パンチライン
「この城来てから、俺は何回泣きゃいいんだよなぁ、、、。」
大の男が城に来てから二度も涙を流した。
決して恥ずかしがる理由などなくむしろ、誇るべき弱さの露見であったはあったのだが、気恥ずかしさの優ったツバキはバルコニーに出ていた。
食堂のバルコニーに出たツバキは、柵に寄りかかりながら盛り上がる立食を眺めながらそう呟いたのだった。
食堂内では、避難してきた村人たちやそれを受け入れる建物を管理する城関係者たちの顔合わせを兼ねた立食が大いに盛り上がっていた。
当初ツバキはそれを柄に似合わず不謹慎だ、などと思っていたが、ウーロの話を聞いた今では、村人たちなりに前を向こうと、否、顔を上げようとしているのだと感じることができた。
「前も後ろもか、、、。
俺も顔あげなきゃな。」
「そうね。
とっても素敵な言葉だわ。
ツバキ、、、もう泣き止んだ?」
ツバキは突然独り言に割り込んできた声にハッとし、その内容にギョッとした。
さっと視線を巡らせると、そこにはフリージアが立っていた。
「泣いてねぇよ。
泣いてたとしても、その聞き方されたら泣いてたって言い辛いしな!」
「あら、そうかしら?
泣いてたなら慰めてあげようと思ったのに。」
月光に照らされ、風になびく輝く白髪を軽く押さえながら、イタズラっぽく笑うフリージア。
その余りにも絵になる美しい光景に、ツバキどぎまぎしてしまう。
フリージアから視線を逸らすと、その視線を追い掛けるようにツバキの前に立ち、大きな瞳でツバキの顔を覗き込んできた。
「でも、必要無かったみたい。
私の英雄は、やっぱり強いのね。」
微かに頬を染め、緩められた口元。
あまりに眩しい笑顔を向けられたツバキは堪らずまた目を逸らす。
「なぁ、聞いてもいいか?」
なんとか話題を変え、目線と話を逸らせようと口を突いて出た言葉だったが、何を聞こうかなどもちろん決まっていない。
しかし、ん?っと小首を傾げながらフリージアはツバキの言葉を待っている。
「フリージアも、、、その、亜人てやつなのか?
シャトーさんの言い方だと、この城に人間は残っていないみたいな言い方だったけど。」
苦し紛れの質問で、なんで聞いてみたのかツバキもわかっていない。
そんなことに気付きもしないフリージアはにこやかな顔を崩さず答えた。
「ツバキは、獣人と亜人の違いって知ってる?」
言われてみれば確かに知らないと、ツバキは首だけ傾げてそれに応える。
「じゃあツバキの中の獣人と亜人を言ってみて?」
「そうだな、、、
例えば、街に居たような如何にも獣!って感じの人たちが獣人で、スーシィみたいに耳だけとか、尻尾だけ生えてる人たちが亜人、、、ってとこか?」
それを聞いたフリージアは、両手の人差し指をクロスさせながら勝ち誇ったような顔をした。
「ぶっぶー!
その人たちは両方獣人の方達ね。
獣人って言うのは、実在する動物の特徴を持った人たちの事を言うのよ。
ツバキの言ってる違いは、単純に血の濃さね。
獣人も亜人もベースが人間族だから、結婚して子供も作れるんだけど、人間族の血が混ざって獣人族の血が薄くなると、特徴も薄くなっていくの。
特徴の薄い人でも体内のマナを活性させる事で、特徴を引き出すことが出来る人もいるけどね。」
「じゃあ、亜人ってなんなんだ?
俺はさっき言ったような人たちしかまだみたことないんだけど。」
「ツバキも亜人族の人ならもう会ってるわよ?
亜人って言うのは実在しない、伝説やお伽話に出てくるような特別な生き物の特徴を持っている人たちのことなの。
例えば、地下牢であった女の子覚えてるかしら?」
地下牢でフリージア以外に会った女性は一人しかいない。
ツバキは、もう治してもらった頬の傷が疼いたような気がして、指で軽く触れながら言った。
「あのボンデージ姿の過激なねぇちゃんか?」
「そう、その娘よ。
あの娘は亜人の中でも数少ない種族の、ヴァンパイア族なの。
いつもは過激なんかじゃないんだけど、血の匂いを嗅いだりすると、、、ね。」
フリージアは事も無げに言って笑うが、ツバキとしてはなかなか笑いづらい話題だ。
その点はイマイチ納得いかないが、獣人と亜人の違いはなんとなく納得がいった。
ツバキに獣人と亜人の違いを教えたフリージアは、教師にでもなったような気分で、女性らしい膨らみがある、とまでは言い辛い胸を張ったが、ツバキは呆気なくそれを壊した。
「んで?
どっちなの?獣人?亜人?」
気分良く講釈したにも関わらず、それを呆気なく崩されたフリージアは、少しむくれ顔になって答えた。
「獣人よ。
猫の獣人のお母様と、人間のお父様の血が混ざってるから、血が薄くてマナを活性させてやっと耳と尻尾が出るくらいだけどね。」
ツバキはそれを聞いて思わず吹き出した。
「猫の獣人か!
そうか!やっぱり鉢割れにゃんこだったんだな!
あぁ、この世界に来て一番納得がいったよ。
にゃんこってのはな、俺の世界で猫って意味なんだよ。」
大笑いするツバキを、フリージアは言われてみれば猫っぽい可愛らしい目をまん丸にして聞いた。
「なら、私はツバキの世界ではにゃんこ族になるの?」
「俺の居た世界には獣人は居ないけど、確かにそう呼ばれるかもな。」
ツバキの答えに、フリージアはまん丸にした目をそのまま輝かせて言った。
「そうなのね!
なんか、嬉しいな。
私、にゃんこって響き好きよ。
ツバキが私を鉢割れにゃんこっていうと、一人じゃないって、なんだかそう思うの。」
フリージアはそう言うと、輝かせた目を空に向け、ぽつりぽつりと語り出した。
どうやらその日の夜空は、人をセンチメンタルな気分にさせるらしい。
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フリージアの母親であるローゼは、王城で治癒術師として働いていた。
誰にでも慈しみをもち、慈愛に溢れた聖母のような人だった。
なにより、治癒術師としての腕前も国中にその名を轟かせる程だった。
それ故に、フリージアの父であるアールカ国王の行く先には必ず同行しており、自然と共に過ごす時間も長くなる。
いつしか互いに淡い想いを抱き合うようになり、アールカ国王は周囲の反対を押し切りローゼを娶った。
初めは家臣たちも渋い顔をしていたが、ローゼの慈愛に溢れた人柄は次第に皆に愛されるようになり国中から愛される女王になっていた。
そして誰もが祝福する中で、フリージアはこの世に生を受け、皆から愛されすくすくと育っていた。
ローゼもアールカも、どれだけ忙しくともフリージアの事を思い、愛し、その愛がフリージアを育んだ。
しかし、フリージアが三歳を迎え少し経った頃、ローゼは流行病で呆気なく亡くなってしまう。
王国中が悲しみ、治癒術師が流行病で亡くなる皮肉を呪った。
フリージアも、母の死を理解出来ないものの、幼いながらに寂しいことなんだとわかっていて、三日三晩泣き続けた。
しかし、王城の皆はフリージアにいつだって笑顔で接してくれて、いつしか寂しさは消えていた。
アールカやシャトー、ケイントたちは勿論の事、城中のメイドたちもいつだってフリージアのわがままを聞いてくれる。
自分は、一人じゃない。
寂しくなんかない。
そう思い生きてきた。
しかし、フリージアが十歳を超えたある日、ふっと気が付いてしまう。
誰もフリージアの事を、フリージアと呼ばない。
皆、フリージア様と呼ぶのだ。
誰もが自分の事を友達などと思っていない。
大切な大切な、姫として扱われているだけなのだ。
城の者たちがフリージアを姫として扱うのは当然のことだと、自分でも理解はしていたのにも関わらず、それでも、幼い心には一人では埋められない虚無感だけが残った。
――――――――――――――――――――――――
「ちょっとずるいんだけどね。
お母様の事だってあんまり思い出せないし、お城のみんなが私の事をお姫様だって扱うのも仕方ないことなの。
自分でもわかってる事なんだけど、でも、やっぱり寂しくって。
自分は独りぼっちなんだーって、拗ねてたんだと思うの。」
空を見上げながら語り続けたフリージアは、そう言うとツバキの顔をまじまじと見つめた。
「そんな中で、お父様が城の人たちを切り捨てながら出て行っちゃって、本当に、この世界で独りぼっちになったんだと思ったわ。
刻印が出て、野望を挫けーなんて言われたって、そんな勇気も当然、出なかった。
でもみんなに期待されてるから、せめて優しくしてくれる人たちの期待には答えたいって、頑張ってる振りをしてたの。
ツバキの村が襲われてるって聞いて、飛び出したのだってきっとそうなんだと思う。
それでツバキを見付けて、助けてあげたら逃げちゃうでしょ?
情けないなーとも思ったんだけど、助けに行った人が逃げてくれたらそれでいいかなって、ちょっと安心したの。」
「情けなくて悪かったな!
助けに来た奴が防戦一方じゃ誰でもああするぞ!」
情けないとまで言われ立つ瀬の無いツバキは悪態を吐いて誤魔化すが、フリージアの目がジッとツバキを捉えて離さなかった。
「でも、ツバキは戻って来てくれたよね。
戻って来てくれて、必死になって、私を助けてくれた。
私あの時、小さな頃に絵本で読んだ騎士様が来てくれたのかって思っちゃった!
実際は血塗れの鬼だったけど、、、
でもそのくらいツバキは必死で、絶対に引かなくて、かっこよかったわ。
ツバキが爆破から私を庇ってくれた時なんて、心臓ドキドキだったの。
慣れない魔法の使いすぎで私もそのまま気を失っちゃったんだけどね、目が覚めて村の人達からもツバキの話を聞いて、本当に勇敢な人だって思ったの。
話をしてみたら、私をお姫様だって知らなかったし、ツバキは私を特別扱いしなかったし、、、。」
フリージアはそこで言葉を切ると、しばらく言葉を探すように視線を彷徨わせた。
自分でもきっと、何が言いたいのか、何が伝えたいのか、着地点が見えていないようだった。
「とにかく!
ツバキは私にいっぱい勇気をくれて、独りぼっちじゃないって、そう思わせてくれたの。
私ね、一週間もしたらこの城を出て、お父様、、、いいえ、アールカ国王を探しに旅に出るの。
まだちょっと、勇気が足りないの。
まだちょっとだけ、独りぼっちが怖いの。
だからツバキ、それまで私と今のまま、笑っててくれますか?」
真っ赤に頬を染め、首を軽く傾げながらフリージアはツバキに問いかけた。
「ずりぃよなぁ、、、。」
ツバキは聞こえるか、聞こえないかの声の大きさで、口の中だけで呟く。
こんなパンチライン避けられるわけがない。
勿論、ツバキも完全に撃ち抜かれていた。
少し更新が滞りってしまってごめんなさい。
作者、インフルエンザになってしまいました。
まだ熱があり、書きながら散文になってんなーと思いながらも、いつものことだと投稿しちゃいましたw
なんとか更新出来るように頑張りますので!
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