22 中間点
篠原が暗い顔をしていたちょうどその頃。敷設船マレアは、火星-地球中間点付近の宙域で、再び積載量いっぱいの無人観測機と自動追尾型機雷の敷設を行っていた。
マレアは、主力部隊に先行して、火星独立宣言の三日前に、秘密裏に出航していたのだ。
「船長、巡視船オリンポスから暗号文を受信しました」
仮想操作卓でその内容を見た船長は、険しい顔で言った。
「どうやら、中国とインドの宇宙軍が、それぞれ火星を目指して航行中らしい。両軍は、昨日の事務総長の記者会見後しばらくして地球を出航したようだ」
船長の話を聞いて、敷設長が言う。
「今の火星と地球の位置関係を考えると、高速艦艇で中間点まで二日かかるかどうかというところでしょうか」
「そうだな。減速してなければ、かなりの速度で接近しているだろう」
船長はそう言うと、当直士官に言った。
「無人観測機のデータを収集・分析しつつ、火星へ撤退する」
敷設船マレアは、火星方面への加速を開始した。
♢ ♢ ♢
「中国とインドの艦隊は、地球からほぼ全速力で加速を続けているようですね」
敷設船マレアの電測員が、無人観測機のデータを見ながら船長に言った。
データによれば、地球から火星への最短軌道を、二つのグループが別個に進んでいるようだった。
「中国・インド両軍は連携してないようだな。それにこれだけの速度で中間点に向かうとは……機雷敷設の情報は掴んでいないのか」
船長が呆れた表情で言った。近くにいた敷設長が答える。
「無人観測機のみだと考えて、電撃侵攻を選択したんでしょう。機雷があると知っていれば、軌道をずらすか、超長距離ミサイル等で機雷の無力化を図るはずです」
「奴さんは想定よりも情報収集力がなかったということか……よし、このことをオリンポスに暗号文で連絡」
船長の指示を受けた通信士官が準備を始めた。
♢ ♢ ♢
「こちらは火星臨時政府・火星共同警備隊。貴艦の航行目的を明らかにされたい」
マレアから無人観測機経由で中国・インド両軍に平文で送信したが、返答はなかった。
マレアが再び送信する。
「貴艦が火星-地球中間点を越え、減速等を開始した場合、火星に対する武力行使の意思ありとして対応する」
両軍から返答はなかった。通信機器の故障等による不測の事態を避けるため、事務総局の外務局経由で中国・インド両政府に同じ内容を伝達してもらったが、両政府から反応はなかった。
♢ ♢ ♢
中国・インド両軍の艦艇が、火星-地球中間点を越える時刻を少し過ぎた頃。仮想操作卓を注視していたマレアの通信士官が声を上げた。
「オリンポスから入電。中国・インド両政府は、火星の両国領土における叛乱を鎮圧するため軍を派遣した旨を公式に発表しました!」
「彼我の現在位置確認!」
船長が指示した。共有ディスプレイに火星-地球中間点を中心とした艦艇の位置が表示された。
中国・インド両軍は、それぞれ巡洋艦を中心に十数隻程度の艦隊だ。特に相互に連携はせずに、全速力で火星に向かっていたが、中間点を越えたところで回頭し、減速に入ったようだった。
両軍はマレアが敷設した機雷を単なる無人観測機と思っているようで、かなりの高速度で機雷敷設エリアに接近している。
対する火星共同警備隊の主力部隊は、中間点に向かって加速しながら航行中だが、到着までに20時間以上かかる見込みだ。
そして、マレアは、火星に向かって加速を続け退避中だが、敷設船であるマレアの加速能力はそこまで高くない。警備隊の主力部隊が来るよりも早く、中国・インド両軍に追いつかれる見込みだった。
巡洋艦等の艦隊に敷設船一隻では太刀打ちできない。
「オリンポスから入電。き、機雷による攻撃命令です!」
通信士官が緊張に震える声で報告した。誰もが覚悟していたことではあったが、実際にその命令を受け、マレアの操舵室兼指揮所に緊張が走る。
ついに、人類初の星間戦争が始まろうとしていた。




