九章・神威解放(2)
「くあッ!?」
今度は彼等が弾かれる。でも私はまだ攻撃していません。怒りで制御不能になった魔力が勝手に噴き出しただけ。ただの魔力の漏出が並の術士の魔力弾を遥かに凌ぐ威力を生む。タガの外れた私は存在そのものが暴力。
高圧の魔力噴射で押しやられた彼等は少し離れた場所で静止すると、一斉に両手を突き出しました。
「やるね! でも大地への干渉なら僕らも得意とするところさ!」
「止められるかな救世主?」
「行きますよ!」
次の瞬間、地面の一部が盛り上がって変形し大蛇を形作る。それが生物のように巨体をくねらせ私に襲いかかって来た。
──だからなに?
『消えろ!』
怒りを込めて右手を振り抜く。魔力塊が横薙ぎに放たれ大蛇を容易く粉砕。すると飛散した土砂の中から木の根が絡まり合ったものが姿を現し、森に倒れました。まさかあれを芯にして土を被せていただけ?
どことなく違和感を感じ取った私に、しかし敵は考える時間を与えません。
「ハハハハ! 流石はウィンゲイトの血を引く者!」
「でも、僕達だってこの程度は序の口だよ!」
言葉通り次から次に攻撃を繰り出す三人。空を埋め尽くすほどの氷刃が降り注ぎ、足下からは煮えたぎった溶岩。さらに岩柱、水流、電撃、爆風、様々な術が四方八方から私を標的にして放たれる。
大した魔力です。それに攻撃も多彩。まるで大勢の魔法使いを相手にしているかのよう。でも、これならゲッケイの方がさらに上だった。
『うるさい!』
再び叫んだ私は巨大な魔力障壁を振り回し、それらの術をまとめて薙ぎ払います。直後、今度はこちらから間合いを詰める。
「ハハハ! すごいすごい!」
「なんて魔力と飛行速度。素晴らしい」
「でも、それだけなら対処のしようはある!」
『ぐっ!?』
突然弾き返される私。攻撃を仕掛けようとした敵との間に紡錘形の黒い石が割り込んで来たのです。大きさは一ヒフほど。もう一度近付こうとするも、やはり見えない力で押し返されました。なんですのこれ? まるで磁石の同極同士の反発。
ならばと標的を変えても、すぐに謎の石が間へ割り込んで来る。全く相手に近付けない。
「どうしました? もっと本気を出してください。それではいつまで経っても私達を倒せませんよ」
『うるさいッ!!』
怒りと悔しさで頭の中が沸騰する。敵の攻撃が迫り、障壁で防ぐ。反撃を仕掛けようとすると不可視の力に押し返され、魔法で遠距離から攻撃してもやはり相手に届く前に失速して消える。そしてまた敵の攻撃。
その繰り返しが続き、余波によってナスベリさんの作ってくれた着ぐるみが、クマハルと名付けた子が次第に傷付いていく。
そして、とうとう──
『逃げるな!!」
──敵の攻撃でなく、私の放出する魔力の圧に耐え切れずクマハルはバラバラになって飛散してしまった。下着姿になった私は、それでも怒りに任せて戦闘を続ける。
「お、おいおいおいっ」
「はしたないな!」
「ちょっと待ってください! いったんストップ!!」
何故か急に慌て始める仮面の三人。そのせいか不可視の力が弱った。それを好機と捉え一気に間合いを詰める私。
「くっ!?」
敵は再び黒い石を使った。けれど私は前方に魔力障壁を展開する。それも音と光以外の何もかもを遮断した障壁。それを突撃槍のように鋭角に尖らせ、ホウキを通じ後方に膨大な魔力を噴射。強引に加速しつつ突っ込む。
一瞬、押し返された。でも次の瞬間、甲高い音を立てて砕け散る黒い石。反発力が消え、私は勢いのまま百ヒフ以上の距離を駆け抜ける。敵には寸前で避けられてしまったものの、これで防御手段は無くなった!
「テ、テムガントを力業で!?」
「無茶苦茶だっ!」
「話を! 話を聞いて下さい!」
「誰が聞くものですか!」
私の大切な人達を殺しておいて命乞い? ふざけるな!
代償を支払え、その命で! 弾け散って悔いろ! 一旦彼等の間を通過した私は大きく旋回して一人に狙いを定める。ここから貴方の心臓を貫くまでに一秒も必要無い。
怒りでそれしか考えられなくなっていた私の耳に、しかし次の瞬間、地上から予想外の声が届く。
「待って、スズ!」
「っ!?」
急停止し、振り返った私が見たものは──母の姿。
「お母さん!」
慌ててそちらへホウキの先を向けた、その瞬間、背後で魔力が膨れ上がった。
「あっ!?」
しまった。敵を倒さないうちに背を向けるなんて。
自分の愚かさを痛感し、再び振り返った私の周囲で再び何匹もの土の大蛇が形成される。けれど鎌首をもたげたそれらの視線は私でなくココノ村へと向けられた。
まさか!?
「ハハハ! 君の魔力には恐れ入った!」
「でも、これはどうする? 今度の狙いはお母さんだよ!」
「守ってみせてください、救世主さん!」
予想通り、こちらを見上げる母に向かって一斉に殺到する怪物達。私は余計なことなど考えず、ホウキを操って間に割り込む。
「させない!」
村の手前で巨大な魔力障壁を展開。押し留められる怪物の群れ。ところが数が足りないと見るや否やさらに無数の巨獣が生み出された。四方八方から押し寄せたそれらに同時に対処するため、私は大結界を起動させてココノ村全体を包み込む。
「くうっ!?」
敵はタイミングを合わせて攻撃。障壁に亀裂が走る。
「まずい……っ!?」
私の魔力は底無し。それでも出力には限界がある。しかも魔力障壁は範囲を広げるほど強度が低下してしまうもの。四方に埋めた呪物による補助があるとはいえ、村全体を包み込んだこの状態で瞬間的な火力を押し上げられたら、いくらなんでも──
「まだまだ終わりじゃないよ!」
焦る私を追い込まんと、今度は森の木々の根や枝が伸びて障壁に突き刺さった。先端を魔力で保護されている。
それらの貫通した場所からさらに無数の罅割れが発生して広がっていく。巨獣達がまた攻撃を仕掛けようと勢いをつける。
「駄目……!!」
あと一撃で結界が壊れる。もう絶対に耐えられない。
でも背後には母がいる。他にもまだ生き残った人がいるかもしれない。
瞬間、私の脳裏にここで過ごした八年間の記憶が駆け巡った。
守れなかった皆への想いが胸を締め付ける。
どうして? どうして? どうして!?
涙を流しながら、再び吠えた。
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
母を、この村をこれ以上傷付けさせない!
そう決意した途端、限界まで振り絞っていると思った魔力がさらに激しい奔流と化して結界を構築する術式に注ぎ込まれ、障壁を強化した。
それどころかソルク・ラサを放った時のように、青白い魔力の光は周囲に広がり全ての敵を飲み込みながら粉砕していく。
「げっ!?」
「や、やばっ」
「アイビー様、たす──」
仮面の三人もその光に飲まれ、跡形も無く消え去った。
「や……やった……?」
しばらく空中に留まっていた私は、やがて危険が去ったことを悟り、全身から力を抜きました。というか抜けました。そのままホウキからずり落ちて地上に落下。半分失神したような状態で墜落します。
魔力は底無しでも、気力と体力は別なのです。
「ちょっ、スズ!?」
慌てて真下に駆け込み、受け止めてくれる母。久しぶりの親子の抱擁。
ああ……張り詰めていた神経が和らぐ。このまま眠ってしまいたい衝動に駆られ、瞼を閉じる私。
ところがそこへ予想外の声。
「そう、それが大事。今の感覚を忘れないようにしなさい。それが貴女の本当の全力」
「へ?」
すっかり聞き慣れた声に目を開き、顔を上げると、アイビー社長が目の前に立っていました。今日に限って実験室に姿の無かった彼女は、何故かココノ村にいたのです。
さらに──
「ひーん、死ぬかと思った」
「ひどいですよアイビー様。やっぱり危なかったじゃないですか」
「流石は神子様だなあ。むっちゃくちゃ強かったよ。社長達の力を借りても全然歯が立たなかったじゃん。虎の子のテムガントまで壊されちゃったし」
魔力障壁に保護されアイビー社長の頭上に浮かんでいるのは例の三人組。仮面が外れて素顔を晒しています。やはり三つ子だったようで全員同じ顔。黒髪に暗金色の瞳と褐色の肌──って、待ってください、もしかして貴方達は!?




