食卓にて、風が告げる
昼食は全寮合同の大食堂だった。
三つの色の旗が天井から下がり、各寮の卓は混ざって長い列を作っている。香草で焼いた鳥、根菜の煮込み、白いソースの冷たい魚。人の声が重なり、皿が触れ合う音が波になって、窓ガラスを微かに震わせた。
「ディディ、こっちこっち!」
パウロが肉の皿を片手に振る。反対の手にはパンが二つ。盛りすぎだ。
「パンは一人一つよ」
ユズが呆れ、係の上級生の視線に気づいてさっと一つを戻す。
「ほら、見られてる」
「見られてても食うんだが……はい、返します」
三人で隅の席に並ぶ。マリーは椅子の脚の陰に丸くなり、キングは梁の影で静かに爪を研いでいた。
ディディはスープをかき混ぜながら、さっき講堂の板に残っていた刻印の形を頭の隅でなぞっていた。
「ねえ、二人とも。《寮対抗・魂獣競技大会》って聞いたことある?」
ユズが唐突に切り出す。
「ん? なんだそれ?」
パウロが肉を咀嚼しながら眉を上げた。肉汁が危うくソースに落ちそうになり、慌てて皿を傾ける。
「さっき、上級生が話してたのよ。各寮代表のチームで、魂獣を使っていろんな競技をするんですって」
ディディはスープの表面に浮いた香油の輪を見つめた。揺らぎが光を切る。
「つまり、魂獣を操る技と連携力を競うってことか」
「そう。名誉も、推薦枠も、一気に手に入るとか。だから上級生はもう訓練モードらしいわ」
パウロが椅子から半分立ち上がる。
「よっしゃ、燃えてきた! 俺も出る! 俺の力の見せどころだな!」
「ちょっと、いきなり出場宣言?」
ユズが訝しげに横目でパウロを見つめる。
「いいじゃねえか、どうせ下級生も参加資格あるんだろ?」
「形式は年によって微妙に違うみたい。ざっくりだけど個人戦とチーム戦があって、大体1日目に予選、2日目に決勝が行われるみたいよ。そして最後は——」
「最後は?」
「団体戦。全員が固唾をのんで見守るこの大会のメイン種目よ」
パウロの目が輝いた。鷲が羽根をすこし膨らませる。
ディディはスープを一口。熱が喉を滑り、胃の底に落ちる。
脳裏に、さっきの“契約”という言葉がまだ明るい。
——チーム戦なら、魂獣がなくても、役割があるかもしれない。立案、妨害、偵察、改変。前に出なくても、動かせるものは多い。
「ねえ、ディディ」
ユズが横目でこちらを見る。
「あなたも出るの?」
「……チーム戦なら、レムルスでも出られるかと思って」
「いいね!」
パウロが肩を叩いた。叩かれた衝撃で、ディディのスープが少し跳ねた——器用に受け止めたと思った瞬間、向こうの卓の水差しがゴライアスの肘に当たり、見事に宙を舞う。
「わ、わ、わ、わ!」
「大丈夫。……でも今度は、それぞれの旗を背負って集まりたいね」
「おう、約束だ!」
パウロが拳を握り、ユズが小さく笑う。
三人の間に短い沈黙が落ちた。それは気まずさではなく、目に見えない決意の重さだった。
食堂の高い窓の向こうで、午後の雲が形を変える。鐘が遠くで鳴った。クロードの授業まで、あと少し。ディディは立ち上がりながら、掲示板に貼られた新しい紙切れに目を留めた。




