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第十七話 王女ダイア

 それから数時間後。

 ミラノ遺跡の前には、数人のハンターたちが集まっていた。

 集まったハンターは、バッツとトライにボルシチ一味の計五人。前回と比べ、その数はずいぶんと減ってしまっていた。まぁ、あれだけミラノに酷い目に会わされたのだ。無理も無い話である。それでも集まる連中は、よほど腕に自信がある者か、何度やられても懲りないタフな連中くらいなものだ。

 遺跡の前で、ボーっと虚空を見つめていたバッツは、眠たそうに瞼を擦ると、大きなあくびをした。それにつられ、隣で立っていたトライもあくびをし、続けてボルシチたちもあくびをした。その原因はもちろん……。

「え~、であるからして本日はお日柄も良く、お集まり頂きました皆様方は、まことご健康麗しく……」

 例のごとく、遺跡の入り口で熱弁を振るうのは、遺跡守衛隊長リーゲルだ。その隣には、メガネを光らせ佇むコルダの姿も見える。

 演説は、始まってから既に三十分以上が過ぎていた。

 バッツたちを始め、トライにボルシチたちは、やる気無くボーっとその場に突っ立っている。ヤジを飛ばしても無駄なことを知っている彼らは、リーゲルの話を右から左へ受け流し、演説が終わるのを待っていた。

 この情景に、大きな不安を感じたコルダは、コホンと大きな咳払いをすると、リーゲルの演説を遮って喋り始めた。

「リーゲル様。残念ですが、このままですと全体の士気にも関わりますので、ここから先は私が説明をさせて頂きます。ご存知の通り、魔女ミラノは、クライム殿によって倒されました。ですが、遺跡内には魔女の残した魔宝陣が残っており、依然危険な状態です」

「ちょ、ちょっと、コルダ! 説明は私の役目ですよ!」

「これも仕事ですから」

 訴えるリーゲルを見向きもせず、コルダは説明を続ける。

「地底界と繋がっているその魔宝陣からは、今でも次々とモンスターが召喚されており、このまま放っておくわけには参りません。そこで、皆様方の出番です。今回、我々は魔宝陣の破壊工作の過程で皆様方の実力を査定し、成績上位者を騎士団へ編入したいと考えております。もちろん、遺跡内で手に入れた魔宝具については、ご自由に持ち帰って頂いて結構ですし、合格を辞退されても構いません」

 その説明を聞いたボルシチは、訝しげな表情を浮かべた。

「その話、本当なんだろうな。またこの間みたいに、後から無しってのはごめんだぜ?」

「それについては、僕が保障するよ」

 背後から聞こえた声に、皆が振り向く。

 そこには、レクタングル国の王子スクエアと王女ダイアが立っていた。

「今回の遺跡調査は、僕も一緒に行くことになっていてね。皆さん、お手柔らかに頼むよ」

 スクエアは、軽く手を振りパチンとウィンクをすると、白い歯を見せニコリと微笑んだ。

 なるほど、確かに彼の格好は王子のそれでは無かった。

 真っ白で汚れ一つ無い純白の鎧に、腰にはあの戦いで活躍した魔封剣が添えられている。その姿は、魔宝具ハンターとして活躍していた白銀のクワトロそのものであり、それは、王子では無く一人のハンターとして戦おうと言う彼の意思の表れでもあった。

 一方、そのスクエアの後ろに隠れ、つまらなさそうにしているダイアは、まるでこれからパーティにでも参加するかのような、数多の宝石が散りばめられたド派手な純白のドレスを着ていた。恐らく、いや当然と言えば当然だが、彼女は今回の戦いには参加しないのであろう。まさか、ダンスの相手を探しに、ミラノ遺跡に行くとも考えにくい。

 場違いな格好の彼女を皆は物珍しそうにジロジロと見つめている。だが、当の本人は気にした様子も無く髪をかきあげると、フンッとそっぽを向いた。どうやら相当気の強い性格のようだ。

「ちなみに、今回の遺跡調査には、道案内として特別にダイア王女にも同行して頂くことになっております。皆様、遺跡内では二人の言うことを良く聞いてくださいますよう、よろしくお願いしますよ」

 想像もしてなかったリーゲルの言葉に、一同は驚きの顔を見せた。

「ちょ、ちょ、ちょっといい?」

 トライが、おずおずと手を上げた。

「なんでしょう? トライ殿」

「えっとね、スクエア王子のことは分かるのよ。王子は、あの白銀のクワトロだったワケだし、戦力としても申し分ないしね。でも、何故ダイア王女まで? こう言っちゃなんだけど、彼女はもう魔女じゃないんだから、遺跡内の探索は危険なんじゃないかしら?」

 トライの質問には、リーゲルに変わってスクエアが答えた。

「本当のところはね、僕も反対なんだ。そんなモンスターが次々と沸いて出てくる所に、一緒に行くなんて危険すぎるからね」

 そう言いながら、スクエアはチラリとダイアを見つめた。

 ダイアは、ぷぅと頬を膨らませてスクエアを睨んでいる。

 スクエアは、肩を軽くすくませると、フゥと短く溜息をついた。

「でも、彼女は一度言い出したら聞かない性格でね……」

「もう! お兄様ったら、そんな言い方だと、まるで私がワガママ言っているみたいに聞こえるじゃないですか! 私、魔女に操られた時の記憶も覚えていますから、遺跡のことなら誰よりも詳しいですし、それに、お兄様が約束したのですよ? もう私を一人にしないって! お兄様が行く所なら、私、何処までもついていきますからね!」

 ダイアは満面の笑みを浮かべると、スクエアの腕に組み付いた。スクエアは、頭が痛いと言った様子で顔を押さえている。どうやら、彼女は相当なブラコンのようだ。

 そんな二人の様子を見て、バッツはやれやれと首を振った。

「ま、連れて行くのはええけど、ガキのお守りはちゃんとやってくれよな。こっちは忙しいんやから、途中で迷子になっても探したりせぇへんで?」

 バッツの言葉に、周りから嘲笑が沸き起こる。

 笑われたダイアは顔を真っ赤にさせ俯くと、怒りと恥ずかしさにプルプルと震えながら、ギュッと拳を握り締めた。

「なんですの、あなたは! 偉そうなこと言って、あなただってまだ子供じゃない!」

 怒りを露にダイアは、バッツをキッと睨み付けた。

 子供扱いされるのが一番嫌いなバッツは、ムッとした顔になるとダイアに食ってかかる。

「ワイをガキ扱いするなや! ワイはこう見えてもなあ、千と五十を生きる大魔宝使いなんやで! この忌まわしい呪いさえ無けりゃ……」

 互いに睨み合い、対峙する二人の険悪なムードに、見かねたトライが間に割って入った。

「はいはい、喧嘩はそこまでにしてさっさと準備する。王女様も、遺跡内は危険なんですから、無茶しないで私たちの後ろに隠れていて下さいね」

 ぷぅと頬を膨らませているダイアに向かって、トライは優しく微笑みかけた。

 そんなトライを品定めするかのように、ダイアはマジマジと見つめた。

「……ふぅん。あなた、お名前は?」

「わ、私? 私はトライですけど……」

 ツンと張った胸を突き出し、精一杯の虚勢を張りながら、ダイアは高笑いをした。

「気に入りましたわ、トライ。あなたなら、私の侍女にしてあげても良ろしくってよ! 但し、お兄様に色目とか使ったりしたら承知しませんからね!」

「そ、それは、ありがとうございます。は、ははは……」

 タラリと汗を垂らし、トライは乾いた笑いを見せた。

 バッツに向き直ったダイアは、ビシッと彼に指を突きつけた。

「とにかく、バッツさんでしたか? あなたは、本来なら私と口聞くことも許されない立場なんですからね! 今後は、口の利き方に気をつけることね!」

 フンっとそっぽを向き、ダイアはぷぅと頬を膨らませた。

「こ、このクソガキ、このワイを誰だと思っとるんや……」

「バッツ、この手のタイプはムキになったら負けニャ」

 ワナワナと怒りに震えるバッツをペケは、なだめる様にポンポンと叩いた。

 そんなペケを見て、ダイアはパッと顔を輝かせた。

「あああ! なんですの、この猫ちゃんは! どうして喋れるのかしら?」

「ニャ!」

 ひょいとペケを抱き上げたダイアは、満面の笑みでギュッと抱きしめた。

「ねぇねぇお兄様! 見て下さい、このふてぶてしい顔! すっごいブサイクでキモ可愛いですわ~!」

「だ、誰がブサイクニャ! 失礼ニャ! 離すニャ!」

 ジタバタともがくペケだが、ダイアにガッシリと捕まれ身動きが出来ない。

 ダイアは、キラキラと目を輝かせながら、スクエアに向かってブーたれているペケを突き出した。そして、首をかしげ、お願いポーズをする。

「ねぇねぇお兄様。この猫ちゃん、お城で飼っていいかしら?」

「……バッツくん。彼女は、こんなことを言っているが……」

 困った様子で、スクエアがバッツに聞いた。

「フン。気に入らない女やけど、ペケを連れて行くのは構わないで。煮るなり焼くなり好きにしてくれや」

 バッツはソッポを向いたまま、ぶっきらぼうに答えた。

 その言葉を聞いたダイアは、ニンマリと微笑んだ。

「ニャニャ! それは無いニャ~! オイラたちは、二人で一つじゃ無かったのかニャ!」

 バッツの無情な言葉に、ペケは涙を流して必死に抗議している。だが、不機嫌なバッツは聞く耳を持たない様子だ。

 スクエアはふぅと溜息をつくと、ダイアに向き直った。

「仕方ない。ダイア、ちゃんと世話は自分でするんだぞ」

「きゃー! お兄様ったら優しい! よろしくお願いしますわ、ゴンザレス!」

「誰が、ゴンザレスニャ! オイラには、ペケって言う立派な名前があるニャ! って言うか、本人の意思はどうなるニャ! オイラは、飼われてもいいなんて一言も言って無いニャ!」

「あらそう? 私のペットになったら、毎日お城でご馳走が食べられますのに……」

 嫌らしい笑みを見せながら、ダイアがポツリと呟いた。

 その言葉に、ペケは耳をピクリと動かし反応した。

「ご、ご馳走? ビフテキも食べられるのかニャ?」

「ビフテキなんて『おやつ』ですわ。なんでしたら、牛一頭の丸焼きだってご馳走しますわよ?」

「う、牛一頭!」

 その甘い誘惑の言葉に、ペケは目が飛び出るほど驚いた。

 ペケの頭に、お城で分厚いビフテキを食べまくる、優雅な自分の姿が浮かぶ。

 ダラダラと涎を垂らしながら、ペケはニンマリと極上の笑みを見せた。

「オイラは、ダイア様の忠実なペットニャ。これからは、『犬』とお呼び下さいニャ」

「あんたは、猫でしょ……」

 完全に魂を売り渡した現金なペケをトライは呆れた顔で見つめた。

「……コホン。そろそろ出発したいと思うのですが、よろしいですか?」

 咳払いをしながら、コルダがスクエアに言った。

「ああ、ごめんごめん。すぐに準備するよ。リーゲル、例のリストを」

「ははっ」

 リーゲルは懐から一枚の紙を取り出すと、スクエアに手渡した。それは、今回の遺跡調査に向かうメンバーのリストだった。

 次々とメンバーの名前を読み上げ点呼を取るスクエア。そして最後のトライが返事し終えたところで、スクエアはリーゲルに向き直った。

「そう言えば、クライムくんの名前が無いみたいだけど?」

「はい、残念ながらクライム殿は今回の参加を辞退されました」

「そうか……」

 一瞬だけ表情を曇らせたスクエアだが、すぐに皆に向き直る。そして、懐から破邪の水晶を取り出し、頭上に掲げた。

「悪しき者を封じ込める光の結界よ! 勇者スクエアの名において、僕は命ずる。今こそ封印を解き放ち、僕らを導きたまえ!」

 スクエアがそう叫ぶと、破邪の水晶から眩い光があふれ出し、辺りを照らしだした。すると、遺跡を取り囲んでいたピンク色の結界が、ザザザと音を立てて掻き消えて行った。

 スクエアとペケを抱きかかえるダイアを先頭に、リーゲルにコルダ、それとボルシチたちが次々と遺跡内に入っていく。少し遅れて、バッツとトライもそれに続いた。

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