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護誓散華  作者: くじゃく
花の想い話
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十二 可馨と紅花(2)

 しばらくは青天郷の中を歩きまわって、そのうちの誰かが休憩したくなった頃に酒屋へ行く。全員酒を飲むわけではないが、青鈴と宁雲嵐は宁麗文の調子を元に戻すために連れていったのだ。

 三人で卓を囲み、宁雲嵐が適当に注文する。その間の宁麗文は周りをきょろきょろと落ち着かない様子で何かを探していた。

 「どうしたの? 何か探してる?」

 青鈴の声に宁麗文は我に返り、「なんでもない」と返す。酒場に入ってからの宁麗文の心の中に閉関して会えなくなっている肖子涵が浮かんだ。半年も経っていて、未だに連絡も来ていない。執着心の強い宁麗文にとっては心配以外の感情が持てなかった。

 (……いつになったら開関するのかな。もう半年も経ってる。洛陽に行きたくても結局は行かせてもらえなかったし……)

 ダメだと思ってしまってもその度に心の中で自分をぐさりぐさりと攻撃してしまう。その度に宁麗文は心の中で泣いていた。考えても仕方がないというのに、どうしても考えてしまうのが宁麗文という男なのだ。

 「……ねえ、青鈴、兄上」

 宁麗文は二人の名前を呼ぶ。宁雲嵐と青鈴は「どうした?」と怪訝な顔をして反応した。

 「私って……そんなにしつこい奴なのかな……」

 その言葉に二人は唖然とした。いや、呆れ果てた顔という表現が正しいのだろう。とにかく、二人は宁麗文の言葉を聞いて絶句していた。その話の主語がなくとも『肖子涵』だということにも気付いたのだ。

 「はあ、今更そんなこと言われてもな。お前が先生にどれだけ喚きながら引き留めていたのか覚えてるのか? あの時だって皆お前を落ち着かせるのに必死だったし、彼らが本当に帰った時はずっと引き籠ってたろ。引き止めていた時の言葉覚えてるか? 『帰らないでもっといて』って言ってたろ。そりゃあ肖子涵殿にもしつこく一緒にいたがるわけだ」

 宁雲嵐は両手を広げ、掌を上に向けて肩をわざとすくめて頭を振る。やれやれといった表情を浮かべては宁麗文に呆れ果てていた。宁麗文は彼の言葉にまた心の中で棘が刺さり、また俯いて卓に突っ伏す。青鈴は卓に突っ伏して泣きかけている彼の肩を叩きながら「兄さんの言ってることも分かるけど」と口を開く。

 「でも麗文の気持ちも分かるわ。だって、肖子涵さんが初めての友だちでしょ? 急に閉関しただなんて、そんなの心配するに決まってるわよ」

 青鈴の言葉に宁麗文は顔を上げ、泣きそうな目を向ける。まるで「青鈴、君って人はよく分かってるな!」と言わんばかりの表情だった。

 その頃に料理が届き、宁雲嵐は宁麗文の分を多く分ける。青鈴も彼に続いて甘味を多く分けた。宁麗文は二人の行動に戸惑ってそれぞれ顔を見るが、二人は口を揃えて「食べろ」と言った。宁麗文は固唾を飲んで蒸した野菜から食べ始め、徐々に湧き上がってくる食欲に抗えずに食べ進める。宁雲嵐と青鈴は彼の必死に食べる様子に口を綻ばせ、自分も食べ始めた。大体の皿が空になったところで宁雲嵐が思い出す。

 「そういや、また依頼が来たんだ」

 それに青鈴が顔を上げる。

 「依頼? 兄さん、昨日までゆっくり休んでたのに。今度はなんのお仕事なの?」

 「いや、単なる怨詛浄化だよ。凶鶏の件から爆発的にいろんな邪祟が現れて……麗文も言ってた餓蝗もだが、それ以外にも結構被害が出てるんだと」

 宁麗文は「餓蝗」という言葉を聞いてまた顔を俯かせる。宁雲嵐はそれに気付いて肩を叩きながら「それでだ」と宁麗文に声を掛ける。

 「お前も来いよ。少しでも経験ぐらい重ねなきゃ、いざって時に行動できないだろ」

 「えっ?」

 宁麗文は予想もしなかった言葉に驚く。目を丸くしながら宁雲嵐を見ると、彼は片眉と片方の口を同時に上げた。

 「いつまでもそんなに拗ねてないで、俺と依頼を引き受けてくれよ。その方が俺にとって助かるし、お前も経験を重ねられる。一石二鳥ってわけだ」

 宁雲嵐は豪快に笑いながら宁麗文の背中をバンバンと叩く。流石に叩かれすぎてむせてしまい、顔を赤くしながら「叩くな!」と返した。

 

 その後から宁麗文は宁雲嵐に着いていき、様々な依頼を引き受けながら各地を飛び回る。世長会でも来るもの拒まずで宁雲嵐は全てに親指を上げて引き受ける。隣にいる宁麗文は次第に呆れ始めたが、何事にも挑戦だと思って共に行った。といってもそれぞれの世家の辺鄙な場所だったり、単なる飼っている犬や猫探しだったりも含めてだが……。

 しかし、江陵と桂城しか行ったことのない宁麗文にとっては何もかもが目新しく、どんな仕事でも要領よくこなしていた。その度に金を稼ぎ、たまに宁雲嵐と青鈴との三人で青天郷に行ったりとしていた。

 そして、実に三年ほどの時が流れた。宁麗文はこの時二十一になり、成人の儀を終えた一年後だった。その頃には既に各世家に秋都漢氏が建てた壁が全て並んでいた。

 ある日、宁麗文が無名で報告書を作成していたところに脳内に唐秀英の声が響いた。

 ──お久しぶりです。今、江陵にいるのですが、会えますか? 青鈴さんと阿瑾といた茶屋で待っています。

 「唐公子……!」

 唐秀英は宁麗文と宁雲嵐と別れて以来、再度任務に遂行していてしばらくは世長会に顔を出さなかった。唐暁明のみの出席となり、理由と問い質しても「息子は任務に行っている」の一点張りだったので、宁浩然は仕方なくそれを認めた。それが今、宁麗文に伝達術を使って声を聞かせたのだ。書いていた筆を置き、新しく見繕った外衣を着て祓邪を佩く。無名から出て廊下を歩き、門へ向かっていると曲がり角で青鈴とぶつかりそうになった。

 「あっ、びっくりした。どうしたの?」

 「ごめん、私もびっくりした。さっき唐公子から連絡があって、今から会いに行ってくる」

 彼女は瞬きをして思い出したかのように口を開ける。と同時に慌てて宁麗文に道を譲る。宁麗文が「ありがとう」と言いながら背を向けて走り出し、青鈴はその背中に向かって「気をつけて行きなさいよ!」と言った。

 走って青天郷まで行き、そこをまっすぐ通って茶屋へ着く。息を切らして肩を上下に揺らしてから深呼吸を何度かして、外衣をちゃんと正してから入った。中には奥の方に唐秀英が座っており、宁麗文を見るやいなや「宁公子!」と手を振る。宁麗文は口元を緩ませながら彼の元へ歩いて卓を囲んだ。

 「お久しぶりです。急に呼び出したりしてすみません」

 「いえ、とんでもない。ちょうど報告書を書き終えたところだったので暇だったんです」

 報告書はまだ途中ではあるが、唐秀英が自分を呼ぶというのは何かがあったのだろう。だから宁麗文は嘘をついた。

 「それで、何かあったんですか?」

 宁麗文からの問いに唐秀英は微笑んだ。

 「世長会には報告をしていなかったと思いますが、三年前の餓蝗の件は覚えておいでですか?」

 「……はい」

 脳裏に焼きついているのは餓蝗を蓄えこんでいた、死んだ敏の皮を被った妖の『四蝗王』、そして紅花と彼女に殺されてしまった可馨。宁麗文にとってかなりの衝撃を与えられ、とうの昔に皆で汗を流しながら町の復興をしていたことすら思い出せないままでいた。唐秀英は眉を顰める宁麗文に困ったように笑いかけて「その後、ちゃんと男性たちは戻ってこられました」と話す。

 「彼らには外傷がなく、ちゃんとした食事も与えられていました。おそらくですが、敏さん──いえ、成りすました魔が彼を操っているのを他の町の住民たちがどこかで気付いたのでしょう。口論をしていた、というのは紅花さんから見てそう見えただけで、実際は彼女の父親と彼らは魔をどう捕らえるかを話し合っていたそうです」

 まだ成熟しきっていない少女が遠目から見た情報だけで物事を婉曲してしまうのは仕方がないのかもしれない。しかもそれが、愛する父と名も顔も知らない男たちと共にいるのなら尚更だ。

 宁麗文は話を聞いて不可解な疑問を抱いた。どこかが食い違っているような感覚がして上手く噛み合わない。

 「でも、紅花さんは目の前で父親が殴られて連れ去られたって言ってましたよね? そうなると彼らの証言は食い違いがあると思いますが」

 唐秀英は茶を一口飲んでから首を横に振った。

 「それは彼女の言う通りです。彼らもそれを証言しており、ただ一つ違うのは『殴られて気絶する』という演技をしただけなのです」

 「演技?」

 「はい。ですが、当たりどころが悪かったのでしょう……彼は卓の角に脇腹を強打してしまい、数日後に内臓破裂で亡くなってしまってしまいました」

 彼女の父親はかなり勇気のいる行動に出たのだろう。話し合いの時に他の住民に頼み、彼はその通りに実行した。そして男の住民たちは次々と消えていき、最終的には長である敏と女子供となったのだ。

 しかし、なぜ女子供だけが残されたのだろう? 敏の中にいる妖を浄化するには、彼を一人にするしかない。もしかして、と宁麗文は考え、いけないことだと頭を振る。

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