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打撃高騰チーム、シールズ・シールバック!  作者: 孤独
VS”AIDA”編
20/45

最速投手

東西のリーグを合わせて、最強の投手は誰かという問い。


「東リーグの人達とはあまり対戦しないので、上手く言えませんけど。西リーグで凄い投手は……」


リーグを代表する強打者の新藤はオフシーズンのインタビューで訊かれた際、こう答えた


「先発で区切れば、AIDAの石田くん、根岸くん、白石くん。センゴクの牧くんとダイアーさん。インディーズの、大鳥さん、北田くん。山田くん……やっぱり、彼等かな」



強いチームには、ほとんど名実を兼ね備えた投手がいる。


「ただ、1打席勝負なら抑え投手の方が嫌かな。そーいう意味じゃ、インディーズの泉くんが一番凄いかな?最遅さいちの、彼が一番ってのは不思議に感じるけど。私は"敵の中"では彼を推すよ。彼は打てないよ、セーブ王なのも分かる投球術を持っている」



昨シーズンを通して一度も、新藤はおろか、シールバックの打線が1安打も打てなかった投手を褒める。西リーグの投手は優秀なのが多いが、一際、異彩を放つ投手として、泉蘭いずみ らんは有名であった。

しかし、


「まぁ、私が今まで挙げた投手はあくまで、成績とその能力を評価してのこと。観客目線で、投手最強と言われたら。私は1人しかいないよ」



その彼との対戦成績は?



「いや、実践はないんだ。だって、同じチームだし。敵に回さなくて良かった投手だと思うよ、井梁いりょう れんはね」



あの新藤が、最強の投手として推す逸材。その答えは投手としての才能をもっとも持っているという意味。誰よりも勝ったとか、誰よりも抑えたとかではない。



ドゴオオォォッ



ミットを激しく揺らす暴れ球。全身、下半身、上半身、腕、肘、手、指先、それらが繫がって強烈なスピンとノビを生み出しているストレート。

東西リーグ内で、最も速い球を投げる男。

即ち、投手として最強の男である。



「ストライク!!バッターアウト!!」

「井梁!2者連続三振!!ストレートは160キロを計測しました!!」



そんな最強投手は、抑えとセットアッパーを行き来している。剛速球派なうえにサウスポーという浪漫装備。はてさて


「さすが、井梁ですね!また空振り三振!」

「そうだな。あれだけの直球を投げられる奴は、俺の知り合いにも1人しかいないな」

「もう、安藤と守護神を入れ替えた方がいいんじゃないですか!?井梁の方が迫力ありますし!」

「………」



指揮権を握る阪東。津甲斐の提案にはとても答えにくいようだ。

シールバックの守護神は安藤に任せているが、状況次第ではパターンを逆にしている。抑えとしての適正は間違いなくあるのは阪東も知っているが、



ドゴオォッ



「ぐおおぉっ」

「デ、デッドボール!」



まだ、この自慢の直球をしっかりとコントロールできていない。


「今日も死球を出したか……」

「ど、どんまい!」


井梁は奪三振率はリーグトップであるが、死球率もリーグトップ。ノーコンの部類だが、何より性質悪いのが当ててしまうノーコン。本人はしきりに反省しているようだが、強い直球を投げればコントロールが効かない。



「ボール!フォアボール!」



被打率も少ないが、四死球が多い。特に次四死球率が高い。


「ただストライクが入らないだけの投手なら対処しやすいが、井梁は一度リズムを崩すと立て直すのに時間が掛かる。守護神をやらすには奴の状態次第だ」



シールバックの守備事情もあって、井梁の投手成績は優良止まり。四死球は8割以上、投手の責任とミス。それならばいっそホームランでも良い。あのストレートをまともに打ち返せる打者は早々いない。



「自分でランナーを出し、最後にヒットを打たれて失点を許す。ヒットの8割がタイムリーなのも凄いな」



三者凡退で抑えた回数は少ない。また、ヒットを打たれた回数も少ない。四死球で必ず1人は出してしまう現状だ。



「その点、沼田や安藤は打たれても、自ら崩れたりはしない。エラーで崩れる心配はあるがな」


自滅の危険がある投手を本格的な抑えとして任せるのは危険。抑えとは、彼で負けたら仕方がないと、言われるだけの実力と安定感が必要なのだ。井梁には決定的なほど、安定感が足りていない。



「ストライク、バッターアウト!!」


結局、この試合は3奪三振。しかし、2四死球という結果。少しでも間違えば試合が振り出し、もしくはひっくり返っていた。とても9回を託せる投手ではない。


「おーし!よく抑えた井梁!」

「お前、さっさと三振に斬って落とせよ!」

「守備いらねぇじゃん!」



とはいえ、チームメイトやファンからの信頼は厚い。確かな力を持っており、絶対安心の奪三振率。守備が要らないほどの実力がある、

AIDAとの2回戦。中継ぎ陣の踏ん張りと、尾波のタイムリースリーベースなどが飛び出し、5-2と勝利。このカードの勝ち越しを決めた。

しかし、先発陣がピリッとしていないのが不安材料。海槻は5回1失点でなんとか抑えたが、すぐにケント、植木、沼田、……と、中継ぎ陣に負担をかけている状況だ。井梁も、開幕から5日で3回も投げている。



「絶対的に投手の枚数が足りないな」



和光GMにいち早く投手の補強を催促している。

とにかく、投手。多くて困ることはない。次に先発が長く投げられるように得点を沢山挙げることだ。接戦に勝つ事は大切だが、中継ぎ陣を大切にする戦い方も大事なのだ。



「せめて、来るまでに。打線が早くから大爆発してくれれば……」



友田と新藤。次いで、尾波の調子が良い。今のところ、不安なのが嵐出琉のみ。

前の試合は久慈が良く投げてくれたが、結局、井梁と安藤を投げさせざるおえない展開になってしまった。



AIDAとの第三回戦。3連勝した後、2連敗と。持ってきた流れを失った。それも自分達の本拠地での連敗。AIDAのファン達は特に気にしている事だろう。

小さな雨が降る中、彼等の声援は一際大きかった。


「押せーー!」

「3連敗なんて見たくねぇーぞ!!」



両チームの投手は、6番手候補。

シールバックの先発の井野沢。なんとか開幕一軍を勝ち取ったが、初戦から昨年の優勝チームとツイていない。しかし、逆にここで活躍ができれば……



カーーーーンッ



「新田!先制ツーラン!!井野沢にキツイ一発をお見舞いしたーー!」



阪東の期待には応えられなかった滅多打ち。初回から3失点と、最悪の立ち上がりだ。その後は4回まで1失点で投げてくれるものの、二度目の井野沢の打席で代打、マルセドが送られる。

一方でシールバック打線は、この男のバットが燃え上がっていた。



「雑魚が内角に投げてくんじゃねぇ!!」



豪快。轟音。バットでボールを叩いている音とは思えない、パワーのあるスイング。プルヒッターよりも上にいるアーチスト野郎。河合のバットが絶好調。同じ捕手で4番の新田に対抗している。生み出した飛距離はスタジアムの上段に突き刺さる。


「河合、早くも今季2号!!豪快な一発が飛び出したーー!」



1番、友田のバットは湿っていたが、その他は軒並み好調。勝ち越してはいないが、喰らいついていっている打線。嵐出琉に今季初安打と初打点が出た。

AIDAも先発投手を諦めて中継ぎを投入してくる。こーいった戦いになれば、中継ぎ陣の厚さで圧すことができる。

吉沢は2回2失点とピリッとしなかったが、6回。

9番から上位に繫がるこの回。吉沢に代打、岡島。プロ初打席。



キーーーンッ



「岡島!プロ初打席で初安打!!」


ものの見事やってのける、クリーンヒット。続く友田は岡島を進塁させたボテゴロ。どうやら、雨の中で試合をしたくないようだ。雨が来ないベンチでゴロゴロしていて、地花に怒られている。

新藤と河合の前に2アウトをとりたい。そんなAIDAの守備陣であったが、予想外の伏兵。今日、2番に入った千野が甘くなったスライダーを狙い打って、右中間を破るタイムリーツーベースを放った。

これで2点差に詰め寄って、新藤と河合を迎えるハメに。



「河合、逆転は任せていいか?」

「当たり前だ。AIDAの中継ぎなんざ、雑魚しかいねぇじゃねぇか。俺の一発逆転してやるよ」


そんなやり取りがあった、新藤と河合であったが。




ガオォォンッ



新藤の放った打球はバックスクリーンに飛び込む、同点ツーラン。新藤の今季一号目の本塁打であった。その祝砲に、文句を言い出す河合。


「新藤!なんでホームランを打つんだよ!?ツーベースくらいにしとけよ!!俺のお膳立てをしろ!」

「いや、私もそのつもりだったんだが、思ったより甘くてな。逆転はまだあるから気を落とすな」



ともかく、同点。負けたかと思った試合が振り出しに戻ったのは大きい。しかも、河合のバットはノッている。相手投手の失投を見逃さず、強振でバットを振り抜いた。サードを鋭く破った、ツーベースヒット。



「くっそ!ボールの上を叩いちまった。一本損したぜ」



逆転を目論んでいた河合であったが、今日の自分はお膳立てする側だった。続く5番、嵐出琉はボールを見極めて四球。6番、尾波が勝負強く試合を決定付ける一打。ライトオーバーのタイムリーツーベースで河合と嵐出琉を返して、この回で一挙5得点で逆転!



「やったーー!この回で逆転です!打線が奮起しましたね!!2点差までつきましたよ!」

「ああ、そうだな。あとは抑えていこう」


だが、結局。中継ぎを使わなきゃいけなくなった。友田は代えても問題ないと思うが残りはまだ打ってくれる。



阪東の読みは正しかった。この後、再びチャンスが生まれ、新藤にタイムリーヒットが飛び出し3点差とした。新藤には代走、旗野上が送られて守備固めも完璧となる。友田の守備交代には地花が入った。



そして、8回。阪東は勝利方程式とも言える。井梁、安藤の継投でいくつもりであった。勝ちを拾える試合だからこその采配。


「打順も3番からだからな。ここは井梁しかいない」


8回はセットアッパー、9回は守護神。そんな役割の名称がある。プレッシャーが掛かるのは守護神の方であるが、それは状況によって異なるものだ。今日はきっとセットアッパーの方がキツイ。



「3番、サード、村田」



クリーンナップはどの球団もレベルが高い。3点差あるが、今日の新田は4打数3安打、1本塁打。新藤や河合と同じくらい調子が良い。



「四球だけは止めろよ」



ドガアァッ



「デッドボール!!」


村田、回避をとったが、スパイクに直撃するデッドボール。井梁のSFFがスッぽ抜けた事によるものだ。



「死球もするなよ!」



ベンチからツッコミを入れてくれる阪東。一発やられても追いつかれないが、先頭は出したくなかった。

最速投手 対 最高捕手。注目するべき対決が早々に始まった。



「今年も危ない暴れ球だな。打ち甲斐がある」


金が発生して当たり前の好カード。逆転したシールバックであるが、ここで失点すれば再びやられることもある。

真向勝負で来る。河合のリードでなくても、それは当たり前だ。反撃の口火を願った、過激な応援を放つAIDAファン。新田は初球から打ち気満々、甘くくれば打ってくる。



初球。打者と投手の明確な実力差を映し出す、状況。

井梁のストレートは雨を撥ね飛ばす勢いで放たれ、河合のミットに飛んでいった。連投の疲れはまだない。



バギイィッ



「お?」


新田も井梁のストレートに負けていないフルスイング。確実に芯で捉えたが、ノビと威力があるボールに、新田よりも使用していたバットが悲鳴を上げてしまった。へし折れたバットはピッチャーの方へ転がり、打球は高く上がった。



「セカンド!」



選手として、どちらが上か決まらない結果。新田がバットを代えていたら結果は違ったかもしれない。


「アウト!」


とはいえ、それが言い訳とはならない。新田がバットの不具合に気付かなかったことが敗因。新田はアウトもとられて負けたのだ。

一時はどうなるかと思えた8回であったが、新田を抑えた後は2者連続三振で抑える井梁。この豪腕はやはり脅威である。




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