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侵入

 いよいよ、退治屋一行は宮殿に向かった

 動くのは、皆が寝静まった夜だ。流石に、白昼堂々と宮殿に乗り込むわけにはいかない。

 辺りは静まり返っており、宮殿の周囲に人の気配はない。

 灯りもなく、月も雲の中に隠れており、辺りは闇に包まれていた。


 麗華曰く、宮殿にはいくつかの入り口があるらしい。

 退治屋達は、二手に別れて各入り口から侵入することになっていた。

 敬子は豪也達と一緒に行動しており、麗華とは別行動だ。仲の悪い敬子と麗華を、別々で行動させる判断を下した豪也は正しい。


 宮殿の周りには薄くだが、結界が張られていた。敬子の祖母、巫女の力だろう。

 他の妖を侵入させないという意味では役に立っているようだが、すでにこの宮殿には妖が巣食っている。無意味な結界だった。


「香葉、あんたはこの穴を通ってよ」


 妖である香葉は、宮殿の結界をくぐり抜けられない。

 外で待機だと言われていた香葉を宮殿内に侵入させるため、敬子は結界がある部分を弄って穴を開けた。巫女の結界の力がだいぶ弱まっているのか、すんなりと結界が割れて入り口が開く。

「おい、豪也の連れているあの子は何者なんだ?」

 共に行動している数名の退治屋達が、敬子の所業を見て動揺していた。


「敬子って、案外役に立つね。僕まで宮殿内まで侵入できるとは思わなかった」

「香葉が私に宮殿に来いって言ったのは、こういう意味もあるのかと思っていたけど……」

「僕は敬子が結界を張っているところなんて、見たことがないもの」

「そう言えばそうだね……」

 蛇に襲われた時にいたのは豪也だけで、階下にいた香葉は結界を見ていないのだ。


「……危なくなったら、結界に立てこもるわ。邪魔はしないつもりだよ」

「そうだな、そうしてくれると助かる」

 豪也が敬子に同意した。彼が同行を許した理由は、敬子の結界のことを知っていたからだろう。


 二手に別れた退治屋達は、敬子の祖母を救出する役目と、妖の親玉を叩く役目を負っている。

 前者は麗華達、後者は敬子達だ。

 麗華に大まかな見取り図を貰っている敬子達は、揃って宮殿の一番奥へと向かった。


 宮殿の中は、不思議なくらい人間の気配がない。

 普通であれば、深夜であっても宮殿の中で働く者達がいる。

 怪訝に思いながら足を進める退治屋達が廊下を曲がった瞬間、近くの壁際で何かが動いた。

 チチっと小さく声を上げて、敬子の足下を素早くくぐり抜けたそれは、豪也によって一瞬にして捕えられる。


「……なんだ、鼠か」

 ただの鼠に害はないと判断した豪也は、それを香葉の方へ放り投げた。

「鼠だね。食べて良いの?」

 敬子は、鳥肌を立てながら彼と鼠を見る。

「あんたって、鼠も食べるの? 出来れば、私に見えないところで食べて欲しいわ」

「……そんな事言われてもなあ。これ、小さいけど逃がすと厄介だと思うよ」

「どういうこと?」


 香葉は、小さく暴れる鼠をつまみ上げたまま退治屋達に告げた。

「こいつ、他の妖の匂いがする……この宮殿の中に、鼠を使役している奴がいるよ」

 彼は植物の妖だが、同じ妖に対しては鼻が利く。信ぴょう性のある言葉を聞いて、敬子はぞくりとした。

 もう、かなり近くに妖がいるのだ。

 ここは、祖母を捕え宮殿を牛耳る妖の縄張りの中で、いつ物陰から敵が飛び出して来てもおかしくない場所である。

 敬子の手のひらには、嫌な汗が噴き出していた。

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