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パクラー 取り替えられない物語  作者: スズシロ


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## 第1章:取り替えられた真実と、沈黙の始まり


蝉時雨がやけに鼓膜を叩く、高校一年の夏だった。古びた空調が唸る文芸部の部室で、櫛田茉莉子は同じくSF小説家を志す同級生・永沢綾に一冊の単行本を差し出した。手渡したのは『あなたもSF作家になれるわけではない』という、創作における厳しい現実と技術を説いた名著だった。茉莉子にとってそれは、「一緒に高め合って頑張ろう」という純粋なエールのつもりだった。しかし、本を受け取った綾の目は、温度のないガラス玉のように濁っていた。




「……ありがと。でも私、別にこういうの読まなくても書けるし」




その日を境に、部内での茉莉子に対する露骨な無視やハブりが始まった。綾の中で、あの善意のプレゼントは「私を見下している」という歪んだ解釈へとすり替えられていたのだ。高校二年になると、二人の決定的な「差」が浮き彫りになった。茉莉子が高文連の小説コンクールで三位を受賞したのに対し、綾は言い訳を繰り返し、一文字も書いていなかった。




「ねえ、茉莉子ちゃん。私の『鬼隠きがくれ』の設定、パクったよね?」




ある日の放課後、綾は部員たちを引き連れて茉莉子を取り囲んだ。茉莉子の受賞作のタイトルは『鬼桜おにざくら』。表面的な漢字が一つ被っているだけで、内容には一切の共通点がない。しかし、綾は涙ながらに嘘の被害を訴えた。「謝りなよ!」「土下座して謝れよ、泥棒!」


四面楚歌の部室。綾たちはスマートフォンを構え、その屈辱的な姿を動画に収めようとしていた。その時、部室のドアが乱暴に開かれた。




「やめろ!!」




駆け込んできたのは、当時高校三年生だった兄の弘樹だ。彼は瞬時に録音アプリを起動し、その惨状を記録し始めた。目論見を阻まれた綾たちはすぐに醜悪な被害者ぶった悲鳴を上げた。「暴力よ! 男子が女子に暴力を振るう気だわ!」


弘樹の手には録音データがあったが、彼は同時に最悪の可能性に思い至る。もし今ここで証拠を出せば、逆上した彼女たちが動画をネット上にばら撒くかもしれない。


「俺が全部被って退学する。だから、その動画を消せ。二度と妹に手を出すな」


事勿れ主義の学校側は、女子生徒たちの嘘を鵜呑みにし、弘樹にすべての罪を被せて退学処分とした。だが彼のスマートフォンの中には、この日彼女たちが放った醜い暴言と虚飾の音声が「最初のログ」として厳重に保全されていた。




兄が退学した後も、茉莉子は「黙って書く」という唯一の抵抗を続け、翌年のコンクールで見事二位を受賞する。しかし、綾が担任の嶋藤に「いじめられているトラウマのせいだ」と泣きつき、綾を依怙贔屓していた嶋藤はその嘘を完全に信じ込んだ。


「櫛田。お前のような卑劣な生徒を、筑波大学に推薦するわけにはいかない」


推薦入試前日、嶋藤は教員の立場を悪用して茉莉子が泊まる予定だったホテルに無断でキャンセルの電話を入れた。見知らぬ土地で突如宿無しになった茉莉子だったが、幸いにも親の友人が奔走し、なんとか別の宿屋を確保できた。


しかし、結果は最初から決まっていた。嶋藤によって滅茶苦茶に書き換えられた内申書と、本来の希望とは違う学群への強制変更。茉莉子は志望校を不合格にされ、地元のM大学へと進学せざるを得なくなる。




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