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打撃高騰チーム、シールズ・シールバック!  作者: 孤独
VS”AIDA”編
21/45

指輪授与

プロ野球選手は当然華やか。ウハウハの金持ちだと思うだろうが、それは違う。メディア達が取り上げているのは一軍で活躍するスターばかり、まだ活躍すらしていない者達のことを放送するわけがない。



「ぼ、僕と!」



顔はとても整っていた。シールバック一のイケメンかもしれない。


「付き合ってください!!」


そんな彼は昨年からようやく、一軍の場にいられる実力を身につけた。あの、友田さえ入団しなければスタメンが確約であっただろう。


「本城くん。私達はその、まだ、早いんじゃない?」


レフトのポジションを争っている外野手の1人、本城。プロ3年目。年俸は4000万円。今年からスタメン奪取といきたいところだが、まだ抜け出せていない。


「そ、そんなぁ!?ど、どうして!?」


本城は彼女を作ろうとしていた。野球一筋で頑張ってきたが、そろそろ寮も退寮しなければいけない時期。


「だって、プロ野球選手って安定しないじゃない。少し活躍してるのも知っているけどさ。なんていうか、本城くんがずっと出ているわけじゃないでしょ?」


友達として付き合う分にはいいが、彼女。そして、奥さんなんて到底選べなかった。まだ、本城には実績が足りていなかった。


「私も、私の家族も。本城くんを結婚相手として認めてくれないわ」

「か、彼女からでも!?」

「……うん。彼女をやったら、すぐにヤッて奥さんになるし、一児を持ちたいの。だから、まだ友達でいさせて」



というか、こんな彼女でいいのか?そう思ってしまう言動であるが、


「君の食事が食べたいんだ!君に癒されたいんだ!結婚を前提としたお付き合いをしてください!」


彼女はこんなでも定食屋の看板娘。料理は大の得意で、健康を考えている料理を度々本城に提供してくれた。


「まだ、ダメ。また、ウチに来てご飯を食べに来てよ」


彼女への告白は失敗に終わった本城。トボトボと思い足取りのまま、翌日の試合に時は進んでしまった。



「今日のレフトはマルセドに務めてもらう!」


阪東は理由こそ訊かなかったが、本城の気分が悪い事は察していた。野球以外は察して気にしない男だ、彼女のどーのこーのなんて興味がない。知れば、くだらんっと一蹴しそうな発言をするだろう。



「はぁ~、どーして付き合ってくれないんだろ」



友田さえ、いなければきっとセンターのスタメンをとれたはず。チクショーと思うが、野球ではどうやってもあいつには勝てない。昨年、思い知った。

その上、友田は彼女を持っていて仲良くいっているらしい。なんでこーも差ができてしまったんだ。


「何を悩んでいるんだ、本城」

「!し、新藤さん!」

「今日は様子がおかしいじゃないか、話してくれないか?」



試合中であるが、攻撃時は結構暇だったりする。

息抜きがてら新藤は本城の悩みを聞いてあげた。選手会長らしい気配りだ。


「なるほど、告白したけど上手くいかなかったか」

「はい。寮の近くにある定食屋の娘さんなんですけど、オフシーズンとか一緒に遊んでいるですけど。もっと、活躍してからちゃんと付き合おうって」

「答えを言ってくれてるじゃないか」



新藤は既婚者である。河合も既婚者であり、なんと子供も1人いる。嵐出琉は母国に奥さんがいるそうだ。

なんのかんので、シールバックは妻や彼女持ちが多い。プロ野球選手というだけで女性から好意を向けられるのは確か。しかし、新藤や河合など有力選手はちゃんと相手を選んだという。健康管理や、家庭的な方面に精力的な方でなくてはプロ野球選手を支える相方として務まらない。


新藤の奥さんは元小学校教師(現在は休職中)。家事関係を全てやってくれて、中々料理が美味しい。だけど、大体コンビニとか冷凍食品でやっていることを新藤は知っている。奥様の手料理はダークマターであるのも知っている。

ついでに河合の奥さんは、肉食系奥さん。地元漁師の娘さんで漁船も操り、マグロの一本釣りもしてしまう豪腕。魚には詳しいが、肉の方が旨いので好きであった。豪快な料理を提供するらしい。



「スタメン争いとは別に好意を知って欲しいんです!別に計算で彼女が欲しいなんて思っていません!」



スタメン争いを勝ち抜くことは至難。実力もそうだが、それによって引き寄せる運、機会を全うする精神力と結果。

新藤も、河合も、先輩方との激しいレギュラー争いに勝利したことで勝ち取った居場所である。


「友田と戦うのは難しいし、尾波もいるわけだしな。あの2人は別格だ」

「地花に、マルセドさん、千野、木野内さんまでいるレフトで、どうやってスタメンを勝ち取ればいいんでしょうか?」


今シーズン中にレフトのスタメンを確約するのは無理だろう。阪東はきっと、全体の調子を見て起用する。

五人共、特徴を持っていて、固定するのは難しい。

新藤は本城がスタメンを勝ち取るためではなく、明確な意思ともう一つ。自分に胸に打つ楔を刺し込んだ方が良いと思ったのだろう。



「スタメンはともかくとして、彼女が好きなら前もって準備したらどうだ?」

「じゅ、準備ですか?」

「婚約指輪をもう買っておく。買った以上、ちゃんと渡さないといけないからな。大切に保管すれば1年以上は持つぞ」



準備をすることは相当な覚悟を結果に示す事だ。

指輪はとても高額。相当な出費、もとい、自分の血液と似たお金を先に吐き出すことで精神を追い込む。



「相当気合が入るぞ。私もそうやって告白したよ」



活躍しなきゃいけない。告白しなきゃいけない。自分が持つ、好きという感情を増幅させるための指輪の購入を勧める新藤。覚悟とは心に植えつけることではなく、自ら危機ある環境に突き進むことである。


「な、なるほど。勉強になります!そうします!ちょっと、貯金通帳を見てきます!」

「本城。まだ試合中だから終わってからな」



そして、AIDAとの試合が終わり、本城はさっそくカードの残高を確認した。新藤も付き添う形で指輪を購入しにいく。


「お、俺。こーいったお店に行くのは初めてです」

「まぁ、私も3回くらいしかないかな?というか、私が買ったお店で良かったのかい?」

「構いません!色々、指輪のことや生活のことを教えてください!」



男2人で指輪を購入しにいく。ある意味、奇妙なことだ。周りのお客様はたった一人で行ったり、男女のカップルでやってくる感じなのだ。男性二人が揃って買いにやってくるなんて、異質な空気。


「た、たけぇ」

「値段が高い方が気持ちも引き締まるものだよ。結構綺麗だし」


セレブ御用達のようなお店を紹介された本城。

安くて50万の指輪。ぼったくりじゃねぇか、と石にそこまで興味のなかった本城だったが、これほどの美しい耀きを見れば納得も分かる。


「ど、どひゃ~~!?さ、300万のダイヤモンドリング!?」


いくら年俸が4000万でも、楽々購入できる物ではない。


「あ、それは私が買った指輪だよ」

「ええぇっ!?」


自慢。本人、その気がなくても自慢。億プレイヤーの新藤にとってはこれくらいが丁度良いと思っているのだろう。たしかにそんな指輪をプレゼントされたら、どれだけその人に頑張ってやられるか、言葉よりも強い誠意だろう。

人を愛する気持ちは、その勇気とお金から伝わってくる。



「だ、だったら。いっそ。将来、新藤さんみたいな選手になるためにも、この指輪でいこうかな」

「カードを握っている手、震えているよ」



本城に掛かる重圧。300万という札束。紙の重さではなく、これから貢献しなければいけない重圧。一体、300万はどれだけチームに貢献すればいいのだろうか?100安打?50打点?出塁率3割?まさか、タイトルの獲得?

年俸の評価なんて、本城が詳しく知れるわけじゃないし、増やして欲しいとゴネられるわけじゃない。


「俺はこれを!欲しいです!」


女性店員さんに300万のダイヤモンドリングを注文する本城。震えながらカードを差し出した。


「かしこまりました」


女性店員の手はわずかな抵抗を見せた本城の手をかわして、レジにカードを通してしまった。もうこれで後戻りはできない。300万を稼ぐだけの活躍をするしかない。心がもう熱くなってくる。


「失礼ですが、こちらは婚約指輪となっております」

「は、はい!」

「プレゼントするものとなります。どうですか?直筆の手紙を添付することができますけど?」

「て、手紙!?愛の!?告白文の作成!?」


女性店員の提案に驚き、後ろへ退いてしまった本城。後ろで見守っていた新藤にぶつかって止まり、


「どどどどど、どうするんですか!?」

「私の時はなかったサービスだなー。でも気持ちがもっと伝わっていいね」


とても暢気に答える新藤。本城の慌てぶりとは全然違っている。すると、女性店員は新藤の顔を見るや気付いてしまった。


「!もしかして、あなたはシールバックの新藤さんですか!?」

「あ、そうですよ」


意外とあっさり。有名人だぞ、というオーラを出さずに質問されたから答えた素振りを見せる新藤。一方で女性店員さんはとても嬉しそうな顔を作り出して、乙女のように両手を握りながら、


「きゃー!私、シールバックのファンなんです!新藤さんのこと、とーっても魅入ってます!」

「ありがとう。これからも応援してね」


本城は、本当のスターの違いを思い知った。自分もシールバックの一員であるのに、顔も名前も覚えてもらっていなかったようだ。


「あ、じゃあ……。もしかして、あなたはシールバックの本城さんですか?」

「そ、そ、そうです」

「あー!新藤さんとやっぱり仲が良いんですね。活躍を期待していますよ!」


なんだか、テンションが2,3段階低い気がする。これがファンの気持ちなのかな?ダイヤモンドリングを買ったと思ったら、さらに活躍しなきゃいけないと、気持ちが沸いてくる。

ファンはまだ、本城という選手がいるだけなんだろう。


「!し、失礼しました!私情はともかく。サービスの方はどーいたしましょう?いちお、追加100円の料金でお願いできますよ」

「どうしよう。俺、文才なんてないよ」

「"好きです"とかで良いんじゃない?」




それは口で言えばいいかと……。本城は思っていた。脳が口に指令する。だが、その前に


「それは口で言ってください!ねぇっ!?本城さん!」

「え?」


なんと、女性店員から新藤を注意し、本城に指示を下した。なんだか、もう店員という仕事を忘れてしまっているようだ。


「新藤さん!あなたは素晴らしい、カップリングセンスがあります!」

「はい?」


ファンにも優しい新藤であるが、女性店員が何を言い始めたのか理解できていない。女性店員も、新藤と出会ってしまって一度は落ち着いたが、再びテンパり出してしまった。


「新藤さんの心から伝わる優しさも、残酷に魅せる厳しさにも痺れます!本城さんがご購入されるダイヤモンドリングを新藤さんが受け取ってどう答えるのか、妄想が広がリングです!!」


あかん。この人、思っている以上に壊れている人だった。その内を普段は見せないんだろうけど、もう言いたいことは言っておきたい。チャンスを逃さないタイプの人間、良い意味でも悪い意味でも。



「何言ってんだ、あんた?」


本城、マジレス。


「そーかー」


新藤も言葉の意味はよく分かっていない。けれど、真剣に応援してくれる女性店員の好意にちゃんと礼をする。


「じゃあ、俺達はもっと活躍しよう。それにしないか?メッセージ」

「え?あ、愛の告白とかじゃなく?」

「幸せを具体的にしてみよう」



本城の結婚指輪に添付された手紙の内容。


『私は億プレイヤーになって、あなたを幸せにします』



「300万以上のプレッシャーだーーー!?」

「私になるなら、そこまでやらなきゃ」

「新藤さんと本城さんのカップリング。その生を見れて満足ですわ~」


この指輪と手紙のおかげか、4月と5月の本城の調子は上向き。良い成績を残す事ができた。



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