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出発前に

 その後も次々に退治屋達が到着した。

 中には敬子よりも年下の子供を弟子に連れている退治屋もいる。

 これから宮殿に乗り込むというのに、こんな小さな子供を連れて大丈夫なのかと敬子は不安に思った。


 最初に着いた三人組の他に、小さな子供を連れた親子二人組、壮年の男の二人組も今回共に退治に向かう仲間である。

 遅れて最後に現れた豪也よりやや年上の男の退治屋は弟子を三人も連れていた。


 先程から麗華が過剰なくらい甲斐甲斐しく退治屋達の世話を焼いているが、男達は満更でもない顔をしている。

 以前、敬子達の故郷でよく見られた光景だった。


「私も宮殿に行くわ」

 麗華が退治屋達に宣言している声を聞いて、敬子はぎょっとした。


「豪也さん! 麗華が、宮殿に行くって……」

 慌てた敬子の言葉に、豪也は言いにくげに答えた。

「巫女様は祖母の顔を認識できるのは自分だけだと主張しだした……宮殿内を案内できるのも自分だけだと」

「連れて行くの?」

「……仕方あるまい」

 麗華の同行に、敬子は一気に気分が重くなった。


「敬子、もしかしてあなたも来るの?」

 耳聡く、近くで話を聞いていたのであろう、麗華が声を掛けてきた。

「あなた、まだ退治屋になったばかりでしょう? やめておいた方が良いわ」

 麗華はいかにも心配していますと言う風な空気を出している。実際、そう言う気持ちもあるのだろう。

 彼女は、博愛の精神の持ち主なのだ。


「悪いけど、私は豪也さんに付いていくよ」

「でも……はっきり言って、あなた足手まといよ」

 麗華には言われたくない。足手まといなのは麗華も一緒なのだ。

「今回の事は私にも責任があるから、人任せに出来ないの……約束もあるし」

「こんな時にまで、変な意地張ってるんじゃないわよ! 退治屋の皆さんに迷惑でしょう」

 一番迷惑をかけているのは麗華だろう、という言葉は飲み込んでおく。確かに敬子が退治屋としての経歴が浅いのは事実である。


「でも、自分の身くらいは自分でなんとかするから心配ご無用よ」

「敬子、我が儘もいい加減にして! ここは神楽の里じゃないし、あなたはここでは里長のお嬢様じゃないのよ!」

 麗華は軽蔑を込めた目で敬子を見ている。それを見て、敬子は嫌でも気が付いてしまった。


 ああ、彼女はずっと自分のことをそういう目で見ていたのだ。

 我が儘で権威を振りかざす、高慢な里長のお嬢様だという目で。

 自分が巫女に選ばれた時はさぞかし、溜飲が下がる思いをしただろう。


「私は、退治屋よ。あんたが何と言おうともね」

「敬子、あなたもう里に帰った方が良いわ。これ以上は……」


「それは余計なお世話ってやつじゃない?」

 横から第三者の声が割り込んだ。

「……香葉?」

「敬子が退治屋の仕事でのたれ死のうが、巫女様には関係ないでしょう?」


「あなたは……」

 麗華が目を丸くして香葉を見た。香葉の外見は巫女にも通用するらしい。

「駄目よ、従姉として彼女に危険な目に遭って欲しくないもの。敬子が目の前で怪我をするのなんて見てられないわ。あなたも、あんまり敬子を調子に乗らせない方が良いわよ、この子は世間知らずだから少し煽てられると直ぐにその気になるの」


 麗華の言う通りだったので、敬子は唇を噛んだ。

 敬子は自分自身が世間知らずだということを嫌という程自覚している。加えて、超の付く不器用だ。

 狭い里の中の長の邸の中で、巫女になる為だけに行動して生きてきたのだから、当然の結果だった。

 巫女になる望みが絶たれた後は、豪也や香葉の言葉に絆されて、空や海の怪我に頭に血が上って……それだけで退治屋になっている。

 反論することは、出来なかった。

 もちろん、立派な退治屋になる為に毎日努力しているが、まだまだなりたてで使い物にならないということは自分が一番良く分かっている。


「敬子はそんなにヤワじゃないよ? 何だかんだ図太い人間だもの」

 横から香葉が、微妙な助け舟を出した。

「あなただって、敬子の実力のなさは分かっているのでしょう? 敬子、悪いことは言わないから同行するのはやめておきなさいよ」

 麗華も、引くつもりはないらしい。


「麗華、悪いけど私は行くよ? 足手まといになる行動は避けるし、もし私が枷になるなら捨て置いてくれても構わない」

「敬子!」

「心配しなくても捨て置いたりしないよ。敬子が死んだら肥料にしてあげる」

 麗華の前だというのに、香葉は問題発言をかました。

 しかし、麗華は文字通り土に帰るという意味で解釈したらしく、香葉の正体に気付くことはない。

「そりゃありがたいわ、ありがたすぎて涙が出て来る。死ぬつもりなんてないけどね」


 酷い発言だが、香葉のおかげで敬子はいくらか心が軽くなった。もう、麗華と話すことなどない。

 敬子は踵を返して、豪也や香葉と一緒に武器の手入れをしに向かった。

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