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第20話 新しい誓約庫で春を待つ
一か月後、北辺城館の東塔に新しい札が掛かった。
北辺公開誓約庫。
婚礼証も離縁証も、相続契約も再発行申請も、同じ窓で受ける。隠すためではなく返すための書庫だ。私は主任席で封蝋を温め、今日も台帳を開いている。
「セレナ主任、再発行一件です」
ベルトが箱を運び込み、ノーラが控えを整える。冬の終わりの陽が書庫へ差し込んで、紙の端をやわらかく照らした。
昼前、アルノーがいつもの無表情で入ってきて、机へ小さな箱を置く。中には新しい主任印が入っていた。柄の先に、北辺伯家の紋と誓約庫の鍵が並んで彫られている。
「正式任命だ」
「重いですね」
「責任が」
私は笑った。
「今度は、押しつけられる方じゃないんですね」
「私が預ける方だ」
そう言って、彼はほんの少しだけ目を細めた。窓の外では、雪の隙間から春の水が光っている。
私は新しい主任印を手に取り、最初の再発行台帳へ押した。奪われた約束も、凍らされた順番も、ここで終わらせて、次の季節へつなぐために。
春は、返された紙の先からやってくる。




