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第二十二話 灰色の瞳

 クライムは、ニィと口元を歪め、光の無い瞳でリーゲルを見下ろしている。

「フフフ。こんな所で虫みたいに這いずり回って、いったい何をしているのさ、リーゲルさん」

 そう言うと、クライムはリーゲルの顔面をまるで石ころのように蹴り飛ばした。

 吹き飛んだリーゲルは、ゴロゴロと転がり壁に打ち付けられる。

「な、何を……するのですか……」

 力なく倒れるリーゲルをクライムは冷ややかな目で見つめた。

「僕はねぇ、役に立たない道具って嫌いなんだ。道具はねぇ、役に立ってこそ存在意義があるんだよ。わかるかい?」

 最初、リーゲルはクライムが何を言っているのか理解できなかった。

 だが、彼の手の中で光輝く水晶を見てハッとする。

「ま、まさかお前は……」

「役に立たない道具なんて、さっさと壊れちゃいなよ」

 クライムは、無造作に左手をリーゲルに向けた。すると、その指に嵌められている指輪から淡い光が零れ、無数の風の刃が飛び出した。

「ぐわああああああっ!」

 一斉に放たれた風の刃に切り刻まれ、リーゲルはのた打ち回る。

「アハハ! ホラホラホラ! もっといい声を聞かせてよ!」

 まるで瀕死のネズミをいたぶる猫のように、クライムは狂気染みた目を血走らせ、歓喜の表情を浮かべた。

「や、やめなさい! 何もそこまでしなくても!」

 見かねたダイアは、止めようと駆け寄ろうとした。だが、彼女の目の前の床に突然大きな亀裂が走る。

「邪魔をすると、キミから殺すよ?」

 光の無い、暗く淀んだ目でクライムはダイアを見つめた。

 なんですの、あの目は……。

 人を殺すことをなんとも思っていない、そんな暗く淀んだ殺意を隠している目。私のことなど、その辺の虫けらと変わらないかのように興味なく見つめる目。

 その目を見たダイアは、身震いし心底怯えた。

「馬鹿な……私の理想が……私の国が……」

 クライムに散々に切り刻まれたリーゲルは、霞み行く意識の中コルダの姿を発見した。

 力無く、ゆっくりとコルダに這いずり寄ったリーゲルは、その足にしがみつく。

「コ、コルダ……。お前は、私を裏切ったりしないですよね……? わ、私をた、助けて下さい……私は、この国の王に……」

 コルダは無言でコクリと頷くと、手に持つレイピアでリーゲルの胸を一突きにした。

 目を見開き、リーゲルはコルダを凝視した。

「コ……コル……ダ……」

「これも仕事ですから」

 抑揚の無いコルダの声。それがリーゲルのこの世で最後に聞いた言葉だった。

 ずるずると力なく崩れ落ちると、リーゲルは自らの血溜まりに倒れる。そして、目から段々と生気が消えていき、暫くすると彼はそのまま動かなくなった。

 コルダは、感情の無い瞳で、動かなくなったリーゲルをジッと見つめていた。

「お兄様……」

 怯えた表情で、自分にしがみつくダイアをスクエアはギュッと抱きしめた。

「あーあ。せっかくのおもちゃを壊してくれちゃってさ。もう少し遊びたかったのに」

 クライムは、詰まらなさそうな表情でコルダに歩み寄った。

「残念ですが、私にはそのような趣味はありませんので。それよりも、例の物は持ってきましたか?」

「当然」

 クライムは手に持つ水晶をコルダに見せた。

 その水晶を見たスクエアは、その目を大きく見開いた。

「それは、破邪の水晶……。クライムくん、キミはそれを何処で手に入れたんだ? それを持っているのは、僕たち以外にはあの人しか居ないハズだ……」

 スクエアの言葉にクライムは首をすくませた。

「さぁてね。そんなことは自分で考えなよ、僕も忙しい身なんでね。さっさと任務を済ませなくちゃならないんだ」

 コルダから残り二つの破邪の水晶を受け取ったクライムは、自分のと合わせそれを頭上に掲げた。すると、彼の手に持つ四つの破邪の水晶がフワリと空中に浮き上がり、四角い光の枠を構成した。その光の枠は、クルクルと空中で回転すると、魔宝結界のあった場所へと眩い光を放つ。

「さぁ忌まわしき光の封印よ! その力を解き放ち、闇へと導く扉、魔導門を開放せよ!」

 クライムの声が部屋中に響き渡った瞬間、突然の地鳴りと共に立っていられない程の振動が皆を襲った。そして、ビキビキと床に亀裂が走り、次の瞬間、床から巨大な何かが飛び出した。

 その巨大な物体は、天上を突き破り、遺跡の外にまで飛び出していく。

「な、なんなのこれ……」

 トライを始めとする場に居た全員は、呆気に取られてそれを見上げている。

 それは、禍々しい雰囲気を放つ巨大な扉だった。

「こ、これは魔導門やないか! なしてこないな所に……」

 普段はひょうひょうとして、余裕の態度をあまり崩さないバッツが、驚愕の表情を浮かべて扉を見上げている。

「ま、魔導門って、まさか……」

 驚くトライにバッツはコクリと頷いて見せた。

「そうや。さっきも話したやろ。今から千年前、地底人が地底界と地上界を繋ぐために開いた扉、それが魔導門や。だが、あの戦いで魔導門は天上人と地上人の手によって封印されたハズや。それが、なしてこないなところから飛び出して来るんや?」

「アーッハッハッハ! 驚いたかい? でも、驚くのは早いよ。これから、この扉が開いて、地底人たちが地上に復活するんだからね。でも、残念だよね。ここで死ぬキミたちは、その光景を見られないんだからさぁ!」

 そう言うと、クライムは無数の風の刃を天井に向けて放った。

 魔導門の出現で突き破られた天井には、大きな亀裂が入っている。そこへクライムの風の刃が激突し、さらに亀裂は全体へと大きく広がった。

「ごめんね。本当は、キミたちとゆっくり遊びたかったんだけど、ここでお別れみたい」

 クライムは、ニコリと微笑むとバイバイと手を振った。そして、懐から取り出した魔宝具『転送ジッパー』を開くと、コルダと共に中へ身を躍らせ、その場から立ち去った。

 地鳴りと共に天井が崩れ始め、次々と瓦礫が落ちてくる。

「くそっ! このままじゃ生き埋めだぜ!」

 ボルシチたちは、慌てて部屋の入り口へと駆け出した。だが、入り口は先程の魔導門の出現により崩れ落ちた天井の瓦礫で塞がれていた。

「ど、どうしよう、バッツ?」

「バ、バッツ! なんとかするニャ!」

「なんとかしなさいよ、バッツ!」

「困ったねぇ、バッツくん」

 皆がバッツを取り囲む。バッツは、ハァと大きな溜息をつくと、面倒臭そうに右手の腕輪を取り外し始めた。

「……ったく、ワイばっかり当てにしおってからに……。少しは自分達でなんとかしようとは考えへんのか? さっきの台詞は撤回や」


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