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第二十六話 魔人バッツ

「ば、馬鹿な。その姿は……? しかも翼が八枚だと……?」

 クライムは、バッツの背に生える翼を見て、驚きの表情を浮かべている。

 バッツは、ゆっくりと辺りを見渡しながら、バキバキと指を鳴らした。

「さぁ、俺様にぶちのめされたい奴は、どこのどいつだ?」

 そのバッツの背後から、巨大な斧を持ったゼルドが、突然襲い掛かってきた。

 旋風のように振り回す斧を、ゼルドはバッツに向かって一気に振り下ろす。だが、その攻撃をバッツは振り向きもせず、片手で受け止めた。

「な、なんだと?」

 クライムが驚愕の表情を浮かべる。

 ゼルドは、斧を引き離そうとするが、ピクリとも動かない。

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべたバッツが、その手に力を込めると指がバキバキと食い込み、鋼鉄の斧をいとも簡単に砕き割った。そして、そのまま力ずくでゼルドを引き寄せたバッツは、手刀で鎧ごとゼルドを貫いた。

「それ以上は、やらせませんよ!」

 間髪入れず、レイピアを構えたコルダが、バッツに向かってきた。

 だが、バッツはゼルドを片手で軽々と持ち上げると、コルダに向けて放り投げた。

「な?」

 飛んできたゼルドに巻き込まれ、そのままコルダは壁に打ちつけられた。

「ガーッハッハッハ! 弱い! 弱すぎるぜお前ら! もう少し頑張ってくれないと、俺様がつまらねぇじゃねぇか! ああん?」

 バッツの笑い声が部屋に響き渡る。

 トライとスクエアは、呆気にとられながら、その一方的過ぎる戦いを見つめていた。

「す、凄い……一体なんなの、あの力は?」

「あれが、バッツくんの本当の姿なのか……」

 いつの間にか、彼らの隣に来ていたボルシチたちも、驚きの表情を浮かべている。

 だが、ダイアだけは青ざめた表情で、何かに怯えているかのようにバッツを見ながら震えていた。

 無理やり体から翼を引き抜いたクライムは、震える手をバッツに向けた。

「嘘だ……嘘だ! こんなの僕は認めない。至高の八黒翼を持っていいのは、あの方だけだ! お前などが持っていいものじゃないんだ!」

 そんなクライムの姿を見て、バッツは馬鹿にしたように笑った。

「くっくっく。いいのか? 次に俺様に攻撃を仕掛けたら、お前、死ぬぜ? 今の俺は、自分でも制御が効かねぇからなぁ」

 牙を覗かせ、邪悪な笑みを浮かべるバッツ。

 まるで、悪魔のようなその姿に、トライは思わずブルブルと身震いをした。

「クライム、下がりなさい! いくらなんでも相手が悪すぎます! 例えここで退いたとしても、メビウス様はお許しになるハズです!」

 普段表情をあまり表に出さないコルダが、声を荒げてクライムに言った。

 だが、クライムは首を横に振った。

「や、役に立たない道具なんて必要無いんだ……。ここで逃げたら、僕の存在する意味が無くなってしまう。僕はメビウス様を守るために生まれた道具、魔導人形クライムだ!」

 響き渡る絶叫と共に、クライムはプロミネンス・キャノンをバッツに向けて放った。

 禍々しい髑髏の形をした黒き炎が、螺旋を描きながらバッツに向かって飛んでいく。バッツは微動だにせず、その炎をまともに正面から食らった。

「まだだ! 燃えろ! 燃えろ! 燃えろおおおっ!」

 クライムは、バッツに向けて執拗に攻撃を放ち続けた。物凄い轟音と共に、爆炎と砕け散った床の破片が当たりに飛び散っていく。

「ハァハァハァ……」

 全ての魔力を放出したクライムは、息を切らせながら爆心地を見つめていた。

 もうもうと立ち込める煙が、ゆっくりと引いていく。そして、煙が完全に消えた時、そこにバッツの姿は無かった。その瞬間、クライムは勝利を確信した笑みを浮かべた。

「アーッハッハッハ! 燃えた! バラバラになった! 消し飛んだ! 見てよコルダ!あいつ、粉々になって無くなっちゃったよ! 僕の勝ちだ! アーッハッハッハ!」

「危ない! 下です!」

「え?」

 クライムの足元から、突然ドリルのような黒い翼が次々と飛び出し、彼の体を突き刺した。突き上げられたクライムは天井まで運ばれ、そのまま貼り付けにされた。

「ば、馬鹿な……」

 驚愕の表情を浮かべながら、クライムは自分の眼下にいるバッツを見つめた。

 だが、そんなクライムなど見向きもせず、バッツはゼルドの下敷きになり倒れているコルダに歩み寄ると、目の前に立ちはだかった。

「バ、バッツ? 相手が違うんじゃ……?」

 玉座に座るメビウスには目もくれず、コルダに迫ったバッツにトライは首をかしげた。

 だが、バッツは肩をすくませると、片手をメビウスに向けた。瞬間、メビウスの体が、爆発音と共に砕け散った。

「メ、メビウス様!」

 驚いたクライムが、目を見開いて叫んだ。

 あまりの惨劇に、トライは思わず目を背ける。

「や、やりすぎよ!」

「慌てるな、あれはただの人形だ」

「に、人形?」

 足元に転がってきたメビウスの首をバッツは無造作に踏み潰した。

 辺りに飛び散る、機械仕掛けの部品を見て、トライは驚いた表情を見せた。

 続けてバッツは、コルダの上に覆いかぶさるゼルドを持ち上げると、その体を真っ二つに引き裂いた。その中身は空洞だった。

「クライムにゼルド、そしてメビウス。この三人、いや三体を操っていたのはお前だな?人形使いコルダさんよ」

 ニヤリと牙を覗かせ、バッツは笑みを浮かべる。すると、悔しそうな表情を浮かべていたコルダの背から、バサリと黒い翼が現れた。

「……その姿、やはりあなたは、あの時私の計画の邪魔をした……」

 コルダは、キッとバッツを睨みつけた。

「何故です? あなたは我らと同じ地底人でしょう? 何故、地上人の味方などするのです? 我々が、これまでに受けた屈辱を忘れたのですか?」

 バッツは、ハッと馬鹿にしたように鼻で笑った。

「地底人だとか地上人だとか、そんなの俺様の知ったことか。俺様は、俺様のやりたいようにやるだけだ。俺様に歯向かう奴は、どいつもこいつも皆殺しだ」

 そう言ってバッツは、スッとコルダに手を向けた。

 観念したコルダは、思わず目を瞑る。

 だが、そんなバッツにトライが駆け寄りしがみついた。

「もう、もういいよバッツ! 何もそこまでしなくても!」

「離せ!」

 バッツは、乱暴にトライを振りほどいた。だが、トライはしつこくバッツにしがみつく。

 鬱陶しそうな表情で、バッツはトライを見た。

「おめえは馬鹿か? こいつらは、俺たちを殺そうとしたんだぞ? そんな奴らを何故生かしておく必要がある? 生かしておけば、必ずいつか俺たちの仇となるぞ!」

「戦いは終ったわ。彼女にもう戦う力は残っていない。これ以上の戦いは無意味よ! 無駄に命を奪うようなことはしないで!」

 トライの絶叫が部屋に響き渡る。

 暫くの間、険しい表情でトライを見つめていたバッツだが、フゥと溜息をつくとその手を降ろした。と同時に、彼の体が眩い光に包まれ、部屋中に広がっていた翼がバッツの体に引っ込んだ。そして、光が収まった時、バッツの体は元のちんちくりんな姿に戻っていた。その頭の上には、ペケの姿も見えた。

「残念ながら時間切れや。ったく、トライ。お前は相当なお人好しやな」

 そう言うと、バッツはトライに向かって白い歯を見せニシシと笑った。その笑みを見たトライは、安堵の溜息を吐き、つられて笑った。

 だが。

「キミだけは……キミだけは許さない。よくもメビウス様を……」

 突然、バッツの体を無数の機械仕掛けの手がガッシリと掴んだ。

 驚いたバッツが振り向くと、すぐその背後にクライムが佇んでいた。

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