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打撃高騰チーム、シールズ・シールバック!  作者: 孤独
VS”AIDA”編
22/45

野球一家

"AIDA"にいる先発陣、3本柱。

石田、根岸、白石。


西リーグでは最高レベルの投手、新藤ですら認めるこの3人の投手にはある秘密があった。とはいえ、その秘密は事情に詳しい野球ファンなら知っていることがある。



「あいつ等って、半分血が同じなんだよ」

「どーゆうことよ?」

「"野球狂"、水嶋の、息子達ってことだ」



"野球狂"、水嶋。

今から30年前にこのプロリーグで一時代を築いた名選手である。野球に対してとにかくストイックであり、その発展に貢献するべく様々なことに挑戦していった。成績においても、2年連続三冠王。ゴールデングラブ賞3回、MVP2回とまさに伝説と言って良い名選手。



「水嶋はとにかく狂っている。常識、道徳、それらが通用しないほど、野球に運命を賭けている。その作品が、石田、根岸、白石だ」



子を産むとは、単純な数式で置き換えるなら父と母が持っている力を半分に割ったものだろう。両親の血の濃さに差もあるだろうが、お互いが優秀であれば生まれる子も優秀だ。

水嶋、24歳。初めての結婚。お相手は水泳の金メダリスト。彼女をとても愛していると、宣言し。自分の精を彼女に与え、子供を孕ませた。第一子は石田であった。


赤ん坊が水嶋の手に渡れば、妻は容赦なく切り捨てた。それは嵐の如く、子を奪い取り、法律的にも水嶋の物になった。

その半年後、女性外国人の陸上選手と子をもうけた。その子もまた水嶋の手に渡れば、野球漬けにさせた。

さらに1年半後。意外なことに、選ばれた女性はただの会社員の女性。水嶋の純粋な恋心と、記者会見で笑って言っていた。3年ほど生活していたが、前の2人の女性と同じように離婚した。無論、子供は水嶋の手の内に入った。



プロ引退後の水嶋は、活躍によって得た莫大な金で3人の子供達に、野球の教育を徹底させた。室内練習場、優良な指導者、野球を上達させるための機材。自分がプロ野球選手であるため、アマチュアへの指導が困難であった。しかし、その道を背負わせるための進路を自分の金で進ませた。


教えるのではなく、突き進めさせる。それは教えるよりも残酷で強烈な力を与えるものである。



水嶋は、子の成長についてこう発言した。



『野球さえできればいい大人なるならいいのだ』



んなわけあるか。それでいいわけあるか。


しかし、それができるほどに水嶋の血を持つ3人の子供は成長していった。高校一年ですでにプロスカウトから注目されるほどの逸材。

そして、彼等が入学させられた高校は全国の名門校。無論、年功序列なんてない実力主義の弱肉強食のルール。その中で全国から集まる猛者共も食っていく。



持っている血も、与えられた環境も、全ては野球で生きるために作られた者達。



「9番、ピッチャー、根岸」


その次男坊がシールバック戦。第8回戦で登場。シールバックは運が良かった。

石田、根岸、白石とは今シーズン初めて戦う。エース級の投手と戦うのは久しぶりであった。



「向こうは私達と7連敗中ですからね!」

「無理矢理勝ちに来たってことだな」



昨年の優勝チームを相手に出来すぎなほど、勝ちまくった。彼等と戦わなかったというツキと、打線が上手く繫がったからだ。

しかし、これから先はエース級が次々と当たってくるだろう。5月ではあるが、1位のシールバック。他球団は何が何でもシールバックを落としたいのだ。

その第一陣がAIDAの根岸だ。



バシイィッ



例えるなら稲妻。

根岸のフォークボールはカインの上滋と同じほど強烈に落ち、さらに微妙にシュート回転も掛かっているものだ。

右打者には逃げながら落ちていき、魔球といってもおかしくない。


左投手でありながら、右打者に滅法強いという投手。このフォークを投げられたらまず打てない。



「ストレートのノビもいいじゃねぇか」

「150中盤まで投げるからね」



根岸の投球はオーソドックス。とにかく速いストレートと、掠ることすら難しいフォークを使い分け、スライダーとカーブは見せ球としてカウントを調節する。


「こっちの先発は川北さんか」

「エース対決だな」



それはあくまで背負っている看板名が同じだけ。

マウンドに立つ川北も分かっていることだろう。自分の年齢を考えても、根岸に勝てる球は何一つないこと。投手として、完敗の二文字を植え付けられていることも……。




「阪東さん、AIDAがようやく私達にエースをぶつけてきましたけど、何か策戦はあるんですか?」

「お互い、今シーズン初めて戦うんだ。まず、好きなようにして様子を見よう」



阪東、見るに徹する。

まず正攻法。どれだけ向こうのエースがやってくるか。

試合の展開はややシールバックが押されている形になっていた。わずかに踏み止まれているのは川北のベテランらしい粘りのおかげ。

5回、被安打7。無四球。2失点。

本来ならば5失点はしてもおかしくない安打数だが、四球0。打たれた長打は市村のツーベースのみと、低めに集まった投球が失点を防いでいた。


だが、それ以上の投球をするのが根岸だった。


5回、被安打1。1四球。

許したヒットはマルセドのポテンヒットのみと、ほぼ完璧。なにより、友田を2三振。新藤も1三振と、ここまで好打を続けた二人から三振を奪っているということ。



「完封ペースだな」


シールバック打線。根岸の球数を増やそうと、河合以外は粘りの打撃をしている。しかし、あのフォークを前に粘るのは難しい。見極めが肝心であるが、リードする新田が根岸のフォークを上手く振らせてやっている。


ここまで、根岸の投球数は71球。



カーーーーンッ



「打ったーー!弓削の打球はレフトポール際!!当たるかーー!?」



6回表、弓削の大きな当たりはポールに直撃するソロホームラン。


「当たったーー!ギリギリのところ!その差、3点差となりましたーー!」



しかし、川北はまだ粘る。新田に四球を選ばれるも、後続を断って3点差で留める。静かに味方の反撃を待っている。

だが、その機会をまったく見出せない。今日の根岸が凄すぎる。

4番、河合。5番、尾波。6番、嵐出琉を迎えた7回。


「最後はフォーク!!なんとなんと!シールバック打線を相手に三者連続三振!今日の根岸は凄すぎる!!」



疲労よりも持っている勢いをフルに使っている。河合達がここまで抑え込まれたのは今シーズン初。

川北は7回まで投げ抜いた。その後は植木がマウンドに上がった。

根岸は得た勢いをそのままに9回まで登板。


シールバックの打順は1番の友田からだ。


「う~~、俺。本気出してるんだけど、打てないねー」

「何でも良いから本気で打て!!完封なんてされてたまるか!」


ネクストバッターズサークルで控える地花が友田に檄を飛ばす。そのことに疑問をぶつける


「……あれ?地花って2番だったか?今日のスタメンじゃなかったろ?」

「本城の代打だよ!ともかく、打てよ!友田!!あと気にしていることを言うな!」

「へーい」



最終回でもあの態度。しかも、今日の友田はノーヒットだ。


「本当に本気を出しているのか」

「6回の打席はあいつの本気だったよ」

「!し、新藤さん!?」


もし、このまま凡退していけば新藤がラストバッターとなる。


「それでもストレートの勢いにやられてセンターフライだった。やはり練習量の稀薄さからでている友田のパワー不足」

「新藤さん!友田の不真面目っぷりをとてもまともに解説している!!」



友田 VS 根岸。今日、4度目の対決。3度も根岸の勝利で終わっているが、この回はそう上手くいかない。

プロ野球まで辿り着いた男共。どれだけ、野球に対してのめり込んできたか。上達し、成功を積み上げ、時に捨ててきたものもあった。いる選手、一軍、二軍、場所に関わらずに皆練習を積み重ねてきた。生まれた場所、出会ってきた仲間、倒してきた敵、教わった場所、練習した場所。それぞれが違ってもやってきた事は即ち努力。それがなければ辿り着けないはずだ。

そんな中。圧倒的な異端児。

唯一、天才と言われるべき男。友田 旦治。



「今日本気、二度目」



ここまで完璧に抑え込まれた。それでも、友田はあれこれ考えずに打席に入る。河合と同じく、打席では好き勝手にやる。打席に集中するためには周りの目を気にしない方が良い。スイングに迷いがない方が良い結果が出やすいと友田は感じている。

また、自分が不器用とも思っていないが、新藤のような理を積み重ねて打つのは面倒なのでしないだけ。友田流による打撃とは投手が投げてきたボールをただ真芯で捉えるようにスイングすればいい。簡単ではないか、……そう皆に伝えているが、それが簡単ではないから打撃は難しい。



友田 VS 根岸の戦いは始まった。

審判のストライクゾーンではなく、友田が決めているストライクゾーンにボールが通りさえすればガンガン振ってくる。仮にそれが、審判がボールとコールする場所でも打ってくるのだ。



「ファール!」



河合と異なるところはクサいところを当ててつつ、ファールにできる技術。


「つまんね」


ヒットが打てそうなところにボールは来ているが、友田が望んでいるのは長打。ワザとカットしているとも思える。

友田は追い込まれても新田に勝負するよう、言葉をもらしていた。

お望みならと、新田もここで根岸の決め球。フォークを要求させる。あの落差、見送ればボールであるが、それが難しいのがフォークという球だ。

9回になっても、その精度が衰えていない根岸のフォーク。友田は待っていたという感じに打ちにいった。



「ファール!」



打球はレフト線を切れて、スタンドに入るファール。



「あのフォークをあそこまで運ぶか!?」

「友田、もっと楽な球を打てよ!」



当てるだけでも奇跡的なフォークを、かっ飛ばせる異質な才能。


「ギリギリとはいえ、ボール球を打つのが野球か?」

「あんた等は違うんだろうけど、俺の野球は俺が好きなようにやるだけさ」


落ちる位置も完璧、さらにストライクからボールになるお手本のようなフォーク。それをあそこまで打たれるとなると、投手は良い気分にならないだろう。臆してしまう。


「!むっ」


もう一球。フォークを。


しかし、根岸は新田にフォークの要求をした。プライドが許さなかったのだろう。前の回のように、ストレートで押していくのも手であるが……、もう9回で点差も十分にある。先を考えて、ここで友田を潰して根岸がもう一皮向けたい。

そういったところ。

新田も頷いてフォークのGOサイン。

この勝負、


友田は根岸のフォークを早くから察知していた。あのキレを何度も確認し、先回りして、バットを振り始めていた。脳内のイメージではお得意の弾丸ライナーが生まれる打球になるはずだった。



バァァンッ



普段はそう驚かない友田も、仰天していた顔を作った。

バットに掠らず、そのさらに下まで落ちたフォーク。空振るスイング。ボールはワンバウンドしてから新田のミットに納まり、そのミットで友田を触れる。



「ストライク!アウト!!」



友田はこの事実にしばらく、動けなかった。

そして、シールバックの打線はとてつもない屈辱をうけた。全員が今すぐ、根岸を殴りにいきたいところだった。

この最終回まで、友田から三振をとれる驚異的なキレのあるフォーク。


「あ、あの野郎。俺達相手に力を抑えていたのか」


河合はもう一度打席が回るなら、次こそホームランを打ってやると燃えただろう。新藤も勝ちに繫がらなくても、脅かしたいだけの打撃をしたかった。しかし、それすらもう叶わないだろう。



シールバックは、9回も何もできずに根岸に抑えられた。今シーズン初の完封負けであった。



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