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番外編 お酒と気球と香辛料と 前編

魔笛読了推奨です。

スグルがアクアレイア滞在中のお話です。




「・・・・・タッ、タッ、タッ、タッ、タタタッタッタ、タッ、タッ、タッ、タタタッタッタ~~~~~、デデェ~デデデェ~~・・・・・デデデッデ!!・・・・・たらりらりらりらたらりらり~!!」


現在、スグルは草むしりの真っ最中。

その最中(さなか)に古くは火曜に繰り広げられるサスペンスのテーマソングを熱唱。

と、言っても鼻歌だが・・・・・。


「ダ・ダッダンダ・ダンッ!!ダ・ダッダンダ・ダンッ!!チャラリ~~ラリ~ラー・・・・・チャラリ~ラーリラ~~~・・・・・ダ・ダッダンダ・ダンッ!!失せなっ、ベイビー!!」


歯をキラリッとさせながら、決め台詞!!

その声に草陰に居たウサギは腰を抜かして逃げていった。

ターミネーター2で泣いた人は少なく無いぜとか考えながら、草むらでごそごそ。

スグルの思考は既に戦慄を催すほどだったが・・・・・。


「パラッパッパッパー、アイム・ラブ・イットッ!!」


今度は某大手ハンバーガーメーカーのCMを力強く口にする。

にやにやと草むらで。

再び“アイム・ラブ・イット”

それも力強く。



断言しよう、だいぶ頭の弱い状態である。

とても、17の所業には思えない。

町で見かけたら、間違い無く居ない者とされるか、警官を呼ばれるかするだろう。

人によっては腕の良い(・・・・)精神科医を紹介してくれるかもしれない。

というか、是非とも紹介してあげて欲しい。


しかしながら、スグルに他意は無い。

誰だって人目が無ければ・・・・・機嫌が良ければ鼻歌のひとつぐらい歌うだろ?と思っている。



 ここはアクアレイアから馬を1時間程走らせて、ようやく着くという場所。交通という便では、なかなか難儀な所にある。先ほど草むしりといったが、正確には“薬草摘み”の最中なのである。



「・・・・・ふふふ、ふ~ん、ふんふんふん、ふふふふふっふーんっ!!」


・・・・・なにはともあれ、彼はご機嫌だった。




+++ +++ +++ +++




「ほぉ~、『初級者訓練・・・一日でわかる!使える!!薬草・香草・食用草・毒草の見分け方!(アクアレイア近辺限定)』・・・・・ギルドはこんなものまで扱ってるのか~。―――使える!!―――の(くく)りに毒草が混じってるのは・・・・・どうかと思うけど」


「この手の教習訓練は冒険者に成りたての方を優先に斡旋(あっせん)しています。受講料がかかりますが、いざと言う時に知識があるのと無いのとでは大違いです。・・・・・強制ではありませんが、こちらも死なせるために冒険者を輩出してる訳ではありませんので、多少の金は惜しむべきでは無いと思われますが?」

今日も今日び、クールに無表情を保つ受付嬢、フィオが居る。

対面には物語の主人公こと、スグル。



 かる~く雑用系で日雇いの仕事など探そうとギルドに寄ったスグル。

 その手のものは冒険者で無くとも請けられる為、かなり早い段階で捌けていく。幸い、アクアレイアは商業自治の町だ。魔物退治から、臨時の船の荷卸しの手伝いなどまで、多くの仕事があるために仕事に困る事は少ない。

 また、流通の流れが速いため、急ぎの仕事は掲示か受付が直接斡旋、なかには指名が入る事もある。

 そんなこんなで、仕事ではないものの、ある意味これも指名と言えるのかもしれない。


「・・・・・ええと、遠慮してもいいっすかね?今のとこどっかに大きく遠征する予定もないですし・・・・・お金かかっちゃうんですよね、これ?」

スグルは特有のケチケチ根性を見せ渋った。

タダ、もしくはお金が入るならともかく、わざわざ勉強に金を払うなんてっ!!

高校生の年代としては割と当り前の感覚かもしれないが、スグルは金勘定にうるさい。このご指名(・・・)に輪を架けて不満感を示している。


そこのとこ彼の金銭感覚はかなりシビアなのであった。




―――しかし―――



軽く首を傾げて、

「・・・・・前回、リッチを仕留められましたよね?」


「まぁ、記憶に新しい出来事ですね」


ずいっ、と身を乗り出して、

「・・・お金、有り余ってますよね?」


青い髪が顔に掛かりそうになり、多少、身を引きながら、

「いっえっ、え~~~~・・・・!いや、まぁそれもそうですけど・・・」


居住まいを正し、これ見よがしにため息をひとつ。

「・・・・・はぁ、リッチのしずくを持ってこられた時。言いそびれたのですが・・・・・リッチには出来そこないが居ます」


「出来そこない・・・・・?」


「リッチというモンスターは元々は魔術士・・・・・つまり人間だったものなんです」


「へ・・・・・?」

突然始まった話に困惑するスグル。


「そもそも、リッチは遭遇する事自体が稀な魔物です。その実態は人が永遠の命を望み、禁術を用いて己の魂を加工し生まれたものなのです。ですから、その物理的な危険度は個体差があり、相対する事でしか測れません。リッチと化した本人の力量、精神力、運・・・・・たいていは失敗して気の違えた化け物に成り下がります。成功したとしても、魔物化する以前の記憶がある所為か、人に対し非常に攻撃的です。

その半端な人間の知識を有する点とその行動の突発性がリッチの危険度を高めている原因と言えますね。

つまり、あなたが戦ったリッチは知識量も底辺、精神力もカス、運など皆無の出来そこないだったと考えるべきでしょう。だから、低ランクのあなたでも勝てたのです」


「ぐっ・・・・・何か容赦ない言い様ですね」


「当然の事を述べたまでです。ですから、たまたま(・・・・)ツイていた貴方は己の力を過信せず、このトレーニング・クエスト、略して『トレクエ』を請けるべきなのです。判りましたか?」

“きっ”と(こお)れるブルーアイの視線がスグルを突き刺す。


「うぅ・・・・・りゃ、略す意味あるんですか?」


わずかながら残っていた勇気に縋って反論。


・・・・・沈黙。

「・・・・・」


・・・・・・・・・沈黙。

「・・・・・」


・・・・・・・・・超・沈黙・・・・・・・・。

「すみませんっ!!余計なこと言いました!!」


フィオの無表情と相まう視線の破壊力・・・・・というか強制力は絶大な効果を発揮した。

冷気すら感じる彼女の無言の視線は、蚊ぐらいなら余裕で撃ち落せるレベルであった。決して、スグルがヘタレなだけではない・・・・・たぶん。

そんなわけで、スグルは首を縦に振ってしまうのであった。


「よろしい。では、この地図の場所に向って下さい。そこに講師の人がいらっしゃいます。受講料はその方に払って下さい」

肩をガックリ落し、料金(ユンロ)と引き換えに地図を受け取ってしまうスグル。

対して、無表情ながら“一仕事終えた”と言わんばかりに額の汗を拭うフィオ。

加えて、そんなフィオを暖かい目で見守る冒険者達。

「よっしゃー、フィオちゃん!ようやったー!!」「はぁはぁ、俺もフィオたんに睨まれてぇー!」「俺もっ!!」「俺は氷漬けが良いっ!!」「凍らせて差し上げましょうか?」「「「うぎゃーーー!!」」」

最近では、アホな光景が日常化されつつあった。




+++ +++ +++ +++




『トレクエ』講師、《薬草学者》兼《医療術士》のジョン氏は、アクアレイアの都市部からだいぶ離れた所で院を構えているようで、徒歩で行くには少々遠い。

ギルドの方から連絡が行ったのでサボる訳にもいかない。とはいえ、如何(いかん)せん遠い。遠い、遠いのだ。つまり、少しくらい遅れてもイイよね~?


「と、心の中で言い訳しつつ、リアとお昼を楽しむのであった」


「何を言ってるんだ・・・・?」


「モノローグです」


「ふむ、そうか」


「そうなのです」


スグルの挙動不信に比較的早い段階で慣れたリア。

(―――突っ込まれたら、ナレーションですって繰り返そうと思ってたのに・・・流された)


「それで、今日は薬草学の勉強というわけか」


「うん。薬草だけじゃなくて毒草やら食用の草?とかも教えてくれるみたい」



 スグルとリアは現在、外食中である。二人が泊まっている宿屋にも、こじんまりとした居心地の良い食堂が併設されている。しかし、昼食はランチタイム価格。スグルの強い主張で、必然的に外食が多くなっていた。

 流石に物流の激しい町なだけあって、めずらしい食品や郷土の絶品料理などもたくさんある。実際のところ、場所によっては宿で食べるより安い場合が多いくらいだったのだ。

 そんな理由で、二人の前には匂い立つ料理が所狭しと並べられていく。


「って、おいおい・・・・いくらなんでも並べられ過ぎだろ」


というか、これって・・・・・。


「食欲をそそれれる香りだが・・・・・確かに多いな。見た事の無い料理ばかりだし、ずいぶんと大盤振る舞いのようだが」


「う~ん・・・・・これってやっぱり、中華料理・・・・・?」


「知ってるのか?」


「いや、看板見た時から薄々そうじゃないかな、と・・・・・。俺もそんなに深く知ってるわけじゃないけど、どう見ても、これ、黒酢豚(くろすぶた)、焼き炒飯(チャーハン)水餃子(すいぎょうざ)、白葱・・・坦坦麺(たんたんめん)生春巻(なまはるまき)回鍋肉(ホイコーロー)・・・・・これは麻婆豆腐《マーボー豆腐》なのかな・・・・・?」


「全部知ってるじゃないか」

 つまらない嘘をつくな、という視線に慌てる。

「いやいやいや。これ、微妙に俺が知ってるのと食材違うけど、俺が知ってるものと同じ味付けだとすると・・・・・・・うん、うまい、味は保証するよ」


 散蓮華(ちりれんげ)で坦坦麺のスープをすくい、口に運ぶ。か、辛い・・・・・・けど、おいしい!!

 肉汁の滴る豚肉を噛み締める。脳の感覚を麻痺させる極上の香りが鼻腔を通りぬける・・・・・ふぉ~!!そして、例えようの無い旨みが舌の上に広がる・・・・・!!

 黄金のお米たちが口の中で暴れ狂う。・・・・・・米、ソレハ人類の奇蹟だと、今、分かった。

ともかく、どれもこれも文句無しにおいしかった。

 見れば、リアも一口目こそおそるおそる口にしていたが、その美味さに理解が及ぶにつれ、箸が進むようになる。二人は水の入ったグラスを相棒に、脳を直撃する辛さにすっかり引きこまれていった。

 中華料理とひと括りにするのは危険であるが、本場に優るとも劣らないと断言できるラインナップだった。



「・・・・・食べ切ってしまった」


「ふ、普段はこんなに大食漢じゃないんだが」


「殺人的美味さだったからしかたないよ」


「くっしかし」

終わった事を後悔しても仕方ないのに、と苦笑しつつ、つい思ったままを述べてしまった。


「いや、まぁ、辛いと食が進むって言うからね。大丈夫だよ、全然目立って無いし」

リアのお腹周りを見て言ったら、ものすごい顔で睨まれてしまった。

・・・・・本当に気にするような事にはなっていないのだが、少し無神経だったかも、と思い謝ろうとした次の瞬間。

「へい、杏仁豆腐お待ちっ!!」


「わぁ!!」

・・・・・デザートは別腹か。


「お夕飯、リアはどうするの?」


「ん・・・・・、スグルが良い店を教えてくれたからな、今度は私の番だ。・・・・・ん・・・・・、とっておきの場所があるんだ。そこでいっしょに食べよう」


「やった!・・・・・それじゃ、サクッと終らせてくるよ」


「・・・・・ん、そうするといい・・・・・終わってしまった」

白磁のレンゲを残念そうに下げるリア、ちょっと笑いながらスグルは言った。

「はい、手付けてないから・・・・・俺の分もあげるよ」

(―――さっきのお詫びも兼ねて、ね)




+++ +++ +++ +++




と、そんなわけで馬を飛ばし、ジョン氏から実地でレクチャーを受けているのである。

・・・・・夕食会を楽しみに。





すずかぜです。

中華料理、おいしいですよね~。作中では中華料理とひと括りにしてますが、いろいろとごっちゃになってます。本当は三東料理とか四川料理とか細かく書きたかったんですが、関係ないので、省きました。

内容的には魔笛につながるお話を作ろうと考えていたのですが、それこそほとんど関係ない感じに・・・・(笑)

今後がちょっと、アレなんで・・・・・まったりとした風味に仕上げていきたいですね。

それでは、ごゆるりと

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