第3話: ボス6と5
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空は厚い雲に覆われ、駅の構内は大勢の人々で混雑していた。
キロたちは駅の近くを通りかかっていたが、ソネは何か不吉な気配を感じ取った。
「……何かがおかしい」
そう呟いた次の瞬間、ソネは素早く駅の中へと駆け込んだ。
そして、その直後――駅の屋根の上から、何者かが姿を現した。
白いシャツを身にまとい、鍛え上げられた腹筋がはっきりと浮かび上がっている。両手には手袋をはめ、穴の開いた灰色のズボンに、闇のように黒い靴を履いていた。
男は片手を掲げた。
その瞬間、駅の屋根全体が崩れ始めた。
ソネは即座に反応し、救助できる人々を次々と安全な場所へ避難させた。
一方、キロはソネの姿が見当たらないことに気づいていた。直後、何かが崩れ落ちる轟音が響き渡る。
音のした方向へ駆けつけたキロは、駅の屋根が崩壊している光景を目の当たりにした。
そこへ、セバスティアンとウォルフも合流した。
セバスティアンは迷うことなく、崩れ落ちた屋根の一部を掴んで取り除き、そのまま駅の内部へと足を踏み入れた。
周囲を見渡した瞬間、彼の表情が強張った。
そこには、命を落とした子供や大人たちが倒れていた。
セバスティアンは、幼い子供の痛ましい姿を目にして、強烈な嫌悪感に襲われた。
「……っ」
彼は目を閉じ、顔を背けた。
それでも、立ち止まるわけにはいかなかった。
前へ進もうとした、そのとき。
彼は、思わず息を呑んだ。
目の前にいたのは、駅の屋根を崩壊させたあの男だった。
男は、幼い赤ん坊の首元を片手で掴んでいた。
やがて男はゆっくりと振り返り、セバスティアンを見つめた。
その口元に、薄気味悪い笑みが浮かぶ。
「おやおや。正義の味方でも気取って、みんなを救いに来たのか?」
男は皮肉たっぷりに言い放った。その声には、隠しきれない悪意が滲んでいた。
セバスティアンは、頭の中に奇妙な感覚が走るのを感じた。
しかし、すぐに首を振り、意識を立て直す。
「黙れ!」
彼は男に向かって拳を放った。
だが、男は軽々と跳び上がり、その一撃をかわす。
次の瞬間、男の蹴りがセバスティアンの顔面を捉えた。
「ぐっ……!」
セバスティアンの体は吹き飛び、壁に激突した。
彼は血を吐き、苦痛に顔を歪める。
胸の奥から、激しい怒りが込み上げてきた。
そのときだった。
男は赤ん坊を床に置いた。
そして――無慈悲にも、その足で踏みつけた。
「……あ」
セバスティアンの顔に、赤い飛沫が散った。
その瞬間、彼の意識が途切れた。
目を閉じたセバスティアン。
だが、再び目を開いたとき――その瞳は、別の色へと変わっていた。
オレンジ色の瞳。その中心には、燃えるような赤い瞳孔が浮かんでいる。
髪は逆立ち、炎のような色へと変化していた。
今、この体を支配しているのは、セバスティアン自身ではない。
彼の中に宿る、怒りの感情だった。
男は片眉を上げ、興味深そうに彼を見つめた。
「へえ……。今のは一体どうやったんだ?」
男はわずかに首を傾げる。
「それに、どうしてそんなに俺を睨みつけている?」
好奇心を含んだ声。しかし、その奥には不気味な響きがあった。
男が次の行動を起こすよりも早く――
セバスティアンの姿が消えた。
「なっ……!?」
次の瞬間、彼は男の目の前に現れ、その腹部へ強烈な拳を叩き込んだ。
拳が命中した瞬間、激しい炎が男の全身を包み込む。
男は抵抗する間もなく、炎の中へと消えていった。
やがて、その体は灰となって崩れ落ちる。
さらに、拳の衝撃によって発生した暴風が前方の壁を粉砕した。
周囲の空気が重くなる。
セバスティアンを中心に、炎の輪がゆっくりと広がっていった。
その頃――。
走行中の列車では、乗客たちは何も知らず、普段どおりの時間を過ごしていた。
ソネは全速力で列車を追いかけていた。
線路の先に目を向けた瞬間、彼は状況を理解する。
ジェフェ6によって線路が破壊され、その先には深い谷が口を開けていたのだ。
「まずい……!」
ソネは素早く体を丸めた。
髪のトゲが推進力を生み出し、彼の体を前方へと弾き飛ばす。
そして、列車の正面へと回り込んだ。
ソネは両手を広げた。
直後、列車が彼の体に激突する。
筋肉が強張り、凄まじい衝撃が全身を駆け巡った。
それでも、ソネは一歩も引かなかった。
「止まれぇぇぇっ!!」
全力で列車を押し返す。
その一方、運転士も前方の異変に気づき、慌ててブレーキを踏み込んだ。
しかし、列車は減速しなかった。
「な、なんで止まらないんだ!?」
何度試しても、ブレーキは反応しない。
故障していたのだ。
運転士の顔から血の気が引いていく。
彼はマイクを手に取り、乗客たちへ必死に呼びかけた。
「乗客の皆様、緊急事態です! ブレーキに重大な故障が発生しています! さらに、前方にも異常が確認されています! 状況は非常に危険です!」
車内に動揺が広がった。
それでも、ソネは諦めなかった。
列車の先頭で踏ん張り続け、最後の瞬間まで力を振り絞る。
そして――
ついに、列車が停止した。
ソネの足元には、深い谷が広がっていた。
あと少しでも遅れていれば、列車は乗客もろとも谷底へ転落していただろう。
ソネは列車の屋根へと飛び乗った。
そこには、一人の男が立っていた。
ジェフェ6。
男はソネを見つめ、落ち着いた冷たい声で告げた。
「ジェフェ5は、お前の知り合いに倒されたらしいな」
わずかな沈黙の後、男は続けた。
「ならば、お前を殺す。そうすれば、この宇宙を支配する計画に支障はない」
ソネは拳を強く握り締めた。
次の瞬間、彼は素早く体を丸める。
そして、一撃を放った。
凄まじい衝撃がジェフェ6を直撃し、男の体は空中へと吹き飛ばされた。
その勢いで列車の屋根を突き破り、男は外へと飛び出していく。
ソネもすぐさま跳躍し、後を追った。
空中で追いつくと、体をひねり、回転蹴りを叩き込む。
「ぐっ……!」
ジェフェ6は地面へと叩き落とされた。
男は立ち上がると、何事もなかったかのように靴の汚れを払い落とした。
そして――
突然、叫び声を上げた。
その咆哮は凄まじく、半径十五キロメートルにも及ぶ範囲へと響き渡った。
「うるさっ……!」
ソネは慌てて両耳を塞いだ。
一方、離れた場所にいたキロとウォルフも、その異常な音を聞きつけた。
二人は音速で現場へと向かい、跳躍して地上へ降り立つ。
そこには、ソネとジェフェ6がいた。
キロは地面を強く踏み込み、その反動で一気に距離を詰めた。
そして、ジェフェ6の顔面へ拳を叩き込む。
「ぐはっ……!」
直撃を受けた男の顔から血が流れた。
そのとき、厚い雲に覆われていた空から、少しずつ太陽の光が差し込み始めた。
だが、キロたちが空を見上げるよりも早く――
空の彼方から、炎をまとった何かがジェフェ6へと迫っていた。
男が顔を上げる。
そこにいたのは、怒りに支配されたセバスティアンだった。
彼の拳には、燃え盛る炎が集中していた。
「消えろ……!」
次の瞬間、炎をまとった拳がジェフェ6の顔面を捉えた。
轟音が響き渡る。
凄まじい熱波が周囲を包み込み、地面は高熱によって溶け始めた。
キロたちは熱気にさらされ、全身から汗が噴き出す。
やがて――
炎が消えた。
そこに残されていたのは、大きなクレーターと、ジェフェ6がいた場所に積もる灰だけだった。
そして、その中心で、セバスティアンが膝をついていた。
「……あれ?」
彼はゆっくりと目を開けた。
目の前に広がる光景を見て、呆然とする。
地面は大きくえぐれ、周囲の景色は見る影もなく変わり果てていた。
「いったい……何が起きたんだ?」
キロたちが彼のもとへ歩み寄る。
最初に口を開いたのは、キロだった。
「何があった? それに……どうして、あんな力を使えたんだ?」
キロは真剣な表情で尋ねた。
セバスティアンは困惑した様子で自分の手を見つめ、それから答えた。
「俺にもさっぱり分からない。でも……もしかすると、俺の感情そのものが、一種の能力なのかもしれない」
キロはしばらく彼を見つめた後、小さく頷いた。
「……そうか」
それ以上は何も言わず、キロは踵を返した。
セバスティアンたちも、その後に続く。
彼らは駅へと戻り、列車に取り残されていた乗客たちの救助を手伝った。
こうして、長く騒がしかった一日は終わりを迎えた。
静寂が街を包み込む。
そして――
咲き始めた花々が、穏やかな風に揺れていた。
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