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第二話 城塞都市レクタングル

 城塞都市レクタングル。

 レクタングルは平原に位置する国で、主な収入源は酪農と農作物。

 建国されてから百年もの間、他国の侵略を一度も許さず、独自の進化と発展を遂げてきたこの国には、二つの大きな特徴がある。

 一つは、国全体を囲む巨大な城壁だ。

 その大きさは半端じゃ無く、城や城下街はもちろん、牧場や畑など野外の建造物まで丸ごと囲ってしまっている。その強固さは、建国されてから百年もの間、一度たりとも外敵に侵略を許してないことからも伺えるだろう。

 現に隣国の軍事大国アルガーナは、この豊かな国を欲し過去に幾度か侵略を試みているが、この強固な城壁の前に全て失敗に終わっていた。結果、度重なる遠征により疲弊してしまったアルガーナは、国力を回復させるためレクタングルが出した条件を渋々飲み、停戦条約を結ぶことになってしまった。

 もう一つは、街外れにひっそりと佇むミラノ遺跡の存在だ。

 その昔、どこからともなく現れ、人々を恐怖のどん底に陥れた戦慄の魔女ミラノ。その魔女の本拠地であった場所である。

 魔女ミラノは、地底界より呼び出した魔物と恐るべき魔宝具の力で、平和な地上をあっと言う間に暗黒の世界へと変えていった。

 幾人もの勇敢な戦士たちが、魔女ミラノを倒すため遺跡に挑んだが、ことごとく返り討ちに会った。

 人々は、無慈悲な魔女の行いに嘆き悲しんだ。だが、対抗する術を持たない彼らにできることは、ただ天に祈ることだけだった。

 やがて、その祈りは奇跡へと変わった。

 人々の嘆きの声を聞き遂げた天上の神は、天界の勇者スクエアを地上に遣わせたのだ。

 地上に降り立った勇者スクエアは、己の勇気と聖剣の力で魔女ミラノに戦いを挑んだ。そして、ついに魔女を遺跡の最下層に追い詰め、見事打ち倒したのだった。

 だが、魔女は完全に滅びたわけでは無かった。彼女は転生の術を使い、何度でも蘇ることができる、言わば半不死の存在であった。

 勇者スクエアは、再び魔女が復活しないよう彼女の魂を遺跡に封印した。そして、この地に城塞都市レクタングルを建国し、自分の子孫らに魔女の監視を命じたのである。

 以後、魔女は復活することなく、レクタングル及びミラノ遺跡は、勇者の子孫らによって百年もの間守られ続けてきた。

 そのミラノ遺跡が明日、解禁される。

 封印の力が弱まったのか、それとも魔女は復活することなく滅びたのか、遺跡を解禁する理由は定かでは無い。だが、この話を聞いた全国の魔宝具ハンターたちは、彼女と共に遺跡に封印された魔宝具を手に入れるため、ここレクタングルにこぞってやってきた。

 今、解禁日を明日に迎えたレクタングルの城下町は、多数の魔宝具ハンターの来訪で大賑わいである。

 いつもは閑古鳥が鳴いている、レクタングルの酒場『スクエア亭』も例外では無かった。

 酒場内では、大勢の客たちが上機嫌に酒を飲んでいるのが見える。

 そんな中、騒がしい酒場内を忙しなく動き回っている一人の少女がいた。

「ステア! この酒をあのお客さんに持っていって!」

「は、はい!」

 店の主人シェイクから渡されたグラスを、給仕のステアが零れそうな勢いで運んで行く。

 普段では考えられないあまりの忙しさに、シェイクとステアは、目を回しながら息着く暇も無く働いていた。

「はぁ……。いきなりなんなのかしら、この忙しさは。本当、まいっちゃうわ」

 注文された品をあらかた出し終えたところで、ステアはふぅと一息つくと、溜まりに溜まって山積みになっている台所のコップを洗い始めた。

「こいつらは、ミラノ遺跡にある魔宝具を狙いに来たハンターどもさ。なんでもミラノ遺跡の封印を百年ぶりに解くんだってよ。全く、国王はお亡くなりになって、しかも王子も王女も行方不明。こんな大変なこの時期に、なんでまたそんな危険なことをするのかね。魔女が復活でもしたらどうするんだ。お偉いさんの考えることは、良く分からんよ」

 ブツブツと文句を言いながら酒を注いでいるシェイクに、ステアはクスリと笑った。

 とその時、騒々しい酒場に一人の客が入ってきた。

「いらっしゃいま……」

 満面の笑顔で出迎えようとしたステアは、その客の姿を見て思わず目を丸くした。

 そこには、一人の少年が佇んでいた。

 年は十四、十五歳くらいだろうか。まだあどけなさを残した幼い姿の少年は、全身緑色の服装をしていた。ツバの広い帽子に、ブカブカサイズのツナギ服、背中には小柄な彼のサイズに相応しくない、パンパンに膨れ上がった馬鹿でかいリュックサックを背負っているのが見える。良く見ると、少年の足元には、寄り添うように従う黒猫の姿も見えた。

 バッツとペケである。

 場違いな場所へ、場違いな格好で現れたバッツたちに、酒場にいた客の視線が集中した。

 だが、バッツはそんな視線など気にした様子も無く、のんきにキョロキョロと辺りを見渡している。

「バッツ、あの席が開いているニャ」

 ペケが、店の奥にあるカウンターの席を指差した。

 小走りで席に着いたバッツは、気だるそうにテーブルを拭いているシェイクに向かって、即座に注文をした。

「親父、とりあえずラーメン。ペケ、お前も何か食うか?」

「オイラは、疲れたから少し寝たいニャ」

 何食わぬ顔で注文したバッツは、よっこらしょと背負っていたリュックを床に置く。そのリュックの上にひょいと飛び乗ったペケは、身を丸めて寝始めた。

「ここは酒場だ、お前みたいなガキの来るところじゃねぇよ。それに、酒場にラーメンなんて置いてる訳ねえだろ」

 テーブルを拭きながら、シェイクがぶっきらぼうに答える。

 その答えに、バッツは眉間にシワを寄せた。

「おいおっちゃん、ワイをガキ扱いすんなや。こう見えてもワイは、千と五十を生きる大魔宝使い様なんやで? ……ったく、店の雰囲気だけやなく、メニューまでこの店はしけとるんかい。普通、酒場って言うたらラーメンぐらい置いとるやろ」

「いや、普通は置いて無いだろ……」

 バッツの物言いに、シェイクはムッとした表情を見せた。すると、隣でコップを洗っていたステアが、棚からカップラーメンを取り出し、お湯を入れ始めた。

「おい、ステア。それはお前の……」

「いいんです。お客様、お腹が空いているみたいですし」

 それは、ステアが夜食用に食べようと思っていた、秘蔵のカップラーメンであった。それを見たバッツは、ニカリと白い歯を見せ、満面の笑みを浮かべた。

「ったく……。ほらよ、あの子の夜食だ、味わって食べな」

 目の前に出されたカップラーメンに、バッツは目を輝かせ手もみをする。チラリと横目でステアを見ると、彼女はニコリと微笑みながら手を振っていた。

 返すように手を振ったバッツは、首からぶら下げている懐中時計を見た。

「できあがるまで三分……。なんて、なんて長い時間なんや……」

 そう言いながらも、バッツは足をブラブラさせながら、ニコニコと嬉しそうに笑っている。きっと、大好物のラーメンが出来上がるまでのこの時間は、彼にとっては愛しい恋人と待ち合わせをしている時のような、そんな感覚なのだろう。

「あらぁ? こんな場所に、可愛らしいお客さんね」

 そんな、嬉しそうに待ちわびているバッツに向かって、隣の席で酒を飲んでいた女が話しかけてきた。

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