4 最悪な事態
「シミュレーションにエラーはなさそうですな。この先行コンテナの動き、確かに怪しい」
眠たそうな目を擦りながら、熊野が操舵室壁面のディスプレイを眺めながらそう呟いた。深瀬が悩ましげな表情で、こめかみを指先でトントンと軽く叩いた。
「怪しいんだが確たる証拠がない。しかし、もし先行コンテナにミサイルが隠されていたら、我々の状況確認直前に発射されてしまう。そうなれば対処不能だ」
熊野が腕組みをして顔をしかめた。
「誤射という体でコンテナを破壊しちまいたいところですが、退職金がパァになるどころか刑務所行きですしな。まあ、そもそもアルシア嬢の豆鉄砲じゃ無理か……」
そこまで話すと、熊野が何かに気づいた表情で深瀬の方を向いた。
「艇長、アルシア嬢の娘さんにお使いを頼むってのはどうですか? 百聞は一見に如かずだ。アルシア嬢の娘さんに、先に見に行ってもらいましょう」
「娘? ああ、無人救難艇か。確かにアレなら我々よりも早くコンテナと邂逅できるか……」
深瀬がそう呟くと、西郷の顔を見た。
「よし、西郷君、無人救難艇について、先行コンテナの状況を撮影可能で、かつ、最短で先行コンテナに邂逅できる軌道を計算してもらっていいかな? 時間優先で、燃料や推進剤を使い果たしてフライバイしてしまって構わない」
「承知しました」
深瀬の指示を受け、西郷が仮想操作卓で作業を始めた。深瀬がそれを見守りながら少し考えると、熊野に言った。
「あと、警備隊本部と船団宛てに、平文で『一部のコンテナが予定軌道を僅かにズレた可能性あり。現場で確認する』という感じで送ってみようと思うんだけど、どう思う?」
「なるほど。何も知らない体で本部や船団に連絡して、相手の動きを窺うという訳ですな」
「うん。もし本部や資料調査部、船団に何かしらの情報があれば、何らかの反応があるかと思ってね。まあ、情報を持っているなら、事前に教えて欲しいところだけど」
そう言って苦笑する深瀬に、西郷が声を掛けた。
「お待たせしました。無人救難艇を射出後、全力加速させれば、三十分後に撮影可能な相対速度で先行コンテナに邂逅できます。無人救難艇は、帰りの分の推進剤が不足したまま、先行コンテナの右舷後方から左舷前方へフライバイすることになりますが……」
そこまで言うと、西郷がイタズラっぽい笑みを浮かべた。
「ただ、偶然なんですが、この軌道であれば、残りの推進剤を使って、来年三月頃に火星周辺に到着する軌道に乗せることができそうです」
「はっはっは。長いお使いになりそうだな」
熊野が豪快に笑った。
♢ ♢ ♢
「準備できました。それでは無人救難艇一号機を射出します。五分後に二号機を射出します」
「ありがとう。よろしく」
巡視艇アルシアとコンテナ群の邂逅予定時刻の一時間前。深瀬の了承を受けて、西郷が仮想操作卓を操作した。
軽い振動の後、操舵室壁面の共有ディスプレイに、無人救難艇を表す輝点が現れた。みるみる加速していく。
深瀬は、熊野や西郷と相談し、残り一機の無人救難艇も射出することにした。
無人救難艇に攻撃能力はないが、万が一ミサイルが発見された場合は、体当たりしたり、消火剤や保護剤を散布したりすることで対抗する予定だ。あまり効果は期待できないが、何もしないよりマシという判断だ。
二号機を射出してから数分後、深瀬は火星共同警備隊本部及び式典招待者が乗る船団宛てに平文で連絡を行った。
「さて、本当にミサイルはあるのか。何もなくて無人救難艇の亡失等で懲戒処分か……どっちに転んでも最悪だなあ」
深瀬は、椅子の形にしていた座席を床に敷いたベッドの形に変えて、天井の共有ディスプレイを見上げながら、ため息をついた。




