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第26話   心配と期待

>改行に手を加えました。大きな改定はしてません。




うららかな午後。


涼しげな木陰。


3時のおやつ。


そして・・・。


「自由・フリーダム・・・・わあーい!!」


―――スグルは自由を謳歌していた。



その壊れっぷりを横で眺める4人組。


「・・・・解放された奴隷農民を思い出すにゃ」

「・・・・ミケちゃん言い過ぎ。アサギ君が哀れだから」

 腹ばいになってゴロゴロとスグルに評価を下したのはケットシーのミケ。桃色の天然パーマから覗く耳がぴくぴくと動いている。機嫌よさそげに丸められた細長い尻尾はまるでもって猫のそれだ。そのミケにつっこみを入れたのはフラン・ベルナーレだ。小さい眼鏡をちょこんとかけ、大き目のとんがり帽子をぽつんと被っているめがねっ娘だ。

 両名はジンとパーティを組んでいる冒険者だ。そしてその横で、ココナチの実をすりつぶして作ったせんべいを食べているのはジンだった。


「彼はつい最近まで素人だったのだろう?その反動が来ているんだろう。実際のところ、あの訓練は行き過ぎな気がしたんだが・・・」

スグルが聞いたら泣いて喜びそうな事を言うジン。

しかし・・・。

「・・・・兄さんはMですから内心は喜んでるんですよ」

ジンの隣でお茶をすすっているサラは酷かった。


「そうか」

それで納得するジンも酷いものがあるのだが、ともかく各々が休暇を満喫しているのであった。




「アサギ君だけど、魔法が得意なんでしょ、彼」

「・・・・どうしてそう思うんですか?」

眼鏡の縁を押さえ、したり顔で言うフランに興味がそそられた様にサラが聞いた。


「魔力の底が見えない事がまず1つ。それと一月で“真式”を無詠唱で唱えられるんだから、天性のものと言ってもいい筈」

「他人の魔力って()えるものなんですか?」

エクシードやエナジーで強化してもそんな効果を得られるとは聞いたことが無い。何か特殊なアーティファクトでも持っているのだろうか?

しかし、サラの予想はすぐに裏切られた。



「フランは魔眼の持ち主なんだよ」

「魔眼・・・!?噂では聞いたことがありますが、所持者に会うのは初めてです」

興味津々でフランの瞳を覗き込む。


「・・・・ジンさん言い過ぎ」

照れた顔をしながら、むくれた様に頬を膨らまして言うフラン。

フォローをするためにゴロゴロしていたミケが身体を起こし、補足を加えた。

「フランは謙遜さんだからに~、伝承に残っているような天候を操ったり、山を吹き飛ばすみたいな事はないけど。相手の魔力を見てー次に何が来るのか予測できるんだにゃ~ん。しかも、魔方陣の綻びを見つけて崩したり、パクッと相手の魔法をを真似できるんだよにゃ~?」

一仕事終えたとばかりに再びゴロゴロ・・・。


「それって十分すごいですよね」

普通の者には到底真似できない内容にサラは驚きが隠せない。



 魔力に明確な得手不手の属性はないものの、次に何が来るかによって対抗策が講じられる。それは魔法ないしは魔術を扱う者にとっては脅威となりうる。それは純粋なスピードと威力の勝負ではなくなってしまうからだ。

 魔法使いと聞くと頭脳派を思い浮かべる人が多いかもしれないが、存外魔法使いもごり押しが多い。エナジー量と優れた想像力、それさえあれば一角の魔法使いになれる。しかし、一流と呼ばれるには搦め手が必要になってくる。そういった者達によって魔法使いは頭脳派という印象が出来上がったのだ。スグルなどは明かに前者のごり押しタイプだろう。

 明確に才能で全てが決する世界において、フランの魔眼という能力は弱者が強者を打ち倒すカギになりえるのだ。



「実際にあまり役に立たないんです。私鈍臭いから、魔方陣の構成スピード遅いし、魔力量もアクセサリで補ってるし・・・・・ほら、地味で目立たない駄目な奴なんです。・・・・・・うふ、うふふふふふふふ・・・」

うつむきがちになり、めがねがキラリッ!!


無気味な笑いを漏らすフランに多少引きつつ、今度はジンに話を振る。

「・・・・ジンさんから見て、スグル・・・・兄さんはどうですか?」

「ん?それは才能うんぬんという事かな」

「はい。彼は強くなれますか?」

真剣な表情を浮かべるサラに対し、ココ茶のカップで苦笑を浮かべた口元を隠しながら聞き返す。

「サラ君はどう思うんだい。スグル君は強いのか」


「僕が、ですか・・・・?」


「私は少なくとも強くなれる要素は備えていると思う。才能だけじゃなくて、どこか助けたくなる雰囲気を持っているところなんかも含めてね。君が彼と一緒にいる理由も似たようなとこがあるんじゃないかい?」


(―――別に否定する要素もないけど、そんなのじゃない気がする)

 サラの中に渦巻く複雑な思い。口にするのは難しいようで、本当のところそれはシンプルに出来ているのかもしれない。

 精霊は人間みたいに複雑じゃない。辛ければ泣くし、楽しければ笑う。

 精霊じゃないサラは違う。辛くても笑う時もあるし、嬉しくても怒ったふりをする時がある・・・複雑だ。

(―――なぜサラという人間は精霊に生まれてこなかったのだろう。精霊は単純でいて純粋にできている。精霊のシンプルな感情を素直に表現できればこんなに・・・・ん?なんで僕はこんな事を考えてるんだっけ?わからない・・・・けど兄さんの所為な気がする。そうだとするとなんかむかつく)


「・・・・サラ君?どうかしたのかい?」


 考えに没頭するあまり周りが見えなくなっていたようだ。サラが慌てて(おもて)を上げるとジンが心配そうな顔でこちらを見ている。百面相になってたかもしれないと、慌てて視線を逸らす。

 ジンの後ろではフランがミケに付き合ってゴロゴロしている。スグルの方を見れば似たようにゴロゴロとして相変わらず自由を謳歌(おうか)しているようだ。

スグルには聞こえないであろう事を確認して、ジンに正面から向き合う。

「ジンさん。さっきの話なんですけど」

「うん?」


「―――僕は兄さんが、彼が無理をしているような気がするんです」


「無理をしている?」

サラが言っているのは修行の事ではないだろう。もっと精神的なモノ(・・)の事だとジンは勘付いた。


「あの人は理想が高すぎるんです。ジンさんが言った“助けたくなる”って言ったのはそこなんだと思います。頑張り屋さんというか、極端なんです。うまい言葉が見つからないけど・・・・きっと、焦ってる」

(―――それも・・・たぶん、リアさんの為に)


「なんでも諦めていた彼が焦ってるのが、僕は少し怖い」

(―――諦めて切り捨てる。そんな人間が突然捨てたものを拾い出す)


「ティナさんがあんなに兄さんの修行を見るのも心配してるからなんです。きっと・・・・」

(―――彼の手はたった2本しかないのに、拾い上げれるモノは限りあるのに)


「ちょっとはめげて欲しくて、弱音を吐いて欲しいんだと思います」

「・・・・だいぶ、参ってように見えるんだが」

「違うんです。そうじゃなくて・・・・・もちろん、つらいってわめいて情けないところを見せてるのも本当の彼なんだと思うんですけど。もっと、もっと深いとこで無理をしてる気がするんです。確かにジンさんの言う通り、単純な力から言えば強くなる要素を持っているんだと思います。でも、兄さんは根本的なところで脆い(・・)

 



*** *** *** ***




 ジンには必死に何かを伝えようとしているサラの方が焦っている様に見えた。

 ジンから見ればスグルは原石。それもとびっきりの金剛石だ。磨けば磨くほど光る。冒険者としての経験値はともかく、武に限界の見えた自分などとは違う。

 妬ましいと思うようなとこを飛び越えて、彼の成長する様が見たいと純粋に思う。

 

 そんな彼だから『卦繋法(かけいほう)』を披露(ひろう)して見せたのだ。

 直接的な事は一言も告げていないものの、彼ならばそう遠くない未来に習得できると思わせるものがあった。

自分の手の内をさらす事は危険ではあるものの、ジンは傭兵ではなく冒険者だ。後輩に指導してやるのも楽しいものがある。40も過ぎようかという自分だからこそ、何かを残せるのではないかとも思った。



 『卦繋法』はエクシードとひそかに呼ばれていた“気”と共に伝わった奥義とも言うべきものだ。流派によっては『心術(しんじゅつ)』やら『魔練気(まれんき)』なかには『神将真気剛魔装束』なんて呼ぶ流派もあるそうだ。ジンは小恥ずかしくて到底そんな名前では呼べないが、それだけ卦繋法に賭ける思いが強いという事なのだろう。“神将”などとついているのは、それこそ百戦錬磨の将にしか扱えなかったからだ。卦繋法を纏えば、引き出せる力はエクシードの強化の何十倍にも等しい。

 シャングリラから“気”(エクシード)についてのノウハウが伝えられてからは、その機密性はそれほどでも無くなったが、これはエクシードの扱いに長けたほんの一握りの者にのみ許される技であるとジンは思う。そこにはうぬぼれは無く、これまでの経験と感覚から来る冷徹な真実だ。

 事実、自分はこれを扱い切れていない。これからもそれはないだろう。

 しかし、スグルにはそれがある。これもまた、長年の剣士としての勘か、それとも死線をくぐってきた際に感じられた強者のエクシードとスグルのモノが似通っていたと思われたのかもしれない。


 ともかく、口にした事はないが、ジンのスグルへの評価はきわめて高かった。そのため、サラの不安については杞憂(きゆう)に過ぎないと思われたのだ。


 

「・・・・スグル君は果報者だね」

「・・・・そんなのじゃないんです」

ありゃ怒らせたかな?と思いつつも軽い気持ちで続けた。

「クリスティーナ君も心配してるならそれほど大変な事にはならないだろうさ。彼がつまずいたらサラ君も支えてあげたらいい。君は彼のパーティなんだろ?」

「・・・・うん」

 茶化す気持ち出掛けた言葉も虚しく、サラの表情は晴れなかった。

 そんなサラに対して、励ます意味も込めてサラの頭に手を置き、宝石の様に輝くつややかな髪を強めに撫でて上げたのだった。


しかし、ジンの胸中もまた複雑だった。


(―――これは、卦繋法を見せたのはまずかったのかもしれないな)

果たして、その悪い予感は的中する事となる。





ボジュール、《すずかぜらいた》です。

えー、今話はなんとなく不自然で気に入らないんですよね。自分で書いてるくせにか!というつっこみはごもっとも。ですが、個人的にはもう少し弄って居たかったのですが・・・・まぁ、諸事情により更新しました。

そういう事もあって、そのうち大幅に改定するかも?です。

では、ごゆるりと

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