表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/50

第29話   つめたい瞳




雨で視界が割れる中、門柱前にゆらりと立つ影があった。

それを視界に捕らえた瞬間、“疾風の盗賊”の間でどよめきが広がる。


抜き身の剣をだらりと引っさげ、ジンは目を細めながらその様子を窺う。

人数は十一。

先ほど偵察したかぎりでは、十三は居た。

二人ほど足りない。


なるべく刺激しないように、肩に剣を担ぎ誰何(すいか)の声を上げる。

「この村になんの用だっ!?」

目を細め、反応をじっと窺う。これで(リーダー)が割れるかどうか。


「あんたがそこに居る時点で、答えは分かり切ってるはずだ」

声を出したのは先頭の男。

(―――こいつは違うか?)

戦士の目とこれまでの経験から判断する。


「なに、話し合いの余地があるなら私も剣を退()けるだろう」

「あんたはこの村の住人か?」

「違う!!」

「なら剣を捨ててこっちにこい、特別に見逃してやる」

無意味な腹の探り合い。

相手はこちらが正義を降りかざした愚か者なのか、罠に嵌めようとした敵なのか見極めようとし。

こちらは仲間が動く時間(・・・・)を作っている。

 

連中はそれなりに動揺しているが、殺気立っている。

重要なのは、タイミング。出鼻をくじく事だ。

村の警士には1ヶ所に集めた村人を守ってもらう。経験の浅い者がいても邪魔になるだけだからだ。

雇用主ジーナさんと力自慢の方々には、ジンが斬り込みを仕掛けたら右手の茂みから攻撃を仕掛けてもらうる。

そして、左手にはフランとミケが居て、ジンの二度目の合図で魔法の奇襲を掛けてもらう手筈になっている。


「その言葉はどれだけ信用できる?」

「信用してもらうしかないな」

男は自分で言った言葉が可笑しいらしく、肩を揺らしている。

それに協調して、周りにじりじりと広がっていた連中も笑い声を上げた。

気づかれていた事に開き直ったのか、笑い声が大きくなった。

その瞬間を狙って、剣を振り下ろす。

二度目(・・・)の合図だ。


「・・・《ウォーターシュート》」

ぼそりと、しかしはっきりと聞こえる声で。

鋭く、雨を突っ切るようにして水球は放たれ。

「《バインドシャドウッ》!!」

高らかに勢い込んだ響きを以って、影は伸び、戦端は開かれた。

その声に飛び出してきた男2人が魔法障壁でその魔法をそれぞれ防ぐ。


「はっ!!ばればれなんだよ・・・・なっ!?」

「悪いが、ばればれだ」

「がっ!?」「ぐっ!?」

ボキャブラリーに乏しい悲鳴を挙げ、魔法使いの2人はあっさりと昏倒。

ジンが代表格を務める男に向き直る。

「・・・・武器を捨てても見逃してやらないぞ?」

「野郎っ!!味なまねをしやがって!!てめぇら、女は殺すなよ!?やっちまえ!!」

(ふと)った顔を真っ赤にし、つばを飛ばしながら怒鳴る。


「やれやれ、品のないブタ以下にゃ」とミケ。

「ミケちゃん、それはブタさんに失礼」とフランが一言。

「うがぁ!!てめぇらぶっ殺「うわぁ!!背後から敵襲だぁ!!」・す?」

ますます顔を赤らめ怒鳴るが、危険を知らせる声がその場に響き、邪魔をされる。


男たちがその声に浮き足立つ、しかしその声の主は・・・・。

「ジーナさんのりのり」

「にゃ」

気を緩めないようにジンもひとつ頷いて、泡を食っていたブタに失礼な男を気絶させた。

村長からは手数料をせびるらしいが、ジーナさん達は盗賊には手加減する義理は無い。

自分達が動いて無力化するのが一番だろう。

どちらにしろ、こちらは早く終わりそうだと思った。




*** *** ***




一度目(・・・)の合図でスグルとティナ、そしてサラは動いていた。


サラが少し離れた所で、精霊を使って盗賊達の様子を見ていた。

『ジンが声を上げる前に剣を肩に担ぐ』のを知ると、辺りに溢れる水の精霊に頼み、残りの二人を探す。


―――そう、ジンの計画は3段構えだった。


一度目の合図があった場合は、別働隊の対応をサラの感知能力を用いて撃退。

なかった場合はジーナと一緒に加勢。

二度目の合図でフランとミケの魔法攻撃、それも魔法使いが相手側にいる事を警戒しての事だ。

最後にジーナさん達が奇襲攻撃を仕掛ける。

人数が少ない分を策でカバーした形になる。それも雨が降っていて、視界が狭い事も有利に働いた。

念には念を入れて、ジンが一人注目を集めるために危険(きけん)(かえり)みず、剣を抜き待ち構えていたのだ。

精霊では人数が判らないため、どうしても視認が必要だった。


「・・・・2人、村長宅の方に真っ直ぐ向ってる」

背後で戦闘が行われるのを耳にしつつ、泥を跳ね除けながら走る。

「頭を押さえる作戦か、敵さんも手馴れてるのかな?」

「ふざけてる場合じゃなくてよ。村の警備の方々を頼りにしてましたのに・・・・血を流すと竜が怒るから武器を持たないですって!!このご時世に・・・・・信じられませんわ」

「いやー改めましてファンタジー。竜かー、やっぱすげーな異世界」

「でも、武器を持たずにこれまでやってこれたんだから、本当なんじゃない?その話」

「「・・・・・」」

サラの一言の後に残るのは雨音と言う名の沈黙のみ・・・・。


「ドラゴンスレイヤーの称号とか欲しくないし、勘弁して。ラスボスじゃん。もし出てきても即効で逃げる方針で・・・・・雨降ってるし、ちびっとぐらいならばれないっしょ」

ものすごく希望的観測を抱くスグルのヘタレ発言に二人も大きく頷く。

そうこうしてる内に村長宅前に着いた。


「ボク達が追い抜いちゃったみたい」

「あれま?まぁ、急いでるわけじゃないんだし、別にいいか」

「今のうちに、―――その身に宿す嘆きを振り払わんと、ここに顕現せよ。

ジークフリートッ!!」

次の瞬間には“二度目の出番”のジークフリートの魔鎗がティナの手に握られていた。

「なんか今そこはかとなく悪意を感じたけど・・・・まぁいいか。あのさ、そのジークフリートって呼ぶ時にその呪文唱えなくちゃいけないの、ぶっちゃけ咄嗟の時不利じゃない?」

「・・・・・作者もその点においては反省しておりますわ。ぶっちゃけ出しづらいそうですわ」

「おいおい・・・だいぶぶっちゃけたな」

「はい、ぶっちゃけましたわ」

「・・・・・・」

微妙に(なご)みかけた雰囲気の中、空気の読めない盗賊の二人が現われた。


「ちっ、お頭。人がいやがりますぜ」

「おう、いるともよ。なんか不都合でもあったのかい?」

にやにやと悪乗りするスグルに怒鳴りかけた男を制したのは、お頭と呼ばれた男の方だった。

「・・・・てぇめら。ガキがこんなとこで何してやがんだ」

こちらはすぐ切れる小物とは違うらしい。怒気の中にも制御された意思が見え隠れする。

要注意だと、心の中でメモって置く。質問に関しては黙っておく必要も無いので、あっさりと答えてやる。


「あんたらが仕掛けてくるのは、丸判りだったんだよ。今頃、あんたのお部下はウチの仲間にひっとられてるだろうよ。何しろ、お頭様の後ろで、ちびって隠れるしか能の無い奴しかいないようだからな」

後半の科白(セリフ)は殊更憎たらしく聞こえるように(しゃべ)った。

案の定、下っ端がキレて向ってくるのを狙っていたのだが、飛びかかろうとしたのを再び頭の方が押さえた。

「やめろ、ヘイロン」

怒鳴ったわけでも無いのにヘイロンと呼ばれた男はすぐに引き下がった。

その顔を見れば忠誠心からと言うよりかは、恐れが先立って引き下がったように見える。


「・・・・おい、小僧。そんだけデカイ口叩いたんだ、俺とサシでやれよ。まさか、そこのねえちゃん達のケツの影に隠れてブルってるワケじゃねぇんだろ?」

安い兆発だが、うまい切り返しだ。

「スグルッ!そんな男の言う事など聞く必要ありません」

「そうだよ。兄さん!!」

確かにこの男の言う事を聞く必要は無い。既に勝敗は決している。

このままにらみ合っていても、次期にジンさん達が駆けつけて来るだろう。

(―――それでも・・・・。)


「大丈夫、俺は一人でやれるよ」

「スグル、止めなさい。あなた一人じゃ危険よ」

「大丈夫だから、まかせて」

ティナは(なお)も言い(つの)るそぶりを見せたが、俺の決意が固いと見るとジークフリートの槍先を下ろした。

サラからの意見が無いのでそちらをちらりと見やると、

「・・・兄さんのバカ。しんじゃえ」

「あっはっは、了解。せいぜい期待に添えるようにするよ」

笑って前を向こうとすると、袖を引かれつんのめりそうになる。

サラが伏し目がちに言った。


「・・・・・ごめん、嘘。だから死なないで、お願い」


泣いてるのかもしれない。

雨の所為でわからなかったけど、その時のサラは抱きしめてチュウをしてあげたいくらい可愛かった。

もちろんしなかったけど、その代わりに頭を優しくなでた。

伝わったかは判らないけど、その言葉だけで負けられなくなった。


「・・・・よぉ、またせたな」

「いんやぁ、なかなか感動的だったぜ」

飽くまで余裕の態度を崩さない男に流石のスグルも不信感を抱く。


「・・・・あんた。何を狙ってるんだ?」

「さて、そろそろ始めようぜ、小僧」

さっきまでこちらが余裕を持っていたのに、立場が逆転している。

腰から剣を抜く男に不信感が拭えない。

そこらじゅうに水は満ちているのに(のど)が乾くのは皮肉な話だ。


こちらも右手だけダガーを抜き、構える。

ヘイロンとか言う男は後ろに下がり、ティナとサラもそれに(なら)っている。

スグルとオバーツはにらみ合いを続けながら、じりじりと広い場所に移動した。

(―――こいつは何を狙ってるんだ?他に味方がいるのか?いや、それならサラが気がつくはず。ならば、こいつ、自分の実力に余程の自信があるのか・・・・?

いや、今は考えるな。勝つ道筋だけを考えるんだ。

地面は悪い。魔法を使うのなら水だ。いや、これだけ多いと制御が難しいか?)

思考をフル回転させながら、右手にエクシードを流しこみ、ダガーに気を徹する。

だらんと下げた左手にはエナジーを集め、いつでも魔法を放てるようにする。


「あんた味方が他にいるのか?」

「さぁナァッ!!」

思わぬ早さで男が切り掛かって来た。

豪快な横薙ぎに対して、スグルはバックスッテプでかわして魔法でカウンターを浴びせる。

「其の手に掴めるは水、流水よ、怨敵(おんてき)穿(うが)て、水銃(ウォーターショット)!!」

詠唱長めに制御重視で狙い打ち、が。

「甘い甘い」あっさりと避けられた。


(―――くそっ、ならば!)

「くらえっ!!」左のダガーを瞬速で抜き、胴に狙いをつけて投げる。


ガキンッ


弾かれるのは予想済み!!

本当の狙いは近距離戦。近づくとすぐに袈裟切りを浴びせられる。

さっと身体を右に逸らすと、お返しとばかりに斬り返す。

オバーツは避けるでもなく、胸当てでそれを受けると返す剣で逆袈裟切り。

慌ててそれを避けようとするスグル。


(―――いや、ミえる)

瞬間、スローで迫る剣をぎりぎりで避ける。

剣を避けた後、体感スピードが元に戻る。


再び剣が迫る。


スロー、避ける。


三度(みたび)剣が迫る。


スロー、避ける。


いつしか、構えていたダガーもぶらりとさせ、体捌(たいさば)きのみで避けていた。

すっ、すっ、すっ、すっすっすっ、すっ・・・・。


剣が空を切る風斬り音が気持ちいい。

このまま一生、剣とダンスを踊りつづけられる気がする。

・・・・・楽しい。


スグルの両目からはほの暗い“(あお)”。しかし、くっきりとした(ひかり)が漏れ出していた。


そして、口元には微かな笑み。


「てめぇ、その()ッ!!」

異変に気づいたオバーツが唸る。

戦局は一気に傾いたかに思われたその時!!


何かが水に跳ねる音がスグルの背後から聞こえた。

鋭敏にスグルが反応し、振り向くとそこにはヘイロンが倒れていた。

そして、その横には燃えるような紅の刀身から赤い水を滴らせ、男が立っていた。


色香(いろか)すら立ちそうな赤毛に冷たい瞳の持ち主がそこには居た。




少し修正。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ