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ミッション達成率120%越えの暗殺者は、灰かぶりの悪逆王女(優しい)を、今日も殺せない  作者: 初美陽一


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16/22

第16話 悪逆王女の末路に、めでたし、めでたし。     などと。

 悪逆王女とさげすまれしミルフェ=エラ=マギアは、塔の最上階にある寝室で、自国のものであるはずの兵士に、遠巻きに取り囲まれ槍を向けられている。


 そうして、急進派とうそぶく大臣から、明らかに根拠の乏しい罪悪を突き付けられていた。


「悪逆王女よ、国政の汚濁すべてに関わり、不当なる利益をむさぼる忌むべき存在よ。傲慢にして傍若無人、開国以来の悪女――《灰かぶりの悪逆王女》よ。貴様が消えぬ限り、この国に安穏は訪れぬ。おとなしく、その命を差し出すが良い」


「………………」


《灰かぶりの悪逆王女》と悪名で呼ばれ、あらぬ罪状にさらされている。

 そんな彼女は、その悪名に似つかわしく、怒りに、憎しみに、悪意に、表情を歪めているだろうか。


 いいや

 いっそ、そうであれば、まだ溜飲りゅういんも下がるだろう。


 なのに、彼女は――《灰かぶりの悪逆王女》は――


「わたくしが」


 ――――儚く、()()()()


「わたくしが、今ここで、命を落とせば――国は、()()()()のでしょうか?

 つたないわたくしでは、助けられない民を、苦しむ見知らぬ誰かを。

 ほんの少しでも、救って差し上げることが、出来るのでしょうか?」


「……ええ、ええ。それはもう、間違いなく?」


「…………そうですか」


 心魂しんこんから醜さの根付いている大臣の、口先だけの肯定を受け、王女は告げた。



「それならば……良かったです。本当に……良かったです」



 その微笑みに、言葉に、嘘などは、微塵もない。


〝良かった〟と、〝自分が死んで誰かが幸せになるならば〟と。

〝それでいい〟と、心の底から思い、微笑んでいるのだ。


 それを見て、果たして誰が、彼女を〝悪逆王女〟だなどと信じられるだろう?


『オ、オイ、奴……()()()が、本当に噂の《灰かぶりの悪逆王女》なのか……?』

『そのはず、だろ……国中でも、城内でも、そう知られてて……』

『けど……あんな風に笑う人が、本当に……傍若無人な、悪逆王女……?』

『バカ、滅多なこと言うな。大臣に聞こえたら、家族がどうなるか……』


 兵士たちが明らかな動揺でざわめくと、場を仕切っている大臣は一瞬だけ表情をしかめたが、すぐさま余裕の表情を浮かべ直した。


「ふん。悪逆王女よ、貴様の自己防衛魔法は存じておる――それによって、正義を抱いて訪れた刺客を、ことごとく無惨に葬ったこともな。だが、それは〝敵意〟などに対して発動するもの……聞けば〝自害ですら防ぐ〟との話だが、さて……()()()()()()()なら、どうか? 例えばこの塔が崩落し、し潰される、とか」


「! …………」


「何せ悪逆王女が居住を構えるまでは長く使われず、老朽化が進んでいてもおかしくない。不幸な事故で……いや、それこそが天意というものだろう。悪逆の報いを、天罰によって受ける――全く以て、理屈が通ったではないか」


 なるほど、塔の最上階、更にその天井部には、無数の爆薬が確かに仕掛けられているようだ。

 引火すれば、天蓋付きのベッドを中心に、天井そのものが重々しくし掛かってくる、そういう作りなのだろう。


 全く、何とも()()()()()()が、あったものだ。


 そんな汚濁を誇らしげに、自らが天罰の代行者とでも言わんばかりに、処刑人を気取った大臣が、見るもおぞましく寒々しい薄ら笑いを浮かべてほざく。


「では、どうかこの国の全ての汚濁を呑み込んで。

 ご退場ください、《灰かぶりの悪逆王女》よ――」


 合図するかの如く、手を振り下ろすと――老朽化など冗談にしかならぬ、爆発音が響いた。


 破壊された天井が重量そのままに、野太いギロチンの如く、降りかかっていく。

 それを、王女は静かに、受けれるように、見上げていた。


「わたくしは、これで、構いません――これが結末で、構いません。

 悪逆と呼ばれ生きてきた、そんなわたくしが、人生の最後だけは。

 幸せだったのです――本当に、それが全ての如くに、幸せでした。


 ……ああ、でも……()()()()。ただ、()()()が……ただ()()()()


 その細く儚い身が、圧し潰される、その寸前。

《灰かぶりの悪逆王女》は――呟いた。




「わたくしの、命は――()()()()()()()()()()()()()()――」




 直後。

 大岩が落ちてくるような、重々しい音が、断続的に響く。


 ――――これにて。


 国を乱す開国以来の悪女、《灰かぶりの悪逆王女》は、天罰を受けましたとさ。

 ()()()()()()()()




 ……………………。




 ()()()


「ところが、悪逆王女が命を落としたとて、国が良くなる未来などない――どころか、我欲に支配された反吐へどにもおと汚濁おだくがのさばり、国は本当の意味で病んで乱れるというのが、真実の結末となるのだろうな」


「………………。

 …………え?」


 ああ、そのような結末を、認められるはずも()()()()よ。

 ()()最初から、ずっと見ていたからな。


 これで構わない――――()()()()()


「わたくしは……夢でも、見ているのでしょうか?」


 今、右手の短刀で、バターでも裂くように、落ちてくる天井を〝殺した〟。

 そんな俺の左腕の中で、信じられないとばかりに、彼女はつぶらな目をまばたかせている。


 そうだ――王女の言う通りだろう。

 ターゲットの命を思うままにすべきなのは――()()()なのだから!



「国一番の暗殺者にして、ミッション達成率、()()1()2()0()()()()()()()()()()

 ――――ソウマ=クサナギが、割って入るぞ――――」


 随分と風通しの良くなった天井から差し込む、鮮烈なまでに眩い月明かりに照らされながら。


 暗殺者である俺は、ターゲットである王女を、庇う様に抱きしめていた。


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