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第四話 魔宝具合戦

「ちょ……! バッツちゃん、何を言っているの? 危ないからあっち行ってなさい!」

 しりもちをつきながら、トライがバッツに向かって叫んだ。だが、バッツは聞く耳持たず、物凄い形相でボルシチを睨みつけている。

「あん? なんだクソガキ? 今、俺様は忙しいんだ。邪魔するとお前も痛い目を……」

 そう言いかけたボルシチの顔に、カップラーメンの容器がカンッと当たった。容器の底にあった麺と汁の残りカスが、ボルシチの顔面に飛び散る。ボルシチはベロリと顔についた汁を舐め取った。

「……だからガキは嫌なんだ、場の空気ってもんを読みやがらねぇからよ。こう言う大人を舐めた生意気なクソガキどもは、俺たちが一発ガツンと教育してやらねぇとな!」

 容器を投げつけたバッツを、ボルシチはギロリと睨み付けた。

「奇遇やな、ワイも食事のマナーを守れない大人が大嫌いなんや。ワイがおっちゃんの親の代わりに再教育したる。覚悟しいや!」

 慌ててバッツの元へ駆け寄ってきたトライが、バッツの肩を掴み耳元で叫んだ。

「バッツちゃん、だから危ないってば! ここは子供の出る幕じゃないのよ? ここは私に任せて向こうへ行ってなさいってば!」

 バッツは、迷惑そうな顔で耳を押さえながら、肩を掴む手を払いのける。

「ワイをガキ扱いすんなや。こう見えても、ワイは千と五十を生きる大魔宝使い様なんや。それよりも姉ちゃんこそ引っ込んでろや。こんな奴ら、ワイがチョチョイのチョイと片付けてやるさかい」

 トライの静止する声も聞かず、バッツは片手をあげながら、スタスタとボルシチ達の方へと歩いていく。

「ちょ、ちょっと~!」

 その時、駆け出そうとするトライの足を急に掴む者がいた。

 驚いたトライは、自分の足元を見た。そこにはバッツが連れていた黒猫のペケが、甘えるように彼女の足に擦り寄っていた。

 トライは、首をかしげた。

 確かに今、誰かに足を掴まれた気がしたけど……。

 トライは再び駆け出そうした。だが、彼女の足は再び何者かに掴まれる。

 もう一度、今度はゆっくりと足元に視線を動かす。そこには、二足歩行で直立し、やぁと片手をあげる黒猫の姿があった。

 トライは、目をパチクリさせながら、目蓋をゴシゴシと擦った。

「まぁまぁ、ちょっと待つニャお姉ちゃん。ここはバッツに任せておけば大丈夫ニャ」

 しかも、その猫は突然悠長な人間の言葉で喋り始めたのだ。

 トライは、その大きな目をさらに大きく見開き叫んだ。

「ね、猫が喋った!」

 驚きのあまり倒れそうになりながら、トライは壁にもたれかかった。

 そんなトライの姿を見て、ペケは楽しそうにケラケラと笑った。

「今時、猫が喋るくらいで驚くなんて、お姉ちゃんは貴重な人間ニャ」

「い、いや……、普通は驚くでしょ……。参ったわ、ちょっと飲みすぎたかしら……」

 トライは、引きつった顔をしながら頭を押さえ、額からタラリと汗を流した。

「オイラの名はペケ。あんな奴ら、オイラの使い魔バッツに任せておけば大丈夫ニャ」

 バッツを指差しながら、ペケはトライに向かってパチリとウィンクをした。そんなペケの頭に、カンッと杖が飛んできた。

「何言うてんねんペケ、使い魔はお前やろが。いい加減なことを言うなや」

「細かいことを気にするニャ。オイラたちは二人で一つニャ」

 呆れ顔のバッツをよそに、ペケは頭にコブを作りながらそしらぬ顔をしている。

「ま、任せておけって言っても……」

 トライは、心配そうな表情でバッツを見つめた。

 酒場の中央では、鬼のような形相をしたボルシチと、涼しい顔をしながら首をコキコキ鳴らすバッツが対峙している。

 バキバキと指を鳴らしながら、ボルシチはギロリとバッツを睨みつけた。

「ガキィ、覚悟は出来ているんだろうな?」

「御託はええから、さっさとかかってきいや」

 チョイチョイと指をくねらせ、バッツはボルシチを挑発する。

「このクソガキ……ッ!」

 安い挑発に乗せられ、ボルシチはバッツに飛びかかろうとした。だが、そんなボルシチの前に、ペリメニとピロシキが割り込んできた。

「どけ、ペリメニ! 邪魔するんじゃねぇ!」

「まぁまぁボルシチの兄貴、こんなクソガキ、兄貴の手を煩わせる必要も無いでヤンス。僕ちゃんたちが変わりに、ボコボコにしてやるでヤンスよ。なぁ、ピロシキ」

「へい」

 完全に舐めた様子のペリメニは、ヘラヘラと下卑た笑いを浮かべながら、バッツに手を伸ばした。だが、その手は空を切る。

「あ、あれれ?」

 気がつくと、そこにバッツの姿は無かった。

 目標を見失ったペリメニは、キョロキョロと辺りを見渡している。

「どないしたんや? ワイはここやで?」

 いつの間にか、バッツは腕組をしたままペリメニの真横に立っていた。

「こ、このやろ! いつの間に!」

 再びバッツに飛び掛るペリメニ。だが、またもやその手は空を切り、バッツを捕まえることはできない。横に、後ろに、正面に、必死に掴もうとするペリメニを嘲るかのようにバッツは鮮やかにかわし続ける。

「ピ、ピロシキ! お前も手伝うでヤンス!」

「へい!」

 ピロシキを呼び寄せたペリメニは、今度は二人がかりでバッツに飛び掛った。だが、それでもバッツを捕まえることはできず、その手は空を切り続ける。

「ハァハァ……。な、なんだコイツ。なんで、こんなにすばしっこいんでヤンス?」

「へ、へい……」

 何度飛び掛っても、一向にバッツを捕まえることのできない二人は、息も絶え絶えヘロヘロにバテてきた。

 そんな二人を見ながら、バッツはやれやれと呆れたように首を振った。

「なんや、これで終わりかいな。ええ大人がだらしないのう」

「な、舐めるなでヤンス!」

 ペリメニは、懐からナイフを取り出すと、バッツに向かって投げつけた。

「なんや、その攻撃は。そんなん、目を瞑っていてもかわせるわ」

 そう言って、バッツが余裕の表情でかわそうとした瞬間、迫り来るナイフが突然数十本に分裂した。そして、避けようとしていたバッツに、次々とナイフが突き刺さった。

「ヒャッハー! 僕ちゃんの魔宝具『十得ナイフ』からは逃げられないでヤンスよ! 大人を舐めるから痛い目を見るでヤンス、思い知ったでヤンスか! ひゃーっはっはっは!」

 ペリメニの、勝利の高笑いが酒場中に響き渡る。

 だが、その様子を浮かない顔でピロシキが見ていた。

 ペリメニは、ふふんと鼻で笑うと、ピロシキの太ももをポンと叩いた。

「残念だったでヤンスね、お前の出番は無かったみたいでヤンスよ」

 だが、ピロシキは何も答えず、プルプルと震える指でバッツが居た場所を差した。

 一瞬嫌な予感がしたペリメニは、ゆっくりと振り向いた。そこには、先程まで無かったハズのテーブルが縦に置かれており、ペリメニの放った無数のナイフが刺さっていた。そして、その影からバッツがひょこっと顔を出した。

「な? た、確かにさっき突き刺さったハズでヤンスよ? 一体どうやって……?」

「へい!」

 驚いているペリメニを押しのけ、ピロシキは気合と共に背中から長い棒を取り出した。そして、それを頭上でぐるぐると回し勢いをつけ、バッツに向かって振り下ろす。だが、いくら長いと言ってもバッツとは相当距離が離れている。その攻撃は空を切るかに思えた。

「へい、へい、へーい!」

 突然、ピロシキが叫んだ。すると、その掛け声に反応するかのように、棒がグングンとバッツに向かって勢い良く伸び始めた。

 迫り来る棒の攻撃をバッツは素早くかわす。だが、まるでソレ自体が意思を持っているかのように、棒はぐにゃりと曲がると、執拗にバッツを狙ってどんどんと伸びてくる。

「ヒャッハーッ! どうでヤンスか、ピロシキの魔宝具『伸びる棒』は! その魔宝具は、一度ターゲットを決めると、そいつにヒットするまで追い続けるでヤンスよ! なぁ、ピロシキ?」

「へい!」

「なんやねん、そのネーミングセンスの無い武器は。ったく、こんな攻撃にやられたら、末代までの恥やな」

 そう言うと、バッツはいきなり方向転換をし、ペリメニの元へ突っ込んできた。

「へ?」

 呆気に取られているペリメニの後ろに、素早く回り込んだバッツは、そのままペリメニの体をクルリと後ろ向きにさせ、腕をガッシリと掴んだ。

「な、何をするでヤンスか! は、離すでヤンス!」

 必死に振りほどこうとするペリメニだが、少年とは思えないバッツの力に掴まれ、身動きができない。そんなペリメニの後ろにいるバッツに向かって、棒が一直線に迫ってきた。

「ひ、ひぃ~! はぐっ!」

 ぐさっ! と、ペリメニの尻に、勢い良く伸びる棒が突き刺さった。ペリメニは、白目を向いてその場に崩れ落ちる。慌ててピロシキが、ペリメニの尻から棒を引き抜いた。

「こ、この野郎……も、もう許さないでヤンス……」

 尻を上に突き上げ、変な格好で倒れながら、ペリメニは涙目でバッツを睨みつける。

 バッツは、フフンと不敵な笑みを浮かべると、懐から変わった形の扇を取り出し、おもむろにペリメニたちに向けて振りかざした。すると、突然酒場中に突風が吹き荒れ、二人の足元から轟音と共に巨大な竜巻が巻き起った。

「な、なんでヤンス? う、うわああああああああ!」

「へ、へい~~!」

 巨大な竜巻は、ペリメニたちを一瞬にして飲み込み、そのまま天井を突き破って遥か彼方へと飛んでいった。

 酒場にいた全員が、一瞬何が起きたのか理解できず、ポカーンと大口を開け天井を見上げている。

「い、一体何が起きたの……」

「あれは、風を自在に操ることができる魔宝具『嵐の扇』ニャ。バッツが、あの魔宝具を使って、あいつらを吹き飛ばしたニャ」

 驚きを隠せないトライに、ペケが説明する。

「嵐の扇って……ええ? それってAランク級の魔宝具じゃない! なんで、そんな凄い魔宝具をあの子が持っているの?」

「それは秘密ニャ」

 パチリとウィンクをするペケ。

 トライは、信じられないと言った表情でバッツを見つめた。

「あとは、おっちゃんだけやな」

 バッツはパタパタと扇で自分を扇ぎながら、ボルシチに向き直った。

 呆気に取られていたボルシチは、ハッと気が付く。

「て、てめぇ……魔宝使いか……」

 バッツから離れ、距離を取ったボルシチは、ガチャリと巨大なハンマーを抱えた。

「相手が魔宝使いなら話は別だ。ガキだからって手加減なんてしねぇぜ」

「最初から手加減するつもりなんて、あらへんくせに」

「ほざけっ!」

 巨体には似合わないスピードで、素早く飛び掛ってきたボルシチは、その手に持つハンマーをバッツに向かって勢い良く振り下ろしてきた。だが、バッツは余裕の表情でその場から動こうとしない。

「あ、危ない!」

 ハンマーがバッツに当たる瞬間、トライが叫んだ。

――ズドドドドドーン!

 だが、トライが叫ぶのも虚しく、巨大なハンマーは床ごとバッツを叩き潰した。

 その惨劇に、トライは思わず顔を背けた。

「ガッハッハッハ! どうだ、俺様の魔宝具『ビッグ・ハンマー』の威力は! どうしたクソガキ、さっきのへらず口を叩いてみろ!」

 勝ち誇った表情で、ボルシチは巨大なハンマーをゆっくりと持ち上げていく。きっとその下には、ペチャンコに潰れた無残なクソガキの姿があるに違い無い、ボルシチはそう信じて疑わなかった。だが……。

「な、なんだと?」

 そこには、散々に砕け散った床の破片があるだけで、バッツの姿はどこにも無かった。慌てふためきながら、ボルシチは辺りをキョロキョロと見回す。

「あ、あのクソガキ、どこへ行きやがった?」

「ここや、ここ」

 その時、ボルシチの背後からバッツの声が聞こえた。驚いたボルシチは、振り向きざまにハンマーを振り回す。だが、そのハンマーをバッツは片手でパシッと受け止めた。

「な、なにぃ?」

 ボルシチだけでなく、酒場にいた全員が驚いた。ただ一人、いや一匹だけが、うんうんと偉そうに頷いている。

 バッツは、ふんっとハンマーを持つその手に力を込めた。すると、バッツの手袋についているバックルが、その気合に答えるかのように鈍い光を放ちはじめた。

 ぐぐぐっと、ハンマーごとボルシチの体がゆっくりと宙に浮き始める。気がつくと、ボルシチの体は天井近くまでバッツに持ち上げられていた。

「ば、馬鹿な?」

「ったく、何が『ビッグ・ハンマー』や。単なるでかい金槌やろ、しょうもない」

 バッツは、ハンマーを力任せに奪い取ると、驚愕の表情を浮かべながら落ちてくるボルシチの顔面に向かって、思いっきりハンマーを振りぬいた。

「ほげぎゃああああああっ!」

 ハンマーで殴られたボルシチは、きりもみ回転をしながら壁を突き破り、酒場の外へと吹き飛んでいった。

「一丁あがりっと」

 パンパンと手の埃を払い落としながら、バッツはボルシチから奪い取った、ビッグ・ハンマーを見つめた。

「それにしても、しょぼい魔宝具やな。こんなコモン魔宝具、腐るほど持っとるわ」

 バッツは、ビッグ・ハンマーを軽々と宙に放り投げた。すると、ハンマーは空中でクルクルと回転しながら、見る見るそのサイズを小さく変えていく。落ちてきた手のひらサイズのハンマーをパシッとキャッチしたバッツは、床に置いておいたリュックサックの中に、無造作にそれを押し込んだ。

 さらにバッツは、首にかけていた懐中時計を頭上に掲げた。

 懐中時計からは眩い光が放たれ、時計の針が物凄いスピードで逆回転し始めた。すると、壊れていたテーブルや床、壁や天井が、まるで時間が逆に流れていくかのように修復され始めた。気がつくと、穴だらけだった酒場は、元の薄汚い酒場に戻っていた。

 トライも、酒場に居た他のハンターたちも、全員が今起きた信じられない出来事に、一言も発せずにいる。

 そんな静寂な酒場の中を一人さっそうと歩くバッツ。

 バッツは、しりもちをついて呆気に取られているトライの前まで来ると、スッと手を差し伸べた。

「大丈夫か、姉ちゃん」

 一瞬躊躇したトライだが、その手を取り起き上がると、未だに信じられないといった表情でバッツを見つめた。

「キ、キミってば、一体何者なの……?」

 倒れているステアを抱き上げたバッツは、白い歯を見せニカリと笑った。

「ワイの名はバッツ。千の魔宝具を操るサウザンド魔宝使いバッツ様と言ったら、ワイのことやで!」

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