第24話 もはや・・・・虐待だろ
短めです。
「眠れないのか、サラ?」
彼はそう聞くと隣に腰を下ろしてきた。精霊のもたらす明かりは彼の顔をくっきりと照らし出し、黒目黒髪というシャングリラ人の特徴を陰影深く、くっきりと美しく魅せている。決して自分の紅髪が嫌いとか言うわけではないが、透き通るような黒は一種の憧れをもたらすように思う。
精霊が見えているのか判別のしようがない。しかし、スグルの視線は何かを映すように虚空に向けられたままだ。声をかけられた後、二人の間に沈黙が下りてきた。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・僕はなにがしたくて、ここに居るんでしょうか?」
「えっ?」
サラの突然の質問に面食らったように聞き返してくるスグル。それにかまわずに話し続ける。
「シャングリラの人間であるあなたは関係なかったでしょうが、僕と同年代の人はほぼ例外なく、戦争を知ってます。僕は戦災孤児です。それを理由に誰かを責めたりする気はありません。でも、帝国が覇権を為そうとした時代。“統一戦役”で多くの人が傷つき、死んで、隣人を失った。戦争が終わってからは国を建て直し、故郷に戻る人達が増えました。でも、僕には故郷というものがないんです。今まで生きるのに必死でした」
そう、ヘレンおばさんに居場所を与えてもらっても、その焦りは変わらなかった。
家名を失ったただのサラ。ただ一人の家族の兄の顔さえ思い出せない。
自分を救えるのは自分だけ。精霊が愛してくれているのは、ただ自分が彼らを視えるからに過ぎない。
彼らはこの世界に生きとし往ける哀れな生き物全てを愛しているのだ。
「・・・・・・・なんていうか、ここまで来て自分が、何をしたいのか分からなくなって来たんです。」
「・・・・・」
「・・・すみません、ちょっと弱気になっちゃったみたいです。気にしないで下さい」
(―――そうだ、僕はなんでこんな事をこの人に話してるのだろう?今まで誰にも明かした事の無い、不安。
この先になにがあるのか、何をしたくて・・・・・なんのために生まれたのか。ずっと、ずっと考えて・・・・・答えが出せなかった問い。
この人は答を持っているのだろうか?今からでも・・・)
「・・・俺はなにがしたくて、ここにいるんだろう?」
「えっ?」
自嘲気味に呟かれたその言葉に“ドキッ”としながら聞き返す。
(―――この人、ほんとにスグル兄さん?)
そう思わずには居られない程、老け入るような顔を彼はしていた。
「その問いに突き当たった時に俺は諦めることにしたんだ」
「・・・あきらめる?」
「そう、あきらめる。人間の一番楽な生き方って何か知ってる?悪い事をして、善い事をして、また悪い事をする。詰るところ善と悪、バランス良く自分を満たす事なんだ。でも、俺はそれが嫌だった。
・・・・影で悪口を言って、外では善人面をする。極端な例だけど、それが嫌だった。善いことをしようと努める自分がいるのに、気がつけば自分に都合がよいことをしようとする自分が嫌いだった。じゃあ、どうすればいいのか?どこにいればいいのか?俺はこの問いで板ばさみになった・・・・」
「でも、それは普通じゃないですか?したいことをする。でも、周りに合わせて自分を制する。」
(―――そうなのだ、何かしたいからこそ人としてあるのではないか?やりたいと思うことこそ自分を自分たらしめるのではないのか。そうだとすれば僕は・・・・)
「そうだね。で、俺はあきらめたんだ」
「・・・なにを、ですか?」
「何もしようと思わない事にしたんだよ。何かしたいという思いを諦める。考える事を放棄して、停滞を選んだんだ」
「!!」
「俺にとって一番楽、これがね。・・・・・悟りを啓いた坊さんじゃないから、完全に無心とはいかなかったけど、人の感情の動きとは無縁でいられた。期待や希望を抱かなければ、傷つかずに済むしね」
「・・・・じゃあ、なんでここにいるんですか?リアっていうエルフの人に会いたいからじゃないんですか?」
(―――それは自分の望みを叶えようとする事じゃないのか?思えば、僕を助けた事だって極論、助けようという望みの結果じゃないのか?)
僕の言葉に彼はにやりと笑って、言った。
「そう、その通り。俺はリアに逢いたい。・・・・こっちに来て、色々考えたんだ。いや、考えたというか分かったかな・・・?」
「・・・なにが分かったんですか」
フッと表情を消してスグルは言った。
「諦め切るのは無理なんだ。俺は生きてるから、言い換えると生きたいと思ってるから」
(―――あっ!!)
真面目な顔を一転してスグルは言い切る。
「命懸けでリアと冒険して思った。ここにいて生きていたい。この一線は譲れない。だから開き直る事にしたんだ。やりたい事をする。むしろわがままを通す。我慢するより、そっちの爽快感があるしね。高笑いしてる悪役?みたいなイメージで」
(・・・・・嘘つけ。きっとこの人はやりたいから僕を助けたんだ。とんだお人よしだ)
「・・・・だからさ、サラ。とりあいず、生きとけ。食いたいものがあれば食う。面白いものがあったら笑う。簡単だろ?全部やりたいことだ。厭々するしかない事があっても、生きとけばやりたい事なんていくらでも出てくるさ。死にたくないと言うと言葉が悪いから・・・・・生きたいだろ?」
「・・・・」
「・・・・・それに生きてさえいれば、そのうち良い事あるだろ」
不意に重なる。
『サラ、生きてさえいれば、きっと良い事があるから、な?』
(―――兄さん)
顔も思い出せなかった兄が、スグルと重なる。
ただ、それは忘れているという罪悪感を抜きにして、サラの心の中の乾きに、何らかの許しを得られように感じられた。
「・・・・ねぇ、スグル。あなたの事を“兄さん”って呼んでも良いかな」
サラの問いかけにスグルは変な顔をして答えた。
「何を今更、お兄様でも、兄貴ぃー、でも好きに呼びなよ」
彼にこの問いかけの意味は分からなかったのだろう。それは当然。
それでいい、
「うん!僕、兄さんのこと好きかも!!」
「ええ!?」
「それじゃあ、お休み~!」
(―――僕は生きる。それで、好きに生きる)
そう心に決めたサラの顔には笑顔が浮かんでいた・・・。
◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆
後日、サラが満面の笑みでスグルの修行に精霊の協力を申し出て、ティナがそれを快諾。
辺りにスグルの悲鳴「ぎぃやああああああああああ!!!やめて、助けて、死んじゃう!!俺はまだ死にたくない~~~~~!!!」と岩が崩れるような音が響いたというのは、また別のお話である。
「俺はオチ扱い!?ひどすぎるーーーー!!!!」
ウィ、《すずかぜらいた》です。
本文を最後まで読んでからタイトルを読み直して下さい。《すずかぜ》の言いたいことの全てがそこに集約されてます。
・・・・嘘です、すみません。
今話のオチは決まっていたのですが、なかなか暗い感じの話になってるなぁ。もっとサラに迫ってみたかったんですが・・・気がつくとスグルのお話になってたり。ま、思春期によくある悩み・・・・この言い方は好きじゃないな~?うーん、誰しもがいつか突き当たる問い、かな?―――を取り扱ってみました。
さて、今後の予定だけど・・・・どうするかな~ヒロイン不在の今。このままイベントを興しまくって良いのか!?また別のお話で『アル・ヴァンシード』、彼をメインにした話を書いても良いかも・・・・どうしようかな?迷うな~!!ごほん、ご意見ご感想をお待ちしております。↑に関しても希望を受けつけます(やるかどうかは別として、何かしらのヒントが欲しくなってきたのも本当です。)
さてさて、それではごゆるりと