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第31話   炎帝 Ⅱ




―――ドゥッ、とそれまで人間だったモノが倒れ伏す。


「あ、あ、ああ、、、、あああああああああああぁぁっ!!!!」

壊れたラジオのような奇声を上げるスグルを

「・・・・」


憐憫とも、

「あああああ、あ・・・・・あぁ・・・・」


嘲笑とも取れる表情で、

「・・・・・」

グレン、最強の傭兵は見ていた。


彼にはこの後起こる事が手に取るように分かった。

「うぅ・・・・・」

(―――死を悼めなくなったのは、いつからだろうな)

手は尽くしてきたはずだった。けれども、それは諦めから来る一種の足掻きだったのかもしれない。

それゆえに、期待はしてなかった。

しかし、


―――生きていてくれた。


素直に出てきた言葉とは裏腹に、湧きあがってきた感情は自分でも驚くほど希薄で、期待はずれなものだった。

きっと見なおすまでも無く、自分の手は汚れてしまっているから。

だから、これから起こる事が指し示すものは・・・・・・今まで自分がして来た事に対する答えなのかもしれない。



「何がしたいんだろうな・・・・本当に・・・・・」


その独白に答える者はいなかった。

「・・・・・」


また、彼もそれに対する答えを求めていなかった。

「・・・・・」

「・・・・・がぁぁぁぁぁぁっ!!!」

だからというわけでは無いだろうが、スグルは吼え、拳で応えた。



―――本当に面倒な事ばかりだ。

そう、思った。




 +++ +++ +++ +++




 おっとり刀で駆け付けたティナとサラが見た光景は不可解なものだった。

 スグルが突き出した拳をジンが受けとめ、その拳の先にいたグレンは眉ひとつ動かさず、泰然と佇んでいるだけ。

 まるでジンがスグルを止めたのが当然だとでも言うようだ。


「じん・・・さん、生きてたんですね、よかった」

スグルは安心して何も考えられなくなっていた。

張り詰めていた物が途切れ、電源が切れたように崩れ落ちるスグルをジンは支える。


 彼はため息を一つつくと、駆け寄ってきたティナにスグルを預け、無言でグレンと向き合った。

 

 サラは居心地が悪かった。

 単純にスグルが無事だった事にホッとしていたのだが、それがなぜなのかに考えが及んで、グレンの方に視線をやるとばっちりと目が合ったのだ。

 ジンが動きを見せるまでそれは続いて、ジンが彼に向き合うと興味をなくしたように視線を外された。

 炎帝の称号にふさわしい燃えるような赤毛に真紅の瞳。自分と似たような特徴を持っている所為か、何とはなしに奇妙な既視感(きしかん)と気味の悪さを覚えた。

(―――今のは・・・・・いったい?) 



「お久しぶりです。7代目の《ジンライ》」

「・・・・・そうだな、確かに久しぶりだ。

ただ、私は“ライトニック”の姓を受け継げなかった。だから7代目の《ジンライ》というのは不適切だ。私はただの、ジンだよ」

「・・・・そうですか」


 驚いたのはティナ達だ。

“な、なんで?”と身振り手振りで示すサラに、“私に聞かないで下さいっ!!”とこちらも身振り手振りでわたわたと応えるティナ。

 二人の思いはシンクロして、なんでこの伝説の傭兵―――といっても戦争が終わってからの事なので、最近になってから“伝説の傭兵”と呼ばれ始めたのだが―――とこの人は知り合いなんだ!?と言う1点に尽きた。


―――しかも、グレンの方が対応が丁寧だし!?―――


「・・・・・そんなことよりもグレン君。君はスグル・・・・・そこの黒髪の少年と剣を交えたのかい?」

「俺がそいつ(・・・)を討った後で殴りかかってきたんです、彼。だから何もしてませんよ」

「・・・・・そうか」

 首のない骸(むくろ)に視線をやり、思考する。


 ジンはあることに気がついていた。

 スグルがグレンに殴りかかろうとしていた時。彼の拳からちょうど肩まで、どす黒いオーラで覆われていた。


(―――恐らく、卦繋法(かけいほう))


 ティナ達が駆け付けた時には―――ジンの卦繋法(・・・・・・)で相殺させたので彼女達は気がついていなかっただろうが―――スグルのそれは暴発一歩手前の所だった。

 目の前の青年はその危険性を知らないはずがないだろうに、なんのリアクションもおこさなかった。それはジンが行動する事を予見してのことなのだろうが、それはジンが知ってるグレン・ガーネットとは明確に違っていた。どこがどうとは指摘できないが、ジンの知っているグレンはこのような手段は取らないはずだった。


「私は、立場上君を拘束しなければならない。おとなしく剣を仕舞ってはくれまいか?」

「・・・・あなたは変わりませんね」

「君は変わったのかい?」

「どうでしょう?ためしてみますか?」

「くっ!!」


グレンが空に手をかざすと同時に、ばっと辺り一帯から雨が球状に晴れ渡っていく。

彼の身体からはプレッシャーが立ち昇り。

次いで、彼の体を覆うように紅いオーラがうっすらと吹き上がった。


ジンもそれに対抗するように黄金色のオーラを身体から放出する。


グレンの纏うオーラが静ならば、ジンのはモノは動というべきものだった。

黄色いパルスを放出し、大気を焦がすかのように、チリッチリッと激しくスパークを散らしている。毛は逆立ち、彼自身、雷の化身のような姿だった。

二人を巻き抱えるようにして風が吹き荒れる。



「ま、巻き込まれますわっ!!離れないと!!」

「・・・・これは・・・・卦繋法?スーパーサイヤ人かよ・・・・」

「スグル兄さんっ!!気がついたんだね!?」

「・・・・・最初から意識はあったよ、でも、なんか力が抜けてね。もう大丈夫だから、手を離して、ティナ」

「スグル・・・・その、卦繋法の事はどこで知ったのですか?」

スグルはティナのその言葉には答えずに、じっとジンとグレンに視線を注ぐ。

やがて得心が入った様に頷くと、

「ようやく理解できたよ。《卦繋法》、あれはエクシードとエナジー。気と魔力を混ぜ合わせて使う事だったんだな」

サラは驚きで目を見開く。

「ええっ!?エクシードとエナジーって反発するんじゃないの?兄さんがエクシードの練習をしてるところにいたけど、聞く限りは拒絶って力があるぐらいなんでしょ?理屈に合わないんじゃないの?」


「恐らく、それは・・・・・卦繋法が危険な力だから、卦繋法の存在を気が付かせないようにする意図があるんだと思う。見てみなよ、大地が揺れてる」

確かにスグルの言う通り、わずかにだが地面が揺れている。

サラにはそれが何かが生まれる前の鼓動のように思えた。


「・・・・俺の魔力もそうだけど、これは・・・・・人一人が有していい力の限界を超えてる気がする」


「ただ危険なのでは・・・・」

「・・・・・分かってる・・・・扱いが難しいんだろ。下手したら死ぬぐらいに」

「!!」


「そ、それなら止めなきゃじゃん!!僕達にも何か・・・・」


「だいじょうぶだよ。ジンさんはもちろん、あのグレンって言う傭兵も卦繋法を使うのは一度や二度じゃないんだろ。それにたぶん・・・・何も出来ないよ。あれには卦繋法しか対抗できない。

・・・・エクシードに存在する魔力の拒絶の力。魔力も魔力障壁で他人の魔を拒絶する。その二つが合わさってるんだ。生半可な力じゃ対抗できない。

・・・・なんで二つを混ぜて使えるのかはわからないけどな」


スグル達が距離を取ってからも、ジンとグレンの睨み合いは続く。


スグルにはどちらも上位の存在だったが、やはりというべきか《炎帝》は規格外だった。

細胞の一つ一つがここから逃げ出せと悲鳴を上げてる。それは理解していたし、現に口にしようともした。しかし、体と思考は乖離し、気がつけば目の前の光景を食い入るように見ていた。まるで体の中の別の意識が闘争に対する飢えを満たそうとしているようだった。

再び・・・・・スグル本人は気がつかないまま、瞳に暗い蒼をたたえていた。


ジンとグレンの対峙とスグルとを往ったり来たりと視線を動かすのはサラ。

対して、ティナは痛みに堪える彫像のように、前に視線を固定したまま身動きひとつしなかった。

サラの中で、疑問を口にできない“もどかしさ”と目の前で起こる戦いの予感に不安は大きくなっていた。



 *** *** ***




「くっ!!」

 《炎帝》と呼ばれる男。グレンから感じられるこのオーラはなんだ?

 ジンが知っていた頃からは想像も出来ない。

 ここまでに到るには、どのような修練、どのような地獄を味わえばいけなかったのだろう。

(―――これが卦繋法の可能性か・・・・・紫雷(しらい)先生(せんせい)が言っていた事が今になってわかるなんてな)


「本当にあなたは変わりませんね」

「自分では変わったつもりになっていたんだけど・・・・な」

「変わりませんね、全く。あなたは人に思いを寄せすぎる。戦う相手の心配までするんですからね」

グレンが指摘したのはジンのオーラが弱まっている事だろう。


たしかに気が進まなかった。顔見知りで、短い間とは言え戦友でもある。そしてなにより、

「君は・・・・・紫雷先生の死に際を看取ってくれたのだろう?やはり、私には・・・・」


「ひとつ・・・・・教えて差し上げます」


「なんだ?」


「5代目《ジンライ》紫雷・シュトラウス・・・・・ライトニックの愛称を持つ男の首を討ち取ったのは俺です」


「なっ!!」


「やつの技をを受け切った上で、この魔剣カグツチで止めを刺しました」


「な、なぜなんだ!?なぜ、今そんなことを言うっ!!」


「・・・・老いた分際で、『少年兵を殺さないように』って甘いことを言ったから・・・・・殺したんですよ」


「・・・・貴様っ!!」


ギリィ、と奥歯が鳴る音が聞こえた。

(―――先生の口癖(くちぐせ)だった。若者の未来には卦繋法の可能性がある・・・・・それが、この結果か)


ひどく裏切られた気分だった。

グレンが《炎帝》の通り名で畏怖される中、自分だけは味方であろうと思い。彼の武勇の中に村を魔物の群れから守りきったと聞いては誇らしくも感じていた。そこには戦友というよりも、兄弟子に近い感情があったのかもしれない。


「ふっ、弟子が弟子なら師匠も師匠だ『グレン・・・・ジンの事を頼む』ですって?お人よしもここまで来ると気味が悪いと思いませんか?」

「・・・・・」


裏切られるのは人を信じるから・・・・。

誰が言ったのだったか・・・・?

ふつふつと沸(わ)き起こる感情の前に言葉や理性は無意味だった。



「グレン・ガーネット」

体から迸るこの力、エネルギーを


「貴様に未来は無い」

ぶつけてやろう。


「・・・・・へぇ、見せて下さいよ。あなたがあの腐れジジイを超えられるのか」

「グレッーーーーンっ!!!」



ジンは己の身体が霞むような勢いでグレンに飛びかかった。



ギンッ!!



グレンの紅の魔剣とジンの魔力を宿した黄金色の長剣が激突する。

しかし、そのまま斬り合いにはならず、ジンの勢いにグレンが弾かれた・・・・・かのように見えたが、それはジンの勢いを利用して、そのまま間合いを空けるためだった。

そのことはジンも百も承知で、再び獲物に飛びかかる虎のように剣を振りかぶった。


「ちぃぃっ!!」

「・・・・・」


グレンは剣を切り結ぶのを嫌がるようにジンの剣を避け、空に逃れる。

大気を炎で蹴っているのだろう、火の粉を撒き散らしながら、いまだにグレーの濃い曇り空へと舞い上がった。



エクシードとエナジーを混ぜ合わせる。否、結び付けそこから莫大な力を引き出す技―――卦繋法(かけいほう)。


あたかも太極輪の白と黒が交じり合うように・・・・・さりとて、絶対に混じり合わせてはいけない、そんな危うい均衡を保たねばならない技。さまざまな呼び名があるものの『卦繋法』の名の通り、卦における対極に位置するを繋げる(・・・)。


万軍の兵に匹敵する力を得る代わりに、失敗すれば待つのは・・・・・死のみだ。

卦繋法を扱える資格のある者には三つの条件がある。


一つは、当り前と言えるが、エクシードとエナジーを扱える者。


二つは、卦繋法を恐れ、その力の引き出し方を秘匿する者。現在、シャングリラから流れてきた気(エクシード)の技術のせいでその暗黙の了解の垣根(かきね)は薄れつつあるが、一つ目の条件を満たしつつ卦繋法へと技を昇華できる者は本当に極一握りである。


三つは、魔力の扱いに優れた者。そう、魔力の多い少ないではなく、自分の魔力を正確に制御できる者でないといけないのだ。


理由は扱ってみれば分かる。



(―――くっ)

内心うめきながら、ジンも自らをイナズマと化し大地から天へと飛び上がった。



繰り返そう、扱いを間違えれば・・・・・死ぬ。




どうも、すずかぜです。

あははは・・・・はぁ、更新再開を宣言した4月が終わり、5月ももう過ぎようとしてます。オゥ・・・・お気に入り件数がみるみる減ってるよ!!

数字って怖いですよね、ちょっと落ちこむ自分が笑えます。


忙しさもそうなんですが、おもしろくしてぇ!!となると妥協できずに色々つめこもうとして失敗したり・・・・・活動コメントに書いたのでこれ以上は書きませんが、これからが本番です。

超展開についていけなくなりそうな気もしますが、なるべく丁寧に面白くを心がけますので、今後ともよしなに、

では、ごゆるりと

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