第四話 影を照らすもの
前回の話
違法世界の物品を違法取引している可能性があるやつと激突
岩陰でハインはニヤニヤと笑う。光が差すこちらまでは来ないようだ。仮説に基づいて作戦を立てる。たとえ仮説が外れていてもリスクは少ない。
「陽向!ライトを投げてくれ!」
思いっきり声を張り上げる。陽向は驚きながらもライトを慣れない素振りで投げてくれた。
ライトを受け取り左手に携えて再び近寄る。
今度はデマカセでなく刀を振るう。当然当たることなく闇に消える。俺はライトを……いや、影を照らす剣に光を宿す。辺りをなりふり構わず照らしていると影の中からハインが飛び出てきた。仮説は当たった。ハインの固有魔法は影だ。多分繋がっている影を自由に潜ることができるのだろう。厄介な能力だが光の剣の前では使い物にならない。
飛び出た隙を逃さない。素早く峰打ちをして意識を飛ばす。声にもならない声が岩陰に木霊する。
張り詰めていた糸が緩むように体の力を抜く。息を整えながら凍玻璃を鞘にしまう。……何か忘れているような。
ビリビリと音を立て、突如全身に電撃が回る。力が入らずたまらず床に突っ伏す。何が起こったのか分からない。
「完全に気絶してやがる。とりあえずこの場所を後にしないと。」
ハインを静止させようとしていた男の存在をその声を聞いて思い出だす。確かレオンと呼ばれていた男に魔法か何かされたのだろう。完全に油断していた。
目の前で引きずる音が聞こえるが身体が言うことを聞かない。
少しして妙に癖になる匂いと共に聞いたことのない獣のような低い唸り声に近しいものが広がり、地面が揺れる。魔物が出たのかと警戒するが何事もなく杞憂に終わった。
異世界の技術様々だ。賭けに出て使用してみたが、耐久力が強いという鬼族にも効くとは。確かスタンガンと言ったはずだ。俺の固有魔法を補ってくれるまさに夢のような機械と言える。この車も便利だ。転移魔法のように一瞬とは言わないものの十分な移動能力に驚愕する。
それはそうとハインが派手にやってくれたおかげでツアーガードに目を付けられた。ボスにどう報告しようか……
ハンドルと呼んでいた円盤を弄りながら考える。
やがて目的地に着き車を停めたがハインは目覚める気がしない。先に降りて安全確認をするとしよう。
排煙の匂いに包まれる中、見回すと辺りは不気味なほど静かだった。
「お前が罪を犯した奴か。」
静寂を破る明るい声が響く。いつの間に背後を取られていた。
振り返り携帯していたスタンガンを向ける。ビリビリと音を立てて再起不能を狙う。だが向かう腕は強く捕まれ、うめき声が漏れる。
「お前の対応は後だ。」
掴まれた腕は勢いよく投げ出され体もそれに従い投げ出される。全身に刺激を受けヤツに目を向ける。空いてる車の扉からハインを物のように地面に叩きつける。
「お前は死刑だ。」
持っていた刀を抜刀すると刀身が影を照らす程の明るさで光っていた。ハインに勢いよく刃が向かい両断したと思った瞬間バチバチと音を立て燃え尽きた。焦げるような匂いが鼻腔をつく。生存本能に駆られ四肢を必死に動かしその場から離れようとする。
「逃げるなよ。」
風を切り地面の響きが伝わる。次の瞬間意識が途絶えた。
「だ、大丈夫ですか!」
やんわりとだが自身を心配する声を受け取って、嗅覚や視力を段々と取り戻し目を覚ます。
「動かない……」
体を起こそうとするが体のしびれがそれが阻む。一体どんな魔法を使われたのだろうか。
「む、無理に動かないで下さい。……目が覚めてよ、よかったです。えへへ。」
彼女の声だとわかり再び力が抜ける。
「陽向か。怪我はないか。」
「は、はい。お陰様で。」
少しずつだがしびれが取れてきた。思いっきり体を押し上げると土の香りが離れていく。地面に突っ伏した子供の頃の記憶が溢れそうになった。
「意外と元気そうじゃねえか!」
岩陰の外から聞き慣れたうるさい声を持つ男が現れた。
「炎魔。応援できてくれたのか。」
「そうそう。ところで違法取引してた奴らはどこにいった?」
「……悪い。逃げられた。」
途切れの悪い言葉で答えるしか無かった。炎魔は何度も頷いて理解した様子だった。
「そうか。まさか最強さんが負けるとは。すげぇやつだな。」
皮肉を言うように俺のことを最強と呼ぶ。まぁ俺自身も負けるとは思わなかったから何も言えない。
「まぁ逃げられたならしゃーない。明日上司に報告しとけよ。」
「ありがとう。助かった。」
「そのうち凍玻璃も俺のものになるかもな。」
「……」
「じゃあまた明日な。氷牙、陽向ちゃん。」
捨て台詞のように吐いてすぐに消えてった。隣を見ると陽向が小さく手を振っていた。なんか緊張感が消えていく。
「俺達も帰るか。」
「そ、そうですね。」
近くの町の転移魔法陣に向かった。その道中にあった笑いの花畑は何事もなかったように静かだった。
「そ、その凍玻璃?って大事なものなんですか?」
疲れ切って特に会話がない中で陽向が唐突に質問をしてきた。俺は刀を見やり過去を思い出して黙ってしまう。
「ご、ごめんなさい。愚問でしたよね。いつも持ってるから大事なものに決まってますよね。……え、えへへ。」
早口で謝罪をまくしたてる。何もそこまで謝らなくてよいのだが……
「いや謝らなくて良い。……そうだな。すごく大切なものだ。こいつは俺を認めてくれたからな。」
「認めてくれた?」
立ち止まり刀身を抜く。月光が反射して白く光る。
「これは妖刀で村で一番強いやつが使うことを許されている。」
「そ、そうじゃない人が使うとどうなるんですか?」
思ってくれた質問をしてくれてこちらも話しやすい。
「理性を失って力に飲まれる。」
カチャンと金属の響く音が夜に蔓延する。
「ひょ、氷牙さんはやっぱり強いんですね。私のバディでよ、良かったなぁ……なんて」
最後の方になると声が小さくなっていって聞こえづらかったがまぁ良い。
しばらく歩いて社宅に着いた。そろそろ体を休められそうだ。
「つ、着きましたね。きょ、今日はありがとうございました。」
びっくりするほどの90度で頭を下げて感謝を伝えてくれる。
「こちらこそありがとう。おかげでいろんな景色が見えた。」
頭を上げたその顔はほのかに赤くなっているような気がした。また明日と言い、すぐに自身の家の方へと向かっていった。
俺は再び凍玻璃を見る。
「本当はあいつが持っていてほしかった……。」
誰に言うわけでもなく空に向かって言い放つ。
小話
氷牙は二本角、炎魔は一本角の鬼族




