剣士と拳闘士はお休み、勇者は仲間と会う。3
「まずはこちらがその袋です。どうぞ中身が変わってないか確認してください」
居間に通されたエースは、そこで青年から盗まれた袋を返してもらった。
青年の言葉に甘えて、その場で中身を確認していく。
幸い、ほとんど宿に置いてきているので、確認には時間が掛からなかった。
「ああ、間違いなく全部ある」
「このたびは申し訳ありませんでした。ほらユウトも」
「お兄ちゃんごめんなさい」
「ちゃんと物は返ってきたし、反省もしてるならいいさ」
「ありがとうございます。正直怖い人が来たらどうしようかと思ってました」
「ごめんなさい」
「おう、もうするなよ」
エースが優しく言うと、ユウトはホッとしたように息をつく。内心は凄く緊張していたのだろう。
なにせサウスティアでの犯罪は、どれも重い罰が与えられることが決まっている。
窃盗は一番軽い罪になるが、それでも罰金と禁固刑をかせられるのだ。その間の強制労働はかなり辛いと聞く。
「じゃあ俺はこれで」
「そうですね。このたびは誠に申し訳ありませんでした」
取り返す物は取り返したのだ。ここに長居する理由は無い。
そう思い、席を立つ。
外に出たところで、回りがやけに騒がしいことに気がついた。
人が集まって起こる騒がしさでは無い。森のざわめきと言った方が良いだろう騒がしさだ。
「もうこの場所も見つかってしまったのですか……」
それに気づいた青年が大きくため息をついた。
「あなたは早く逃げてください。出来ればこの子も連れて」
「どういうことだ?」
「もうすぐここに魔獣がやってきます。私はそれの相手をしないといけない」
「魔獣なら町の警備兵に頼めばいいんじゃ?」
「今から来る魔獣は少し特別でしてね。特殊な改良を施されている場合があるんです。なので迂闊に町に近づけるわけにはいかないんですよ」
青年はやれやれと言った様子で小屋の中に入ると、弓と矢を持って出てきた。
魔獣の襲来にやけに慣れた様子で対処するエルフに疑問がわく。
「やけに慣れてるように見えるけど、口ぶりからしても何回もあるのか?」
「居場所がバレているとひっきりなしに来ますね。だからこうして森の中でこっそりと暮らしているわけですが、おそらく指輪を売りに行った時にでもバレてしまったのでしょうね。町で襲われなくて幸いです」
「そうか。なら俺も手伝おう」
エースの行動は、魔獣が来ると知ってから決まっていた。
困っている人を守らないで何が勇者か。ユウトを守ることも重要だが、ここでエルフの青年を見捨てていい理由にはならない。
それだけの力がエースにはあるのだから。
それに魔獣との戦いなら、痛い思いをすることができるかもしれないと……
「そんな!? いけません。少しは魔獣との戦いの経験があるのかもしれませんが、今から来るのはそんなものとは比べ物にならないほど危険な存在なんです。正直、私でも無事でいられる保証は無いんです。お願いですからユウトを連れて逃げてください」
「そう言うわけにはいかないんだ。なんたって俺は勇者だからな」
「勇者? ……それは最近噂になっている勇者の事ですか?」
「ああ。仲間を探しながら旅をしてる」
そして探している最後の仲間は弓使い。彼が持っている武器も弓。これがエースには偶然の一致とは思えなかった。
「そう言えばまだ名前聞いて無かったな」
「そう言えば言ってませんでしたね。失礼しました。私はカズマと申します」
「そうか、カズマだな。覚えたぜ。なあ、カズマは魔獣から隠れながら生活してるって言ってたよな」
「ええ、そうですが……」
「なら俺達と一緒に来ないか?」
「勇者のパーティーとですか?」
「ああ。それなら魔獣が来ても確実に対応できるし、被害も出にくい。その魔獣が改良型って言うなら、少なからず魔王も関わってるはずだし、俺達としても見逃せない」
「すこし……考えさせてください」
「どうせ、今から来る魔獣は倒さないといけないんだ。ゆっくり考えてくれ。どっちにしろ、俺達はしばらくこの街に止まることになりそうだした」
「分かりました」
「さて、魔獣が来るのを待っててもいいが、それじゃ癪だ。こっちから出迎えてやろうぜ。少しでも小屋から離せば、ユウトの安全も確保しやすいだろ」
「そうですね。行きましょう」
「キール様」
「分かっている。魔獣が近くまで来ているんだろ」
「はい。いかがなさいますか?」
「俺は動くつもりは無い。自称勇者でも何とか出来るレベルだ」
「ですが彼は今武器を持っていませんよ?」
「なんとかしなければ死ぬだけだ。別に問題は無い」
「それもそうですね」
そこでキールはただ……と続ける。
「ただ、魔物は別だ。近づいてきているのは知り合いか?」
「いえ、知らない魔物です。おそらく私が魔王城を去ってから新しく配属されたのでしょう」
「ふん。新人が出しゃばっているのか。すこし説教する必要がありそうだな」
「では私が行きましょうか?」
「そうしろ。だが今回は殺すな。魔王の存在を魔王城の奴らに知らせてやれ」
「よろしいので? 魔物の動きが活発になるのでは?」
「俺の考えが正しければ問題ない。つまり問題ないということだ」
「分かりました。ではそのように」
サーニャが席を立ち、部屋を出て行く。
キールはそれを見送って、ベッドに横になった。
「何を企んでいるかは知らんが、俺の平穏を邪魔したのは罪が重いぞ、自称魔王」
「そろそろ鉢合わせるか?」
「はい、そうですね。ぎりぎり森の中で戦うことは避けられそうです」
「森の中じゃ魔獣に有利すぎるからな」
徐々に、カズマの気配を追って迫って近づいてくる魔獣は、すでに森の入口付近まで到達している。
だからこそ森が騒がしかったのだが、その喧騒の様子からまだ森の中には入られていないと言うのがカズマの考えだ。
ならば、森に入ってくる前に倒してしまおうと言うのがエースの意見だ。
相手が魔獣である以上、俊敏性に富んだ物が来るのは間違いない。
森の中では足場が悪く、視界も確保しにくいため、戦うには向かない。
少しでも地の利を良くするため、二人は森の中を全速力で走り抜けた。
「見えたぞ!あいつだ」
魔獣を先に発見したのは、光魔法で自分の視力を強化させたエースだった。
一見普通の犬型の魔獣となんら変わらない姿だが、光魔法を通してみるエースの視界にはその異常性がはっきりと垣間見えた。
「なんだこの魔力……今まで見たことが無い。それに体の中に何か異物が入ってる?」
「それが魔獣の根源です。私を襲ってくる魔獣は、どうやら人工的に生み出された物らしいのですよ。そして、その生み出すための道具がエースさんの見つけた異物です」
「魔獣を生み出す!?」
「はい、魔王の配下が研究していたことです。完成していてもおかしくない」
「カズマはなんでそんなこと知ってるんだ?」
「私が追われるようになった理由でもあるんですが……偶然その研究をしている場所を見つけてしまったんです。遺跡の隠し部屋の中にあったのですが、本当にたまたま見つけてしまいまして。さらに間の悪いことに、こっそりと逃げようとしたところまで見つかってしまいましてね」
「それで追われてたのか。じゃあ、あの魔獣の後ろには魔物が控えてる可能性があるんだな」
「はい。それも悪魔クラス程度には強力なものが」
「カズマもかなり厄介事に首を突っ込んでたんだな」
カズマの偶然から始まった境遇に苦笑しつつ、自分も勇者なんてやってることを思い出してさらに笑みを深める。
「さて、そろそろ相手も気づくだろ」
「そうですね。エースさんは武器は何を? 見たところ何も持っていないようですが?」
「俺はこの剣を……ってあれ?」
腰にまわした手に、いつもはあるはずの柄の触感が無い。
そこで始めて、宿の部屋に剣と楯を置いてきていることを思い出した。
「しまった……今剣持ってきてないんだ」
「私のナイフでも使いますか? 無いよりマシだと思いますが」
「いや、魔法で作るから大丈夫だ」
「そんなことが出来るんですか?」
「かなり反則的な技だけどな。それにナイフ程度を数分しか持たせれない」
「それでもかなり凄いものだと思いますけど」
「だから反則的な技なんだよ。おっと、相手がこっちに気づいたようだぜ」
魔獣は、今までの探すようにゆっくりとした足取りから、今は真っ直ぐにこちらに走って向かってきている。想像通り、かなり機敏な動きだ。
まだ森の中を抜けきっていないエース達は、相手をしながら森からの脱出を試みる。
「走れ光の刃。ライトニング・アロー、バランスシフト!」
森の中で走りながらだと、狙って撃つことは出来ない。そのためエースはライトニング・アローをばら撒きながら魔獣を牽制する。
カズマも器用に弓を撃ちながら、魔獣を牽制し森の外を目指した。
だが、魔獣はそんなものをお構いなしに突進してくる。
魔獣にエースのライトニング・アローやカズマの矢が当たるが、魔獣の体に刺さることは無く、あっけなくはじかれてしまった。
「かなり硬いな」
「あれも改良体ですからね。今までもあれぐらいの硬さなら何体かいました」
「どうやって倒したんだ?」
「直接させば何とか刃は通るんですよ。その時は不意を突いて首に突き立てました」
「なるほど。刃物が通るって分かってるんなら大丈夫だ。
走れ光の刃。ライトニング・アロー、バランスシフト!」
振り向きざま、エースは魔獣を狙わず、その前にある木を狙って放った。
魔獣自体を止めれないなら、障害物で足止めしてしまえばいい。
ライトニング・アローを受けた木がミシミシと音を立てながら魔獣の前に倒れてくる。
流石の魔獣も、倒れてくる木は無視できないのか、かわしながら追いかけてくる。
そしてやっと森が開けた。
「よし抜けた!」
「今から本番ですけどね!」
その後に続いて、魔獣が木を避けながら飛び出してきた。
そこで始めてエース達は魔獣の全容を見ることが可能になる。
全身は魔力が暴走しているため、当然のように黒い靄に覆われている。
体高はだいたいエースの腰ぐらいまでの高さだが、その分足が細く、俊敏性に富んだ個体のようだ。
「狩猟犬の魔獣でしたか。道理で足が速いはずです」
カズマが納得したように呟く。
魔獣はグルルルルと威嚇しながらエース達の回りを警戒するように回っている。
どうやら先ほどのライトニング・アローで二人に対する警戒度を上げた用だ。
「さて、ここからどうするかだな。俺のナイフは少しの間しか使えないし、剣ほど長くも無い。あいつに張り付く必要があるんだけど」
「なら私が援護しましょう。幸い弓には自身があります」
森を抜ける際に見たカズマの弓の能力は、エースも確認している。
「じゃあそれで頼む」




