幕間 2 それでも僕は
幕間 それでも僕は
父さんが死んだ。
父さんの命日は僕の誕生日…
その日、僕達家族は事故に遭った。
その日からこいつらが見えるようになった。
死にかけて幽霊が見えるようになるというのは心霊番組なんかじゃよく聞くけれど、本当に見えるようになってしまった。
死人が見える。
それはまだ幼い僕には地獄のような日々だ。
いたるところに死人が、人が、死人が、人がいるのだ。
そしてほとんど他人に対して笑うことがなくなってきたころ…
僕は彼女に出会った。
学校帰り、家の前に見知らぬ女の人が居た。
いまどき女子高生でもはかないような短かすぎるスカート。
そしてまだ梅雨も明けたばかりで涼しいくらいの気温にもかかわらず、へそ丸出しで水着じゃないかと一瞬疑うくらい短く薄いシャツ。
それを盛り上げる大きな胸。
思春期真っ盛りの中学生には目の毒だ。
普通なら。
僕はその女性を無視して家へ入ろうとする。
すると、
「君が杉村祐一君?」
その女性が優しく話しかけてくる。
「………」
それも無視してドアを開けると、
「無視すんじゃない。」
言うとその女性が僕の腕を思いっきり引く。
「………!?」
あまりの激痛に声が出ない。
とんでもない力で後ろに引かれた僕はなすすべもなく地面に転がった。
「君が祐一君?」
もう一度女性が声を掛けてくる。
先ほどと同じ笑顔だがこれほど怖い表情を僕は今まで見たことがない。
「は、はいっ」
今度はすぐに返事をする。
すると女性は何事もなかったかのように手を差し伸べ僕を立ち上がらせると話し始めた。
「私は神谷月代。あなたに話があってきたの。」
そういって神谷さんは僕を連れ槇島公園へと向かった。
公園にはこの時間には珍しく誰もいない。
公園に入ってすぐのところにあるベンチに僕を座らせると神谷さんは話し始めた。
「あなたこれが『視える』んだって?」
そういって神谷さんは何もない空間を指す。
「………」
僕はそれに何も答えない。
だが、神谷さんは僕の顔を見ると何かが分かったかのようにため息をつく。
それに僕は確信する。
やはりこの人にも『視える』のだと。
だが僕は何も言わない。
母に病院へ連れて行かれた時、心に決めたのだ。
もう誰にも『視える』ことは言わないと。
黙っている僕をみて、神谷さんが再び話し始める。
「『視える』ことを言いたくないのはわかるけど、もうわかってるんでしょ?あたしも『視える』事…」
しかしもう僕はそれ以上の話を聞こうとはせず、何もなかったかのように公園を去ろうとする。
それにまた大きくため息をつくような音が背後から聞こえる。
「言いたくないならそれでもいいけどさ。あたし本当に『視える』奴ら集めて悪霊退治やら浮遊霊とかの成仏してんのよね~。興味持つようになったらここに来なさい。」
そういって僕に何か書かれたメモを握らせ去っていく。
僕はそれを捨てようとして、だけどできなかった。
初めての僕以外に『視える』人との接点だったからかもしれないし、単に捨てたらあのお姉さんに殴られる気がしたからかもしれない。
正確なことは自分にも分らなかったが、家に帰った後それを引き出しにしまい、それから数年間その存在を思い出すことすらなかった。
もう『視え』ようが『視え』まいが他人に興味なんてなくなっていたから。




