あらすじ発表会とフィードバック編
小説家養成ゼミの冒頭、講師の関根先生がサプライズを予告しました。
「講義のさいごに、受講者のみなさんが書いている作品のあらすじを聞かせてください」
この場で小説のあらすじやアイデアについて発表して、関根先生が編集者視点からアドバイスをフィードバックしてくれるそうです。
「一番おもしろかった受講者にはプレゼントがあります。書いていない方は構想段階のアイデアでいいですよ。休憩時間に考えてみてね」
結論から申し上げると、わたくしが一番になりました。いえー!
本エッセイのタイトル「おみやげをもらった」は、この時いただいたプレゼントを指しています。
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小説家養成ゼミに限らず、ライター系ワークショップで指導する講師といえば、現在活躍中の商業作家か、あるいは編集関連の仕事をしている方です。
私がお世話になった関根先生は後者になります。
顧問講師には文芸編集者歴26年、実業之日本社で文芸編集長まで務め、現在では、どんでん返しをテーマにしたアンソロジー編集や評論も手がける関根亨氏を迎え、完全なるプロの視点での講義や作品の講評を実施。(http://tenro-in.com/event/81257の紹介文より引用)
小説について学ぶためにゼミに参加しましたが、あらすじ発表会は予想外。青天の霹靂です。
小説家になろうで書き始めて約半年(※ゼミ受講時)。
幸いにもいくつか感想やレビューをいただき、SNSで自作の小説について話したりもします。
ですが、リアルな人々の前で、しかもプロの編集者を相手に自作を発表するのは初めての経験です。緊張しないわけがない!
私の作品といえば、「7番目のシャルル 〜狂った王国にうまれて〜」
ジャンルとしては歴史小説ですが、マイナーな時代(15世紀フランス)とキャラクター(シャルル七世)を取り扱っているため、あらすじを発表する前に時代背景について説明した方がいいだろうと考え、休憩時間にあらすじをまとめました。
スマホでなろうにアクセスして、公開済みのあらすじを確認するも、「このままじゃ使えない!」と却下。
こうなったら突貫工事で説明文を作るしかない。
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ついに、あらすじ発表会のお時間がやってきました。
ただでさえドキドキするのに、人前でけなされたら凹みそう。
いや、今日はシャルルをブラッシュアップするために来たんだから、どんな評価も真摯に受け止めよう。ドキドキ、すーはー(深呼吸)
私の番が来て、少し早口になりながらも自作のあらすじとコンセプトについて話しました。
「小説投稿サイトで、マイナーな時代の歴史小説を書いています」
手前味噌ですが、ざっくり紹介します。
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小説の舞台は15世紀フランス、百年戦争です。
一般的にはジャンヌ・ダルクが有名ですが、ジャンヌのおかげで王になったのに恩人を見捨てたと言われている勝利王シャルル七世が主人公です。
百年戦争は、フランス王位をめぐる英仏間の戦争で、その名の通り、とても長い戦争です。
シャルル七世は戦いが始まってから五代目の王になります。父親は狂人王と呼ばれるほど精神を病んでいて、母親はフランス王国史上最悪の悪女で淫乱王妃とも呼ばれています。主人公は、そんな国王夫妻の間に生まれた10番目の子で五男ですが、兄たちが他界したために14歳で王太子になります。実質、国王代理です。
しかも、実母とその愛人に命を狙われて王都パリから逃亡、百年戦争中、もっとも劣勢な状況下で王位を継承しますが、戴冠式を行うこともできません。
そこへ、かのジャンヌ・ダルクが登場して窮地を救われますが、シャルルが王位に就いたのもつかの間、ジャンヌは敵に囚われて火刑に処されます。
ジャンヌ・ダルクの物語はここで終わりますが、実は、戦争はまだ続いています。火刑から終戦まで25年もかかっているのに、ジャンヌ後のエピソードに触れた物語は、私の知る限りではどこにもありません。あるなら教えて欲しいくらいです。
誰も書かないなら、いっそ私が書こうと思いました。
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以上、ゼミのあらすじ発表会では、そんな風に紹介しました。
関根先生は「自分はあまり西洋史には詳しくないけれど、おもしろいコンセプトだと思う」と前置きすると、「原稿用紙で何枚くらい書きましたか」と質問しました。
ネット小説界隈だと字数換算がメインですが、一般文芸の世界では四百詰め原稿用紙の枚数で計算します。
小説家の収入は、印税と原稿料です。つまり、原稿用紙の枚数は収入に直結する超重要項目と言えます。私はとっさに答えられませんでした。
知らなくても叱られたりしませんが、知っていた方がスムーズに意思疎通できます。
「ジャンヌ後のエピソードに触れた物語は、私の知る限りではどこにもありません。あるなら教えて欲しいくらいです」
この部分に関しては、「参考にした小説はありますか」と聞かれたときの回答で、文芸誌の編集長まで務めた先生に対して生意気な発言だったな……と、後から反省。
ですが、「あるなら教えて欲しい」は本音です。私が読みたいので!
いくつかの質問の後、フィードバックをいただきました。
個人的に、とても参考になったのが一人称で歴史を書くコツ。
ちなみに、拙作は原稿用紙500枚くらい執筆していました。(※ゼミ受講時)
まだ主人公は14歳で、ジャンヌすら出てきません。このペースで百年戦争終結まで何年かかるやら。
あらすじ発表会で1位に選ばれ、プレゼントをいただきました。
(確か)関根先生が関わった書籍がずらっと並んでいて、「お好きな本を差し上げます」と勧められ、私は綾辻行人先生の「深泥丘奇談・続々」を選びました。装丁がめちゃくちゃ美しい。
綾辻先生といえば館シリーズですが、個人的な思い出としては、私がまだ可愛げのあるJKだったときに「殺人鬼」を読んで吐いた記憶が……ティーンの女の子が読む本じゃないですね(褒めてる)。何もかもが懐かしい。
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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
本作は小説家になろう向けレポートとして書きました。
こんな末尾まで読んでくださった方にお礼を兼ねて、役に立ちそうな情報をひとつ。
ネット小説界隈でよく聞かれる常識——たとえば「三点リーダーは2個」や「感嘆符の後は1字空き」などは文芸誌の選考で重視していません。
その代わり、小学校で学習する作文ルール——たとえば「段落はじめの1字空き」などができていないと大分よろしくない。
業界の専門知識は、後からいくらでも知る機会がある。校正で直すこともできる。
それよりも、一般常識や教養が身についていない方が厳しい。
だからと言って公募作を読まずに落とすことはしませんが、編集者視点からの第一印象は良くないそうです。
公募にチャレンジする方はご注意ください。基本がだいじ。