまだ泉に屈していないが、勝っていない。


「ともかく、俺のお膳立てはした」



友田が走者となった時。極めて、試みる回数が少ないが100%の成功率を誇る盗塁がある。得点圏にランナーを進めたいのは明らかだ。



「2番、レフト、千野」



ここで打席に立つのは小技が得意な右打者。千野。早くも送りバントの構えである。



「阪東さん!この場面は一体どんな指示を出したんですか!?」

「……いや、サイン通りだが?見てなかったのか、津甲斐監督」


相手の変則に付き合わず、こっちの得意分野で勝負する。

泉は友田の盗塁を警戒し、牽制を2つ挟んでからのクイックスロー。とてもじゃないが、盗塁を試みる隙がまったくない。

また、投球は千野にそう簡単にはバントをさせないインハイのストレート。

千野にぶつかるようなクロスファイヤーのストレート。



コンッ



「転がした!」



フライにしようとした投球であったが、千野が上手にピッチャー前へ勢いを殺したゴロを作った。いくら正面でも


「無理だ!ファーストだ泉!」

「くっ!」


友田の足が速く、間に合いそうにない。

一発で決める送りバント。2番がもっとも似合うバントの達人が決めた。2アウトながら得点圏にランナーを置いた状況を、阪東達はこいつに託したかった。



「3番、セカンド、新藤」



インディーズの絶対の守護神、泉に対し。

ペナントレースの大半。友田と新藤のコンビで先制点を獲ってきたシールバックの基本的な攻撃にして、絶対的な攻撃。



「友田が出て、千野が送り、新藤が返す」



理想と理想。

絶対の盾である泉、絶対の矛である新藤。試合を決定付ける場面で相対した、矛盾信仰。


「任したぜ、新藤!!」

「決めてください!新藤さん!!」

「泉!楽に行けよ!普段通りやりゃ、抑えられる!」

「後ろには俺達がいるからな!」



両チーム共、この勝負から逃げる気はなかった。全員一丸となって、1人の投手と1人の打者に熱意を送っていた。

名神は審判にタイムをとって、泉の元へ駆け寄った。



「どんな気分だ?」

「悪くないかな。ランナー2塁なんて、たまにあることだ。同点にされたこともある」


泉は落ち着いている。2アウトなのだから、新藤を打ち捕ればいいと思っている。これなら十二分に戦える。



「けど一度たりとも、僕はまだ負けていない。大丈夫。僕のサイコーの球を引き出してくれ、名神」

「ああ、任せろ」



抑えの精神力は常人では務まらない。たった1回かもしれないが、負けも失点も許されない環境。3アウトをとる役目の辛さ。シールバックですら、安藤、井梁、沼田の3人のローテーションで負担を減らしていた。

それでも、泉は一度たりとも守護神を降りなかった。

グラブタッチをしてから名神は戻っていった。



泉は投手として、最強だ。

受ける名神は誰よりも分かっている。次いで分かっているのは打者である新藤。


「………」



このペナントレース。たとえ、今日私達が負けたとしてもインディーズが優勝を獲るのは難しいだろうな。残り試合をほぼ全勝でいかなければいけない。

だが、シールバックは負けるわけにはいかない。2位のセンゴクとのゲーム差は0.5。次の直接の3連戦でも2勝が必要。

泉を攻略しなければ優勝が遠のく。いや、不可能となる。

やはりこーいった場面は有りえるのだな。優勝を賭けた試合ではなくても、それに喰らいつくまでに必要なルートや障害。

泉の攻略はシールバックのペナントレース優勝、そして。東リーグを制した"オールビー"との決戦に勝っての、完全優勝のため。必要な障害。



「打とうか」



新藤 VS 泉。

その戦いは始まった。



「ボール!」



1球目。泉はナックルから入り、ワンバンしたボールとなった。

新藤を相手に軽々とストライクゾーンに投げられない。



「新藤を歩かせて河合という手もあるんじゃないですか。阪東さん!」

「なくはないが、今日の試合でノッているのは新藤より河合の方だ。それに左対左の理由で新藤を敬遠するようなら、あそこまでの守護神にはなっていない」



4番の河合は2ランを含め、2安打3打点。バットもよく振れている。

むしろ、河合が後ろにいるからこそ。バッテリーとしては色んな攻めができる。際どいコースに遠慮なく投げられるし、仮に勝負をして四球となっても後ろで打ち取れるという安心がある。満塁までならいくらでも、厳しく打者に攻められる。



2球目。泉は再びのナックルで新藤を驚かせようとした。が、

このナックルをギリギリで見極めて、最短のスイングでしっかりと捉える新藤。



「ファール!」



三塁線に鋭く切れる。

ナックルという無軌道で不規則な変化を連続して投じる泉。コントロールがまだできていないと言っているが、ある程度のコースには投げ分けられている。

そのことに新藤もこれまでのペナントレースから得たデータから知りえている。



つまり、ナックルでは新藤を打ち取るのは困難。



「………」


となると、やっぱり泉の直球。球速差に加え、ノビのある球で凡打にさせる手。

あまりに平凡なリードか。



名神が間を少しとってからの3球目。新藤がすでに読んで待ち構えていた直球が、インハイへとやってきた。これに反応するのは当然。


「!」


だが、体勢を仰け反らせるというより完全に当てに来たストレート。新藤のスイングが少しズレてボールをミートしてしまった。


「ファースト!」


内を攻めすぎたストレートを叩いてしまった新藤。打球は高く上がり、ファーストへ流れるようにいき……



パシィッ



「やった!アウトアウト!!」


嬉しそうにグラブでキャッチしてしまうインディーズファンのおばちゃん。つまり、スタンドに入ったのだ。


「ファール!!」



危なっ!

新藤もホッとする。ストレートを狙っていたところに、さらに中へと差し込んでくる球を投げられるとスイングが狂ってしまう。

咄嗟に最後まで振り切ったことでボールが思ったよりも高く上がり、観客席までノビてくれた。



「とはいえ、追い込まれちまったぞ!新藤!」

「クサイ球は今みたいにカットですよ!」



2ストライク1ボール。カウントは圧倒的に泉が優位となった。

ストレートを上手く当てたのはさすがだが、追い込まれると迷いが生まれる。多彩な変化球か、今みたいに内角へ刺しこむストレートが来るか。



「………」



ともかく、まだ打てるチャンスがある。

私が勝つ道はもうただ一つだけだ。植木、君との練習でしっかりと泉への対策ができた。

注目の4球目、今度はインローへ来る難しい直球。腕を上手く畳まないと打てない厳しいところだった。それを新藤は、3球目とは違ってフルスイングで打ちにいった。



「ファール!」



ボテゴロのファール。上手く当たれば長打となるが、そう簡単には当てられない良いコース。


「ボールになったかもな。今のは……」


とはいえ、見逃すのは完全にボール球と思うものにする。見逃す勇気を持つ打者ではないし、縋る打者でもないからだ。

ナックル、ナックル、ストレート、ストレート。2球ずつやってきた。



「となると、チェンジアップやカーブがそろそろ来る?」

「かもしれないな」



次の球が一体なんなのか。気になるところだ。ストレートが内を2球続けたから次は外に要求するかもしれない。幾多のパターンが有りえるなか、名神が選んだサインに頷いた泉が投じる5球目。

フワッと高めに浮いた変化球。外から中へ向かうような軌道だ。



「!」


一目でカーブだと分かるほどの球速差に新藤は堪える。タイミングをずらしてきた球だ。


「…………っ」


スイングが間に合うその時まで、体を止めきった。外のボールゾーンから、ストライクゾーンに掠めようというカーブだが。



「ボール!2ボール!」

「おー!よく見た新藤!」

「すげー際どかったのによく見たなー!」


名神のリードは多重に罠を張ってくる。

1番はタイミングをずらす。もし、当てられたとしてもボールゾーンなら凡打もありえると踏んでのリード。

とはいえ、本当に際どく投げてくるから思わず手が出そうになる。泉との相性が抜群に良いリードだ。



「2-2か」



フルカウントとなっても泉達の攻めのリードは変わらないだろう。

新藤は今、1ボールを得たが。まったく優位に立っているわけではない。かろうじで泉の攻撃を堪えている。



カッッ



「ファール!」



ストライクゾーンに来たストレートをカットする新藤。

泉との真向勝負に見えて、新藤の持つ理がいよいよ7球目で芽を出す。



「……………」


植木との練習。アンダースローがどのような軌道で来るか、リアルで確認した。彼を打ち込めれば泉も簡単というわけでもない。ただ、軌道が分かれば上手くファールで逃げ切れる。

3球目のファールは運に救われたが、ナックルもストレートにも対応できる。

その上、際どく投げたカーブを見切れた。これが見えないながら大きい。



8球目。また厳しいインハイへの直球。見逃せばボールだったが、新藤は強引に打ってファールで粘った。

これが新藤の理。泉を攻略するための、単純だが強力な理。

ファールで粘られれば投げる球が無くなってくる。いくら強力な球を持っていても、打ち取れなければバッテリーは焦ってくる。



「ふーっ……"しんどう"だな」



スタジアム全体が泉と新藤の勝負に目をやっていた。

9球までもつれたこの勝負に決着が下される。泉が投じたボールはストライクゾーンに厳しく決まる。



「ナックル!」



ストレートを見せ球にトドメのナックルが来た。球速差もあるが、その不規則な変化に対応できるのか。

新藤は顔をシカメ、踏み込み、僅かにスイングする動作を遅らせた。揺れて落ちる様子を眼と体が追っていた。スイングもそれに対応するように微調整していった。まるで、この投球を読んでいたような打撃。



「ナックルを引き出したか!」



読み打ちというより。ストレートでは凡打にもし辛い状況を作り、ナックルを勝負球に変えさせた技術。ここしかナックルが使えない状況に仕立てる打撃。

阪東も賞賛するほどの素晴らしい技術だった。

フルカウントではナックルは使い辛い。むしろ、ボール球にして歩かせる選択もとっただろう。2-2であれほどストレートを見せた後、ナックルを打つのは難しくストライクゾーンを通れば凡打にもなる。

相手の理想を作り上げさせて、それを新藤は打ったのだ。



キーーーーンッ



打球はあのナックルを芯で捉え、泉の左を抜ける強烈なゴロとなった。



「ジョンソン!」


ショートのジョンソンが打球に飛びつくが、一歩遅かった。



「二遊間抜けたーーー!!」

「うおおぉっ!!」

「回れ友田ーーー!!」


スタジアムが割れそうだった。だが、新藤VS泉があるようにもう一つの勝負がここに生まれる。



「さーて、まだ入っていないんだよな。センターじゃ」

「サヨナラホームインはさせないよ!」



友田VSバナザード。走者と守備の対決。

友田は。ペナントレースでは何度もこのバナザードに本塁突入を阻止させられた。それ故、新藤はライト方向やレフト方向に打ち分けて、友田をホームインさせていた試合もあった。

さすがに泉との対決でそこまでの余裕はなかったのだろう。基本通りのピッチャー返しが限度。



ダァンッ



ベースランニングのさらなるコツは、あの阪東さんを見てよく知った。

今なら阪東さんにだって勝てる。最高速度をとにかく維持することを心がける。丁寧に回って、三塁から本塁に突入するための直線になるまで。



パシィッ



「おし!」



思った以上に打球が速かった!これなら、本塁で友田を殺せる!



「名神!」


バナザード!本塁で構える名神へ、レーザービームが投じられる。

友田も直線となって一気に、さらにスピードを増して突っ込んでくる。熱いクロスプレー。



パアァァンッ



「ナイス送球!」


どストライクの送球!この緊迫した場面でまったく送球がブレない。さすが、バナザードだ。ここから友田をブロックするまで、1秒も掛からない。


「!?」


だが、名神とバナザードが予想するよりも1秒ほど。友田は早く本塁へと来ていた。とても際どいタイミングになっていたのだ。無論、友田が彼なりに技術を向上させたのは確かであるが、



「バッター勝負に集中しすぎたな。友田のリードはかなり大きかったんだぞ」



その差があった。つまり、本来なら突入できない状態であった。泉の信頼が走者への油断を生んでいたのだ。

とても際どいクロスプレー。名神はしっかりとホームベースの正面を守った。体で友田を受け止めようとしていた。


「!」


友田はホームベースの外側から切り抜けようとしていた。とても速い速度でスライディングし、名神のブロックを掻い潜る。一方で名神も友田をブロックしようと、体を張ったが。

低空かつ、極めて判断よりも本能が決めるような勝負であったこと。運動能力の差が歴然とし、友田は名神の後ろへと切り抜けたのだ。

だが、代償に払ったものもある。


「早くホームを触れーー!」


ブロックから抜け出したとはいえ、ホームベースを触らなければ得点にはならない。また、一早く友田をタッチしなければアウトにできない。

両者共に体勢が崩れた。そこから友田は素早く左手を伸ばし、体を少しでもホームベースへと捩じらせた。一方で名神も喰らいついて友田をタッチした。



「はぁっ……はぁっ……」

「セーフか?……アウトか?……」



これほどのクロスプレーに巡り会った主審。とんでもない好ゲームの審判を務められてとても光栄だし、忘れられないことだろう。自分のジャッジがこんなに大きくなるのは嬉しいことだ。



「セーフ!!」



「シールバック!!セーフが判定されました!!つまり、シールバックのサヨナラ勝ち!新藤のサヨナラ安打!!友田の好走塁で!試合を決めました!!」




新藤、今シーズン7度目のサヨナラ安打。その最後を締めくくるのは、西リーグ最強の守護神。泉蘭から。球団の抑えを打ち崩してきた打者である。



「泉が打たれたらしょうがない。あいつがどれだけ9回を投げてくれていたかはチームがよく知っている。あいつが抑えられないなら、誰も抑えられない」



試合後のインタビューで野際は泣いていた泉を労った。たった1敗であるが、負ければ優勝が消えるときだった。同時に彼が負けたからこそ、それに納得できた。まだまだ徳島インディーズではペナントレースを制することができない。


「……シールバックの健闘を祈ります。え?どーしてかって?」



対シールバックとの、対戦成績。

17勝12敗、1分。

西リーグで唯一、首位のシールバックから勝ち越しているチームであるからだ。

それでも4位に甘んじたのは他の球団が苦手であったこと、シールバックとの相性が良かったこと。


「なんて威張りませんよ。ともかく、良い野球を魅せてもらいました。また、来年にリベンジを誓います」


徹底された野球。確かに選手層が他球団よりも薄い中で張り合ってみせた、徳島インディーズ。


「あそこが勝ち上がらなくて良かったよ」


阪東もホッとしている。強力打線を封じるあの堅守と投手力は、シールバックが苦手とするロースコアのゲームになってしまう。ミスがどれだけ痛いか思い知った野球を知った。




「……それじゃ、そろそろ。ラストゲームの3試合の相手を拝見するか」



シールバックとインディーズの死闘が終わる1時間前。

すでに、向こうではペナントレースの3位が決められたようだった。画面越しで見る華やかに彩られた、試合結果。アナウンサーの喜び溢れた高い声。



『試合終了!!2位と3位の、激しい戦いが終わりました!』


明日の紙面も夜のニュースも、この試合を高く評価していた。


『時代センゴクのエース!西リーグ、最高右腕の牧真一まき しんいち!強力カイン打線を零封5安打、三塁を踏ませぬ快投!!これにより、次の3連戦が優勝争いとなりました!!』



シールバックと双璧を成す攻撃力を持つ、十文字カインが完封負け。


『6-0と大差で敗れ、十文字カインは優勝争いから後退しました!』



守備面ではインディーズにも劣らない十文字カインが、ここまで点を獲られること。センゴクの打線も相当な破壊力を持っている。

だが、やはり特筆すべきは西リーグ最高の先発陣。


「このペナントレース終盤で完封か」



杉上、新潟、曽我部、魚住。

この4人がキッチリ揃っているにも関わらず、3塁も踏めなかった牧の快投。この試合での勝利によって、



牧は西リーグ単独トップの20勝目を挙げる。



最多勝確定の怪物右腕。泉とはまったく違うタイプの大エースに、どう攻略していくか。


阪東の手腕、シールバック達の底力が試される。


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