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第5話

栃木B銀行に乗り込んだ翌日、突然私の仕事用携帯の電話が鳴る。

非登録番号だが、非通知でないのなら迷惑なセールス電話ではないか。


「はい、A信金、大山です。」


「栃木B銀行の加賀です。」


心臓が1回跳ね上がる。

抗議しにいって翌日に電話だと!?


「これから会うことはできませんか?

 もちろん外で。

 足利市の北にある丸茶喫茶という店は知ってますよね?

 お宅の融資先ですから。」


相手は同じ県内の上位銀行の部長。

所属も階級も上だ。

断ることはできない。


「そうですね・・・夕方16時からなら。」


「いいですね、一緒に直帰しましょうか。

 あ、隠語じゃなく、普通に終わったら帰宅しましょうという意味ですよ。」





なぜ、他行の人間がウチの融資先を知っているのか。

同業者間の情報交換で漏れることはあるが、それにしても加賀の口ぶりは「当然」すぎて薄気味が悪い。


何より、地銀の部長が、信金のいち課長をサシで呼び出すなど、金融界の序列ではあり得ない話だ。本来なら役員が対応すべき事案であり、私一人で会うことは礼を失するどころか、組織としての自殺行為に近い。


(ただ事ではない――)


何度目か分からない違和感が、胸の中でどす黒い塊となって膨らんでいく。

私は営業車ではなく、あえて自家用車を走らせた。組織の看板を脱ぎ捨て、一人の人間として対峙しなければ、飲み込まれると直感したからだ。


カランカラン。


レトロな本格ロマン喫茶『丸茶喫茶』。

客足はまばらだが、一杯900円という強気の価格設定が、この静寂を支えている。


「お待たせしました」


窓際の席に、加賀はいた。

昨日のような隙のないスーツ姿ではなく、少し崩したジャケット姿だが、その眼光の鋭さは隠せていない。


「大山課長。……コーヒー一杯、九百円。高くなりましたな」


挨拶も抜きに、加賀はメニュー表を指先で叩いた。


「この物価高ですから。これでも経営はギリギリですよ」


私は加賀の向かいに腰を下ろした。


「ドル円は170円超え、ユーロも190円台ですからね。エネルギーも資材も、外から買うものはすべて、この数年で倍になった」


加賀が窓の外を見つめながら、独り言のように呟く。

2029年、日本の通貨価値は歴史的な暴落の渦中にあった。地方の工務店が資材高騰で潰れ、電気屋が大手との価格競争に敗れる。その「マクロの絶望」が、今、このテーブルの上に影を落としている。

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