31話「グッドラック、良い旅を」
唯一ティンクルイーターの上に捕まっているミゾウは、揺さぶられながらも未だ離れていなかった。
何故ならそれがコウジの考えうる最後のチャンスだったからだ。
「何をする気じゃ、コウジ!?」
ミゾウが必死にティンクルイーターへ縋りつき、諦めていない姿を見ていたのか、ユニの通信が入った。
「まだ方法はあります! このミゾウごとティンクルイーターをジャンプさせます!」
「何じゃと!?」
ミゾウなどのエクステンドエグゾのみに備わっている星間航行機能、それには当然ジャンプ航行も含まれている。
ジャンプ航行距離は艦船のそれとは比べるもなく短いが、ティンクルイーターをアテームから引きはがすには十分だった。
「しかし危険じゃぞ! もしもジャンプに飲み込まれたらお主は……」
「他に手立てはありません! 皆は引き続き気を引いてください!」
コウジが皆に語り掛けると、ジュエルが代表して肯定した。
「全員、そのまま射撃体勢を続行しろ!」
地上に残っているエグゾスレイヴたちはティンクルイーターの注意をミゾウに集中させないために、射撃で牽制する。射撃の効力そのものはいまひとつであるものの、目的は十分に達していた。
「ジャンプまで100秒!」
コウジはミゾウに自動でジャンプ航行をするようプログラムを組む。それには当然OS機能を持つエルコが最終誘導をする必要があった。
「すみません、エルコ。ここまで任務について来てくれてありがとうございます」
「問題ありません。私は最後まで私の使命を全うするだけです」
謝罪するコウジに対して、エルコは淡々と返事をする。もしエルコがユニほど感情に溢れたAIだったら、この作戦をためらっていたかもしれない。
どちらにしろ準備も時間もない。今はただ作業を完遂するのみだ。
「燃料チェック、精霊器官チェック、エンジンチェック、最終工程チェック」
「すべて完了しました。ジャンプまで60秒」
全ての手順を確認し、そろそろコウジが脱出しようとする頃合いだった。
その瞬間、気まぐれのようにティンクルイーターが身体を揺さぶり、ミゾウは掴んでいたティンクルイーターの巨体ごと地面へと叩きつけられたのだ。
「コウジ!?」
ミゾウは左腕を肩ごと引き千切られながらも、まだティンクルイーターに張り付いていた。
「大丈夫です。被害状況をチェック!」
「機体の損害率43パーセント、ハードウェアに重大な損傷を与えられました。ジャンプ機能の自動設定が機能しません」
エルコは非情にもコウジに作戦続行不可能を告げてきた。
ここまでか、と思われたがコウジはまだ諦めていなかった。
「手動でのジャンプはどうですか?」
「可能です。ジャンプチャージまで30秒」
「よし、それでいきます!」
コウジはためらうそぶりもなく即決する。これが本当の、最後のチャンスなのだからだ。
それに、手動での操作は無謀な選択ではない。
「ジャンプカウントダウン10秒、9、8、7」
「ジャンプ決定画面セット」
コウジはジャンプボタンを表示させると、自分の左腕の義肢を外した。
この義肢は遠隔操作可能、ならば脱出からの手動ジャンプも可能であった。
コウジは左腕の義肢を固定すると、緊急用のパラシュートを背負い、コクピットを開いた。
「グッドラック、オペレーター。良い旅を」
エルコが気の利いた別れを告げると、それを合図にするようにコウジは機体から飛び降りた。
風の切る音、風圧を感じながらコウジは眼前に広がる雪原と快晴の空に眩暈をしつつ、高度を下げる。
そして十分ミゾウから離れたところで、左腕を動作させた。
「成功してください……!」
コウジの祈りが通じたのか、ミゾウとティンクルイーターは白い繭状の光に包まれ、その場から消え去った。
作戦、成功である。
「やりましたよ!」
コウジはジャンプを見届け、サムズアップしながらパラシュートを開くのであった。




