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転生する時に選んだ【記憶】スキルが自重を忘れてきた  作者: ゆらゆら


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僕、技に慄く

 僕の全てを包み込み包容力と共に全肯定してくれるエレアお姉ちゃんに思わず胸がときめいてしまった。


 ただ、僕を見ていた人がもう一人いた。そう、サフィー母さんだ。

 僕の感情丸出しの激情は僕だけでなく、母さんの心も傷つけていた。


 ただ勘違いはしてほしくない。

 僕は幸せだ。生まれてから今日まで、全ての事を忘れたく無いと思える程に幸せで恵まれている。


 でも人間とは欲深い生き物でね?

 今ある幸せよりもより良い幸せを探してしまうし、今ある幸せが恒久的であって欲しいと望んでしまうんだ。


 僕もそうだ。そしてそれに飲まれて今を見失ってしまった。けれど僕には家族が居てくれた。

 二度と間違えないとは言えないけれど、その時はその都度怒ってほしいし、抱きとめて欲しい。

 たったそれだけの事で僕はまた、立ち直って真っ直ぐに歩いていけるはずだから。


 そうやって歩いて良いって教えてもらったし、何よりも隣にエレアお姉ちゃんが居るからね。

 僕はもう怖くない。




 ……そんな素敵な一日を何度も振り返っては僕は決意を新たにする。


 今日の訓練は遊ぶのだと!


 魔力の効率的な運用と、体術と魔力を組み合わせた技の開発に励むんだ。


 僕は魔力や魔法を鍛える。身体も勿論鍛えるが、今やるべきは魔法や魔力を使った魔改造!


 モチベーションが変わったのが自分でも分かる。今はワクワクしていて訓練の時間が楽しみですらある。

 昨日までは如何に身体を虐めるか、身体の扱い方はどうだ、と凄くストイックにやっていたせいか気が重かったのだ。


 心持ち一つでこうなる。自分の事は自分でも分からないものだな。




 今日は一段と爽やかな朝だ。エレアお姉ちゃんの腕を解いて寝室を出る。


 リビングにはすでに父さんと母さんが居て、二人一緒にご飯を作っていた。


「おはよ。早いね?」

「やあ、おはようアッシュ!」

「おはよう。ごめんねアッシュ、貴方の手を治してあげられなくて……」


 母さんは申し訳無さそうに謝るけど、僕からすれば自業自得だし回復魔法の使い方が甘い事も知れたし収支はプラスだ。

 それに多分、また拳を傷つけたらその時に元の形に戻せるだろう。


 何より、この手は僕への戒めとして残しておきたい。

 独りよがりにならないよう、自分を特別視しないよう、この手は当分このままで良い。


「良いんだよ。これはね僕の気持ちと努力の証なんだ。下手くそで滅茶苦茶な頑張りだけど、僕は頑張ったんだよ……だから褒めてくれたら嬉しいかも?」

「もう〜〜〜!! 馬鹿アッシュ! いっぱいいっぱいがんばりました! お母さんももっと頑張って治っちゃった傷すら治せる様になってやるんだから!!」


 僕の頭をぐちゃぐちゃに撫でながら褒めて努力宣言をするサフィー母さん。


 母さんの手は細くて柔らかくてあったかい。自然と胸がいっぱいになる手だ。

 僕を撫でる手を捕まえて、溢れてくる笑顔で応える。


「っ〜〜〜〜!! うちの子が一番可愛い!!!」


 どうやら僕の顔を見て感情が爆発してしまったみたいだけど、男としては格好良いがいいんだけどな……!


「そろそろ顔洗ってくるー!」


 僕達をずっと微笑みながら見守ってくれていた父さんの顔が妙に印象的だった。

 ……後方腕組み系の顔ってああ言うのを言うんだろうな。




 庭に出て顔を洗っていると、家の中から「うちの娘が一番可愛い〜〜!!」って声が聞こえてきたのでエレアお姉ちゃんも起きてきたのだろう。


 歯磨きを【浄化】で終わらせて、土魔法で前に作っていた椅子を改造する。

 ヘッドスパする時の椅子を先んじてエレアお姉ちゃんに品評してもらおうと思う。


 椅子の座面をお尻から膝裏にかけてを少し高くして、膝裏から足首を乗せるところも作っておく。

 お尻から腰にかけては湾曲させてフィット感を持たせ、背もたれは斜め後ろに倒し気味にして、手すりもつけておこうかな。

 髪が落ちるように首の部分だけ持たれる部分を作ってっと…………土で汚れるの嫌だよね。


 最後に頑張って材質を変えようと思うけど、大理石はツルツル滑って落ち着かないだろうし、花崗岩とかにして研磨とか出来るかな?


 とりあえずやってみたら花崗岩っぽくはなった。

 構造を詳しく知らないので墓石をイメージしてみたんだけど……やたらつるっつるになっちゃった。


 丁度よくお姉ちゃんが目を擦りながら庭に出てきたので手招きして座って貰う。


「おぁよぉ〜。これ好き〜力抜ける〜」


 感触は良さそうだ。

 外から見てバランスを微調整したり、お姉ちゃんの好きな角度に調整してみたら二度寝していた。


「おーい起きてー! まずは顔を洗おう? その後ここで髪を梳かすよ〜」

「アッシュやって〜〜」


 僕に寄りかかりながら甘えてくるけど、この感じはすでに起きているな?

 ……まったくもう。


 椅子に横向きに座らせる際に椅子の座面の角度を魔法で平らに均して、水を出しておく。

 歯磨きは僕は下手くそなので自分でお願いします。


 顔を布で拭ってあげて、うがいをしてから、改めて椅子に座ってもらう。座面の角度も修正済みだ。


 椅子の後ろに丸椅子を作る。僕が座った時にお姉ちゃんの頭が胸にくるぐらいの高さだ。


 櫛で髪を梳かし始めるとエレアお姉ちゃんの口から吐息が良く漏れる。

 お気に召して頂けた様だ。

 当日はこの椅子を二つぐらい用意しておこうかな。


「気持ちいい?」

「ずっとここでこうしてたい……」

「梳かし終わったら僕は家に戻るよ?」

「ダメ〜アッシュの髪も梳くの……」


 声が眠そうだなあ。目が覚める様なさっぱりした施術も考えといた方が良いかな?

 顔にあったかいタオルを乗せて、外した時の外の空気で自動的にさっぱりしてもらうか。


「はーい、終わりだよ。今日も綺麗になりました!」

「んふふーありがとねっ! じゃあ交代ー!」

「ん、お願いしまーす」


 おぉ。石でも案外良い。全身を預けるこの感覚久しぶりだー!


「してもらう方も気持ち良かったけど、する方もやりやすくって良いねこれ!」

「作ってみたけど、僕もこんなに寛げると思わなかったな〜。みんなの髪を洗う時様に作ったんだけど、これからは毎日これだね」


 生活のクオリティがまたしても上がってしまった……。やっぱり魔法はこう言う使い方をする時が一番楽しいや。




 髪の手入れを終えた後はご飯を食べて、可愛い小麦ちゃんのお手入れ、その後は勉強会に行く。


 勉強会では昨日の事を心配されたけれど、もう大丈夫だと見せつける意味も込めて、とことんコルハ達と遊んでおいた。勉強もちゃんとしたけどね?


 勉強会も終えたら昼食をとって訓練場へと向かう。


 昨日のリベンジだ。パンチ千回、キック千回なんて、身体強化有りなら余裕で終わらせられるからね。

 ちゃちゃっとノルマを終えて、少し遊ばせてもらおう。因縁の木人形くんをぶっ壊す! よし!



 気が逸った僕に付き合ってくれたエレアお姉ちゃんと二人で出来る限り早く訓練場へと向かう。


 父さんと母さんに昼食の片付けを全て任せて……夜は作って片付けるから許して頂きたい!


 到着すると既に走り始めている人もいて流石に驚く。


 これがガチ勢? いつご飯を食べていつここに来たんだ……?


 僕らもすぐに百周を開始する。

 今日は精密身体強化一倍で回復魔法は無し。傷付かない内容なら出来るだけ身体に負荷はかけていきたい。


 お姉ちゃんが身体強化をすると、一倍の強化の僕には追いつけないので先に行ってもらう。

 少し躊躇ってはいたけど、誰よりも僕の気持ちを汲んでくれるエレアお姉ちゃんはすぐにペースを上げて先を行く。


 隣に、側に居るはずなのに、今は少し遠くに見えるな。いつか並べる様に、なんなら追い越せる様に少しづつ頑張って行こう。


 しばらくペースを維持して走っていると、後ろから誰かが近付いてくる音が聞こえる。一体誰だろうか?


「アッシュ君! あの、おはようございます!」

「あっミルさん! おはようございます!」


 まさかの御仁だ。昨日の恩人兼、嫉妬対象と早速出会した。


「あのミルさん! 昨日ミルさんの体術? 武術? を練習の参考にさせてもらって、すごく勉強になりました! 勝手に見て申し訳ないのと同時にありがとうございました!」

「ふえっ!? あっえっこちらこそっ?? あの、私もその事でお話が少しありまして……」


 ミルさんから僕に? そんな大層な事はしてないし内容の想像がつかない。


 僕の無言を発言待ちだと思ったのか、少し焦って話し始めるミルさん。


「あっ! えっとね! あのその……私、教えてあげたいなって思って! その……代わりに魔法を教えて貰えたらと思いまして……」


 なん……だと!?

 願ってもないどころか、一旦切り捨てようかと思っていたのに。

 渡りに船なんてものではない、ありがた過ぎる!


「ミルさん……貴方が女神か……」

「ええ!? 女神じゃないですよお!!」


◇私が女神です。悪しからず◇


 冗談です。相手を持ち上げるための方便ですよ!? と言うか女神な事隠さないんかい……。


 兎にも角にも、ミルさんの話を断るメリットは無いので喜んでお誘いに乗らせて頂こうと思う。


 その為にも先ずは走り終わらないとね!



 何とか百周走り終えて、今日も今日とてへばって寝転びながら息を整える。

 回復魔法の有り難みを痛感するけれど、心肺機能の強化の為、使用は控える。


 ……はあ、今日も空が青い。そう言えば雨の日はここでの訓練はどうなるのだろう。帰る前に聞いてみよう。


 ……呼吸が落ち着いた所でミルさんの下に行く。


 ミルさんはミルさんで体力も身体能力もしっかりとある。

 獣人なのを抜きにしても、立っている時も走っている時も姿勢が綺麗で、身体の軸がしっかりとあるんだと思う。


 そんなミルさんを見ていると、ちゃんとした技と魔力が合わさるとどうなるのか改めて興味が湧いてくる。


「お待たせしました、ミルさん。よろしくお願いします!」

「あっはい! こちらこそお願いします! それじゃあ、先ずは私からお教えしますね?」

「はいっ!」


 まずは衝撃をぶつけるパンチ、ミルさんから衝拳と言う技を教えてもらう。


 腰を深く落として、足を縦に開く所は合っていた。


 だが、ここからが細かかった。

 右足を後ろに引いている場合、右足の踵と前に出した左足の爪先が一本の直線の上に乗っている事。

 腰を落とした時の骨盤の向きだったり、その時の上半身の姿勢だったり、体内の見えない場所をもっと細かく動かしているようだ。


 体のパーツ一つ一つをしっかりと認識して動かす事が大事らしい。

 僕の後ろから実際に一つ一つのパーツに触れて教えてくれるので非常に助かる。


 とりあえずの形をすぐに【記憶】する。

 だが、この姿勢が意外とキツい……!


「あはは……最初はしんどいかもしれませんが、慣れてくればこの姿勢の意味が分かりますから、頑張ってくださいね?」

「うっ、はいっ………」

「あっ、今少し背中が丸くなってます、背骨で身体を支えるんですよ!」


 楽しそうに僕の姿勢のズレを指摘してくるミルさんに悪気は無いんだろうな。

 背中の丸まった所を指で撫でてくるのだが、それがソフトタッチ過ぎてこそばゆい!


「うひっ!? それっやめてえ! くすぐったい!」

「あっえっと、ツンツン」

「うえやぁ!」

「ふふふっ。おもしろいですね?」


 あっこれSっ気があるな? まさかの儚げ逞し意地悪お姉さんは属性が多くない?


「さて、その姿勢には追々慣れてもらうとして、先に衝拳の動きも教えておきますね? アッシュ君なら憶えられると思いますから!」

「スキルのお陰で憶えられはしますけど……ちょっと身体強化で楽しますね。時間かかっちゃうと、僕がミルさんに教える時間が減っちゃうかもですから」


 やっぱり精密身体強化があると相当楽だ。

 さっきの姿勢は普段使っていない筋肉を使っていたが故のしんどさだったんだろうな。


「では衝拳の説明に行きますね? 昨日アッシュ君がやっていた事は間違いではありません。ですが踏み込んだ際の衝撃を相手に伝える技では無く、衝撃を体内で増幅させてぶつける技なのです」

「そんな事が出来るんですか!?」

「出来ますよ♪ 身体中の筋肉の動きがとっても重要になりますし、拳を叩き込む瞬間に力んだりとタイミングも大事で……全身の動きが噛み合わないと力を発揮出来ないものでもあるんですけどね?」


 それを意識して動かして何度も木人形を揺らしていたのか!? 異世界の八歳児は末恐ろしい……!


「一連の流れをゆっくりと一つづつ、私が動かしてあげますから、感覚を掴んでくださいね?」

「どっ、どうぞ、お手柔らかに……」

「ふふふっ。私がんばりますっ!」




 正直舐めてました。想像以上に全身をバラバラに、でも順番に使っていた。


 身体の動かし方が僕の思ってた数十倍は難しい。身体の連動、衝撃の増幅、姿勢の意味、拳の打ち方。全部意味がある。

 意味がありすぎて、意味分からない。でも面白さもある。これが術理なんだ。人の積み重ねてきた技なんだ。


 そんなに長い間やっていた訳ではないのに、疲労がすごい。

 ミルさんはニコニコしながらこちらを優しい目で見てくる。


 一緒に衝拳使ってたのにその余裕は何なんだ? 実は戦いの場に立った時、一番強いのはミルさんなのではないか? そんな余裕を感じる。


「ミルさん……凄すぎません? こんなのを何度も何度も繰り返して……でも戦う術を持っていても、戦うのは怖いんですよね?」

「……それは、そうですね。正確にはこの技で戦う事しか出来ないから戦いたくないんです。私が修めている技は殺しの技です。人に向ける技じゃないから……」

「あぁ。なるほど。僕も似た事を考えた事があります。殺す気で放つ魔法は本当になんでもありです。でも模擬戦となれば、技の選別をする必要がありますもんね……」


 実際、手段を選ばないなら、模擬戦でフェーグさんを傷つける事は出来た。

 隙をついて剣での攻撃を意識してたから補助的にしか魔法は使わなかったけど、主力を魔法にして逃げ回っていれば何度も手傷を負わせる事は出来た自信がある。

 そうしていたら、斬れない剣で剣を斬ることなんて出来なかっただろうけどね。


 ……うぅんそうか、難しい問題だな。駆除対象の魔物みたいな相手じゃないと本気を出せないのか。ゼフィア先生なら真正面から相手出来そうだけど……。


 いいや、今は技術を吸収する事だけを考えよう。使える使えないの差は大きいんだ。手加減はお互いゆっくり覚えていこう。


 身体強化で千回ノルマを終わらせる予定だったけど、数日はこうしてミルさんに面倒を見てもらいたい。

 その為にも、僕は僕で魔法をしっかり教えてあげよう。それが交換条件だったからね。


 一度は諦めた技術を教えて貰える絶好の機会、逃さない様にしないとだ。

 ついでに、Sっ気のあるミルさんにお返しもしてあげよっと。


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