第二十七話 魔導破壊兵器ビッグバン
クライムは、血走った目で怒りを露にバッツを睨みつけている。
「あ、アホかお前は! あれは単なる人形や! お前かて最初から知っとったやろ!」
必死に振りほどこうとするバッツだが、どこにそんな力を残していたのか、ガッシリとクライムに掴まれ身動きが取れない。
「僕は、メビウス様を守るために作られた魔導人形。メビウス様を守れなかった今、僕に存在価値は無い。だが、メビウス様を破壊したお前だけは、絶対に許さない。一緒に死んでもらうよ」
ギラリとクライムの目が光る。
すると、穴だらけの彼の体から、眩い光が溢れ出した。そして、大きく開いた胸の穴から覗くものを見たペケは、驚愕の表情を浮かべた。
「ギニャー! そ、それは……魔導破壊兵器『ビックバン』!」
バッツの頭の上で、ペケが飛び上がった。バッツも引きつった顔を見せている。
「ク、クライム。あなた、まさか……」
驚愕の表情を浮かべるコルダに、クライムは力無く微笑んだ。
「逃げるんだ、コルダ。そして、いつの日かメビウス様が望んでいた世界を……」
震える手で転送ジッパーを開いたクライムは、叫ぶコルダをボロボロの機械仕掛けの手で掴みあげ、無理やり中へと放り投げた。
「ま、待って! あなたも一緒に……!」
コルダが言い終える前に、クライムはジッパーを閉じた。
「……さよなら」
バッツは、声をあらん限りに叫ぶ。
「おい、逃げるんやみんな! こいつの体には、魔導具の中でも最強クラスの破壊力を持つ魔導破壊兵器『ビッグバン』が仕掛けられとる! こいつは、次元の歪みを引き起こし、その反発作用によって衝撃を発生させる超強力爆弾や! 下手したら城ごと吹っ飛ぶで!」
「マ、マジかよっ!」
バッツの鬼気迫る言葉に、驚いたボルシチたちは慌てて部屋から逃げ出そうとした。
「もう遅いよ」
ニヤリとクライムは邪悪な笑みを浮かべた。そして、その体が閃光に包まれる。
「そうは、させない!」
その時、素早く駆け寄ってきたスクエアが、その手に持つ魔封剣で、バッツを掴む機械仕掛けの手を切り離した。
「な、なんだと?」
「二人とも、伏せて!」
続けて、トライの叫び声と共に、沈黙の銃から光の弾丸が放たれた。バッツたちは、慌てて頭を下げる。光の弾丸は一直線にクライムに向かって飛んでいった。
クライムは、迫る弾丸を見つめながら叫んだ。
「そんな馬鹿な! この僕が負ける? こんな奴らに? 認めない、そんなの認めない!メ、メビウス様あああああああっ!」
光の弾丸は、クライムの体を貫き、壁ごと彼を外に追いやった。
外に飛び出したクライムの体は、空中で大爆発を起こし、粉々に砕け散った。
物凄い爆風と砂塵、そして地を揺るがすような振動が王の間にまで伝わってくる。
バッツとペケは、ぺたんとしりもちをつくと安堵の溜息を吐いた。
「ふう……。た、助かったで……」
そんなバッツの元に、トライとスクエアが歩み寄った。
「これで貸しは無しね、バッツ。どう? 私もそれなりに役に立つでしょ?」
ニコリと、二人はバッツに微笑みかける。
バッツは、ポリポリとバツが悪そうに鼻の頭を掻いた。
「でも、あの門はどうしたらいいのかしら……」
さきほどのトライの攻撃で、大きく開いた壁から覗く魔導門を見て、トライはフゥと溜息をついた。
「その点は、ぬかりないで」
そう言って、バッツは手に持つ水晶をトライに見せた。
トライは、目を点にさせてそれを見つめる。
「それって破邪の水晶じゃない! 確かそれは、クライムが持っていたハズじゃ……」
「さっき、奴との戦いの間に、ドサクサに紛れて奪い取ったんや。これを使えば、あの魔導門を再び封印させることができるハズや」
そう言うと、バッツはスクエアにポイと破邪の水晶を投げ渡した。
受け取ったスクエアは、ニコリとビューティフルスマイルを見せると、破邪の水晶を高く掲げた。すると、破邪の水晶から眩い光が溢れ出し、魔導門に向かって注がれた。
淡い光に包まれた魔導門が、沈み行く夕日と共にゆっくりと遺跡の中へと消えて行く。
バッツたちは、戦いが終わったことを実感しながら、その光景を暫く見つめていた。
「おーい、終わったで~」
疲れ切った表情を浮かべながら、バッツたちは、ボルシチたちとダイアの元に歩み寄る。
ボルシチたちは、満面の笑みを浮かべながら、彼らを出迎えた。
だが、ダイアだけが浮かぬ顔でバッツを見つめている。
そんなダイアの様子を不思議に思ったバッツは、彼女の元へやってきた。
「どないしたんや、どっか怪我でもしたんかいな」
差し出しされた手に、思わずビクッと驚いたダイアは、パチンとその手を跳ね除けると、険しい表情でバッツを睨み付けた。
「触らないで、化け物! あなたでしたのね! 一年前、遺跡の前で私を襲ったのは!」
その言葉を聞いたバッツの表情が一瞬曇った。
「私はハッキリと覚えています、あの時、頭上から私を見下ろしていた悪魔の姿を。そして、その背中に生えていた黒い八枚の翼を! あなたは、人間じゃない! 残虐非道の恐ろしい悪魔、地底人よ!」
そう言うと、ダイアはそのまま部屋から出て行ってしまった。
バッツは、まるで蝋人形のように固まったまま、微動だにしない。
残った皆は、そんなバッツに何を言っていいのか分からず、ただ佇むばかりだ。
「アーッハッハッハ! いいザマだね、バッツ」
その時、突如部屋に聞き覚えのある笑い声が響き渡った。
見ると、地面に転がったクライムの首がバッツを見つめ薄ら笑いを浮かべている。
「それが、地上人どもの答えなんだよ。光と影が相反するように、地上人と地底人が歩み寄ることは、永遠に無いんだ。永遠にね。アーッハッハッハ!」
ケタケタと、狂ったように笑うクライムの声が、部屋中に響き渡る。だが、クライムの目から光が失われていくに連れ、その声も段々と小さくなっていき、やがて消えた。
「……なんてしぶとい野郎だ。やっとくたばりやがったか……」
ボルシチは、動かなくなったクライムの首を見つめ、ブルブルと身震いした。
再び部屋に静寂が訪れ、気まずい空気が流れる。そんな場を和ませるかのように、バッツが突然陽気な声を出した。
「ま、こんなんは慣れてるから、別にええやねんけどな」
ニシシと笑うバッツ。だが、どことなくその笑みには陰りがあるように見える。
「バッツ……」
トライは、そんなバッツにかける言葉が見つからず、ただ黙って悲しい瞳を向けていた。
「……バッツくん。さっきの話は本当なのか?」
歩み寄ってきたスクエアに、バッツはコクリと頷いた。
スクエアは、怪訝な表情を浮かべ、バッツを見つめた。
「悪いが、キミの言うことはそのまま鵜呑みには出来ない。僕には、キミがダイアを襲ったとはとても思えないんだよ。良かったら、その時のことを詳しく話してくれないか?」
暫くの間黙っていたバッツだが、その重い口をゆっくりと開いた。
「……一年前のあの日。この国にあると言う魔宝具を狙って、ワイはミラノ遺跡までやってきた。せやけど、どうやっても遺跡の結界を解くことができんかったワイは途方に暮れとったんや。そんな時や、あいつがワイの前に現れたのは」
「ダイアは、コルダに追いかけられていたニャ。さすがに、地底人を相手にするのに、このままの姿じゃ勝てないと思ったオイラたちは、一瞬だけあの力を解放し、コルダを撃退したニャ」
バッツの頭上で、ペケはうんうんと感傷深く頷いている。
「それじゃあ、バッツはダイアを襲ったんじゃなくて、むしろ彼女を守ってあげたんじゃない! 大変、あの子ったら、勘違いしているんだわ。すぐに教えてあげなくちゃ!」
そう言って、駆け出そうとしたトライの手をバッツが掴んだ。
「ええんや。アイツを脅かして遺跡に追いやってもうたのは、本当のことやからな。結局なんだかんだ言って、ワイがダイアを危険な目に会わせたんや、恨まれてもしゃーないわ」
「でも……」
トライは、悲しそうな表情を見せた。
きっと彼女は、バッツがこのまま勘違いされっぱなしなのが許せないのだろう。だが、バッツは首を振るだけでその手を離そうとはしてくれなかった。
「それは違うよ、バッツくん」
その時、スクエアがバッツに歩み寄り言った。
「地底人であるキミが、何故そんな姿でいるのか僕には分からないし、知りたいとも思わない。人にはそれぞれ事情があるからね。でも、キミが妹を守ってくれたのは紛れも無い事実だ。確かに、ダイアは遺跡内でミラノに取り付かれてしまったが、今は無事に生きている。もしあの時、キミが彼女を守ってくれなければ、きっと彼女はその場で殺されていただろう。ありがとう、バッツくん。一人の兄として、僕は君に深く感謝しているんだよ」
そう言ってスクエアは、腰にかけていた剣を鞘ごと取り出し、バッツに差し出した。
バッツは、きょとんとした表情でその剣を見つめていたが、ハッと何かに気付いたように目を見開いた。
「これは、勇者スクエアが使っていたとされている魔封剣『栄光の剣』だ。確か、キミは魔宝具を求めてこの国にやってきたんだろう? よければ、僕からの感謝の気持ちとして、この剣を受け取って欲しい」
ペケが、驚きの表情を浮かべながら、バッツとその剣を交互に見渡す。
「バ、バッツ! これは……!」
「ああ、わかっとる。これは、相当な魔力を秘めた剣や。Aランク、いやSランク級の価値があるかも知れへん。せやけど、ええんか? こんな凄いもん貰っても」
驚いているバッツに向かって、スクエアはニコリとビューティフルスマイルを見せた。
「いいんだ、僕には過ぎた剣さ。僕の名前と一緒でね」
スクエアは、おどけるように肩をすくませた。
バッツは、鞘から剣を抜き取ると、神々しい輝きを放つ剣を頭上に掲げる。
沈みかけた太陽の光に照らされ、栄光の剣がオレンジ色の淡い光を放っていた。




