088 ※ 彼女はヒロインではありません
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「おかえりなさい、遅かったじゃない。私たちは先にお昼をいただいたけれど、あなたはもう食べてきたの? 一応、用意はしてあるわよ」
ロザリーの店から拠点へと戻ったルシードは、玄関を抜けたところでアルマリーゼと出会い、開口一番尋ねられる。
「いや、食べてないから助かるよ。食堂に行けばいいのかな? それとも誰かが持ってる?」
ロザリーの弁当はあるが、旅先で食べる予定の物をいきなり消費するのはどうかと考えていたルシードは、アルマリーゼの言葉に助かったとばかりに飛びつく。
「あの子たちも帰りの準備で忙しいからって、食堂に置いてあるわ」
「そうか。俺たちも今夜出発だ。十八時までに街の入り口で馬車を待つことになってる。アルマも準備があれば終わらせておいてくれ」
ルシードはリリーから聞いた行商人が帰る時間をアルマリーゼに告げる。すでに十三時を回っているが、アルマリーゼの荷物は元よりないも同然だ。五時間弱もあれば街を出る用意は終わるだろう。
「ああ、それであの子たちも帰り支度を急いでいたのね。夕食を取ったら帰るとは言っていたけれど、さっきも土産を買いに行くって、慌ててどこかに出て行ったわ」
「そうか、彼女たちも今日帰るんだったな。アニスには寄らないみたいだったけど、直接隣の領土に向かうのかな?」
「たぶんね。関所を抜けなければ隣には行けないはずだから、ただ単にアニスに寄る用がないんでしょう。街に寄らなければ、それだけ早く隣の領土に行けるわ」
「なるほどね。俺は昼を取ったらギリギリまで彼女たちが戻るまで待ってみるけど、アルマは何かあるか?」
「いいえ、私は問題ないわ。これと言って荷物もないし、時間まで適当に過ごさせてもらうわね。十八時前に、街の入り口で会いましょう」
「わかった。あとは……そうだ、ベルが今どこにいるか知らないか?」
昨夜、途中までは訓練場にいたベルだが、いつの間にかいなくなっていたのだ。ルシードはアルマリーゼが何か知っていないかと尋ねる。
「賢者様? さあ? 私は知らないわ。夜中にふらっと出て行かれてそれっきりね」
「そうか。ありがとう、どこかで見かけたら、今日街を出ると伝えてくれないか?」
またどこかに飲みに出てしまったのだろうか。ルシードはベルに別れの挨拶をしたかったが、それが叶うか怪しい雰囲気。あとは街を出るまでに会えることを願うだけだ。
「了解。見かけたら伝えておくわ」
「頼むよ」
アルマリーゼと別れ、ルシードは食堂で昼食を取り、その後、洗い物を終えてから庭で剣の素振りを繰り返し、程よい時間になったところで簡単に風呂を済ませたルシードは、新しい服に着替える。
「これでよし。破れても問題ないって言うし、旅の間はこっちの服がいいな。ルーファにもらった服は、街で過ごす間に着る服にしよう」
誰に言うでもなく口にしたルシードは、玄関の方から何やら騒がしい声が聞こえることに気づく。どうやら四人娘が帰宅したようだ。
時間はすでに十六時三十分を回っている。そろそろ家を出ようと考えていたが、家の鍵を持っていないことから、どうしたものかと悩んでいたのだ。ナイスなタイミングに、ルシードは玄関へと向かう。
「おかえり、ちょうどよかった。そろそろ出ようと思ってたところなんだ」
「わりぃわりぃ。土産を物色してたら思いのほか時間が過ぎててよ。これでも急いで戻って来たんだぜ?」
「いつもクラスメイトに土産買って来いって言われるけどさ、同じ物買って帰ると文句言うしで、何にするか悩むのよねー」
「奇をてらうと外した時に処理するのが大変ですしね」
「で、結局いつもと同じ土産になる。神様も一箱どうぞ」
ルシードはサーシャの差し出した箱を受け取り、表紙に書かれた文字を読む。
「……賢者饅頭? 一つ食べればあなたも今すぐ賢者? ……何これ?」
なんとも胡散臭いと思うのは気のせいか、宣伝文句までもが怪しさを際立たせている。
「賢者様がよく注文してるって噂の饅頭よ。食べるだけで賢者ってのは言いすぎだけど、甘くて美味しいし、クラスでも人気なのよ」
「へえー、ありがとう。小腹が空いた時にでもいただくよ」
甘いものと聞けばルシードには胡散臭い物だろうと関係ない。要は効果より味だ。ありがたくちょうだいし、冒険者カバンに収納する。
「それじゃあ、俺は街の入り口で馬車を待つけど、みんなはどうする?」
「どうって、見送るに決まってんじゃん。なんのために早く切り上げて帰って来たと思ってんだよ」
「そーそー、感謝してよね」
「無駄口はあとにしましょう。馬車に遅れてしまっては、それだけ再会までの時間が遅れるということですよ」
「それは大変。急いで入り口に向かう」
またしても湿っぽい別れになってしまってはどうしようかと考えていたルシードは、普段通り接してくる四人娘に感謝する。そもそもセラフの言うように、王都で再開する予定なのだ。しんみり別れを告げる必要はなかった。
「あ、そうだった。部屋の鍵を返しておくよ。アルマも持ったままかもしれないし、あとで言っておかないとな……」
「ん? いいよ、別に。またここに寄った時用に持っててくれよ。みんなも良いよな?」
ルシードは部屋の鍵を返そうと冒険者カバンから鍵を取り出したが、ルーファは、にっと笑って他の三人に確認を取った。
「別にいいんじゃない? どうせ空き部屋だしね」
「そうですよ。またここに泊まることもあるでしょうし、持っててください。あ、パジャマが脱衣所のクローゼットに入れたままでした。忘れずに持って行ってくださいね」
「私が取ってくる」
「いや、でも……わかった、ありがとう」
もうここに来ることはないかもしれないなどと口走れば、悲しい別れになるかもしれない。ルシードは拒否することなく、ありがたく受け取ることにした。そもそも部屋に鍵をかける習慣がないルシードは、鍵を取りはしたものの、今も部屋に鍵はかけていない。もしも他の誰かが泊まることになろうと、扉を壊す必要はないだろうと考えたからだ。
「神様、どうぞ」
忘れずにアルマリーゼのパジャマも持ってきてくれたサーシャから受け取り、ルシードは大事な物を扱うようにして冒険者カバンに仕舞う。
「ありがとう。それじゃあ、街の入り口に行こう」
◆
家の戸締りをすませて街の入り口に向かうと、アルマリーゼとベルの姿がルシードの視界に入った。どうやらアルマリーゼが見つけてくれていたようだ。時刻は十七時半を回り、すでにあたりは暗くなり始めているが、馬車はまだ来ていない。
「よかった、ベルと会えたんだな」
「それが、私が来た時にはもう来られていたわ」
「クハハ、ワシにはなんでもお見通しじゃ。それに、可愛い弟子との別れに遅れるはずがあるまい?」
ギルドに戻ったベルは、訓練場にルシードたちの姿がないことに気づき、慌ててリリーに問いただして待っていたなどとは口が裂けても言わない。
「来てくれて嬉しいよ。ベルとは行き先が違うみたいだから、もう会えないんじゃないかと心配してたんだ」
「そうだとしても心配には及ばん。ワシも用事が済み次第、お主の顔を見に王都に向かおうと思っとったところじゃ。それに……ちと高いの。これ、ちと屈め」
「ん? こうか?」
街の子どもたちにしたように、ルシードは片膝をついて身を屈める。
すると、ベルはルシードの首に腕を回して、ルシードを軽く抱き寄せた。
「何かあれば、ワシを頼るのじゃぞ? ギルドに伝言を残せば、ワシに届くように手配しておる。ワシの力を必要としておるなら、すぐに駆けつけてやろう」
「ありがとう、心強いよ」
普段の言動に少々心配なところはあるが、これほど頼りになる相手もいないだろう。ルシードもベルを軽く抱きしめ、素直に礼を伝えた。
「うむ。ワシからは以上じゃ。あやつらのところにも行ってやれ」
ベルはそっとルシードから離れ、呼ばれた四人娘はアルマリーゼとの会話を終えてルシードの前に出る。
「みんなにも世話になったな」
「……あんたにそれ言われると、私たちの立場がないんだけど?」
「そうですよ、ルシードさんにはお世話になりました」
「そんなことないさ。君たちに会えて本当によかった。ありがとう」
「め、面と向かって言われると照れるな。アタシの柄じゃないぜ」
「神様にお褒めいただき、光栄です」
相変わらずどこかずれた返事のサーシャ。ルシードは苦笑交じりに街中へと目をやると、遠くから一台の馬車がづいて来ていることに気づき、時間がないことを知る。
最後にルシードは、彼女たちにもスピリティア・ストーンを渡すために、確認しておこうと口を開く。
「話は変わるけど、みんなは、今好きな異性とかいる?」
「当然、神様です」
「ア、アタ、アタシもだ!」
「……私もです」
「は、はぁ? 何急に? 唐突に話が変わりすぎでしょ……って、え!? 何? なんでみんな普通に答えてんの!?」
サーシャはルシードの問いかけに即答、ルーファが慌てて続き、セラフはどこか恥ずかしそうに顔を伏せるが、ルシードの目をしっかり見て答え、そんな三人とは別に、ミラはいったい何を言い出すんだと呆れ顔になったところで、他の三人の返答に驚く。
「いや、私は別にいないけど……あえて言うならあんたかな?」
その場にいる全員の視線を一身に受けるミラは、拒否できる雰囲気ではないことに気づき、他の三人に合わせようと、気まずい気持ちになりながらも答え、ルシードは四人娘の答えを聞けたところで、彼女たちが自分の名を出すとは予想外だったが、それだけ仲良くなれたということだと疑わず、冒険者カバンからスピリティア・ストーンを四つ取り出した。
「それじゃあ、これ。よかったらお守り代わりにでも受け取って欲しい。要らなくなったら、捨ててくれても構わないから」
スピリティア・ストーンを見返すことで思い出してくれれば嬉しいと思い、手渡しているが、年頃の彼女たちならばすぐに本命の相手が見つかるかもしれない。石の意味を知らないかもしれないが、説明している時間はないだろう。
それに、わざわざ語らなくとも、シャルニアのように調べることを禁止しているわけでもない。彼女たちならばすぐにその意味を知るだろうと、説明を省くことにした。
意味を知ったあとにすぐさま捨てられる可能性がないわけでもないが、数だけは無駄にあるのだ。そうなった時は少しばかり寂しいが、渡せる物と言えばスピリティア・ストーンしか手持ちがないのも事実。相手が見つかるその時まで彼女たちを守ってくれればいいと、必要がなくなった時には捨ててくれと付け加えておく。
その点で言えば、リリーには相手が見つかった時には捨てるように伝え忘れたが、リリーは石の意味を知っているようだったのだ。彼女たちに伝えてもらう必要もなさそうである。
「ありがと、神様!」
ルシードが取り出したスピリティア・ストーンを包む布袋に見覚えがあったサーシャは、いの一番で受け取り、他の三人は困惑しながらも受け取った。
「いいの? 私たちはどうせすぐ会えるからって何も用意してないんだけど。さっきの賢者饅だって、多目に買ったからだしさ」
「俺のだって、そんなにたいした物じゃないさ」
「賢者饅? なんじゃそれは?」
そこまで静かに見守っていたベルは、またどこかで勝手に変なあだ名でも付けられたかと鋭く反応する。
「え? 賢者饅頭ですよ? 賢者様御用達って噂の! ほ、ほら、これです!」
「……いや、知らんな。何々……一つ食べればあなたも今すぐ賢者? こんな怪しい物を、ワシが食うわけあるまい」
「嘘だろ!? じゃ、じゃあ、こっちの去年出たって言う、賢者印の特製ミルクは!? 毎日飲めば身長が伸びるって……」
「知らん。お主らよくそんな物を買う気になったの」
賢者饅頭と賢者印の特製ミルクを見せられたベルは、なんだそんなことか、と呆れる。この街では賢者が住んでいることから勝手に名前として付けることは昔からあったことだ。いちいち気にしてはいられない。
「マジかよ。賢者様が飲んでるって聞いたから、効果があると思って買ったのによ……」
「お主、ワシが身長を気にしとるように見えるのか? それならずっと大人の姿でおるわ」
「……言われてみれば。くっそー、騙されたぜ。アタシの身長も打ち止めか」
「私は気づいてましたよ。だってほら……表紙の背景の柄に隠すようにして『ひ・こ・う・に・ん』って文字が隠されているじゃないですか。非公認……すなわち賢者様が携わったわけではないということです」
「は!?」
セラフに言われ、ルーファとミラはそれぞれ手に持った箱を見るが、確かにセラフの言う通り、箱の表紙の柄に隠すようにして、文字が散りばめられていた。
「な、なんで教えてくれねーんだよ!?」
「私はてっきりみんな気づいているものだとばかり……。お土産っていうのは、そういうことも楽しむものだと思ってましたから……ミラがルシードさんに渡す時も、なんで教えないんだろうと不思議に思っていたんですよ?」
「私は気づいていた。ミルクは去年実証済み。効果はない」
サーシャに言われては何の効果も得られないだろう。ルーファは今度こそがっくりとうな垂れた。
「それはそうと、ルシードよ。ワシにはないのか?」
呆然と事の成り行きを見ていたルシードは、ベルに聞かれて視線を向ける。
「ベルも欲しいの?」
「な、なんじゃ、ワシだけ仲間はずれか?」
「そういうわけじゃないんだけど……」
ベルは出会いを求めて冒険者になったのだ。どこかの街にはベルの目にかなう相手が必ずいるはずだと、ルシードはベルに渡すつもりはなかったのだが、欲しいと言うのであれば渡さないわけにもいかない。ルシードはスピリティア・ストーンを一つ取り出してベルに渡す。
「それじゃあ、ベルにも。あ、誰にも見せちゃダメだぞ? ベルも必要なくなったら、すぐに捨てて構わないから」
「む? 誰にも? ふむ……覚えておこう」
ベルの要求に合った者が目にしたことで縁が切れては大変だ。ルシードはベルにだけは誰の目にも触れないように注意する。
「あんたたちが一緒に乗って行く冒険者かい? 二人だって聞いてたけど、全員かい? 持って帰る荷物もあるし……ちょっと狭いよ?」
「いえ、乗せてもらうのは自分と、そこの彼女だけです。彼女たちは見送りに来てくれただけなので、ここで別れます」
時刻は十八時ちょうど。ルシードたちの隣に馬車をつけた女性が、困ったふうに声をかけ、ルシードが応える。早めに来ておいて正解だったようだ。
「ああ、それなら大丈夫だよ」
「お世話になります」
「ははっ、こっちも冒険者が一緒だと心強いよ。もう準備はいいのかい?」
女性は豪快に笑い、いつでも街を出られると投げかける。
「はい。じゃあ、俺たちは行くよ」
今度こそ最後だ。ルシードは言葉も簡単に告げる。
「怪我と病気には気をつけなさいよね」
「次は王都で、だな」
「ふふっ、首を長くしてお待ちしていますね」
「……神様、また。すぐ来てね?」
「ああ、王都で……また会おう」
ここに来てルシードは、今まで別れた者たちにも、また会いたいと強く思うようになっていた。彼女たちの笑顔に押され、少し前向きに生きてみるのも悪くないと、今度ばかりはルシードも『また会おう』と口にした。そうすることで、生きて王都までたどり着くのだという強い意志を持てると信じて。
「ワシも用が済めば向かおう。アルマリーゼ……あとは頼んだぞ?」
「ええ、任されましたわ」
ベルは詳しくは言わず、アルマリーゼも『何を?』とは尋ねない。
ルシードとアルマリーゼは馬車の荷台に乗り込んだ。
「それじゃあ、出すよ」
「はい、お願いします」
ルシードたちは荷台のうしろから、見送る五人は街の結界の外まで出て、馬車が見えなくなるまで手を振り続けた。
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「いい子たちだったわね」
「ああ、彼女たちに会えて、本当によかった。心からそう思うよ」
少女たちが見えなくなったところで、アルマリーゼはルシードに語りかけ、その想像以上の返事に、意地悪な笑みを浮かべる。
「その様子だと、本当に気に入ったみたいね。それで、今まで出会った子の中で、誰が本命なの? ……あ、私はダメよ? 私はあなたのヒロインにはなれない。これはもう確定した未来なの。私も残念……だけれど、これだけは、もう覆すことはできないわ。もし……もしも生まれ変わりというものがあるのなら、その時は私があなたのヒロインになってあげる。……生まれ変わりなんて、ありえないでしょうけれど、ね」
何か変な物でも食べてしまったのだろうか。ルシードはアルマリーゼを心配しながらも問われた意味を考えるが、アルマリーゼが自分のヒロインでないことだけは百も承知であり、当然のことだ。彼女は英雄レナード……もしくは、新たに生まれる英雄にこそ相応しい存在だ。自分の横が相応しくないことは、ルシード自身が一番よくわかっている。今は仮宿に泊まっているだけ、それでルシードは十分満足しているが、彼女には自分の横で満足してもらっては困る。
そこでふと、以前にも同じような話があったな、とルシードは思い出した。
「もしかして……あの話か? 前にセフィが俺のことを好きだとか聞いたのと同じ話だろ?」
「あら、覚えていたのね。それで、誰が本命なの? 私にだけは教えなさいよ」
瞳を輝かせて問うてくるアルマリーゼに、ルシードは溜め息一つで返す。
「ないない、前も言っただろ? 俺は一目惚れを信じてないんだ。それに、テオじいも言ってた。『女心は難しい』ってね。数日一緒に行動したって、それは同じだよ。世の中そんなに甘くない」
「で、でも……ほら! 彼女たちもあなたのことが好きだって言っていたじゃない? それに、あの子たち名乗りはしなかったけれど、私の時代から変わっていなければ、全員がこの国の領主の家系よ。どれも有望株! 逆玉よ!?」
まさかの返答に、アルマリーゼは頬をひくつかせる。先程のやり取りはなんだったのか……アルマリーゼは信じられないものを見た心境だ。
「……あ、そうか。最初に彼女たちと会った時に、彼女たちの姓を口にして雲行きが怪しいって言ってたのは、領主の娘たちがどうしてここにいるんだって警戒してたのか」
ルシードは今更ながらに彼女たちと初めて出会った時の状況を思い出し、アルマリーゼの言動に納得する。
「まあ、彼女たちの出自がどうであれ、俺には関係ないよ。領主の孫だか娘だかは知らないけど、俺にとっちゃ、それこそ高嶺の花ってやつだ。彼女たちだって俺は眼中になんてないだろうし、友だちとして好きって言ったんだな。そりゃ、俺だって一目惚れとか、そういう出会いがあればいいな……とは思わなくもないけどさ」
「ルシード……あ、あなた、いつか刺されるわよ」
「は!? え、な、なんで!?」
「知らないわ。自分の胸に手を当てて聞いてみなさい」
ルシードはアルマリーゼに言われた通り、胸に手を当てて考えるが、彼女たちも笑顔で見送ってくれたではないか。思い当たるところはない。
ただ一つ思い残すことがあるとすれば、サーシャの占いだ。結局、あの占いは当たっていたのだろうか。
金運最高と聞いて疑ったものの、あれから金に困ったことはない。少々散財して前回の報酬がすでに三分の一近くまで減り、また困りそうではあるが、次の街を過ごすには十分な額だ。
水晶で見た、自身の心臓を貫かれる姿も、魔王と呼ばれる少女との邂逅を示していたとしたら納得できる。どうやら回避できたようだが、改めて占ってもらう勇気はなかった。
しかし、女難だ。これが一番判断に困る。今のところ女難に逢ったふしはないのだ。アルマリーゼが言うように、これから逢うとでも言うのだろうか……ルシードには判断ができない。
……いや、やはり女難はアルマリーゼがもたらすのだろう。ルシードはチラリとアルマリーゼを見て、それでも――
「さっぱりわからん」
「やっぱり、一度刺された方がいいわね」
わからない振りをして呟いたルシードに、アルマリーゼの声が馬車の荷台に響いて消えた。




