第13話 復讐
「えーと、まずは自己紹介から始めようか」
現在、宿屋の中の食堂。スグルの前には3人の若い男女が並んで座っている。
リアはメリッサの顔を見るなり、2人で話したいなどと言って二階に連れて行ってしまったのでここにはいない。当然の様について行くシモンについて行こうとしたら、首根っこを掴まれて追い出された・・・・ちぇ。
「では、僕らから。・・・僕の名前はアル・ヴァンシード。17です。こっちはイリス・ヴァンシード。僕の妹で同じく17。見ての通り冒険者してます」
「よろしくー」
髪の色が同じで、茶栗毛の髪質は似ている。それ以外はあまり似ていない。真面目そうなアルに対して、明るくてどこか女子高生を彷彿させるテンションのイリス。
アルはショートヘヤーに対し、イリスはロングへヤーの髪の毛をポニ―テールで括っている。
2人を観察しているともう1人の女性が口火を切った。
「クリスティーナ・モートリアスですわ。歳はそこの兄妹と同じ。ティナでよくってよ」
・・・お嬢様キャラ来た。
金髪碧眼の見事な美少女だ。
さて、3人の自己紹介が終わったところで、こちらの方に視線が集まった。
注目されるのは当然だろう。先のメリッサのフィアンセ発言もあるし、エルフであるリアとパーティを組んでいる事も理由の一つに挙げられるだろう。
エルフはあまり人前に姿をあらわさない種族なので、リアも冒険者ギルドの中など、用がない限り目立たないようにしていた。元々の容姿がアレなのであまり意味がなかったのだが、本人はその事に気が付いていない様である。
「あー浅木優だ。歳はみんなと同じ17。リア、さっきのエルフの人には衣食住で助けてもらってるんだ。」
なんでこんな事を話さなきゃいけないのか。
注目を浴びなれていないスグルは内心ため息をついた。
そんなスグルを見てティナが言う。
「・・・なるほど、ヒモですわね。」
ぐはっ!
「ヒモですね~」追従するイリス。
ぐぼぁ!!
そ、そんな単語がこっちにもあるのか!?いや、現状を省みればその通りなんだが、最近では俺もちゃんと稼いでるよ?
・・・・・・本当だよ?
「こらこら2人とも、スグルさんをあんまりからかうなよ。スグルさんはへたれだけど、なんか事情があるんだよ。・・・メリッサさんがあの性格なのは知っての通りなんだから、・・・あまり詮索するなよ。」
・・・・良い奴だ、アル。
頼りないなんて思ってごめんよ・・・・アレ?
「それにしても、あの2人。どんな関係なんでしょうかー。メリッサさんも大概秘密主義でしたけどー、エルフの方もめったにお会いできないですからねぇ。あっさーは何か知ってますか?」
こっちを見て言うイリス。
「・・・あっさーって俺のこと?」
「はい!」
「・・・いや良いんだけどね、なんか新鮮だ。・・・・・あー、ちなみに俺はなにも知らない。彼女と会って二週間しか経ってないし、冒険者になったのだって同じ二週間前だから、この世界の事だってよく知らないんだ」
「?この世界の事?・・・まるで自分はこの世界の住人じゃないみたいな言い方ですね」
ギクリッ
まずい、アルの指摘はもっともだ。リアのときは勢いで話してしまったけど、そうホイホイ話して良い話には思えない。さまざまな結果が予想されるけど、どれもあまり良い結果にならなさそうだ。・・・どう回避したものか?
「あー!お兄ちゃん、自分はなんか事情があるだろうから詮索するなって言ったくせにずるい~」
「・・・そうだったな。なんかすみません、スグルさん」
「・・・そんなに気にする事はないよ。タメなんだしもっと気楽に話してくれよ」
ナイス!イリス。ポニーテールは伊達じゃないな!!
なんて、心の中でガッツポーズをとっていると・・・。
「はいはい~そんな事より。リアさん?だったけ、あの人とどうして出会ったのかが気になります~」
・・・おいっ
「それは確かに気になりますわ。」
・・・おーい
「・・・僕も気になります。知的好奇心というやつですね。」
・・・・あかん、こいつらだめや。
自分で前言撤回させといて、また同じことやらかすってどういうこと!?
出会いから話し出したら、出自まで突っ込む事になることにイリスは気がついてないし。
最初は頼りないかと思ったアルはなんか狡猾そうだし。
ティナに至っては目をきらきらさせるゴシップ好きのおばさんの気配がする!?・・・・見た目お嬢様なのに、はしたないよ。君!!
意外とバランスのよさそうなパーティに絡まれながら食堂は賑わいを増していった。
*** *** *** ***
リアはメリッサ達を部屋に招き椅子を勧めた。シモンは固辞したが、彼は昔からこうなのでこれ以上言っても聞かないだろう。
リアは一人納得して口火を切った
「メリッサ殿、あなたがここに居るという事はあの男が見つかったのですか?」
彼女はこう見えてテオドーラ帝国の筆頭宮廷魔術師だ。テオドーラ帝国は現在、大陸一番の軍事力を持ち、大陸中央部に位置する。戦時中、覇権を争う軍事国家としての歴史は長く。現在の皇帝・ワイズがその気になれば、たちまち大陸は統一されるだろうと目されている。そしてメリッサは帝国の第3皇女でもある。
もっと多くの護衛を抱えなくてはならない身分のはずなのだが、彼女の奔放な性格と無理を可能にする実力によってここに居るのは想像に難くない。
しかしながら、いかに彼女といえど国境を越えてくるには、それなりの大義名分がなくては難しい事のはずである。
そんな彼女の答えをリアは待つ。
「・・・・・リア。あなたまた胸が大きくなったんじゃない?」
「ななな、なにを言ってるんですかっ、あなたはっ!!」
思わず胸の前で腕をクロスさせて後ずさる。
「いやね、そんなにスレンダーなくせに胸がデカイってどうなのよと私は思うわけ。その細い腰周りに、白くて長い足。うふふふ、私が男だったら襲ってるわ~」
「し、知りませんよ。そんなこと。というかその手を卑猥に動かすのを止めて下さい!!」
「まったく、お子様ね~リアは。エルフの成人年齢が30歳といったってあなたは堅過ぎだわ。
それにあなたと私の仲でしょ。いくらなんでも“殿”付けはひどいんじゃないの?それとも、あのスグル君とかいう子の前では猫被ってるのかな?ん?お姉さんに言って御覧なさい」
・・・・忘れてた。この人はこうゆう人だった。
内心ため息をつきつつ、冷静に言う。
「・・・あなたが期待しているような事は何もありません。彼は私の命の恩人です。・・・ある事情があって今は一緒に行動しているだけです。メリッサど、・・・メリッサの方こそ私に何か用があって来たんじゃないんですか?」
「つれないわねぇ~。
はぁ、・・・私の用件は後で言うわ。それで、スグル君に命を救われた?どうせあなたが大事のように言ってるんでしょうけど、そんな目に遭うなんて、その歳でもう耄碌したのかしら?」
いつのまにかシモンが入れた紅茶を飲みながら言いたい放題のメリッサ。
雨玄茶を勧めてくれるシモンに礼を言い、受け取る。
「・・・もう一度聞きます。あの男が見つかったのですか?」
雨玄茶に口をつけるも苛立ちが隠せない。
そんなリアを見て、メリッサはため息をつきながら言う。
「・・・・・ねぇ、リア。おじ様達を殺した黒い仮面の男に執着するのは分かるけど、あんな子供に助けられているようじゃあ・・・・」
頭に血が上るのが判った。
でも、メリッサのいう通り、それを押さえられほど私は大人じゃないっ。
「分かる?あなたに何が分かるの?メリッサ。あなたに分かるはずがない。セルトの森には、私の家族だけじゃない。マルコーも、ワルドもエリスもいたっ。
ジュナイおばさんのお腹の中には赤ちゃんだっていたのよっ。それを全部壊したのはあいつ、あいつなのっ!
それを・・・簡単に分かったなんて言わないでっ!!」
「・・・分かったからリア、落ち着きなさい」
「分かった?どうしてあなたは昔からそんなに、「バチンッ」、っ!?」
・・・・ものすごい音がした。
頬を平手ではたかれたと気が付くのに3秒。
その間にメリッサに抱き締められた。
「・・・ごめんなさい、リア。お願いだから落ち着いて」
頭から熱が引いていくのが判る。それとは反対に、張られた頬は熱い。
「ごめんなさい、リア。分かったなんて、知った風な口を聞いて、・・・本当にごめんなさい。」
メリッサの声が震えているのに気が付いて、殴った方が泣いている事に可笑しさを感じた。
メリッサが友人として気を使ってくれているのは知っている。
復讐に囚われた人の末路を彼女はたくさん見てきたのだろう。帝国とよばれる彼の国が、戦争を止めたのはそう昔の事ではない。
しかし、それでも、と思う。復讐の末路が空虚なモノだと知っていても、あの仮面の男だけはこの手で・・・。
「メリッサ殿、あの男の居場所を教えて欲しい」
メリッサは、何かを諦めたような顔で頷く。
なぜか・・・・・スグルのことを思い出した。
はい、《すずかぜらいた》です。
本編、シリアスモード突入~デス。ご意見ご感想をお待ちしてます。
今後とも宜しくお願いします。
ではごゆるりと