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剣士と拳闘士はお休み、勇者は仲間と会う。2

 エースは何故かサウスティアの外門にいた。


「チッ、どこ逃げた」


 辺りを見回しても人の気配は無い。

 エースは露店を冷やかしながら歩いている最中に、子供のスリに会い、指輪の入った袋を奪われてしまっていた。

 その子供を追いかけながら必死に走っていると、気がつけばサウスティアの外に出てしまっていたわけだ。

 商業都市だけあって、サウスティアへの出入りは非常に規制が緩い。

 外に出るだけならば、何もチェックは無しに出れてしまうし、中に入るのにも、簡単な手荷物審査があるだけだ。

 その分盗賊に狙われやすそうな印象を与えるが、そこは商業都市。行きかう商人は皆旅の経験者ばかりで腕っ節は強く、さらにその商人の喧嘩を止めるための警備兵たちはそれ以上に強い連中がそろっている。

 盗賊程度にどうにかできる都市では無いのだ。

 サウスティアを落とすには、伝説上の生き物であるドラゴンを連れてこいと言われるほどである。

 さて、話がそれたがキールはそんなサウスティアを出て、すぐ近くにある森に来ている。

 子供が町の外に出たのを確認している以上、逃げ込める場所はここぐらいしかないからだ。


「小銭程度なら許してやってもいいんだけどな。流石に、金貨十五枚のエルフの財宝は無理だわ」


 一人呟きながら森の中を進んで行くと、小さな小屋があるのを見つけた。

 近くの草むらに隠れて、そこから様子をうかがう。

 家の中からは話し声が聞こえてきた。


「これをどうしたのですか?」

「これ兄ちゃんのだろ! あんな奴が持ってるなんておかしいんだ!」

「これは私がちゃんと商人の人に売ったものなんですから、奪ったりしたら行けません」

「でもこれは!」

「悪いことは悪いことです。それがどんな理由であれ、法を犯す様な事をしてはいけません。取った人に帰して来なさい!」

「ううぅぅ……」


 一人は青年の様な落ち着いた声音だ。

 もう一人はおそらくエースから指輪を取った子供だろう。

 話から察するに、指輪は元はその青年の持ち物だったようだ。ならば青年がエルフなのだろう。

 それならばこの森の中に隠れているのもうなずける。

 トモネの様に、絶対数の多い獣人ですら奴隷にされそうになるのだ。絶対数の少ないエルフならなおさら奴隷として高く売れる。

 またエルフは美男美女が多く、永い間老いることも無い。そのため観賞用や、見栄を張った貴族に奴隷として非常に人気が高いのだ。

 そのほぼ全てが、盗賊などに襲われ奴隷商人に売られた物ばかりだ。

 どれも違法だが、逆にそれが貴族たちの間でスリルを味あわせ、娯楽の一つになってしまっている。


 エースは青年の声音から直接赴いても大丈夫だろうと判断し、小屋の扉を叩いた。

 中から青年の声がして、扉が開く。


「はい、どちらさまでしょうか?」

「突然すまない。ここに子供が逃げ込んでいると思うんだが……」

「ああ、あの袋の持ち主の方でしたか」

「そうだ、かなり大金をはたいたからな。流石に盗られるわけにはいかないんだ」

「どうぞ中にお入りください。中にその子もいますから」

「ああ、じゃあ遠慮なく」


 青年は取り乱すこと無く、落ち着いた様子でエースに対応した。




「ねえ、こっちのはどうかな?」

「ちょっと派手すぎませんか? ここなんか完全に見えちゃってますよ?」

「そうかなー、これぐらいでもいいと思うんだけど」

「それよりこっちのなんてどうです? 可愛いと思うんですけど?」

「うーん、あんまりフリルが多いと剣振った時に当たって切れちゃうのよね」

「あー、確かに邪魔かもしれませんね。ならいっそこっちので」

「ちょっ!? それは無いわよ/// ほとんど下着じゃない!」

「なら私これにしようかな」

「ほんとに人前で着るの!?」

「これなら前みたいに魔獣とか魔物の血で汚れても、すぐ洗えそうじゃないですか」

「たしかにそうだけど……でもキールさんたちの前でその格好は……恥ずかしくない?」

「……確かにそれはあります///」


 トモネはそっと服を棚に戻した。

 二人は今、サウスティアで人気の高い服屋に来ていた。

 すでにここで一時間以上、選んでは棚に戻しを繰り返している。

 会話の中に魔物や、血や、内臓などと言う単語が出てきて周りの買い物客が引いているが、そんなことは全く目に入って来ない。

 それほどまでに二人は買い物を楽しんでいた。


「そろそろ次のお店に行ってみない?」

「そうですね。時間使い過ぎちゃいました?」

「ううん。予定通りってところかな。まあ、次がどうなるか分からないけどね」

「フフフ、女の子ですからね」


 二人が話しながら出て行くのを、見た店員と客がホッとため息をついた。


「それで次のお店はどこでしたっけ?」

「ここから少し離れてるわ。町に入ってきた外門のすぐ近く見たいね」

「じゃあそこまでに何か食べながら行きませんか!」

「そうね。何にしようかしら」


 周りを見れば、どこもかしこも食べ物屋が露店を出している。

 肉、野菜、魚、果物と多種多様にわたる食材が、見たことも無い様な調理法で調理されているのを見て、シルビアも心なしか胸がときめいてしまう。

 トモネは迷わず魚の塩焼きを買っていた。

 塩焼きにかぶりつく姿に苦笑しながら、シルビアも同じものを買う。

 そしてその隣の店に置いてあった、果物ジュースも一緒に買った。


「へえ、骨まで食べれるんだ」

「凄いですよね。なんでも歩きながら食べれるように特別骨の柔らかい魚を選んで塩焼きにしてるそうですよ」

「考えてるのね。それにこの果物ジュースもなかなか行けるわね。塩辛くなった口にちょうどいいわ」

「本当ですか? 一口くださいよ」

「いいわよ」


 魚一直線で、飲み物を何も買っていなかったトモネに、ジュースを渡す。


「本当だ。美味しいです」

「でしょ。これきっと塩焼きに合わせて味を調節してるわよ」

「そうみたいですね。これも商人の知恵なんでしょうかね」

「そうでしょうね。特にここなんて商業都市だもの、それぐらいやってても不思議じゃないわ」


 二人が感心しながら歩くなか、トモネの腰に子供がぶつかった。

 その拍子にジュースが少しこぼれて、子供に掛かってしまう。


「あ、ごめんね僕。大丈夫だった?」

「うん、大丈夫。こっちこそごめんなさい」


 子供はそれだけ言うと、サッと走り去ってしまった。


「ずいぶん急いでるみたいでしたね」

「トモネ、腰袋取られてるわよ」

「え? あれ!?」


 シルビアはトモネに子供がぶつかった際に、腰袋をとって行くのをしっかりと見ていた。

 ただ、トモネがそれに気づく様子が無かったので、いい経験だと思い放置したのだ。


「いつの間に……」


 子供はすでに人ごみに紛れ、どこに行ったか分からなくなってしまっている。


「サウスティアは、治安はいいけどスリとかの子供でもやりやすい犯罪は多いから気をつけてね。今日は私も分かってて無視したから私がおごってあげる」

「ありがとうございます」

「あの腰袋の中って何が入ってたの?」


 やけにすんなりと、腰袋を諦めたことが気になったシルビアは、聞いてみることにした。


「お金が少しと、小石が沢山です」

「小石?」

「はい。投擲用にいつも持ち歩くようにしてるんです」

「へぇ、そんなことしてるんだ」


 思わぬ内容に少し驚いたが、それでも理由を聞いてしまえばかなり納得のいくものだ。

 拳闘士が拳を武器にしているように、その腕力は計り知れない。

 トモネなどはゴブリンの頭蓋骨ですら砕けるのだ。

 しかし、その分遠距離からの攻撃にはめっぽう弱いのが拳闘士の特徴だ。

 それならば、鍛えた腕で投げる小石を、常に持ち歩くのも一つの解決策なのだろう。


「夕方にでも、外門に出て投げやすい小石を探してきます」

「そういうのも選んでるんだ」

「そうですね。握りやすい小石と握りにくいのなら、狙いにもかなり違いが出てきますから。あの袋の中に入っているのなら、だいたい一キロ以内は確実に当てれますよ」

「そんなに……」


 以前の地砕きと言い今回の投擲と言い、トモネを知るごとに、仲間にして良かったと実感するシルビアだった。


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