王立魔法動物学園
馬車が村の入り口に止まり、学園の使者が軍装を整えて出てきた。
「学園長セルビウス・ダン=オルドの名の下、魂獣との契約者、または特例適合者を王立魔法動物学園に招く」
ディディ、ユズ、パウロの他、数人の名、名前が読み上げられた。
村人たちが遠巻きに見守る中、子どもたちが次々と馬車に乗っていく。
「おいディディ、置いてくぞ!」
パウロの声が響く。鷲の魂獣が高く啼き、空を一回旋して馬車の屋根へと舞い降りる。
「覚悟、決まったか?」
ディディはひとつ、深く息を吸った。
村を振り返る。砕けた祭壇、崩れた石像、そして――あの夜、焼け落ちたものたち。
レムルスが、無言で彼の隣に立った。ただ、共にいると語っていた。ディディは、鱗を握りしめた拳を胸に当て、馬車へと歩き出す。
その背に、ユズが小さく笑いかけた。
「やっと“主人公”の顔になったじゃん。……遅いわよ、ほんとに」
黒猫のマリーが「ニャー」と鳴いた。ユズはその背中を撫でながら、少しだけ寂しげに目を伏せる。
「でも、ディディがいないと、旅がつまんないもの。行こう。これからよ」
「オレはもう、腹くくった」
三人は無言で視線を交わした。
やがて、馬車の扉が音を立てて閉まる。
レムルスは最後尾で静かに飛び乗った。
******
馬車が揺れながら街道を進む中、前席に座った使者が口を開く。
「さて……皆さん、王立魔法動物学園について、どのくらいご存知でしょうか?」
「ほとんど……名前だけ……」とディディ。
「この学園は、帝国唯一の“魂獣との共学”機関です。あらゆる属性・信仰・出自に関わらず、魂獣と結ばれた者であれば入学が可能。信仰の違いも無視されます。必要なのはただ、魂の呼応だけです」
「どんなことを学ぶの?」とユズ。
「生物学、魔法学、神話、歴史、戦場での連携、……そして、魂獣との共生。
中でも優秀な生徒は、帝国軍直属の魂獣部隊――レギオーサへ推薦されます」
パウロがごくりと唾を飲む。
「……すげえ」
「学園は三つの寮に分かれています」
使者が紙を広げる。
「紫の寮――イリディエル。誇りと気高さを重んじる寮。
緑の寮――マルグレア。共感と自然を尊ぶ者たちの寮。
赤の寮――アマルセア。力を貫く戦士たちの寮」
「オレ、アマルセアか? 炎属性だし」パウロがうなずく。
「組み分けは、あなたの魂に応じて行われます。どこになるか楽しみにしておいてください」と使者は言った。
ディディはそれを何も言わずに聞いていた。
******
馬車が山道を登りきり、鬱蒼とした森の切れ間に差し掛かったときだった。
使者が前席からひょいと立ち上がり、馬車の天井の小窓を開けた。
「そろそろ結界の境目です。――ミルクル、出番だ」
彼が肩に手をかざすと、外套の襟元から、ぬらりと一匹のカエルが這い出てきた。
掌ほどの大きさで、腹はぷくりと白く膨らみ、目玉だけがやけにぎょろりと大きい。どこかしら頼りなさげな風貌だが、使者は慣れた手つきで肩に載せ直す。
「この子はミルクル。幻術結界を解除するのが得意でして。見た目はアレでも、仕事はきっちりなんですよ」
その言葉に、ユズが眉をひそめる。「……カエル?」
「……見た目じゃなくて中身で判断するものですよ、特に魂獣は」
使者がぽんとミルクルの背を叩いた。
ミルクルは喉を膨らませると、「ゲエェ」と一声、妙にだらしない鳴き声を響かせた――が、その瞬間。
風が止まり、空間の色がにじむ。
まるで薄い膜が剥がれ落ちていくように、木々の間から広がる景色が“変わった”。
黒曜石の尖塔が、霧の中からぬっと頭を出す。
その根元には、複数の建築群。高くそびえる講堂と、三つの塔の上にたなびく紋章旗。紫のアイリス。緑のマーガレット。赤のアマリリス。
パウロがぽかんと口を開けた。
「な、なんか急に出てきたぞ……」
「帝国の防諜術にしては割と古典的な“霧結界”ですが、魂獣との共鳴がなければ解除はできません」
使者がうなずく。
「――ようこそ、王立魔法動物学園へ」




