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第33話   視覚的→感情的

多少追加。ほんとに少しです。




「きゃっ!?」

「だいじょうぶ?」

「あ、ありがとう・・・・兄さん」

 吹き荒れる風に倒れ込みそうになるサラを支える。


 こういうのをソニックブームっていうのかね?

 ジンが引き起こす剣舞の嵐は大気を巻きこんで、地上にまで被害を及ぼしている。

 この有り様じゃあ、卦繋法の使えない人はやはり近づけないだろう。


「皆さんご無事でしたか」

「・・・・フランさんとミケ」

 よかった二人とも無事だったようだ。

 怪我をしてる様子もなく、心配するとすれば雨に濡れて風邪を引くことぐらいだろう。



「それにしても、すごいことになってるにー」

「あの・・・・ジーナさん達は」

「・・・・なんとか大丈夫です。私の魔法でぎりぎり防げましたから。それより・・・・あそこで戦っているのはジンですか?」

「・・・・みたいですわね・・・・・」

 気のない声でティナが答えた。


「だいじょぶ、だいじょぶ!!ジンちゃんがアレを使ったらものすごく強いから」

大きく腕と尻尾を振って言うのに対し、

「・・・・魔眼で見る限り、五分五分ですけどね」

眼鏡を“つっ”となおしながら言った。

彼女の目には薄く紋様が浮かび上がっている。


「フランちゃんはいけずだにゃ~」

ミケの頬がぷくーとふくらむ。


「ミケはいけ図々しいですけどね」

「う・・・・うまいこと言ったつもりかにゃぁ!!・・・・・うまい?うにゃっ!ぜんぜんおいしくないにゃ!!」

「ま、まぁまぁ・・・・・僕達も二人が元気そうで安心したよ、ねっ?ティナさん」

「・・・・えぇ、そうですわね」

2人によって和やかな空気つくられたが、ティナは気もそぞろといった様子だ。

不意に、サラやティナ達が話す声が遠ざかる。


―――瞳が涙をためる時のようにカッと熱くっ!



ジンは構えを変え、一撃の勝負に持っていくようだ。

しかし、

「あのままでは当らない(・・・・)


―――なんとなく、ワカル・・・・・。


(―――感じる)


ティナの不安。

これはジン達の勝敗が気になっているわけじゃない、怖いのは・・・・・オレ?

いや、俺が怖いんじゃなくて、俺に何かあったらどうすればいいのかという恐怖。


サラは何かを誤魔化そうとしている。

これは理解できない事への拒絶感・・・・・?

それとは別に・・・・・知っているようで・・・・・知らない、いや覚えが無いという困惑。

だけど、知りたい。

これはまだ自分でも気づいてないのか?

それと危険に対する危機感か・・・・・。


「・・・・スグル」


声は遠ざけられる。



フランの信頼感。

これはジンに対する絶対的なもの。

そう、それは正しい。

けど・・・・・これは裏切られることになる。


ミケの直線的な好意。

フランが持つものとは似て否なるもの。

彼女は知っている・・・・・誰もが弱さを抱えている事を。

だから、気がついている。

本能的に、感覚的に恐れている。

カラ元気とは違う無意識上の恐れ。


それは見えずとも、()える。

・・・・・ほら。


爆煙が晴れたさきにはグレンが無傷で立っていた。


「あぁ・・・・・!!」

「・・・・っ!?なぜっ!!」



(―――見えるのではなく知る―――視る―――ことができる)



ジンの闘志。

グレンと戦う事はつらい。

やり場の無い怒り。

でも、そこには強い者と相見(あいまみ)えることに対する興奮と賞賛・・・・・?

勝負を楽しんでしまう。相手に(とど)めを指す事を躊躇(ためら)ってしまう。

この人は本質的に戦う事が向いて無いのかもしれない。

傷付くことは出来ても、傷付ける事は出来ない・・・・・したくない。

・・・・・彼の言う通り、甘い。

だから・・・・・こんな単純なトリックに引っかかる。


「蜃気楼ですよ」

「しんきろう・・・・?」

「空気を熱して鏡を作り、位置情報を誤魔化したんです。」

「君っ!!その目!?」


フランの声も遠ざかり、またスグルは内面に埋没する。



(―――感じる。)

妙な気配がひとつ・・・・・いや、二つある。


一つは単純に押し殺した気配。

かなり上手に隠れているものの、今の自分には分かった。

その人物の視線はグレンに注がれている。

心配と期待と・・・・・・恋慕(れんぼ)に近い親愛の情、使命感も感じられる。

これ以上読み取るのは気が引けて、意識を移す。



もう一つ、これは隠れ方が完璧過ぎて不自然だった。

例えるなら、水彩画の風景に描かれた雲。紙の上全てに色が塗られているのにここだけ(・・・・)白い絵の具が塗られていない。正しいはずなのにおかしい・・・・・・ぽっかりとあいた空白(ブランク)


(―――この人は・・・・・ヒトなのか?)



スグルはこれらの事をジンが《迅雷》を放った後、数秒間に知る事が出来た。


だんだん分かる事が増えてくる。



チリッ、チリッ、バチッ・・・・ッ!!



ついにというべきか、グレンが卦繋法を雷に切り替えた。

これもスグルには起こると分かっていた。


「・・・・あぁ」

「・・・・なんで・・・・・?」

「これはまずいんじゃ・・・・」

「・・・・」


(―――感じル。)


ミケのそれは無意識上のものから理解に繋がる・・・・・諦め。

フランのは逆に理解の追いつかないのだろう。

サラ、ティナのは・・・・・やはり、不安と恐怖。


(―――酔いそうだ・・・・)


人が抱える感情は複雑で奇妙で・・・・・。

分かる・知覚する・認識する・感じる。

言葉は千差万別だけど、司るものに大きな違いは生まれない。

感情は複雑怪奇だから、他人が簡単に推し量れるはずが無い。


(だけど・・・・・セカイは大きく広がっている。

この無数にあるもの全てを見る必要は無い。

このセカイ(・・・)を論理立てて枠に収める必要も無い。

当然のものとしてそこに存在するのだから、視るだけでいい。

視ることは知ることなんだ。

時はただそこにあり、流れるのを当然としている。

人が時の流れを常に意識してるわけじゃないのと同じことだ。

ただ、感じるだけ・・・・・簡単だろ?)


(―――だ、れだ・・・・あん、た?)


(―――自分で()てごらんよ)



 グレン・・・・・彼の感情が一番複雑だ。

 まず、痛い。

 大声で泣きたいのに泣けない。

 大声で叫び、名乗り挙げたいのに怖くて出来ない。

 そして、彼はその手の事に耐えるのに慣れてしまっていた。

 だから、“面倒”というスタンスを取った。

 戦うことはつらい。

 でも、ジンとは決定的に違う。

 守るためなら、どんなに傷付け、傷付けられる事も躊躇わない。

 痛みは負うべきものだと考える。


 強いけど、痛くて、破綻(はたん)してる。

 言葉は誤解を生む、なれどこの選択は本当に正しいのか。

 その迷いはあるけれど、一度型にはまったものを覆すのは難しく。

 彼は結局いつもの手段を取った。

 すなわち、力ずく。

 失うぐらいなら(・・・・・・・)壊してしまう(・・・・・・)ほうが良い(・・・・・)。それが幸せにつながる。

 ジンの傍には支えてくれる人がいるのだから・・・・・。

 わざわざ、茨の道を歩む必要は無い。

 いろんな迷いがあっても、それを貫く精神と強さを彼は持っていた、持ってしまっていた。



(―――なるほど、ね)



大気が一斉に震えあがり、視界は雷光に埋め尽くされた。

グレンの《陣雷》が炸裂したのだ。




「ジンッ!!」

「ジンちゃんっ!!」


驚愕(きょうがく)と恐れの悲痛な叫びがフランとニケの口から放たれる。


(―――期待した割には、いまひとつだったかな?)


スグルは手早く事務的に唱えた。

「其の手に掴めるは風、美しき流れは彼の者を癒し、その身の流れを正すものなり、風凛の癒し《ヒールウィンドゥ》」


 スグルの手から流れ出た緑色の風は、気絶して落下していくジンを守るように纏わり付く。そして彼の落下速度を落すと同時に彼の腕を癒した。本来の使い方とは少し違うが、これはこれで構わないだろう。


「「!!」」

驚いた顔で見てくる二人に、

「早くジンさんのところに行って、助けるんだっ!!」


弾かれたようにジンの方へ向うフランとミケ。


「ティナとサラも早く、俺はこれを維持するから、さぁ!!」

ティナはわずかに迷う素振りを見せたが、サラに促されこの場を離れる。

これでこの場にいる者は居なくなった(・・・・・・)

そして、消えていた(・・・・・)はずの双眸の蒼い光が、再びスグル瞳から漏れ出す。

まるで、人がいなくなる(・・・・・・・)のを待っていたかのよう。


《風凛の癒し》でジンの落下地点をこの場から遠ざけた(・・・・)後、解除。

ジンから興味を失ったようにスグルは駆け出した。

《炎帝》のもとに・・・・・虚ろで暗い“蒼”を(たた)えて。


(―――さぁ、今度は自分で視てごらん)


頭に響く声には明かな愉悦があった。



*** *** *** ***




「ジンちゃんっ!!」

「っ!!」


フランは怯んだ。

ジンの出血は止まっている。

しかし、その切断面があまりに巧緻だった。

そして、およそ人の技ではありえない、斬れ味だ。

力任せの技ではこうはならない。

莫大なエネルギーを爆発させたあの技にこのような事を成す余地があるとは、とてもじゃないが考えられなかった。


「フランッ!!」

 悲痛そのもので叫ぶミケに“はっ”と我に返ると慌てて紋様式(・・・)を唱えた。

「《スターダスト・ナース》ッ!!」


星の如き光の雫がキラキラと零れ落ちる。

緩やかに(つど)い、左腕の断面を覆うように輝きを増す。

と共に青白い顔に赤みがわずかに差す。


「ミケちゃん。腕、さがしてっ!!」

「にゃ!!」


かすかな雨の中、臭いを探るように辺りを見回す。

と、そこにティナとサラも走りこんできた。


「な、なんで、どこにも・・・・!?」



「お探しの物はこれですか?お嬢さん方?」


「えっ!?・・・・・あなたが・・・・・なぜここに?」


そこには影法師がいた。


「この人は誰にゃ!?」

 突然あらわれた黒い男に驚くミケ。

 フランも驚いてはいたが魔法の制御に手が離せない。


「申し遅れました。テオドーラ帝国第3皇女付き執事のシモンです」

うさんくさい程慇懃(いんぎん)に腰を折る執事。

シモンがそこに居た。


「にゃ!?」

その場は驚きに包まれた。


「!!」

 サラの動揺と視線を黙殺して、ティナは冷えた口調で訊ねた。

「・・・・・なぜあなたがここにいるのかしら?」


「・・・・・まずはこちらの方の治療を優先しましょう。その魔法を止めて下さい」


「えっ、でも・・・・」

 突然現われた得体の知れない男に任せてもいいものか?

 既知の様子のティナに視線を向ける。

「その人は・・・・・・・・闇魔法のエキスパートですわ。任せても大丈夫。私が保証します」

 そう宣言するティナを信用したのか、このままでは埒があかないと思ったのかは分からないが、フランはシモンに場所を空けた。


彼は抱えていた左腕を置くと、さっと腕を振り、両手で印を組むと唱えた。

一言、

闇色の奇蹟の手(ブラック・ジャック)


 彼の影からするすると黒い光の筋が漏れ出し、切り離された腕に絡み付く。

 まるで縫合するかのように断面に沿って、黒い光の糸が腕を縫い合わせていく。

 十秒もしないうちに左腕は黒い糸を残してくっついたように見えた。


「終わりましたよ」


「えっ?も、もうですか?」


「はい、一週間もすれば傷も残らないと思います。ほぼ元通りに動かせるはずです」


「くっ」


「じ、ジンちゃん!?よかった~よかったよ~うぇーん!!」

 安心したように腰を抜かしたままのフラン、うめき声を上げるジン、それに駆け寄りぼろぼろと涙を流すミケ。

 安堵感が生まれた3人とは対照的に、サラはティナを、ティナはシモンを疑いのまなざしで見つめていた。

 シモンは軽く目を細めるとフランに告げた。


「光属性の回復魔法は使わないで下さい。私のかけた魔法が解けるので、使うならそれ以外でお願いします」

「は、はいっ!!あ、あの・・・・ありがとうございました」

「いえ、ついでのことですから、お気になさらずに」

「えっ?」

 驚きの声を上げるフランから視線を逸らすと今度はサラとティナに告げた。


「私がここに居る詳しい理由はさて置き、これから私は《炎帝》とアサギ君を追跡する必要があるので失礼します」


「なっ」


「お気づきで無いようですから、言わせてもらいますが、彼の封印はほぼ解けかかっています」


「っ!!どうして、それをっ!!」


「・・・・・それはあなたが私の主人に直接聞かれれば良いかと・・・・・。ここからは私の独断になりますが悪いようにはしないつもりですから安心して下さい」


「あ、・・・・・あなた達は最初から・・・・・判っていたのかっ」

 “ぎりっ”と奥歯を噛み締め、“きっ”と殺さんばかりに睨みつけるティナ。

 無言で腰を折ると、シモンは自分の影に沈みこんでいった。



「いったいなんだったの・・・・?」


 ミケは泣き疲れたようにジンの体に縋り付いたまま動かない。

 そして後に残ったのはフランの困惑と、サラのティナへの疑いのまなざしだけだった。




ども、《すずかぜ》です。

今回は相当読み難いはずです。断言します、はい。

主語をわざと抜いたり、婉曲表現を多用してます。全体的にうさんくさ~い仕上りになっているはず・・・・・単に読みにくくなっただけかもしれませんが(汗)

思考錯誤が目立つこの作品ですが、そろそろ―――いやまだだけど―――コメディパートに路線を戻していきたいと思います。予定より色々と書きすぎたので・・・・・ね?

えー、では・・・・ごゆるりと

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