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第二十八話 それぞれの旅立ち

「バッツ、準備できたニャ」

「ん? あ、ああ……」

 ペケに呼ばれ、バッツは我に返る。懐中時計を見ると、すでに昼過ぎだった。

 ぼんやりと昨日のことを考えていたバッツは、浮かない顔をしていた。

 ベッドから降りたバッツは、パンパンに膨れ上がったリュックを背負った。その上に、ペケがひょいと飛び乗る。

「忘れ物は無いかニャ? バッツ」

「ワイにそんな抜かりがある訳ないやろ」

 ペケはチラリと部屋を見ると、ハァと深い溜息をついた。

「本当、バッツも何を考えているんだか。もったいないことするニャ……」

 階段を降りると、床をモップがけをしているステアの姿が見えた。

 バッツに気がついたステアは、ニコリと微笑んで手を振ったが、バッツの姿を見て表情を曇らせた。

「……出発するんですか?」

「ああ。世話になったな、ステア」

 ステアは、しばらくバッツを見つめモジモジしていたが、やがて意を決したようにうんと頷くと、バッツを見つめた。

「バッツさん。わたし、バッツさんのことが……」

「ありがとな、ステア。ラーメン美味しかったで」

 ニコリと微笑むバッツの笑顔を見たステアは、それ以上の言葉が出なくなってしまった。

 そして、目に溜まる涙をエプロンで拭くと、目を真っ赤にさせながらバッツに言った。

「頑張って下さいねバッツさん! 私、バッツさんのこと応援していますから! またいつか、ラーメン食べに来て下さいね!」

 ニコリと微笑んだバッツは、ポンと軽くステアの肩を叩き、そのままスクエア亭を出て行く。バッツの姿が見えなくなるまで、ステアはいつまでも手を振り続けていた。


◆◇◆◇◆◇


 城門前までやって来たバッツは、見慣れた顔を見つけた。

 そこにはトライにスクエア、ボルシチたちが立っていた。その後ろには、隠れるようにして様子を伺うダイアの姿も見えた。トライたちは、バッツを見つけると、おーいと手を振りながら駆け寄ってきた。

「ちょっとバッツ! 黙って行こうとするなんて酷いじゃない!」

 ぷぅと頬を膨らませながら、トライが言った。

「バッツくん。行くのか」

 神妙な面持ちでスクエアがバッツに歩み寄る。

「ああ、ミラノ遺跡も崩れてもうたし、この国に居てもこれ以上魔宝具は手に入らへんやろ。また別の所にでも探しに行くわ」

「そうか……寂しくなるな」

「またまた、本当は、うるさいガキが居なくなって、せいせいしとるんやろ?」

 冗談交じりにバッツが言った。

 だが、スクエアは真剣な表情で首を振った。

「そんなことないよ、バッツくん。僕は、本当にキミに感謝しているんだ。この国が、今ここにあるのもキミのおかげだとね。見ててくれよ、僕はこの国を亡くなった父に変わって、今以上に良くしてみせるからさ。またいつかキミがこの国に訪れた時、あっと驚かせて見せるからね」

 そう言うと、スクエアはニコリとあのビューティフルスマイルを見せた。

「俺様たちも、この国の一員として協力させてもらうぜ!」

「なんてったって、僕ちゃんたちは、この国の騎士でヤンスからね! なぁ、ピロシキ?」

「へい!」

 ボルシチたちは、自信満々に胸を張りながら言った。

「じゃあ、まずはキミ達は騎士団の雑用係としてトイレ掃除から頑張ってもらおうかな?」

「ざ、雑用係? トイレ掃除? そんなの、聞いてねぇよ~!」

 スクエアの言葉に、ボルシチたちが一斉にズッコケた。

「それとバッツくん。もう一人、キミに話がしたいと言っている子がいるんだけどね」

 スクエアに押され、後ろでモジモジしていたダイアが姿を現した。だが、バッツの前まで来るとプイっとそっぽを向く。そんなダイアの肩に、スクエアは優しく手を置いた。

「バッツくんに会いたいと言ったのはお前だろ? 何か言うことがあるんじゃないか?」

 暫くの間黙っていたダイアだが、意を決したのか胸をツンと張ると話を切り出した。

「フン、事情はお兄様から聞きましたわ。昨日は言いすぎました! 悪かったですわ!」

 そう言って、ダイアは顔を真っ赤にさせながら、頭を下げた。

 一瞬驚いた表情を見せたバッツだが、すぐに微笑むとダイアの頭をコツンと小突いた。

「へっ。そんな態度、お前には似合わへんで。もっと、胸を張って偉そうにしとればええんや。お前は、王女様やろ?」

 ダイアは頭を抑えながら、口を尖らせてぷぅと頬を膨らませた。

「私は、アルガーナの実家に一度戻ろうと思うの。今回の事件って、アルガーナが絡んでいたじゃない? なんか、妙に胸騒ぎがするのよね」

 神妙な面持ちで、トライが言った。

「さよか。じゃあ、トライともここでお別れやな」

 バッツは、トライに向かって手を差し出した。

 トライは、一瞬バッツに向かって何か言おうとしたが、口をつぐんでクスリと微笑むと、その手を手に取り強く握り締めた。

「じゃあ、また。元気でね、バッツ」

「トライもな」

 トライと硬い握手を交わしたバッツは、一人城門へと向かう。そんなバッツに向かって、ダイアに抱かれたペケが手を振った。

「じゃあバッツ、気をつけて帰るニャ~」

「何を言うてんねん、お前も帰るんや!」

 素早くダイアの元に駆け寄ったバッツは、ゴチンとペケの頭にゲンコツをした。そして、ダイアからペケを取り上げると、嫌がるペケを引きずりながら城門を出て行った。

「私のゴンザレス~!」

「オイラのビフテキ~!」

 涙ながらに引き裂かれたダイアとペケを一切無視し、バッツはスタスタと歩いていく。

「バッツさーん! 忘れ物です~!」

 と、その時、後ろから誰かの叫ぶ声が聞こえた。振り向くと、そこには息も絶え絶えに走ってくる少女が見えた。ステアだ。

 トライたちの元へ駆けてきたステアは、何かを抱えていた。それは、一振りの剣だった。

「それは……!」

 見覚えのあるその剣を見たスクエアは、驚きながらステアに尋ねる。それは、彼がバッツに渡した魔封剣『栄光の剣』だった。

「これがバッツさんの部屋にあったんです。バッツさんの忘れ物だと思って、急いで持ってきたんですけど……」

「それは、ワイから新しい王様へのプレゼントや。遠慮なく受け取ってくれや~」

 遠くからバッツの声が聞こえた。

 その言葉に、スクエアは一瞬戸惑いの表情を見せたが、フッと笑うと、栄光の剣を手に取った。そして、鞘から剣を取り出し、頭上に掲げた。

「……ありがとう、バッツくん。僕もいつか、きっとこの手に栄光を掴んでみせる。この剣に誓って君に約束するよ」

 トライは、小さくなっていくバッツの背中を見つめていた。

 ……バッツ。私は、なんだかまたいつか、アナタとは会えそうな気がするの。まぁ、銃の腕前と一緒で、私の予感は当たらないって良く言われるけど、これだけは当たりそうな気がするわ。だから、さよならは言わない。また、いつかどこかで……ね。

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