第15話 決別
大幅と言うほどでもないにしろ、表現に手を加えさせていただきました。ご不快になられた方がいたら申し訳ございません。単にすずかぜの力不足によるものです。
さしあたり本編に影響はないのでそのまま読んでくださって結構です。
それでは、ごゆるりと
リアが、復讐の二文字を口にした瞬間、その言葉を翻す事が出来ないと分かった。
分かってしまった。
「私が君と出会った時の事を覚えているか?」
「・・・・覚えてるよ」
忘れるわけがない。
・・・・リアと顔を合わせたときの衝撃を忘れるわけがない。
大げさでもなんでもなく、本当に見惚れた・・・。
「君はあのデビルグリズリーを一撃で倒してしまった。その時・・・私は君の事を欲しいと思った」
「ほしい?」
「君のその力を復讐に役立てられると思ったんだ」
「!!」
「・・・今はそんな事を思っていないさ。本当だ、信じて欲しい。君に命を助けられた事に感謝していたし、君の境遇には同情した」
―――口の中が乾く。
次々に語られる告白のためか、口を潤すために目の前に出されていた紅茶を飲む。
フルーティーな香りと共に苦味が口の中へ広がった。
「それは諦められない事なの?」
自分でも馬鹿な事を言っているのは分かっている。しかし、聞かずにはいられなかった。
「・・・わたしは」
「俺はっ、俺はリアと一緒にいて楽しかったよっ!それでいいじゃない。
つらい事は忘れようよ、楽しいことを考えて生きればいい。
・・・・・俺はリアが傷付く所は見たくない。」
偽善者だ。最低な考え方だ。
そして、結局のところ・・・・俺のわがまま。
リアはやさしく微笑んで言った。
「スグルは優しいな」
―――違うんだ。
気が付いたら口にしていた。
「・・・俺も手伝うよ。リアの復讐」
そう、その瞬間が見たくないなら、己の手で遂げてしまえば良い。
俺の力が、役に立つ。
その通りなんだろう。
だったらリアのために役立てればいい。
そんな俺の思考を読んだように、首を横に振りながらリアは言った。
「だめだよスグル。」
口を開こうとする俺の唇の上に、リアは人差し指を乗せる。
「私は君を巻き込まないように、お別れを言いに来たんだ。」
―――あれ?なんか視界が・・かすむ?
「何度か助けられた恩を返しきれなかった事は許して欲しい。」
慌てて口を開こうとする。しかし、無情にも舌は痺れ、声にならない。
「君と出会えて、私も楽しかった。こんな形で済まないがお別れだ。」
―――薬か!!
痺れ出した四肢に必死に命令を下し、飲んでしまった紅茶を吐き出そうとする。
そこで再び・・・・。
「だめだよ、スグル」
ぐっと抱き寄せられ、触れ合った唇はやわらかくて・・・。
何が起こったのか、何をしようとしていたのかを忘れてしまった。
「・・・」
ゆっくりと離れていく唇と、ほのかに薫る柑橘系の香りに蕩然としながら、リアと見つめ合う。
「・・・ごめんなさい、スグル。なにもしてあげられなくて。」
―――リアッッ!!!
声にならない言葉は暗闇に引きずり込まれ。
霞む視界でスグルが最後に見たのは、一滴の涙だった。
+++ +++ +++ +++
目を覚ましたらリアの姿はなかった。
寝かされていたのは自分の部屋。机の上には、これまでこなしてきたクエストで分け合っていた報酬が、ほぼ全額置いてあった。
窓の外を見れば夜が明け、完全に日が昇りきる手前の様に見える。
―――まだ間に合うだろうか?
昨日のうちに発っていたらアウトだ。だけど、巻きこみたくないからお別れ?
そんな言葉で誰が納得できる?
少なくとも俺は納得できないっ!!
気持ちを切り替えるとスグルは準備を始めた。
下に降りて女将さんに確認を取ると、リアだけじゃない、メリッサも宿を出て行ったことが分かった。
幸いにしてまだそれほど時間が経っていない。
女将さんに礼を言うとスグルは表に飛び出した。
手がかりはそんなに多くはない。
アル達によれば、グランシルトからメリッサは護衛を頼んだこと、今の有力な手がかりはそれだけだ。
つまり地理的に見て大陸の中央に位置するアクアレイアを出て北に向かった可能性がある。
という事は、大陸の中央を流れるスルト河を渡るために船を使う。
最後に、メリッサが現れたのは偶然でもなんでもなく、リアの敵の所在地が判ったからそれを教えに来たのではないだろうか?
全て推測でしかないが、なにも分からない今、動く他はない。
スグルは意識しないうちにエクシードを身体中に漲らせ、一般人では視認出来ないほどの速度で移動していた。危険に思われるが、幸いな事に、港に向かう人影はあまりなかった。
走り続けるスグルの前に立ちはだかった人物がいた。
「お待ちしておりました。スグル様」
「・・・シモンさん」
執事服を“ピシリ”と着込んだシモンだった。
―――こっちで合っていたみたいだな。
軽く息を切らし、安堵したスグルにシモンは言った。
「お嬢様から言付です。『追ってこないで欲しい』と」
見事に声音を真似てみせるシモン。
彼がここにいる理由は明らかだった。
「・・・そこをどいてくれませんか」
「できかねます」
「・・・そうですか」
そう言うと同時にスグルはシモンに右拳を突き出していた。
シモンは避けるでもなく、拳を受け止めると軽く捻りあげ身体を捌く。
気が付いた時には、スグルは大の字で横たわっていた。
「あなたは弱い」
スグルはその言葉に答えることなく、素早く起きあがるとシモンから距離を取り、“闇手”の呪文を唱える。
「闇手っ!!」
全力で魔力を込め放つ。
シモンは身体を締めつけようと牙を剥く巨大な影を一瞥すると、
・・・右手を振るった。
「・・・繰り返します、あなたは弱い」
ただ右手を振るっただけだった。
それなのに右手に触れた影はガラスの様に砕け散った。
唖然とするスグルに続けて言う。
「私はお嬢様の命で、お嬢様のためにここにいます。あなたはなんのためにここに居るのですか?」
怖いぐらいに無表情で感情を表に出さず告げるシモン。
奥歯を噛み締めるとスグルは対抗するように叫んだ。
「あんたの知った事かっ。そこをどけっ!!」
「弱いあなたにそれを言う権利はないように思います」
「・・・・手加減はしない」
「お好きにどうぞ」
押し殺した声を出すスグルに対し、冷然と答えるシモン。
スグルは腰からダガーを二振り抜き放つと残像を残すような勢いでシモンに肉迫した。
勢いに任せ胴体を狙いダガーを振るう。
―――もらったっ!!
スグルの視界からシモンが消失。
直後にスグルの身体は浮いていた。
鳩尾に拳を叩き込まれたことに気づかないまま、路上に蹲る。
「ごっほごっほ・・・ぐっ・・・」
喉元から胃液が迫りあがり、路上で胃液を撒き散らす。
そのスグルを見下ろし、シモンは無情に告げた。
「お嬢様はこうもおしゃられていました。
『あなたが側に居るとリアが傷付く』と。私もお嬢様に同意いたします。弱いあなたがリンデノーア様の側にいても害にしかならないと思います。」
そう言い残すと、ずぶりずぶりと己の影に沈みこんだ。
最後に“ぽちゃん”と水滴が落ちたような音を立ててシモンは消えた。
残されたスグルは絶望と無力感を噛み締め叫んだ。
「くっそぉぉぉぉぉーーーーーー!!」
なにも出来ない事はこんなに悔しい事だったのか?
諦め、なにもつかもうとしなかった少年は、初めて自分の無力を嘆き、
・・・己の手に掴めなかったものの重みを実感した。
こんばんわ、かな?《すずかぜ らいた》です。
前書きでも言った通りシリアスモードはこれにて終了。
一部やりすぎ!
根拠足りねぇんじゃないの?と言う意見が脳内で飛び交いました。
(全話の隅々まで読んで下さっている方はおぼろげながら分かって下さると思います。)
しかしながら、悩んだ末にこのまま進めることになりました。
ご了承下さい。
さて、ここを読んでいる事はネタばれしても構わないってことですよね?
ということで今話のネタばれをこれ以後含みます・・・。
スグル君が、シモンさんにぼこられるのは結構前から決まっていました。
基本的に主人公最強設定ですが、現在のスグル君のランクは(すずかぜの脳内では)中の中の上です。(微妙な数値ですが、ワンランクごとにかなりの開きがあります)
異世界に飛ばされたスグル君。俺、つえぇーで乗り越えられるほど、異世界甘くありません。天狗の鼻をポッキリと折ってやろうと、機会を窺っていたわけです、はい。
誰がその役をやるのかは決まってはいませんでしたが、徹底的に痛めつけてやって
粉々の!ミジンコの!!どろどろの!!!・・・はぁはぁ。
こんな具合にしようと考えていました。このシーンが書けてすずかぜ的には満足です。
さて、今話で『コノ手ニツカメル物』も19話目
・・・・だれか、誰か感想を下さい!!
厚かましいのは百も承知、すずかぜですから。
余裕のある方は今までの後書きを是非とも読んでいただきたい!!
すくすく伸びますよ!?
ふう、言いたいことは言いました。後は結果を座して待つべし。
・・・・皆さん、御意見御感想を待っていますよ~!!
それでは、ごゆるりと