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護誓散華  作者: くじゃく
人間と邪祟
226/226

番外編 夏の亡霊(7)

 「宁巴!」

 肖子涵が咄嗟に廓偲を抜いて二人からその色を遠ざけるように間に割り込む。やはり刃と刃が交じり、そこから火花が舞う。宁麗文に引き寄せられた伏は彼に覆い被さるように倒れたすぐに振り向く。この黒色の眼に映る()()に唇を震わせて、黒い顔をした。

 「──おじさん……!?」

 肖子涵と刃を交わす亡霊が月夜に照らされて姿を現す。

 それはこの世とは思えない形相をしていて瞳孔が開ききった暗い黒の双眸に無数の穴が空いている。首には皮一枚繋がっている状態でそこから赤く透明な血が流れては消えていく。服はやはり修士だと分かるような玉佩を携えているが、それは大部分が欠けていて房が見当たらない。ぬらりと光る刃だけがここに存在しているように見えて、それ以外は半透明に見える。

 「お前か。俺たちを襲ったのは」

 亡霊は睨むように目を細めて肖子涵へ圧を掛け、彼もまた対抗するように力を込めて圧していく。ギチギチと刃から鳴る火花と金属音を聞いた宁麗文は伏の腕を掴んだまま、落ちた剣を見た。

 (一本ない! もしかして、あの剣が……)

 唾を飲み込んで伏に顔を向けて名を呼ぶ。伏もまた我に返って宁麗文から尻で退いた。

 「ここから逃げて。魅音さんが君を探していたんだ」

 「え……」

 「彼女は今、家にいる。君を待っているんだ」

 伏はまだ動揺しているのだろう、息を浅くしながら亡霊と宁麗文を交互に見る。

 「で、でも。あれは……、おじさんは、どうするんだ?」

 「いいから早く! 後ろも見ないで、余計なこともしないで、魅音さんのところへ行け!!」

 宁麗文は伏の腕を勢いよく離して亡霊とは逆の方へ身体を押す。伏は酷く混乱しながら、しかし彼の言葉に従って浅瀬から逃げ出した。

 肖子涵は力を振り絞って亡霊を押し返し、宁麗文を脇に抱えてその場から走る。宁麗文が後ろを振り向けば、それもまた二人を追ってきていた。

 風に煽られて首の皮がなびく。口からは鮮血が流れていて、滞ることを知らない。しかし、その赤は彼の身体から離れた瞬間に消えていった。

 「幽霊を浄化したことはある?」

 「ない」

 「肖宗主は?」

 「ある」

 宁麗文は青い顔をして祓邪を抜く。彼もまた邪祟以外のものを浄化したことはないが、今ここでしないと更なる被害が出てしまうだろう。

 (砂でもできるか? 水がないとすぐに壊れそうだけど──)

 宁麗文は唾を飲む。肖子涵を一瞥して砂を見て、片腕で自身を抱えている腕を思い切り振り切って身を落とした!

 「宁巴!?」

 驚いて止まってしまった肖子涵が顔を青ざめながら宁麗文を抱き起こす。しかし宁麗文はそれを払って寝そべったまま剣を砂に突き刺す。そこに霊力を込めて、瞼を閉じた。

 (──出ろ!!)

 彼が脳内で強く叫んだ瞬間、薄緑色の光が二人を包み、そして周りの砂から人が多く現れた!

 砂でできた、剣を持つほとんど同じ体躯で同じ身長を持つ人間が亡霊へ立ち向かう。亡霊はそれを剣で一刀両断していくが、斬った砂が風に煽られて視界を遮っていく。

 そう、宁麗文は自分の兄の、宁雲嵐の術──『擬人術』を使ったのだ!

 宁麗文は瞼を開けて汗を噴き出しながら両手で柄を持ってふらつきながら上半身を起こす。息を強く荒らげながらまた霊力を注いで範囲を広げ続ける光から無数の砂人間を呼び起こす。

 肖子涵は彼のその行動に得も言われぬ恐怖を感じながら急いで起き上がらせる。それでも尚、宁麗文は決して剣から両手を離すことはしなかった。

 「宁巴、もういい、俺がやるから」

 「ダメだ。ここで時間稼ぎをして、彼らを待つんだ。君が言ったんだろ、肖宗主が私たちが帰ってこなかったら応援を送るって」

 「だけど──」

 「いいから! 私にやらせろ!!」

 強く言ったあとに我に返って肖子涵を見る。彼は宁麗文の強いもの言いに狼狽えるように眉を顰めていた。

 「ご、ごめん、強く言いすぎた……」

 宁麗文は自分の言動に顔を歪める。本意で言ったわけではないと最初から分かっている肖子涵は、瞼を伏せてから首を横に振った。

 「父上を呼ぶ」

 肖子涵の手が彼をゆっくりと起き上がらせて、懐から簡単な術を描いた札を取り出した。瞼を閉じて肖関羽に応援の旨を伝えて、塵に変えてから宁麗文の両手の上に自分の両手を重ねる。

 「……もう、これっきりだ」

 宁麗文は汗を流しながら、自分の映っている黒目を見て頷いた。

 肖子涵も途切れさせないように白い手に霊力を注ぐ。宁麗文はもらった霊力をまた祓邪に注いで砂人間を出現させる。亡霊はそれを斬っていき、更に視界を奪われていく。

 (早く)

 宁麗文は目を開けていられなくなる。目の前がぼやけていく瞼をきつく閉じて両手に力を込める。

 (早く来い)

 肖子涵の額にも汗が滲み出て顎へと流れる。宁麗文の震えていく白い手をしっかりと握り締めて剣から離れさせないように耐えていく。

 亡霊は砂を斬っていく。二人は砂の人間を呼び起こす。しかし、最後までそれは持たない。

 「っはぁ──」

 宁麗文は息を吸い込み、そして強く咳き込んでしまった。その瞬間に手汗でまみれた手が剣から滑り落ち、肖子涵の両手も彼と流れていくように剣から離れていく。黒目が振り向いて、最後にできた砂の人間が崩れるのを見た。視界を遮られた亡霊が姿を現し、二人に刃を向けた瞬間だった。

 二人と亡霊の間に、強く眩い光が現れる!

 「お前か」

 その低い声に、振り向いていた肖子涵が目を見開いて、宁麗文も弱々しく振り向く。

 月夜に降り立ったのは──肖関羽だった。

 「子子」

 名前を呼ばれた肖子涵は一つ瞬く。後ろ目で見た肖関羽は瞼を伏せて剣を握り直した。

 「すぐに逃げなさい。あとは私に任せろ」

 「は、……はい」

 肖子涵は震える手で宁麗文を抱き起こし、祓邪を回収して廓偲で浅瀬から飛び立った。残された肖関羽は亡霊に顔を向けて一つ息を吐く。瞼を閉じて、ゆっくりと開けて小さく笑った。

 「冥土の土産にしてみせろ」

 

 肖子涵は酷く荒らげる動悸の中で宁麗文を抱えて村へ向かっていた。唾を飲んで彼を見て、白く震えている表情を見て顔を顰める。再び抱き締める手に力を込めると宁麗文が薄らと瞼を開けた。

 見上げれば黒い顔をして汗を流す肖子涵が目に入る。宁麗文は弱々しく笑いながら彼の頬に震える手を添えた。

 「大丈夫」

 ゆっくりと首元に腕を回して抱き締める。肖子涵もまた転んでも離さないほどに強く抱き締めた。

 一盞茶もしない頃に村に辿り着く。廓偲から降りて二人のいる家へ向かう。辺りを見回しながら走っていると、一つ中から橙が見える民家があった。そこへ向かって戸を叩くと中から人が現れた。

 中には、伏と魅音、そして洛陽肖氏の門弟が数人いた。

 「大丈夫ですか!?」

 戸を開いた魅音が慌てて二人を中に入れて閉める。伏は泣き腫らしたまま怪我をしていたのだろう、それを門弟に手当てをしてもらっていた。肖子涵は息を荒らげながら唾をもう一度飲み、宁麗文をそっと降ろして支える。

 「麗……宁麗文さん。お顔が白く……」

 宁麗文は脂汗を流しながら笑ってみせる。それに魅音は顔を酷く引き攣らせて、水で湿らせた布で彼の顔を優しく拭っていく。

 「何があったんですか? 伏も、こんなに泣くなんて見たことない。もしかして、浅瀬に行ったんですか? あそこは危ないって何回も言ったでしょう!?」

 動揺と混乱の最中に伏が彼女を呼ぶ。魅音が彼に身体を向ければ、名前を呼んだ口が一度強く閉じて、そして震えながら開いた。

 「ごめん」

 「え?」

 「君の父さん、俺を庇って死んだんだ」

 魅音は一拍を置いて顔を青ざめる。かなり動揺しているようで、その場で布を落とした。

 「怨詛浄化に行った俺たちの親を見に行った時に、化け物にバレて。その時に、君の父さんが俺を逃がして喰われたんだ」

 「……どういうこと? なん……え、怨詛浄化って、何……? 何を言ってるの……?」

 伏は視線をあちらこちらへと流してから彼女を見る。魅音は焦点の合わない視線で伏から背ける。

 「あの浅瀬の噂だって、俺のせいなんだ。君に父さんを会わせたくて、化け物にした。皆は俺のせいで死んで、人形のまま生き返ったんだよ」

 魅音は言葉の一つ一つに後ずさり、肖子涵の身体にぶつかってしまう。倒れそうになる彼女の背中を支えるが、力をなくてしまったのだろう、ずるずるとその場でへたり込んでしまった。

 伏は瞼を伏せながら魅音の元へ進んで床に両膝を下ろす。

 「この村は、俺と君しか生きていないんだ。皆、本当はもう、死んでるんだ」

 伏はまた泣きそうに顔を歪めて魅音の前で頭を下げる。その声は震えていて、彼女の前で決して顔を上げることはしなかった。

 「……本当に、ごめんなさい……」

 魅音は青ざめたままの顔で彼を見下ろす。布を握った、湿った手は震えながら伏の肩に触れる。弱々しく掴んだ手は震えてはいたが二度と離すことはしなかった。

 魅音は唇を震わせながら目の前の男の名前を呼ぶ。

 「……あたしは……あんたが無事でいられるなら、父さんのことなんてどうでもよかったのよ……?」

 伏は瞬いて透明な黒から涙を零す。魅音は青から元に戻しつつ、しかし眉を顰めて鼻をすすっていた。

 「父さんが死んだのは仕方ないって思ってた。だって、そういう仕事をする人だから。でも、あんたは違うでしょ。修士じゃなくて普通の人でしょう」

 「……魅音」

 「あたしは、伏のことが好きだから。死んでほしくなくて、ずっと一緒にいたの。そんなこと、知ってた? 知らなかったでしょう?」

 重い瞼で包まれた黒い瞳から涙が零れて顎から落ちる。嗚咽を出しながら伏を抱き締めて、愛おしい人の首元に顔を埋めた。伏は彼女の頭を見て唖然としたまま瞬いてまた涙を零す。

 「皆の様子がおかしいことだって、ずっと前から分かってた。だって、ずっと笑顔なんだもの。たまに驚いたりしてるけど、人間みたいに見えなかった。皆が人間じゃないことだって、薄々分かってたよ」

 「……じゃあ、なんで、言わなかったんだ」

 「あたしの気のせいだって思ってたから。言ったら、あたしの頭が変だって思われそうで、嫌われたくなかったから。だから言えなかった」

 魅音は身を離して伏の両肩に手を置く。零れる涙は留まることを知らずに落ちていって茜色を濃く濡らしていく。伏は一度視線を下にして、下唇を噛んで、顔を上げてから魅音の涙を拭った。拭って拭って、そして抱き締める。背中をあやすように叩いて涙を零した。

 「父さんのことなんか、もういいんだよ。あたしには伏がいるだけでいい。贖罪なんてことしなくていいから……」

 魅音は彼の服を握りながら泣きじゃくり、伏も彼女をあやしながら涙を流していく。それを宁麗文と肖子涵は見ていて、二人は互いに顔を見合せて小さく笑った。

 そして、夜が明ける。伏は邪道を使ったから心身を酷く消耗していて、門弟に霊力を注がれたまま横たわっていた。また、魅音が手を繋いで温もりを送っていて、伏はその手に力を込めて握っていた。

 足を手当てされた宁麗文は肖子涵に支えてもらいながら二人を見る。

 これから伏は村の殺害事件の裁判に掛けられるだろう。不本意でありながらも、邪道で人の命を奪って人形に宿したのだ。殺された彼らの辛さは生者には理解しがたいものだろう。

 伏がある程度回復した頃に馬車へ乗り込む。魅音はこの村に残るつもりでいたが、それを亡霊を浄化した肖関羽が止めた。

 「そなたの母は洛陽にいる。共に来なさい」

 「えっ?」

 魅音は目を丸くしながら見上げる。肖関羽は優しく笑って彼女の肩に手を置いた。

 「そなたの父が言ったのだ」

 「……父さんが……?」

 彼が頷いて肩から手を離す。魅音は一度は止まった涙をまた零して、声を上げながら手の甲で拭っていた。

 男女二人の乗せられた馬車は村から離れていく。残されたのは肖関羽と宁麗文と肖子涵の三人だった。肖子涵は彼を支えながら父を見て、肖関羽もまた息子を見る。

 「すぐに戻れと言ったのに。なぜ素直に聞かなかった?」

 その声は若干の呆れを見せていて、肖子涵は宁麗文を見る。言い訳を探しながら言い迷っていると、代わりに宁麗文が口を開いた。

 「私が、無理にここに留まったからです」

 「え」

 肖子涵は思わず口を出して片手で慌てて塞ぐ。宁麗文は一度彼を見てから肖関羽を見た。

 「彼らのことが心配だったので戻りませんでした。あのままにしてしまえば、彼らも殺されてしまうのではないかと思ったからです」

 肖関羽はその答えに片眉を上げて視線を斜め上にする。肖子涵はおろおろと彼と父親を交互に見ていて、宁麗文は戸惑いを隠せない彼を見て見ぬふりをしていた。

 「そうか」

 視線を戻した肖関羽は瞼を閉じて息を吐く。開けて二人を見て、やや困ったように笑った。

 「確かに、お前たちがいなければあの二人は今頃生きてはいなかった。その判断は正しいと言えるだろう」

 「だが」と彼は続けて言葉を紡ぐ。

 「これからは多少の危険があろうとも、素直に戻ってきなさい。お前は私の息子の愛する人なのだから」

 「えっ」

 ぽかんと口を開けて瞬く宁麗文に、口端を上げる肖関羽が身を翻す。

 「帰るぞ」

 肖関羽が剣訣で引き出した剣に乗って先に洛陽へ飛び立つ。宁麗文は目を丸くした顔をそのまま肖子涵へ向けて、同じく唖然としている表情を見て次第に顔を赤くした。

 「……その……」

 肖子涵は思いがけない言葉に赤面する顔に、柔い笑みを浮かべながら抱き上げてから額に口付けをして、そして廓偲に乗った。

 「……肖宗主って、あんなことも言うんだな」

 「嫌だった?」

 「嫌とかそういうのじゃなくて……びっくりしただけ」

 宁麗文は赤くなる顔をそのままにして首元に腕を回す。肖子涵は赤く染まっている額に自分の額を合わせてぐりぐりと押しつけた。

 一炷香ほどして馬車より先に洛陽に着いた二人は邸宅へ入る。宁麗文は無理をしていたせいか怪我をしていた直後よりも状態が酷くなっていた。肖子涵がしばらく看病をしながら日々を過ごして、依頼を終えた一週間後になった。

 宁麗文の世話をしてから報告書を書き上げて肖関羽に渡してまた荒唐へ戻る。沐浴を済ませて寝台に横たわっていた宁麗文が彼を見ては顔を輝かせて起き上がって、肖子涵は戸を閉めてから寝台に腰を掛けた。

 「報告書は出してきた?」

 「うん」

 「ふふ、そっか」

 宁麗文は手で移動してから片手で厚い肩を掴む。肖子涵は華奢な身体を支えて腰を掴んで膝に跨らせた。

 「足はどう?」

 「ちょっとよくなってきた」

 「そうか」

 互いに抱き締めてから身を離して、宁麗文は彼の頬を優しく包んで口付ける。肖子涵も笑ってから同じように返して腰と頭に手を置いた。

 「あ、そうだ」

 「?」

 宁麗文は彼の頬から手を離して両肩に置く。瞬いて首を傾げる肖子涵に、にっこりと目を弧にした。

 「子子」

 肖子涵は口を小さく開けて瞬きをする。宁麗文はその顔に面白く感じて噴き出した。

 「あとでって言っただろ。忘れてた?」

 「……忘れてた」

 「ありゃ。君らしくないな?」

 小さく笑う宁麗文に釣られて笑ってから腰に両手を回して抱える。

 「もっと呼んで」

 「子子」

 「うん」

 「子子?」

 「ふふ、うん」

 宁麗文は彼の頬を指で優しく摘んでは引き上げて笑う。肖子涵は彼の腰を引き寄せてからそっと口付けた。

 「麗麗レイレイ

 宁麗文の身体が硬くなる。今度は薄茶が瞼を瞬かせて、そしてたまらない気持ちになっていくのを感じた。

 「そんな呼ばれた方をされたのは初めてだ」

 「嫌だった?」

 首を横に振って肖子涵の首の後ろで指を絡める。

 「嫌なわけあるもんか! ねね、もっかい言って?」

 「麗麗」

 「あははっ、うん!」

 もう一度抱き締めてから口付けて、宁麗文はまたたまらない気持ちに埋もれていく。肖子涵もまた愛しい男からの呼ばれ方に幸せを感じて口付けを交わしていく。

 「これからは甘えたい時にそう呼んで。私も呼ぶよ」

 「いいのか?」

 「当たり前だ。君にしか許さないもん」

 肖子涵の口元がまた緩んで首を縦に振る。

 「麗麗」

 「うん? どうしたの?」

 「今すぐ帰って、すぐにあなたを抱きたい」

 「え」

 宁麗文の顔が見る見るうちに赤くなっていく。

 まさかの最初のおねだりがこれだとは思わないだろう。甘えると言っても普通は膝枕だの、雛に飯を与えるような行為だの、日常生活に組み込められる範囲だと思っていた。しかし肖子涵はそうではないと、閨をやりたいと言ったのだ。

 幾度も瞬きを繰り返して我に返った宁麗文はしっかりと捕まれた腰を一瞥してからまた見上げる。

 「……もっと他にない?」

 「ない。あなたを抱きたい」

 「それは甘えっていうより誘いだろ」

 「ダメ?」

 「だ、ダメっていうか……ああ、もう、君ってずるいなぁ!?」

 真っ赤になった顔で肖子涵から離れようもするがそれも構わない。必死に胸元に掌を押しつけてぐいぐいと身体を離そうとするが、それも敵わずに逆に首元に押さえつけられる。

 「ていうか任務中もしただろ!? その日だけじゃない、その前もだ。二週間に一回って言ってたのに、なんでほぼ毎日してるんだよ!」

 「そういうあなたでも乗っていただろう」

 「あっ……あれはっ……そのっ……」

 首元で餌を欲しがる魚のように口を動かしながらわなわなと身体を震わせる。肖子涵はまるで小動物に変わってしまったかのような姿に眦を下げて何度も口付けて額を合わせる。

 「麗麗」

 「う……」

 「お願い」

 「……」

 肖子涵が何がなんでも「はい」と言わせるために何度も唇に口付けを重ねる。そのあまりにもしつこい行動に、宁麗文はとうとう折れることしかできず、瞼を閉じて肖子涵からの口付けを受けていた。

 (もういいや……好きにさせよう……)

 渋々諦めていながらも、その実嬉しさと幸せな気持ちに埋もれる。今一度肖子涵の首の後ろに腕を回して、離れないように抱き締めた。

これにて本編・番外編は完結となります。


まだ他に一本の番外編がありますが、しばらくムーンライトノベルズにて連載中の『双転流献』、また『護誓散華』公式サイト用の加筆修正作業に入ります。


詳細は最新の活動報告をご覧ください。


最後になりますが、ここまでありがとうございました!

『双転流献』、そして公式サイトでもよろしくお願いします!

くじゃく

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