僕、戦いで遊ぶ
少し間が空きましたが、こちらの更新再開します。
毎日12時に更新していく予定です。
数々の模擬戦が行われ、ついに僕とエレアお姉ちゃんの番が来た。
大量の模擬戦をこなしてもなお平然としているフェーグさんとゼフィア先生のバケモノっぷりに恐ろしさと同時に心強さを覚える。
そんなフェーグさんに模擬戦してもらうのだが、いやはやどうしたものか。
考える頭はそのままに、歩みを進めてフェーグさんへと頭を下げる。
「フェーグさん、お相手よろしくお願いします」
「ほーん、俺か。ちょい意外だな? お前なら馬鹿みてぇに器用なゼフィアを選ぶと思ったんだが。仲も良いみてえだしよ」
「僕が欲しい力を鍛えてくれるのはフェーグさんだと思ったので」
「ハッ! いいぜ、とことん鍛えてやる。その為にも全力で攻撃して来い。その隙を耳がキーンとする程教え込んでやるよ!」
話し合いをした時の拡声拍手のことを根に持ってるのかな? でもなんだか楽しそうだ。
口端をニィッと上げるフェーグさん。獰猛でありながら大人としての落ち着きを宿した不思議な人だ。
「……私では無いのだな」
意識がフェーグさんに向いたところで後ろからゼフィア先生に声をかけられて跳びはねそうになる。
しかもちょっと悲しそう!
「えっ!? いや、その、次! 次の機会にはゼフィア先生お願いします!」
「ふふっ。ちょっとした冗談だ。観衆は居るが気楽に挑むと良い」
「っ……なんか意地悪になりました?」
「君がそう感じるのならそうかもしれないな?」
最初はお堅い先生だったのに、最近は表情も柔らかいし、よく揶揄ってくるし……年齢不詳なのに可愛いげが増してきたんじゃないか?
後ろでエレアお姉ちゃんがむすっとしているので会話はこの辺にして、改めてフェーグさんと向かい合う。
「先手はくれてやる。好きにかかって来い。だがお前相手に攻守を順番にやるつもりはねえからな!」
「では、早速」
身体の中を循環させる魔力の循環速度を上げる。これをすると魔法の発動速度も射出速度も速くなる気がして、結果速くなる。
どこまでも意識の問題だ。だからこそ、ルーティーンの様なもので固定化してあげると楽になる。
循環速度を上げながら、精密身体強化の魔力密度を五割増しで発動。
ここでようやく剣を構えて深く体を沈める。
内側を巡る魔力を、速く、速く、速く動かし、フェーグさんが前に出した右足に重心が乗った瞬間。
足が踏み締める地面の少し下の地中に、小さな空洞を一瞬でつくる。
するとどうなるか、薄い土を破ってフェーグさんの足が不意に少し沈む。
その瞬間に攻撃を当てる為に僕はすでに全力で地を蹴り出しており、身体に巻きつけるように曲げた腕を筋肉の収縮に合わせて一息に振り切る。
——が、当たらない。
足元を窪ませ不意を突き、身体能力でも不意を突いたのに、それでも当たらない。
フェーグさんは崩れた足元はそのままに、上体を後ろに倒して僕の剣の間合いから外れて見せた。
さらにはそのままバク転する要領で蹴り上げも放ってくる始末。
僕も先ほどの動きを見習って上体を逸らしてそれを避ける。
「クハッ! お前おかしいだろ! 俺が反応出来ねえ速度で魔法使いやがったな! 石は持ってるだけ無駄って訳だ」
「そっちこそ今の一撃を躱すどころか反撃するとかどうなってるんですか! 絶対一撃は入ったと思ったのに!」
僕の言葉が終わると同時にフェーグさんが突っ込んでくる。目で追える速度なので攻撃に反応は出来るだろう。
今回は剣で受けて魔法で攻撃してみよう。
「おぉら! 受けてみろ!」
そう言って突撃すると思いきや直前で止まって足元の砂を蹴り上げてくる。
「汚ねえ! 子ども相手にひどい!」
「まともな子どもにはやらねえよ!」
まるで僕がまともじゃ無いみたいだ、失礼な。
砂を風魔法の突風ですぐさまどかすが姿が見えない。すぐに音を探る。
後ろから砂が擦れる音が聞こえたので転がる様に前に出る。
距離が空いたので魔法で牽制。土だと実体が崩れる前に投げ返されるかもしれないので、水圧高めの直径五センチ水球を三方向から一つずつプレゼント。
「はあ!? なんだこの水!? 重ぇなあ!! ビックリ坊主が!」
僕の方でもう一度砂煙を立てて、存在を世界に紛れさせる。
気配を薄めたまま砂煙を押し出して、視界不良に乗じて土の柱を地面から伸ばす。狙う先は膝の裏。要は膝カックンだ。
「うおあ!?」
膝カックンは成功。でも攻撃はしない。存在を匂わせない事で警戒心を煽る。
次は後ろから首筋に水鉄砲を当てる。
「ん゛ん゛!!」
左、後ろと悪戯されたら、まだされてない方に意識が向くはず。
なので一つ戻って左から攻撃っ!
「……そこか」
「んな!?」
しっかりと剣を盾にして防がれた。
なんで!? なんでバレた!?
「ちっとばかし欲が出たな。攻撃の瞬間気配が漏れた。しかしそこまでは、本職のやつより上手えよ。気配隠すの」
欲で漏れたってまじっすか。確かにちょっと意識が攻撃に向きすぎた節はあったけど……。
「悪戯っつー意識のせいかおかげか、膝や首裏への攻撃は全く気付けなかったがな」
「なんでそこまで分かるんですか。怖いです」
「遊ぶような妨害ばっかだったからに決まってんだろ! 真正の悪戯坊主が! ちったー正面からぶつかってみやがれ!」
「勝てる気しないのに……」
「勝つ気じゃなくて学ぶ気でやれや……」
ごもっともで。それじゃ魔力密度をさらに二割増しで限界値を更新。これでもう一丁不意を突く。
フェーグさんは先程よりもさらに速い速度に驚きを見せながらも的確に攻撃を見切ってくる。
くそぅ……剣での攻撃に集中しろ。魔力は身体強化と視力の強化に回せ。
一撃を丁寧に、振り切った後の反撃を考慮して常に動きながら切り結べ。
それでもっ! 顔も肩も腕も足も高低差を活かした攻撃も全て捌かれる!
だがこれだけ剣で攻撃すれば魔法での攻撃を捨てたと思い込んでくれても良いはず。
僕は高く跳躍して全体重を乗せた振り下ろしを決めようと見せる。
意識が僕に向いたところで、僕とフェーグさんの丁度合間に光魔法を放ち凝縮させ弾けさせる。
同時に、目眩しだと思わせない様に開けたままの目を闇魔法で覆う。
閃光を強制的に終わらせて闇魔法も即解除。
流石のフェーグさんも一切目を閉じるつもりのない相手の目眩しは予想出来なかったのか、剣で目を庇って辛うじてこちらを見ていた。
そんなフェーグさんに僕は躊躇なく落下速度と全体重をこめた振り下ろしをお見舞いする。
まあ、軽々と受け止められるんですけどね。
だからこそ、もっかい土の柱で膝カックン。
このまま倒せばマウントポジションを取れる!!……と思ったのだが、倒れる前に力づくで剣で身体ごと弾き飛ばされた。
飛ばされる勢いが強くて、何度か足や手で地面を押し出して跳ね、最後は足でブレーキをかけて漸く止まる。
「かああ!! 小賢しい!! なんだお前厄介すぎるだろうが!?」
「痛ってて、小賢しくないと戦いにすらならないでしょ!?」
「追加で条件出す!! お前魔法使うな!! 近接戦闘での立ち回りとか学びたいんじゃねえのか!」
「わかりましたよ!!!」
魔法を封じられたら一気に選択肢が狭まる。
だが剣での戦いは困る。正直剣の技量はまだまだなのだ。
先ほどの打ち合いの時に少し技術を更新出来た気がしたので、話しながら【記憶】スキルをフル稼働してみたが、劇的な変化は無い。
……でも、だからこそ本気で挑めるって事か。
「ふぅーーー。ちょっと身体強化頑張るので、お願いします」
「全力で来い!」
魔力の圧縮技術はずっと練習してたんだ。今なら四倍はいける。
消耗が激しすぎて長続きはしないけど、一分打ち合うくらいならいけるだろう。
おそらく魔力切れでぶっ倒れるだろうけど、今日はそれも良いかもしれない。
全開で出し切って、当たって、砕けてやろう!
よんべぇだああああああ!!!
身体が赤くなったりはしないが、密度七割増しの時とは比較にならない速度になってるはず。
制御が効くかは怪しいが、砕けに行くんだから良いだろう!
「行きますッッ!!!」
その声と共に、僕は【記憶】でカル父さんの洗練された振り下ろしを思い出す。
体幹はぶれなく、木剣なのに空気も風も切り裂く様な一撃。
……昔はぶれて見えたあれも、今ならちゃんと見えるかな。
……なんだろう。世界が遅く感じる。自分の一歩がスローモーションで空気が纏わりついて来るみたいだ。
……邪魔だ。纏わりつくものが邪魔だ。
……これが無ければもっと速く動けるのに。
……そうだ。これごと斬ってしまおう
僕はゆっくりと木剣を持ち上げ、真っ直ぐに構え、ゆっくりと振り下ろす。
……こんなにもゆっくりだと、ブレるものもブレないな。まあ、ブレないなら良いか。
僕は纏わりつく何かをゆっくりと、でもしっかりと切り裂いた。
気が付けばフェーグさんが目の前に居て、僕の持っていた剣がフェーグさんが盾にするように構えた剣を切り裂いていた。
切り裂いた事を自覚した僕は自分が手に持つ剣を見やる。
僕の持つ剣は何合も打ち合ったせいで、潰した刃の部分が凹んでボコボコになっていた。
鋭い所は何処にも無かった。
ぼーっとフェーグさんを見上げる。
勇ましいフェーグさんの顔にはすごい量の汗が浮かんでいて、表情は強張っていた。
それを見てから、僕は前のめりに倒れた。
◇ ◇ ◇ ◇
何なんだあれは。やばいなんてもんじゃねえ。
悪戯小僧が意気込んだ次の瞬間には、俺の目の前に居たのもおかしいが、その後だ。
ゆっくりと剣を上げた様に見えたのに、俺の身体がちっとも反応しやしねえ。
坊主が剣を振り下ろす瞬間に漸く目一杯腕を伸ばして剣を壁にすることが出来た。
腕を伸ばして剣を壁にした時点で俺の本能は分かってたんだろうな。
壁にすらならねえと。
久しぶりに全身の毛が総毛だって冷や汗が止まらなかったぜ……。
その後、アッシュの小僧が前のめりにぶっ倒れやがったが、俺は動けなかった。
身体が動きを取り戻したのは、ゼフィアが小僧を抱え上げて息や脈を確かめている最中だった。
ただ気絶しただけみてえだが……こいつが斬る瞬間、その目に俺は映っていなかった。
こいつは何を見て、何を思って、何を斬ったんだ……?
カルとサフィーが駆け込んで来てゼフィアが無事を伝えている。
「おい、カル。こいつに何を教えた。アッシュは一体何をしやがった」
「一度だけ、僕の本気の振りを見せた事がある。あの時の振り方にそっくりだった様に感じた。でも、僕じゃこの剣で物は斬れないよ」
「……アッシュが起きたら時間をくれ。あの瞬間の出来事を聴きたい」
カルと話している間にアッシュの小僧が目を覚ました様だ。
「あれ。僕……あっ、フェーグさん!!! ごめんなさい!! ごめんなさい!! 怪我はしてませんか!! 僕……ごめんなさい!!!」
ったく……こいつはちゃんとガキだ。
心はガキなのに頭ん中は成熟してやがる。
自分が俺を殺せた事を瞬時に理解して、罪悪感と恐怖で泣いてるクソガキだ。
「ざけんな。舐めんじゃねえぞ坊主。あんなもんで死ぬか! お前にくれてやる命はねえんだよ!」
ガシガシ頭を撫でてやる。
気遣われたのに気付いたのか、笑いかけてきやがった。可愛くねえクソガキだ。
「さっさと立てアッシュ! ゼフィアにまだ抱っこされてたいのか?」
「あら、そうだったの? アッシュったら、おませね〜」
「ふむ、仕方ないな、もう少しだけだぞ?」
「いや! ちがっ違います!! そんなんじゃなくて、魔力すっからかんで動けないだけなんですってばーー!!」




